人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.35 | 社長インタビュー
いい物を作りたい一心
人物の写真 株式会社ジェイエムピー
代表取締役
塚 正喜 様
人物の写真
HZS 取締役社長
福武 映憲

福武 ジェイエムピー様は、エンジンの金型部品から、鋳造、RP、RIPへと発展され、さらには、紛体から工芸品であるべっ甲のなつめの製作にも取組まれています。「正直者がバカを見ない会社、社会。正直者が報われる会社、社会」を社訓とされている塚社長の経営哲学についてお話を聞かせてください。

モノ作りにおける道場

 モノ作りにおいては、「成し遂げたいと思ったものを追及すれば、それは必ず実るんや。」そういうことを証明したいのです。前向きに取り組まずに、逃げて要領よく人のものを盗んでやるのではなく、自ら汗をかいて、それをつかんだ証明をしないと、次の人たちに頼むぞとこんな風にこれからは物を作ってくれよと言えないと思います。

「いい物を作りたい」という一心です。

一生懸命に取り組めば、必ず報われると信じています。私はそれを証明するために、JMPを興しました。

JMPは、「正直者がバカを見ない会社、社会」を具現化するための、モノ作りにおける「道場」でもあるのです。

金型でスタート

 ハーレーダビットソンのディスクブレーキの金型からスタートしています。機械的精度で追い詰めて、試作のテストなしでお客様に納める。足の速い金型で売り上げを上げて、次の事業を応援するための資金としています。

ディスクブレーキは、金型としても消耗が激しく、1シリーズで5~6年続きますから、リピートはかなりあります。

その次に、3D-CADで金型のデータを作っていたのですが、時間チャージ8000円だったのが、4000円になり、もっと付加価値のある3次元を目指そうと考えました。それを実現するのはRPだろうと、EOSINT Pを導入し、粉体がキーワードになってRIP(ゴム静水圧成形)へと展開してます。

また、RPでナイロン品を作って商売をするのではなく、RPから鋳造品を作ろうという方向に特化し、自ら鋳造工場を持ち、ノウハウを自分の工場で蓄積して、お客様に鋳造商品を供給しようと始めました。

日本一の鋳造技術

福武 金型というベースがありながら鋳造にも取り組まれたのは、どういうところからですか。

【鋳造への取組み】

 RPを使って鋳造で人の驚くような精度を出せるようになりたいという思いがあります。

RPでナイロン品の試作を作っても、みなさんがやられますので、そこでまた値段のたたきあいが始まるでしょ。お客さんは安いところへ流れていかれますので、同じ機械で同じ収縮で作ると同じものができる。そこで競争してもつまらんですし。

それやったら、真似されないものを作ろうと、鋳造屋さんへ仕事を出したのです。でも、まともな仕事が上がってこない。鋳造屋さんから、モデルが悪い、何が悪いと、我々のせいにされる。そうか、我々が悪いんかと思って、作り方などいろいろ工夫をしても、モデルがあかんと言われる。ドイツにも出してみましたが、もう少しモデルがしっかりしていたら、いいものができるのにという回答が返ってくる。

我々ばっかりが苦労して、やってるだけ無駄やなあと思っていましたが、たまたま日本で、これはほかの鋳造屋と違うな、ちゃんとやってくれるなと思うところがありました。個人でやっていましたので、私と一緒に鋳造を始めたのです。ドイツの人も、工場を持ちたいなら鋳造を教えてあげましょうと言ってくれ、鋳造をやりたいという思いが今につながっています。思ったことは必ず叶うのです。

【EOSINTのプライムキャストに特化】

 EOSINTのプライムキャスト(ポリスチレンの粉)を使ってポリスチレン製樹脂のマスターモデルを造形し、ロストワックスによる消失鋳造法に特化したいと思っています。

どんなものがきても、お客様の要望どおりの寸法を出せるような鋳造場になりたいし、筐体、箱物などいろいろなものをやればやるほど、わかってきます。

今まで、図面を見ただけで、5/100や1/100の公差が入っていると、これはできないとあきらめていたのですが、一回やってみると、こういう逃げ方ができる、ここだけを1/100で追えば、あとはラフでいいとか、挑戦するにしたがって、これはいけるぞというものがやっと掴めてきました。もう、3~4回、そのような仕事をいただいてます。

福武 自社で鋳造に取組むために、横浜工場を作られたのですか。

 そうです。プライムキャスト専門の工場にしたいのです。今は、それだけでは食べられませんので、医療器具などで1000個未満のものを流して、その間にプライムキャストを流しています。でも、最近は、プライムキャストと医療器具がバッティングしていまして、働いている人には無理をかけているような状況になってきています。鋳造納期が1週間あるかなしです。我々は、鋳造で流しっぱなしでお客様に納めるのではなく、最終加工まで入れます。だからますます納期が厳しくなります。

