人とシステム

季刊誌
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No.29 | システム紹介
今、求められるPLMとは
PLM営業部 田中 秀樹

最近、製造業向け資料の中で"PLM"という単語を見かける機会が多くなった。本稿では、PLMの考え方を再考し、厳しい状況にある国内製造業でどのように適応できるかを考えてみたい。

PLMの基本的な考え方

PLMはProduct Lifecycle Managementを略した言葉で、製造業における活動の中心となる製品の、企画・設計・製造・調達・保守に至る全開発工程を支援する仕組作りと定義できる。企業の価値連鎖(バリュー・チェイン)は、図1に示すように材料・製品の取引に関わるサプライ・チェインと物づくりに関わるエンジニアリング・チェインが存在するが、PLMは後者のチェインを総合的に効率化する仕組を提供する。

説明図
図1 製造業における価値連鎖
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PLMを構成するツール群は、設計から製造までの機能をプラグ・イン的に追加可能な3次元CADプラットフォーム、ワークフローやドキュメント管理をベースにしたコラボレーション環境、さらに、これら全ツールに統一的な開発環境となる。(図2参照)

説明図
図2 PLMで必要となるツール群
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図からわかるように、PLMは決して新しい考え方ではない。しかし、図面描き用CAD、意匠デザイン用CAD、3D設計用CAD、加工データ作成用CAM、工場ライン・シミュレーション、STEPによる設計情報交換、図面管理システム、...コスト・パフォーマンスを求めただけの、シナリオ無き部分的なツールの導入では、功を奏しなかなかった現実がある。複数の関連部署・企業を含めた業務の全体効率を上げるシナリオを策定した上で、横断的に活用できるツールの導入と設計データの使い回し、これがPLMの基本的な考えである。

国内製造業の現実

数年前に比べて、国内の製造業の状況は大きく変わった。昨年5月経済産業省は「産業競争力戦略会議中間取りまとめ」の中で、国内産業競争力低下の原因を、90年代におけるゲームのルールの変化に企業が対応できなかった、としている。具体的には、企業競争の源泉が「作業効率向上」から「差別化・独自性追求」に変化したことに対応ができていない。

現在の国内市場は、企業側論理の優れた製品を出すこと(Product-Out)ではなく、市場の求める製品を適確に出すこと(Market-In)が求められている。この状況では、今までのような需要予測に基づいた製品開発は意味を無くしてきている。即ち、PDMは設計情報の成果物管理、SCMは物を確実に届ける仕組、CRMは顧客管理でしかなく、Product-Outの時代に求められたスタティックな仕組といえる。

金型製造の視点では、国内製造業は図3の構造で表される。製品メーカはサプライヤから部品供給を受け、新製品をタイムリーに市場投入しなければならない。金型製造部署は物づくりの最終工程に位置付けられ、常に期間短縮、コスト削減、品質向上のしわ寄せを受け、さらに製品メーカが海外拠点化を進めるため、サプライヤや金型メーカも現地調達化が多くなり、競争がさらに激化している。

説明図
図3 金型製造に視点を置いた製造業の構造
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現場に適したPLMの実現

国内製造業は独自化とBTO(Build to Order)に代表される多品種少量化を市場から求められている。このような状況において、製造業のエンジニアリング・チェインを統合化・高度化するPLMの実現がさらに重要になってくる。顧客のニーズやクレームを製品に反映し、製造最終工程で発生した設計変更を上流工程にフィードバックできる、ダイナミックなPLM環境である。

しかし、理想的なPLMの考え方をそのまま全ての国内製造業に適用することは無理があるといえる。それは、前述したような製造拠点のグローバル化に起因するだけではなく、同一企業内においてもデザイン、設計、製造各部署の既存ツールでの効率化が極限までなされている結果、新規ツールへの移行が進まないことも考えられる。このように製品開発の上流から下流まで統一的な設計ツールを導入することは現実的には困難なことが多いことから、設計データの交換・流通・共有を高度化することが重要になる。(図4)

説明図
図4 設計データ交換・流通・共有の高度化
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製品開発の全工程で共通のCADプラットフォームを採用することによる全体効率向上を目指しながら、早い時期にその実現に寄与するために、マルチ・フォーマットに対応した3次元データのトランスレータ・ビューワ・コラボレーションなど、設計データの交換・流通・共有ツールを活用することである。即ち、密結合ではない疎結合で軽いPLMを実現することが、今、国内製造業に必要であると感じる。