人とシステム

季刊誌
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No.23 | システム紹介
核燃料施設廃止措置技術の体系化を目指して
核燃料サイクル開発機構 人形峠環境技術センター
環境保全技術開発部 環境計画課
課長 安念 外典 様、副主任研究員 杉杖 典岳 様

核燃料サイクル開発機構 人形峠環境技術センターの事業概要

施設写真

エネルギー資源及び地球環境問題の観点から、原子力の寄与が期待されていますが、原子力には、原子炉で使用した核燃料を再処理することによって、新しく生成されたプルトニウムと燃え残りのウランを、将来的に再利用できるという画期的な特徴があり、これを核燃料サイクルと言います。

核燃料サイクル開発機構は、この核燃料サイクルの確立に向けた、さまざまな技術開発を行っています。

人形峠環境技術センターでは、主に、ウランの探鉱・採鉱・製錬・転換からわが国が自主開発した遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発までを担当してきましたが、2001年3月のウラン濃縮原型プラント運転終了により初期の目的を達成し、現在は、これらの研究・開発に使用してきた施設・設備の解体や廃棄物の減容に取組みながら、原子力施設を安全で合理的に廃止するための技術の確立と体系化および鉱山跡措置技術の開発という、核燃料サイクルの完結を目指した事業を行っています。

はじめに

核燃料サイクル開発機構 人形峠環境技術センターでは、2000年6月から、ウラン系の放射性物質を扱った大型の核燃料施設である製錬転換施設の廃止措置の一環として、施設内部の機器の解体・撤去を行っていますが、このような大規模な施設の解体・撤去は、我が国ではこれまでに経験したことがありません。

このため、製錬転換施設の解体・撤去に当たっては、合理的解体・撤去と併せて、ここで得られた知見をエンジニアリングとしてシステム化することにより、今後行なわれる核燃料施設廃止措置への適用が期待されています。

本稿では、MicroStation/PlantSpaceを情報基盤の中核とした、核燃料施設廃止措置のためのエンジニアリングシステム(解体エンジニアリングシステム)の概要について紹介します。

説明図
原子力施設の廃止措置
(上図をクリックすると拡大図が表示されます)

核燃料施設の廃止措置と3次元CAD

核燃料施設の廃止措置とは、役割の終了した核燃料施設を解体し、そこで発生した解体物を資源として再利用できるようにしたり、放射性廃棄物として最終処分するまでの過程を言います。

これを合理的に行うためには、施設を解体することにより、材質や放射性物質の付着の程度の違う廃棄物がどれだけ発生するのか。それらの廃棄物を再利用するためには、どのような方法で放射性物質を除去すればよいのか。また、その結果どのような放射性廃棄物がどれだけ発生するのか。と言った一連の検討を、廃止措置全体のコストや社会的受容性などの観点で行うことが重要です。

説明図
(上図をクリックすると拡大図が表示されます)

これらの評価を精度良く行うためには、廃止措置全般にわたる技術情報や経済情報の把握が必要となりますが、施設の解体によりどのような廃棄物がどの程度発生するのかを正確に把握することが最初の課題となります。

ところで、実際の解体物を見て、このような情報を得るのが困難であることは、材質の特定1つとっても、容易に想像できます。解体エンジニアリングシステムでは、これらの評価を、MicroStation/PlantSpaceの3次元のソリッド情報を活用することで実現しています。

次項では、解体エンジニアリングシステムの機能の中から、核燃料施設廃止措置の中での、3次元CAD活用の具体的事例について紹介します。

解体エンジニアリングシステムの機能

1 施設情報の3次元CADへの集約

解体エンジニアリングシステムでは、さまざまな評価を行うための共通情報基盤として、施設の主要な情報をMicroStation/PlantSpaceに集約しています。以下に施設情報の概要について紹介します。

① 施設の幾何情報

施設の幾何情報とは、廃止措置対象施設の建家や内装機器、配管などに代表される構造物の3次元構造を固体情報として定義したもので、基本的には、製作図面を忠実に再現しており、ボルトなどの最小構成要素単位でモデリングを行っています。当然、MicroStation上では、幾何情報は固体情報として扱われており、形状の他、二次的情報として、構造物の体積や表面積を容易に求めることができます。

PlantSpace 画面
(上図をクリックすると拡大図が表示されます)

② 施設の材質情報

施設の材質情報とは、幾何情報の最小要素ごとに、その要素の材質をMicroStationの色及び画層情報として定義したもので、色と画層の組合せにより、機能的には1600種類の材質を定義することができます。現在は、約250種類の材質を定義しています。

PlantSpace 画面 PlantSpace 画面

③ 放射性物質インベントリー量情報

放射性物質インベントリー量情報とは,幾何情報の最小要素毎に与えられた、単位面積当たりの放射性物質の保有量です。放射性物質インベントリー量情報は、幾何モデルのうち、放射性物質と接触した機器や配管を対象として、機器などの外部からγ線による放射線計測を行い、このγ線計測結果と幾何モデルを使った放射線の遮蔽計算結果をあわせて、評価対象の単位面積当たりの放射性物質量を推定しています。また、この結果は、幾何モデルから呼び出すことができます。

④ 運転履歴情報

運転履歴情報とは、主に機器や配管がどのような状況で使用されたかという履歴情報です。具体的には、解体、解体物からの放射性物質の除去、放射性廃棄物の減容を行う上で必要な以下の情報を格納しています。

