パイプハンガ設計・製作の効率アップと干渉問題の解決
株式会社山下製作所様は、原子力・火力発電・ガスタービンコンバインド発電他プラント全般の付帯設備メーカとして、主力製品であるパイプハンガ&サポート、操作架台、支持鉄骨などさまざまな製品の設計・製作をされています。また、パイプハンガではドイツのリセガ社と業務提携をされ、3D CADとの連携によりプラント業界へのさらなる事業展開を図られています。
今回は、PlantSpace及びBentley PlantSpace SupportModelerを導入された背景と効果についてのお話を中心に、代表取締役 社長 山下敬介様、設計部 課長 稲生潤様、主任 畠山武司様にお伺いしました。
事業概要

山下 敬介 様
創業は昭和6年で、当時はボイラへの石炭の供給・灰出コンベヤの製作からスタートし、クレーン等の輸送機の製作も手がけていました。その後、昭和20~30年代にかけてプラント向けの付帯設備・パレットハンドリングシステム(パレットローダー)・自動車製造ラインのトランスファーマシン等に業務を広げて、現在は分社化により6社が独立して山下グループを構成しています。その中で私ども山下製作所は、プラント付帯設備の設計・製作を行っており、主力製品はプラント配管の支持装置でパイプハンガという製品です。その他の製品としては、機器操作架台・パイプラック・機器支持鉄骨・エキスパンションジョイント・吸排気ダクト・ダンパ・サイレンサなどを設計・製作しています。
パイプハンガについては、2000年に世界市場で約30%のトップシェアを持つドイツのリセガ社と業務提携を行い、日本国内のお客様に対する独占販売契約を締結しました。それまでは、当社のオリジナルハンガを製作・供給していましたが、現在はリセガ社の製品をパイプハンガの主要コンポーネントとして供給しています。ただし、アセンブリとして組み合わせる付属品は、必要に応じて私どもの標準品も供給しています。国内のプラントメーカ様が、リセガのパイプハンガを購入される場合は私どもにご注文をいただいております。
【パイプハンガとは】

稲生 潤 様
パイプハンガとは配管システムを建屋鉄骨から吊るしたり、下から支えたりする装置のことで、スプリングハンガ・コンスタントハンガ・スナバが代表的な製品です。プラント配管はプラントの運転と停止に伴い、熱膨張・熱収縮を繰り返して非常にゆっくりですが生き物のように動き、大きく移動するところでは運転前と後では20~30cmほど位置が変ります。このように移動を伴う配管に対し、重量を支えながら熱膨張による配管の動きには柔軟に追随し、地震など振動があれば振れないように適切に支持する装置がパイプハンガの役割です。いわば縁の下の力持ちとしての存在であり、配管とは切っても切れない関係があり非常に重要な装置です。
パイプハンガの配置設計をする場合、配管が延々とルーティングされている中で、どの位置にどういう種類のパイプハンガを取り付けるかを検討するのに時間がかかります。配管の応力解析を行い、熱膨張に対する柔軟性を損なわずに振動防止も考慮して、建屋との関係を考えた上で適切に重量を支えられるポイントに配置設計していきます。
PlantSpace導入の背景
各プラントメーカ様は、1980~1990年代にかけて、プラント全体の精巧なプラスチックモデルからコンピュータグラフィックスを利用した3Dモデリングへと移行されました。私どもは、もともとパイピングシステムの応力解析を含めたハンガの総合的な配置設計を行い、適切なパイプハンガを選択・供給するエンジニアリングに重点を置いて仕事をしてきました。そのため、プラントメーカ様が3D CADへ以降された段階で、何らかのコラボレーションを図りたいと考えていましたが、当時はまだ3D CADは高価なシステムであり、我々には手の届かないものでした。しかし今後は、必要不可欠なツールになると考えて、興味と関心だけはずっと持ち続けていました。
1999年初旬にHZSから商品紹介をしていただく機会があり、INCHEMの展示会で見ていたPlantSpaceについて詳細に説明をしてもらいました。PlantSpaceのベースCADは、プラント向け3D CADの中で最もポピュラーなMicroStationで、他社アプリケーションとも互換性が高いという利点がありました。その他にパイプサポートモデリングツールとしてBentley PlantSpace SupportModeler(以下SupportModeler)がオプションでありましたので、1999年末にオプションも含めてPlantSpaceを導入しました。
PlantSpace導入の効果
【建設前にトラブルを回避】
PlantSpaceを導入したことで、第一の目的であったプラントメーカ様との間での3Dコンカレントエンジニアリングを実行でき、パイプハンガの3Dモデルを提供できるようになりました。これによりお客様は3D上でパイプハンガを含めた干渉チェックを実施されて、効果を出されています。通常、事業用発電プラントではパイプハンガが1500ポイントほど設置されるため、現地で干渉のトラブルが発生することがしばしばありましたが、3Dモデリングを適用したプラントでは事前に問題点が洗い出され、建設段階でのトラブルはほとんど発生しなくなりました。
【短期間で実ジョブへ】
SupportModeler は、他のプラント系CAD のサポートツールと違ってパッケージ化され、基本ライブラリも充実しているので、サポートが簡単に配置できます。ライブラリに登録したい製品はいろいろありましたが、まず主力製品を何パターンかHZSで作成していただいて、それを基にして当社で追加作成し、現在200種類で3000部品程度登録しています。このようにユーザカスタマイズも他と比較して容易でしたので、導入から短期間で実ジョブへの立ち上がりができました。
【製作サイド(工場)とのリンク】
配置したサポートモデルの部品情報から集計・レポートを作成する機能が付いているため、工場はそれを活用し、電子データで部品手配できるようになりました。
【LICADとのインターフェース】

