人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.20 | お客様事例
解析モデル作成ツール IronCAD

旭テック株式会社様は、最先端のテクノロジーを常に追求され、豊かな社会づくりに貢献されています。また、開発提案型企業としても幅広い分野でご活躍されており、国内以外にアジアでも事業を展開されています。旭テック株式会社様は、GRADEユーザでもありますが、今回は、MSC.Nastran、MSC.Patran、IronCADを使っての設計について、今後の課題などを中心に、素形材事業部 技術開発部 設計グループ 日下俊輔様、道坂英樹様、高塚恵利様、榊原貴子様、柳舘龍司様にお話をお伺いしました。

素形材事業部について

人物写真
素形材事業部 技術開発部
設計グループ
日下 俊輔 様

事業内容は、素形材、ホイール、電力機器、環境装置の4つを展開しており、この中で、素形材事業が全体の売上の半分以上を占めています。

素形材事業部で扱っているのは、主にダクタイル鋳鉄、アルミニウム合金、マグネシウム合金の一般自動車部品、産業建機部品などで、最近では家電部品も増えています。

また鋳物工場は、菊川、菊川南、横地、豊川の4ヶ所にあります。当社は鋳造メーカですが、他社との差別化いう目的もあり、設計部門があります。

鋳造をいかに合理的に行うかということで設計グループは、CAEツールを使って形状の強度剛性、鋳造性(湯流れ)を解析し、設計してます。

CAEツールでの解析

従来は、ウレタンモデルを作っていました。発砲ウレタンにゲージを貼って力を加えて、歪みの状態を見るという手法で強度を解析していました。しかし、ウレタンモデルは非常に高額で、しかも作った後の形状修正が大変だということがありました。

人物写真
設計グループ
高塚 恵利 様
人物写真
設計グループ
道坂 英樹 様

そこで、良いモノを早く安く設計するためCAEツールを7年前から業務の流れに導入しています。現在使っているCAEツールは、MSC.Nastran、MSC.Patran他です。CAEツールを導入した当初は、なかなか工場に受け入れてもらえませんでしたが、最近は、実績も出てきて、解析結果も信用されるようになり、ようやく受け入れてもらえるようになりました。

ダイカストの方案を検討するときに、CAEツールでの計算依頼が増えています。しかし、解析する対象は、全ての工場で作っている部品なので、特に何点も重なると納期の問題もあるため、解析結果を待っている時間がなく、工場が動き出してしまうこともあります。

■形状のご提案

従来は、お客様が製品設計して、当社で試吹きして確認試験を行い、お客様に戻して、結果が不適当であればこれを繰り返していました。しかし、だんだん設計自体も当社で行い、形状のご提案をさせていただくようになりました。

設計グループでは、形状の強度、剛性、鋳造性の確認を行っています。確認といっても、コストとウエイトとの兼ね合いを見ながら、形状の欠点をつぶして長所を伸ばすようなパターンをいろいろ考えます。

構造や鋳造性の知識と経験がありますので、それをもとに短期間に形状を進化させて、優秀なパターンを多く作ることが非常に重要です。そうすれば、他社より良い形状をお客様にご提案でき、受注することができます。この部分を早く回すためにCAEツールは非常に有効です。

解析結果
クロスメンバーの解析結果

■形状の熟成が目的

短期間にできるだけ多くのパターンを解析するために、形状をかなり省略しているところもあります。抜き勾配、ボス、タップなどは作りません。強度に対して形状を進化させるため、変えやすいように作るというのが基本です。それに、せっかく良い形状を発想しても、それを詳細に表現するとなると時間がかかるからです。

極端な話、曲面に穴が空いていることが重要で、湾曲していることは重要ではないのです。最終的には、試験部隊で実際に詳細な形状を作成して評価しますので、設計グループでは、そこに送り出す前にできるだけ形状を熟成させることが目的です。

IronCAD導入の背景

従来使っていたプリ・ポストプロセッサー(モデラー含む)のバージョンアップがなくなり、MSC.Nastranとの間に不具合が出るようになったため、後継は、必要な機能が揃っているMSC.Patranにしました。しかし、MSC.Patranにはモデラーの機能がないため、解析用モデラーとしてミッドレンジCADを調べ選定に入りました。

まず、MSC.PatranのカーネルがParasolidなので、Parasolid系のCADを探しました。

■複数のパーツを配置可能

IronCADで良かったのは、ひとつの空間に複数のパーツを配置できることです。他のミッドレンジCADは、ひとつの空間に1個のパーツを配置すると、次のパーツを加えたり削ったりしたい場合、必ず最初に配置したパーツに関係させる必要があったり、別ウィンドウかアッセンブリにするという形になりました。我々は形状を進化させていくので、同じ空間に何個も並べたい場合があります。それができるのはIronCADしかありませんでした。これは大きな要因です。

■解析用モデラーとして

解析用のモデラーとして微調整ができる必要があります。解析の精度を維持するため、しっかり要素を整えたいときに、面と面の境界にあたる近傍に複数の点が集まると非常に困る場合があります。その部分は、きれいな面をはれないエリアとなり要素が歪みます。その歪みを防止するため、近傍の複数の点を1点に集めるという作業が必要になります。

