製造システム統括部 システム開発部 型設計グループ グループマネージャー 東 和久 |
はじめに
Space-E/MoldはSpace-E/Modeler上でインジェクション金型設計の基本構造設計からCAMまでの各工程をトータルでサポートする型設計支援システムです。
本稿では、Space-E/Moldが持つ機能の概要を基本的な金型設計処理の流れに沿って説明します。
基本的な金型設計処理
Space-E/Moldではインジェクション金型設計の基本的な処理の流れを以下のように想定し、金型設計支援機能をご提供しています。
■基本構造の設計
金型の基本構造が確定する"型割り"までの設計で、キャビコア設計・プレート設計・アンダーカット設計などを行います。
■金型部品の配置
機能部品の設計で、ガイドピンやエジェクタピンなどの機能部品の配置や冷却管や栓などの温調部品の設計を行います。
■後工程
部品表や穴表などのデータ出力、2次元図面化処理、CAMとの連携によるNCデータ作成を行います。
■各種設計値の計算
金型を設計するのに必要なおも型のたわみ量の計算やロッキングブロックの倒れ量の計算、温調とピン穴との干渉のチェックなどを行います。基本的な金型設計処理を図に表しますと以下のとおりです。
各機能概要
■キャビコア設計
製品(成型品)形状を取り込み金型(キャビコア)形状へと展開していきます。勾配、収縮などの形状変形処理やパーティング面の生成及び、それらの形状を評価するモデルチェック機能は、Space-E/Modelerの標準機能として準備されています。Space-E/Moldでは、型枠からキャビコアへの分割、各種入れ子作成機能をご提供します。
■プレート設計
規格外の大物金型にも対応できるよう、プレートごとに設計していく機能を用意しています。その場合、なるべく必要最低限の入力で設計できるよう、各プレート間の関連寸法を参照して形状を作成します。また、Space-E/Moldでは形状を作成するだけではなく、プレートに関する属性を保持していますので修正を容易におこなうことができます。
■アンダーカット設計
モデルチェック機能で認識されるアンダーカット部に対し、スライドコア機構(スライドコア、ロッキングブロック、アンギュラピン、ガイドレールなど)や傾斜スライド(スライド入れ子、傾斜ピン、スライドユニットなど)を部品ライブラリからの配置による設計と専用コマンドによる設計で効率的におこなうことができます。
■部品配置
ミスミ、双葉、チャンピオンなどのモールド金型用標準部品ライブラリを有した部品カタログから、ドラッグ&ドロップすることにより部品の配置がおこなえます。標準部品ライブラリは各部品メーカーの部品寸法をデータベースに保持してありますので、規格外の部品であるかをすばやくチェックできます。
もちろん、配置後でも部品属性を保持していますので簡単に編集することができます。部品配置規格外の部品は「準標準部品」と呼び、ユーザーオリジナルの部品として、いつでもライブラリとして登録し利用することができます。カタログウィンドウ また、ガイドピンとそれに対応するガイドブシュや六角ボルトなどを一つのユニット部品として、ライブラリに登録し利用することもできます。
準標準部品やユニット部品にはユーザー独自のプロパティ(属性)を付加し、検索キーとして使用することができます。ユニット部品 そのほか、部品ライブラリには、部品メーカーの部品だけではなく、きり穴・タップ穴などの穴部品も標準で用意してあります。穴部品をユニット化し、複雑な穴形状を作成することもできます。これらの部品は穴属性情報を持っており、穴あけ加工に利用されます。エジェクタピンは専用コマンドで自動的に製品面までの長さを計測し、必要最小限のピンを部品ライブラリより検索、配置することができます。
■温調配置
冷却管径・長さ、配置位置を順次指定しながら穴部品を配置します。また、立ち上がりの冷却管(スポット)は、製品面からのオフセット値の長さを自動的に計測し形状を作成します。
温調配置 複雑に入り組んだ冷却管とピン穴などとの干渉をチェックすることができます。干渉のチェックはクリアランス値を入力することで実際には干渉していないが、指定したクリアランス領域内にあるかどうか(互いの穴が近すぎていないか)もチェックすることができます。
また、冷却管やピン穴は属性を持っていますので、部品を指示することなく領域を囲むだけで干渉のチェックをします。
■データ出力
Space-E/Moldで作成される部品には形状情報だけでなく属性情報が保持されていますので、部品表や穴表を出力することができ、設計途中での部品発注に利用することができます。
■図面化処理
一通りのレイアウト設計を終えた3次元データは、矢視方向を指定した投影図や任意断面図として陰線処理を施して配置することができます。
外郭寸法は自動で作成されていますので、後は簡易な操作だけで図面仕上げをおこなうことができます。また、各種部品表、穴表を図中に出力することもできます。
■CAMへの展開
各部品には、クリアランスを考慮した穴データが付加されていますので、配置位置やこれらのデータをCAMへ渡すことにより、手間をかけずに穴加工のデータを作成することができます。
基本的な金型設計処理
■解析との連携
Space-E/Moldでは、ソリッドデータとして形状を取り扱っているため、解析システムに対して容易にデータを受け渡すことができます。
また、当社で開発しましたSpace-E/Assistとはさらに密な連携を取れる仕組みを持っています。この機能により、従来「勘や経験」で決められてきました設計値をデジタルデータとしてその妥当性を評価、活用できるようになります。
可動側型板のたわみ解析 また、Space-E/Moldでは、従来設計者が手計算でおこなっていた各種計算を支援する簡易評価(計算)機能があります。
金型重量の計算、重心位置の計算、たわみ量の(簡易)計算といったものまで広くサポートしており、設計値の妥当性をその場で評価できる非常に有効な機能となっています。
■干渉チェック
温調配置で説明しました干渉チェックは、ソリッドによる3次元設計の大きなメリットの一つです。2次元設計ではほとんど不可能であった部品同士の干渉を簡単におこなうことができます。さらに、Space-E/Moldでは属性情報を利用し、より簡単かつ効率よく干渉チェックする機能をご提供します。
■ライブラリ化
部品配置で説明しました部品ライブラリだけでなく、各社の設計標準データや方案データと呼ばれるものをシステムに保持し活用できるようになっています。たとえば、成型機情報をあらかじめ設定することにより、金型寸法の変更に伴う各種チェックを自動でおこなうことができます。また、製品形状の大きさから型枠サイズを自動で決めるなど、様々な形で作業の効率化、自動化に貢献できる仕組みがあります。
■後工程への展開
3次元の金型形状より、図面、CAMへの展開作業は、なるべく手をかけずに、省力化・自動化できる仕組みとなっています。さらに、購入部品については、今後オンライン発注の展開までを視野に入れたシステム構造となっています。
おわりに
金型の設計時間そのものだけで見た場合、Space-E/Moldが飛躍的に時間を短縮化できるという期待に応えるのは、まだまだ難しいと思っています。
しかしながら、試行錯誤の低減、後工程への展開など、トータル的な効率化が期待できるシステムとして3次元金型設計に大きく貢献できると確信しています。
また、ソリッドそのものの形状表現能力、データの煩雑さなど、多くの課題も抱えていますが、今後も様々なアプローチにより改善・拡張を続け金型設計をより効率におこなえるようご提案し続けていきたいと思います。
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