畠山 武司 様
リセガ社は、パイプハンガを自動アセンブリして、図面を自動作画できるプログラム「LICAD」を独自に自社開発しています。また、このLICADは3D CADと連携を取ることができます。LICADは、リセガ社のホームページ(http://www.lisega.com)からダウンロードできるフリーソフトで、誰でも自由に使ってパイプハンガの自動選定が行え、そのままメールに添付すれば発注までできます。私どもはLICADでサポートを選定した後、SupportModelerにデータを取り込んで配置設計します。SupportModelerには、LICADとのインターフェイス機能があるので、LICADで2次元設計したものが即3次元データとして取り込むことができて、大いに役立っています。

(上図をクリックすると拡大図が表示されます)
【ヒューマンエラーの削減】
いろいろな図面を見なくても、ライブラリから選択するという入力形態なので、空間のイメージと干渉の確認ができるようになりました。またSupportModelerの機能には、図面作成、部品集計の機能があるので、生産性の向上とヒューマン的なエラーが削減できています。
それからサポートを配置した後は、SupportModelerの機能でID管理されているので、前のサポートを探すときすぐに検索できます。このようにサポート設計するときの配置も簡単になり、干渉も確認できることで、お客様の方からも、現地の戻り作業が少なくなっているとの評価をしていただいています。
【架構物(鉄骨)の3Dモデリング設計】
操作架台・支持架構についても鉄骨専用の3D CADとPlantSpace Structuralとの連携により設計を行い、3Dモデルをお客様へ提供しています。社内においては属性情報も活用して製作に展開し、大幅な間接費の低減を行い、干渉チェック・自動作画等、スムーズな仕事の流れを構築しています。
また、パイプラックなどの架構物からパイプハンガを取付ける場合は、架構・サポートの計画・配置設計を融合し、総合的な3D設計を行うことで無駄のない設計を実現しています。