RPで完璧、鋳造でそこそこできた、加工でしくじるというのが2~3回ありましたが、加工も完璧にしたいと苦労してきて、それもクリアできてきています。

今後は、100%プライムキャストに移していきたいのです。私も今まで、開発商品を一生懸命やっていまして、RPについては任しっぱなしのところがありましたので、もう一回今までと同じように一に戻って、自分の目の行き届かなかったところを細部から洗い直しているところです。RPの人間と鋳造の人間がなあなあになってしもうたら、もうあかんのですね。やっぱりRPの人間に対して鋳造が寸法が出てない、RPの人間は鋳造に対して我々はここをねろたけども、収縮率が出てないやないか、それならどこがおかしいんやと、そういうことをやってもらって初めて進歩するのですが、そこそこ出ましたねとなあなあで終わらしてしまっていると、技術の進歩がないですよね。今はけんかごしです。

【採算より技術を追求】

福武 自動車メーカーさんは、研究所や技術力があり、お金も人も投資していい物を作れると思います。

失礼な話で申しわけありませんが、塚社長のところは、いくらでも投資できるわけではないと思いますが、いつも日本一の鋳造技術だとか、メーカーにもできないことができると自信を持っておっしゃられますね。

 会社規模で見た大きい小さいではなく、ひとつのモノに対して掛けるお金は、大企業よりも使っていると思います。たとえば、700万円のモデルを作って、そこへ鋳造費をかけると、1000万円ぐらいやりくりせなあかん。利益が0でもできるまで追求しますでしょ。1つの部品にどれだけのコストをかけているかでは、多分自動車メーカーさんには負けないですね。

福武 通常は、売上げに対して、研究開発に掛ける割合は決まっていると思いますが、お話を伺っておりますと、元が取れても取れなくても、技術の追求ということで、ある期間はお金をかけられますね。それができるのはどうしてですか。

 意欲・前向きでやっていこうと思えば、資金もどうにでもなります。先行投資とかいい格好じゃなく、いい物を作りたい一心です。企業としたら、採算を考える人には真似できないと思います。我々が成り立つのは、自分たちのノウハウを持っているからです。

福武 できるかできないかわからないことにお金を出しても会社が成り立つノウハウというのは、何ですか。

 たとえば、10人が10万円ずつ給料を貰ってたら、みんなで100万円ですね。1人にしたら、10万円しか使えない。でも、私に貸してくれたら、100万円使えるわけです。私は、10万円の給料ですが、100万円の研究開発ができるのです。

新しいものと出会ったときに第六感ではないですが、これは使えるぞと思ったものを買っておくのです。RPもそうですし、鋳造もそうです。今開発しているのもそうです。だから、今使わなくても3年後ぐらいに働きだします。世の中が向かったからこれがいるというのではなく、その前に、使えるぞという考えで置いてます。

粉を固める技術

福武 RPで形状を作成し、それをもとにチタンの粉末を固めて、チタン製品を作られるのですか。

【湘南チタンを設立】

 今度はJMPとは別に、チタン専門の鋳造会社「湘南チタン」を作ります。

製品の写真

鋳造では、微細なものは作れません。鋳造の苦手なところと、紛体で造形したチタンの苦手なところとを補いあってひとつの製品を作るというのが今度の会社です。

鋳造とRIPをうまく組み合わせると、すごく複雑な工業製品ができます。首、胴、足と3つに分けて作ったものを接続する方法を模索しています。

製品の写真

チタン製品は、夢考房で販売しています。

チタンにDLC(Diamond like Carbon)で、表面に傷がつかないようにコーティングしたブレスレットです。3ヶ月ぐらいしていますが、確かに肩こりなどに効果があります。ゴジラも、もうすぐ販売します。

ITツールが伝統工芸師を活かす

福武 3年先は言えないと思いますが、数年前に目をつけて、今成功した事例を教えていただけますか。

【べっ甲の粉を固めてなつめを製作】

製品の写真
蒔絵を施した黒べっ甲
のなつめ
製品の写真
黒べっ甲は光をあてると
透けて見える

 2年前から始めたもので、べっ甲の粉を固めて茶道具のなつめを製作し、さらに蒔絵を施したものです。1つ100~150万円ぐらいの価値があります。

RPで粉を扱っているので、チタンの紛体から造形物を作ったら、チタンが固まるならと、長崎のべっ甲業者さんから問合せがあり、数珠のべっ甲の玉を作ってほしいというのが始まりです。