  • 運転中に発生した特別な状況や、扱った化学物質といった文章・文字情報
  • 運転中の圧力や温度といった数値情報
  • 機器や配管の外観観察や詳細な表面分析結果といった画像情報

また、この結果は、幾何モデルから呼び出すことができます。

このように、施設情報を3次元CADに集約しておくことは、廃止措置の実際の業務の中で、特に施設建設や機器の設置と同様に、空間を意識した設計が求められる解体方法や手順の検討段階においては、視覚的でかつ定量的に3次元空間での様々な検討を行うことが可能となることから、極めて有効な情報基盤となっています。

2 解体物管理

現在行っている、製錬転換施設の解体・撤去では、当面、機器や配管などを解体し、主にドラム缶に収納した状態で施設内に一時的に保管する計画となっています。この保管解体物は、将来的には、放射性物質の除去や減容などを行った上で、資源としての再利用や放射性廃棄物として処分することが検討されています。

解体物の資源化や処分を行うために必要な放射性物質の除去や減容などの処理を合理的に行うためには、機器などの解体時点で、あらかじめ、材質・形状・放射性物質の種類と量などの異なるものを分別し、履歴の管理を行うことが重要です。このような対応を行うことにより、材質や放射性物質の種類や量に適した処理を選択することが可能になります。

以下に解体物管理の概要について紹介します。

(1) 解体物管理の概要

解体物管理の最終的な目的は、解体物を、材質・形状・放射性物質インベントリー量を基準として分別し、ドラム缶に効率よく収納し、ドラム缶収納後の収納物の履歴を管理することにあります。

一般的にはドラム缶への収納時点で、必要な基準により解体物を分別し、放射性物質を計測し、ドラム缶に収納するという手順が考えられます。しかし、実際の解体作業の中で、このような対応が可能か否かは、例えば、解体物の材質を特定することがいかに困難であるかを考えただけでも容易に想像できます。

そこで、解体エンジニアリングシステムでは、3次元CADに集約されている施設情報を活用し、コンピュータ上であらかじめ機器などの解体計画を策定しています。このとき、解体手順と併せて、収納先であるドラム缶に管理番号を発行し、解体断片の収納先ドラム缶を指定します。

解体物を確実に管理するためには,このような事前の計画策定と併せて、策定した計画どおり作業が行われるよう作業を管理する必要があり、計画策定時に解体・切断物に対して管理番号を発行し、この番号をバーコード化することで物流の管理を行っています。

説明図
(上図をクリックすると拡大図が表示されます)

(2) 適用している技術

解体物管理の実用性を決めている技術要素は幾つかありますが、その中の1つに、事前に行う解体計画策定の精度保証があります。解体計画の精度や実用性は、対象となる設備の3次元CADモデルの精度に最も強く依存しますが、これと併せて現実の解体作業に即した形で、3次元CADモデルの分解や任意の位置での切断を行うことが出来ることや、機器などを構成する材質ごとの重量や体積の計算が可能である点が重要になります。以下に、この2つの技術の概要について紹介します。

3次元CAD画面

① 幾何モデルの任意切断

幾何モデルの任意切断は、機器などの切断計画を検討するための機能で、直線的な切断のみでなく、任意の点をスプライン補間した曲線による切断を行うことも可能です。また、実際の切断を模擬し、切断幅を任意に設定することも可能です。

更に、切断片が持っている、放射性物質インベントリー量や運転履歴といった情報についても各切断片に再割り当てすることができます。

② 材質ごとの重量・体積計算

材質ごとに比重を定義したテーブルを持つことにより、指定した範囲の材質情報(幾何モデルで色及び画層情報として定義された情報)を3次元CADモデルから読み取り、3次元CADの機能を使って計算される体積と、材質ごとに定義した比重から重量を計算することができます。これらの計算は、指定された範囲の幾何モデルの最小単位で行われ、材質ごとに集計され、材質ごとの総重量として出力されます。

3次元CAD画面 材質情報出力例

3次元CADへの期待

3次元CADが持つ幾何情報や構造情報を入力とした解析や評価は、現在知られているものの他にも、多くの潜在的ニーズが存在するように思います。これらの解析の多くは、解析結果も3次元CADモデル上にビジュアル化して、しかもダイナミックに出力することが求められています。3次元CADの進化の1つの方向として、モデルを使った解析、解析結果のモデル上での視覚化と言ったシームレスな解析環境が提供されることを期待しています。

また、本稿で紹介した、核燃料施設の廃止措置への活用に限らず、3次元CADに入力されている情報は、少なくとも10数年単位では、陳腐化することなく利用できることが望まれます。

このことを考えたときに、ユーザ資産の長期間の保証に対するCADベンダーの基本的な考え方や実際の対応が、CADの導入を検討しているユーザにとっては重要な判断基準になるように考えます。

おわりに

廃止措置技術は、核燃料サイクルの技術的確立に向けた重要技術の1つであるが、他の技術開発とは異なり、廃止措置技術開発への投資により新たな製品を生み出すものではないことから、廃止措置そのものの経済性の向上が技術開発の唯一の目的となっています。

このため、廃止措置の経済性向上が期待できる、システムエンジニアリングへは大きな期待を寄せており、MicroStation/PlantSpaceの特徴を生かした、より高度な情報活用が重要な技術開発のテーマとなっています。