人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.21 | お客様事例
ROBCADを使った生産技術のシステム化

三菱自動車工業株式会社様は、量産自動車を日本で初めて完成されました。その技術的実績・伝統と、優れた先進技術を活かしながら、絶えず高品質で個性豊かなクルマ作りを地球的視野に立って追求され、全世界約170カ国への事業活動を展開されています。

今回は、ROBCAD導入の背景、シミュレーションによる検討作業、オフラインティーチングへの取り組み、今後の課題などを中心に、名古屋製作所生産技術部 グループ長 主席 勝丸眞司様、主任 谷下澤清隆様、石井利幸様にお話をお伺いしました。

名古屋製作所 生産技術部について

人物写真
名古屋製作所
生産技術部 主席
勝丸 眞司 様

名古屋製作所は大江工場と岡崎工場があり、乗用車ではプラウディア・ギャラン・シャリオ グランディス、RV車ではパジェロio(イオ)などの車を生産しています。

生産技術部は、その2ヶ所の工場において新しい車種が開発され生産される場合に、生産準備を行う部門です。生産技術には、プレス・溶接・鋳造・機械加工・塗装・エンジン関係といろいろな分野があり、それらを組み付けて自動車にする艤装組立てまでを取りまとめています。

私のグループは、溶接するときにパネルを固定するための冶具などの設計作業を行っており、メンバーは、CADシステムの担当、冶具設計担当をあわせて15名のグループで、作業量によって10名弱の引き入れがあります。

シャリオグランディス
シャリオ グランディス
パジェロイオ
パジェロ イオ

ROBCAD導入の背景

ROBCAD画面
組み付けの検証

自動車の生産ラインでは、溶接組立にロボットが一番たくさん使用されます。ロボットのストローク範囲や干渉は、車の形状によっていろいろ異なるのですが、従来は図面上でコンパスを使用して検討するというラフなものでした。

しかし、立体的にロボットを配置して検討したい場合や、ロボットの台数が多くなってくると、何十枚もの図面を用意しなくてはならず、複雑になりすぎて、図面だけでは位置関係を見ることが非常に困難になってきました。

その頃、ロボットシミュレーションの技術が世の中で開発され、システム化されるようになり、1992年に当社でもシミュレーションシステムを導入して取り組み始めました。しかし、操作性がかなり大変で、数年たって、オペレーション、ユーザインターフェイスなどの点から再検討した結果、1996年9月にROBCADを2台導入しました。

何より、ROBCAD/Spot、ROBCAD/Arcなどというニーズにあった専用アプリケーションがある、また、ユーザ数も多くシステムが使いこなれているということが決め手になりました。1997年に1台増設し、1999年には上流工程のボディ設計がすべて3次元CADになったので、DYNAMOとROBCADを組み合わせて本格的にロボットシミュレーションによる検証を稼動スタートしました。

作業風景
ロボットスポット溶接
作業風景
エンジン取付
作業風景
最終組立ライン
生産ライン

効果

■初期ティーチング

新しいラインを作る場合、仮にラインを作って設備の検討をするティーチング作業を行います。一部ですが、ROBCADをこの事前検討に使用しています。冶具設計には、すべての車体データが必要になります。全工程にシミュレーションを行うことが理想ですが、ボディ設計、設備設計には様々なCADシステムを使用していますので、ROBCADで検討する前準備に、その車体データを変換する作業が発生します。

ROBCADでの検討は、細部まできちんと確認することができますが、この準備が大変なので、割合はまだまだ少ないのが現状です。そのため、ホイールハウスの曲がった部分やトランクルームの中など溶接の困難な部位や危険そうな箇所、ガンの干渉などを重点的に行っています。

ROBCAD画面
スポット溶接のシミュレーション

溶接の場合、1~2mmの精度で干渉が発生します。ロボットの据付誤差などもあり、非常に調整が大変なので、完全なオフラインティーチングを行うまでには至っておらず、ある程度ラフなアプローチデータのみを使用しています。

■検討作業の後戻りをなくす

人物写真
名古屋製作所
生産技術部 主任
谷下澤 清隆 様

従来は、図面上で検討しにくい場所は、ダンボールを切って、実際の溶接ガンの形を作り、ライン組立ての現場で検討したりしていました。

検討時間だけで見れば、ROBCADのシミュレーションで事前検討することにより、1週間から1時間に短縮されたところもありますが、設備設計期間のトータルで考えると、データ変換を含むシミュレーションの時間がかかっているので、時間的な変化はあまりありません。

しかし、品質的なところを目指していますので、ROBCADで検討しておけば、作った設備を現場で組み立てるときに、溶接したり削ったり、ロボット位置を変更するという後戻りの作業が格段に少なくなります。試行錯誤を現場ではなく画面上で行えるということは、ROBCADを使用するメリットになっています。