でも、なつめを見たら、どうしてもなつめを作りたい。でも専務が、3500万円もお金を使って、玉も完成せんうちになつめを作りたいなんて言ってくれるな。まずは、玉を作ってくれと。お金掛けて成るか成らんかわかれへんのに作るあほはおらんと。皆からそんなんできるかと笑われました。

最初は、固まったか固まってないのかわからないのです。茶色くて、黒くならない。やっと黒くなって業者さんに渡すと、べっ甲はこんなに黒くない、もっと茶色だと言われる。茶色いともっと黒いと言われる。どこまで固めたらいいのかわからなかった。今は、あめ色だけを固める開発をしていますが、固め方が違います。黒べっ甲の粉は、1kg 6~7万円ですが、あめ色のほうは、600gで38万円もします。それをテストで捨てていくわけです。こんなあほなことをする人は誰もないです。

でも、なつめをひとつ作ることによって、伝統産業の蒔絵師さんが報われる仕事をさせてあげられるのです。ヨーロッパでは、蒔絵=JAPANだそうです。ミラノ2004に出展する予定でしたが、本物のべっ甲であると鑑定をもらっているので、ワシントン条約で日本から持ち出す許可がおりなかった。海外に見せたくてこのサンプルを一所懸命作ったのですが、残念です。ヨーロッパの人がこれだけのものを見たら感動すると思います。

外国の万年筆の会社からも、契約をしてべっ甲を使わせてほしいと話があります。万年筆でも80~100万円するものもあります。万年筆を締めるねじは旋盤で切れないそうで、轆轤(ろくろ)で逆転させて切るそうです。万年筆を作る職人さんも高齢化していますが、手作りの万年筆の職人さんの仕事ができるのです。

非常に良い人のつながりがあります。いい物を作りたい思い入れ、その一心さが、人と出会い、人をひっぱってこれるのかなと思います。

【珊瑚にも挑戦】

 珊瑚も検討しています。沖縄の海の砂は、珊瑚ですが、宝石にならない珊瑚です。これを紛体にして硬い珊瑚にする。珊瑚細工さんが削った跡のかすを送ってもらったのですが、それは、砥石の粉などいろいろなものが混じっていて使えなかったのです。

珊瑚は大変難しいのですが、固めるところまでできています。神戸製鋼が珊瑚に関しての特許を持っておられますので、この特許を使わせてもらえませんかとお願い行ったのです。そうしたら、使っていいですと、我々も完成するならうれしいと期待してくれています。人間の生死に関わる機械になりますから、炉を神戸製鋼で専用に作ってもらわないとできません。後はお金だけですが、3億もいるのです。

その機械が鋳造にもすごく役に立ちます。無駄ではないのです。チタンの鋳造用にも使えるし、エンジンを作るのにももってこいなのです。珊瑚のために作る機械で、もっとレベルアップした密度の上がる鋳造品ができます。

本物の職人さんとの出会い

【蒔絵師さんとの出会い】

製品の写真
金の鶴の蒔絵を施した
黒べっ甲のなつめ。
鶴の羽の繊細さがみごと。

福武 2年かかってべっ甲を固めることができた。さらにワンステップ上げるために、蒔絵を施される。そのために、蒔絵師さんを探されたのですね。

 金沢や富山を飛び込みで回って、当社の会社案内をポストに入れて帰ってきます。そうすると、やっぱり、正直者が馬鹿を見ない、そういう人を探していましたという蒔絵師さんに出会えるのです。「お宅のような人と私は一緒に仕事がしたい。」と言ってくれる。一生職人で貫きたいと、立派なお弟子さんも育てられています。このような人たちが集まって、蒔絵が始まる。これもひとつの出会いですね。

【工芸師さんとの出会い】

 なつめを作るのにも細かい決まりごとがあります。ふたは、10円玉が乗るぐらいの平衡度をもってなだらかに。ふたの大きさの半分が底の大きさでなければならない。正方形二寸五分の寸法に収めないといけない。でも、機械で削ったなつめは、芸術家が見たら、機械的な美しさしかないそうで、工芸品とはいえない。

ふたを開けたときに中を見て、宇宙が見えないといけない。だから、芸術品にするために、これにもう一削りしてもらう工芸師さんが必要なのです。そのかたとも、金沢で出会え、この材料にほれ込んで、削ってあげようと言ってくださったのです。