その課題を選定中のCADメーカに出したところ、目の前でオペレーションできたのはIronCADだけで、他のCADはできませんでした。このように同じベンチマークを行った結果とIronCADの価格が機能につり合っていたので、IronCADに決定しました。

効果

■形状を変更しやすい

人物写真
設計グループ
榊原 貴子 様
人物写真
設計グループ
柳舘 龍司 様

全員、IronCADの講習を受けています。講習を受けた翌日からIronCADを使って実務に入りました。解析用の形状は、2次元図面を参照しながらIronCADで作っています。進化させる前のベースになるモデルを1~2日ぐらい多少時間をかけて作り、その後の形状の進化は、1日に平均で3つ行います。特に、過去に経験したことのある設計命題に対しては、より早く形状を熟成させることができます。形状は変化させやすいように作っています。

IronCADは、2次元平面でアウトラインも残っていますので、ポイントをずらすことができ、楽に変更ができます。設計グループは、設計するのが仕事なので、モデリングや解析にあまり時間をかけたくありません。

IronCADは解析モデルを作るのに取り回しのいいソフトだと思います。モデルを作って解析結果のアウトプットまで考えると時間的に早くなっています。

CAD画面
クロスメンバーの形状変化

■STL

昔は何手順かかけてSTLを作っていましたが、IronCADはSTLを入出力できるので、非常に便利です。出力したSTLは、軽くて品質の良いSTLです。MSC.Nastranの他に解析ツールを持っていますので、その解析ツールにSTLを取り込んで使っています。

■形状のコピー

もとの形状に変なデータができて、修正がうまくいかない場合があります。そのときは、ボックスを置いて基準面の編集で、もとの形状からポイントを投影して形状をコピーしています。図面を参照することもなく、もとの形状から簡単にコピーできるのは非常に便利です。

■ACIS

CAEツール用にモデルデータを変換したときに誤差が発生し、メッシングの邪魔をすることがあります。そこで、この誤差の蓄積を防ぐため、できるだけモデルデータを高精度に作り、変換で多少誤差が発生してもメッシングに影響しないようにしたいと考えています。導入するときはParasolidに注目していましたが、ParasolidよりACISで作るモデルの方が高精度なので、ACISで作るように統一しようとしています。

人材

CAEの結果を判断し、優秀なパターンを多く作成するということは人に依存します。最初から教本があり、そればかり参考にしていると、いざ自分で判断して、それが間違っていた場合、なぜ間違ったのかの判断力がついていませんので、復旧することは難しいでしょう。

最初は間違いを繰り返せばいいのです。ただし、自分の間違いを受け入れる技量は必要です。形を変化させるには、良い形状を次々に発想する必要があります。そして、発想した形状に対して、なぜこの形状を良いと思って作り、その結果どう良かったかを判断できることが重要です。

形状を決めるのは人次第です。いかに優秀な人材を育成し、その人材を手放さないようにするか、それが企業の実力になります。

今後の課題

■最終的な結末の提示

どの製品もそうですが、強度構造部品に関して問われるのは、何トンで破壊されるのかという最終的な結末です。この最終的な結末がクリアラインを守っているかという品質の問題がありますが、材料によるばらつきや、場所によって冷却曲線や強度が違ったりするので単なる材料力学ではだめです。モノの破壊を支配するのが「応力」でないことも重要なポイントです。そうすると、定量的な評価はではなく、実験を通した統計を取ることが必要になります。

現在、形状を進化させて得られた形状が良いということを裏付ける構造の知識、有限要素法の知識はあるのですが、これが、何トンで破壊されるかは分かりません。実際に壊して見るしかないのです。そのため、JIS規格や材料の定義に合わせて設計することになり、過剰品質ぎみになっています。

現在、最終的な結末の限界まで追求して提示できるように、いろいろ調べている段階です。その他の課題は、実際の挙動が難しすぎるということや、接触の問題、境界条件の問題などです。

■データベース化

今は人数が少ないので、良い事例は担当者に聞いています。それを標準化してデータベースに蓄積するのは今後の課題ですが、人によって案が違うということと、優秀だという理由を標準化するのは難しいとういう問題があります。

HZSについて

会社風景

今のIronCADでかなり満足していますが、平面形状を作成するときの編集強化などの要望はあります。

IronCADはアメリカでも若いシステムですから、日本の我々の声が反映してもらえればという期待はあります。

いろいろな要望が反映してもらえればありがたいです。また、機能をモジュール別に選択できるようにしてもらいたいです。

おわりに

CAEツールなどは単に道具であって、それを使う人の能力がいかに重要かというお話や、鋳造工場の見学もさせていただき、大変勉強になりました。大変お忙しいところ、貴重な時間をさいてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

会社プロフィール

会社外観
横地事業所
(素形材事業部 設計グループ)

旭テック株式会社

本社 静岡県菊川町堀之内547-1
創業 大正5年2月11日
資本金 46億69百万円
従業員 1,144名
売上高 455億21百万円(平成12年3月期)
事業分野 一般自動車部品、アルミホイール、産業建機部品、電力機器、環境装置、その他
素形材事業部
設計グループ
静岡県菊川町東横地3311-1
製品写真
トランスミッションASSY
製品写真
フロント・アクスルASSY
製品写真
アルミホイール
製品写真
インテーク マニホールド
製品写真
グラウンドマンホール
製品写真
6導体3連耐張 装置用半固定
バランスヨーク