作業風景/ROBCAD画面

■塗装ラインのオフラインティーチングの実現

一昨年からHZSと共同で塗装ラインティーチングのオフライン化を進めてきました。溶接組立の干渉は、ガンが当たっているということが目で見て確認できますが、塗装の場合、スプレーを吹き付ける経路がイメージできません。ロボットには、熟練工が手で塗装するときと同じ動きをさせていましたので、この動きには見えない無駄があると思い、これはシミュレーションを行う価値があると考えました。

大変だったのは、溶接組立のようなロボットの機差の補正より、ガンのスプレーの補正でした。ボディへの距離感や位置関係、スプレーの量や圧力、噴きつけ方向と重力、塗料の粘度などの材質という情報をパターン化し、ROBCADのデータにする作業に取り組んできました。一昨年から去年の夏ぐらいまでかけて、パターン化し、その後細かい部分のテストを社内で繰り返し行ってきました。1年間くらい玉成して、ようやく誤差5%くらいになり、適用の検討段階にまでなりました。

ROBCAD画面
塗装ラインのオフラインティーチング

■オフラインティーチングの必要性

近年、車はどこで何が売れるかが非常に目まぐるしくなり、多品種少量生産になりつつあります。どれだけ工数をかけずに生産できるかがポイントの1つになってきました。別の工場へ生産ラインを移動したり、ものを生産しながらライン本数を増やしたりする場合も出てきました。

ティーチングデータは、色、形などの違いにより、ロボットに200種類くらいのデータを作ります。車種によってデータが異なるため、今までのティーチングデータは使用できません。従来は、仮に設備を置いて何ヶ月もかけてティーチングしていたのですが、その時間や場所が取れなくなってきました。そこで、ライン稼働率を上げるためのオフラインティーチングのニーズが高まってきました。ROBCADを導入して取り組んできたオフライン化が、今後ますます効果をあらわすと思われます。

今後の課題

■フロントローディング

人物写真
名古屋製作所 生産技術部
石井 利幸 様

ボディの設計がまだ確定していない早い段階から、生産技術もそれに加わって検討作業していくのですが、その不確定モデルに対してでも、ROBCADに取り込むためのデータ変換が必要になります。

設計する車体側は、日々刻々とモデルが変わっていくので、このデータ変換がシームレスに簡単にできないと流れが悪くなってしまいます。

流れを切らないようにいかに改善していくか、またいかに早い段階から検討を行えるかが今後の課題です。設計者が頭で考えている段階で、すぐにチェックできるようにしたいというのが理想です。

■システムの上手な利用

CAD画面
3DのCADによるライン設計

パソコン上でできる機能が増えてきて、CAD、シミュレーション、ビューワの境がだんだんなくなりつつあり、どれで検討するのが一番よいかをきちんと見極めて利用できるようにしていきたいと思っています。

シミュレーションシステムへの要望

シミュレーションというものは、坂を登るのではなく階段を1段ずつ登るように効果が出るものだと考えます。頭の中の自分のアイディアを、スケッチを描いたりメモを取るような容易さでチェックできるようになれば、適用範囲は指数的に広がるのではないでしょうか。

設計するとき、頭の中では誰でもシミュレーションしています。今のシミュレーションシステムは、これをCADで設計してデータを用意してという作業を経て、ようやくビジュアル化されて確認することができます。

漠然としていますが、コンピュータ上でアイディアをすぐに確認できるような、設計者の考える力を育成させるシミュレーションシステムを開発してもらいたいです。ROBCADでいうと、干渉チェックはもちろんですが、干渉が見つかったらどうすればよいかというアイディアを簡単に引き出させてくれることを目指していただきたいです。

マウスのかわりにティーチングボックスを使用したり、絵が立体的に見えたりすると、より操作性が良くなると思われます。そういう意味で言うと、今のシミュレーションの世界は、まだCAD的シミュレーションなので、マンマシンインターフェイスがもっと使いやすくなることを期待します。

HZSについて

とても親身になってサポートしてくれています。今後、ROBCADシステムの周辺を膨らませるような幅広い提案をしていただきたいと思います。また、車体のVPM(Virtual Product Model)データをROBCADへ取り込むインターフェイスの充実を期待しています。

おわりに

承認にハンコではなくサインを使用するなど、社内の生産設備や品質管理の根本的な見直しに積極的に取り組んでおられました。生産技術とシミュレーションについてプレゼンテーションで説明していただき、大変勉強になりました。

設計者にアイディアを引き出させるシステム作りというお話もとても参考になりました。大変お忙しいところ、貴重な時間をさいてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

会社プロフィール

大江工場
大江工場
岡崎工場
岡崎工場

三菱自動車工業株式会社

本社 東京都港区芝5-33-8
創業 昭和45年4月(1970年)
資本金 2,522億122万円
従業員 約23,000名
売上高 (連結)33,350億円('99年度)
(単独)21,066億円('99年度)
事業分野 自動車およびその構成部品の開発、設計、製造、組立、売買、輸出入、その他の取引業
名古屋製作所 大江工場:愛知県名古屋市港区大江町2
岡崎工場:愛知県岡崎市橋目町字中新切1
プラウディア
プラウディア
ギャラン
ギャラン