作戦を練っているのではなく、いきあたりばったりですが、いい物を作りたいという思いを伝えると、行った所で本当に思いの通じる出会いがあるのです。

【God Handの職人】

福武 不良品だった鋳造品をその人がたたくと良品になる、God Handをもった方がいらっしゃるそうですね。

 62歳で、仕上げだけで飯を食っています。あなたの技術は日本の宝ですから、あとの者を育ててくださいとお願いしています。

鋳造を完璧に流しても必ずひずみますので、ひずみを取らないと、不良品なのです。そこまでの技術がそろってやっと一つの鋳造品ができ上がるのです。

日本がこれだけ技術国なのに、そのひずみを取るのに、職人さんが必要なのです。その人は、木槌一つで、ひずみを取るのです。木琴をたたいているようですよ。この技術は、若い人がその人の下で自分でたたいて覚えるしかない。日本はもったいないですね、大事なものがなくなっていって。

世界に向けて

【ドイツ工場】

福武 ドイツに工場を出されたのは、特別な理由があるのですか。

 ヨーロッパではチタン製品が盛んですから、ドイツでデザインものをやりたいのです。

ヨーロッパでは、鋳造品は日本の2倍~3倍で売れます。日本で3000円でも、ヨーロッパでは1万円ぐらいです。ドイツの鋳造屋さんは、余裕で仕事をしています。

だから、0.5の公差だとチャンピオン値だといいます。日本では、エンジンは±0.3です。

EOSINT P700をドイツで使って鋳造をやりたかったのですが、急遽、日本で使うようになったのです。

ドイツのマイスターと日本の職人の融合を図って、匠の技とITを組み合わせたモノ作りをし、世界に向けてハイブリッドな新テクノロジーの波を起こしたいと考えています。

【インドの若者を採用】

福武 インドの人を今は2人雇われていて、今度3人雇われますね。

 僕は、インドの人は好きですね。昭和20年代の日本人を見ているようですね。24歳で、ものすごく人間ができています。

素直さがあって、人間対人間としての気配りができる。感動を与えてくれます。日本の24歳の人を採用して、56歳の人間が感動できるかというと、できないと思います。それは何にあるのかと思うのです。宗教上、酒・たばこは絶対に飲みませんし、取組む姿勢が真面目です。インターネットの使い方が違いますね。これを一つ作ってくださいと渡すと、その情報を世界中から集めてきて、調べて、その情報を活かして作ろうとします。日本でCAD/CAMの教育をして日本人を育てるのがいいのか、インドへ持っていくのがいいのかですね。

職人しか生きていけない時代へ

 インドのIT関連では、若い優秀な人がどんどん育ってくるので、40歳ぐらいまでしか働けない。CAD/CAMを今この時点でそこそこ使いこなせると思って天狗になって居座ってはいれない。彼らは、自分たちが何年働けるかがわかっているのです。だから、職人しか生きていけない時代はあたっていると思います。

日本人の遺伝子は、長い目で見たらモノ作りの職人に特化していくと思います。職人というものが大意張りで生きていける時代がやってくる。

だから、今は30分おきに、この作業をどんな気持ちでしたか、日報を書かせています。給料が少ないので不服に思って仕事をしていました。そんなもん、まともなモノができるわけがない。その日の反省をするときに、何を考えていたか記憶に留めておいてほしいというのです。失敗したときに、何を考えていたんでしょうねでは、話にならんのです。こんなことを考えてたから、失敗したんだとわからないと。一日すべての反省ではなく、10時、11時の反省をしてほしいのです。

モノ作りは、不思議を感じられるのです。56歳になりますが、今でもマシンを使っています。年をとるごとに、ミスがなくなってきています。金型を5面ばらばらでやってますから、頭の中はパニックです。それに飛び入りでこれもやってくださいとくる。それでも、終わったときにノーミスです。一番儲かるのは何かというと、ミスがないことです。そういう気持ちでモノ作りをしていると、年をとるにつれて、冴えてきます。横浜工場でも創業当初、私と一緒にモノ作りの不思議を感じましょうと話をしました。

会社とか、ええ格好ではなく、職人を貫こうと思っています。損得でやっていると足をすくわれます。モノ作りは不思議なものです。作るものに、一心で向かっているときは、抜群のものができます。

福武 本日は、いろいろなお話をどうもありがとうございました。これからも、感動を与える新しい商品開発を期待しています。

会社プロフィール

挿絵

株式会社ジェイエムピー

3次元CADを利用したラピッドプロトタイピングをはじめ、ロストワックス用消失モデルによる鋳造品、金型製造、3次元モデリングデータの作成、3次元測定など、幅広く手がける精密試作品メーカーです。
塚 正喜 社長プロフィール
1947年 大阪府生まれ
20歳のときに、無雙直伝長谷川英信流の道場に入門。厳しい稽古を経験。
先祖代々から宮大工として寺院や日本建築の仕事に従事していたが、32歳のときに義兄が急逝し、宮大工から一転、金型会社の社長となる。
職人気質を継承しながら、ITと先進テクノロジーとの融合を図ることで、高度なモノ作りを具現化。