操作架台の設計
今後の展開
現在、導入して5年目になりますが、当初からHZSの協力を得て自社製品ライブラリの登録とカスタマイズプログラムの開発に着手し、基本的な3Dモデリングが行える第1ステップは完了しました。現在第2ステップへ移っています。
第2ステップでは、3Dモデルの属性情報を利用した工場部品手配リストの活用と、据え付け用2次元図の自動出力を利用して、部品集計と図面作成の省力化を図っています。これは昨年後半から一部オーダーで活用を実施しています。今後は、さらに完成度を高めるためにカスタマイズを行い、効率アップを目指していく方針です。
【小口径配管のサポート処理】
現実問題として、サポート設計の中には小口径配管のサポートの処理という部分が作業量としてはかなりあります。先ほど申し上げた1500ポイントに小口径配管を入れると約3000ポイントになります。この小口径配管サポートは物が小さく点数も非常に多いので、干渉問題・物量の把握、部品の手配、据付要領図の作成などは、一番手のかかる作業であり、大半のプラントではお荷物的な仕事になっているのが現状です。
小口径配管サポートの据え付けは、現地で配管指導員の指示により行われていますが、技術を持った指導員が不足しているなかでのコスト低減ということで、小口径配管であっても事前に設計して、サポートも含めて図面通りに据え付けていこうとする傾向が増えています。3Dでモデリングすれば、現地の確実な情報として残り、干渉問題も事前に解決できるので、後戻りの作業が発生しないというメリットがあります。このようにお客様が困っている問題に焦点をあてて、効率よく処理できるような仕事のやり方、仕組みを現在構築しつつあります。
【作業のIT化】
将来的には、全ての作業をIT化していきたいと考えています。まずはペーパレスから行い、最終的にはCADデータからもの作りのデータへ渡していくという構想があり、それを目指していきたいと思います。
【属性情報の受渡し】
プラントメーカ様が利用されるプラント3D CADへのデータ受渡しについては、現在形状データのみを提供しています。今後は、属性付きデータの授受を要望される傾向にありますので、どのようにできるか検討を進めていく予定です。
【2次元図面の自動処理率の向上】
現状の自動作図機能は従来の図面と比較しますとやはり表示に限界があります。お客様によっては、従来通りの詳細な表示を要求されることもあり、追加表示部分をできるだけ自動処理することを考えています。例を挙げると寸法線の配置と隠れ線の処理などです。

(上図をクリックすると拡大図が表示されます)
【サポートライブラリのインテリジェント化】
サポートアセンブリモデルを配置するとき、部品型番などの条件を入力しています。その入力する項目を必要最小限に減らし、自動的に部品選定や組合せができるように開発を進めています。
【CADデータからの自動加工化】
現在は、部品加工情報を記号化した部品リストをレポート出力し、工場で加工しています。今後、この部品加工情報を加工機用データに変換し、自動溶接や自動カッティング・自動ドリリング等を行いたいと考えています。
HZSへ
SupportModelerの開発元PelicanForgeがBentleyからINTERGRAPHへ移っているので、今後のサポートのことが心配です。HZSには今後もサポートして欲しいと思っています。
現在も迅速なサポートをしていただいていますが、どうしても東京の技術者の方とmailや電話で用件をお伝えすることに限界がありますので、こちらからも出向くことができる大阪にも技術者を置いてほしいと思います。それから今後とも、カスタマイズなどのご協力お願いいたします。
おわりに
プラント配管のハンガ&サポートについて、製品を見ながら詳しく説明いただいたので、大変勉強になりました。
大変お忙しいところ、貴重な時間をさいてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。
会社プロフィール


株式会社 山下製作所
本社・工場 | 大阪市西淀川区御幣島2丁目12-35 |
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創業 | 昭和6年(1931年) |
資本金 | 24,000,000円 |
従業員 | 70名 |
事業内容 | プラント付帯設備の設計・製作 (パイプハンガおよびサポート、操作架台、パイプラックおよび支持鉄骨、エキスパンションジョイント、ダンパ、吸排気ダクト、サイレンサ、ドラッグチェーンコンベヤ) |






