~ EOSINT Pによるプラスチック部品製作 ~
RPシステム部 橋爪 康晃 |
はじめに
ラピッド・プロトタイピング装置(RP)が、はじめて製品化されて以来、様々な方式のRPが実用化され、製品開発期間の短縮とコスト削減のツールとして、自動車、家電業界を中心に、主に試作品製作において活躍してきました。現在は、設計者がプリンター感覚で手軽に使用できる小型で安価なものまで登場し、RPの適用範囲を試作現場からオフィス内へと広げています。また、ハイエンドのRPでは、造形サイズの大型化や材料の多様化が進んでいます。その結果、実際の使用に耐えうるものが製造できるようになり、活用分野を製品生産現場へと拡大しています。
一方、従来通り、試作品製作はRPの主用途です。近年、できるだけ試作品を製作せず、バーチャルリアリティの中で様々な検証を行うというトレンドがあり、「試作レスのものづくり」への取り組みが各分野で行われています。しかしながら、バーチャルなモノから実際のモノに移行する過程での試作品の必要性は無くならないと思われます。試作品そのものの製作数は減少しても、要求は高度化し、試作品の重要性は益々大きくなっていると言えます。粉末焼結型RPは、この分野での使用を主目的として発展してきたものですが、ある時は「試作品を製作する上で最も効率的な手段」、ある時は「必要な3次元形状を製作するための唯一無二の手段」、ある時は「必要な数量を生産する上で最も経済的な手段」となりえるツールとなっています。その結果、試作だけではなく、様々な用途で適用されるようになり、新しい製造形態を作り出しました。EOS社はこれを「e-Manufacturing(e-マニュファクチャリング)」と名づけています。
材料と装置
表1は、EOSINTを使用した直接的な製品製作を、「プラスチック部品の製作」と「金属部品の製作」に大別したものです。今回は、EOSINT Pを使用したプラスチック部品の製作事例をご紹介します。
表1 主な用途、材料、装置の組み合わせ
製品 | 材料 | 材料名 | 主な用途 | 機種名 |
---|---|---|---|---|
プラスチック | ナイロン ガラス入りナイロン アルミ入りナイロン |
PA2200P A3200GF Alumide |
意匠検討モデル スタイリング用モデル 機能試験用試作モデル エンドユーザー製品 |
EOSINT P385 EOSINT P700 |
金属 | ポリスチレン | PrimeCast100 | ロストワックス鋳造用消失モデル | |
ブロンズ系合金 鉄系合金 鉄系合金 |
DM20 DS20 DSH20 |
試作用射出成形金型 量産用射出成形金型 金属部品 |
EOSINT M250xtended EOSINT M270 |
|
シェル砂 | 鋳型(主型、中子) | EOSINT S750 |
EOSINT Pの進化
ハイエンドのレーザー焼結型RPであるEOSINTは、各機種それぞれハードウェア、ソフトウェア、材料、そして工程そのものもe-Manufacturingを前提として進化しています。特長的なものに、PシリーズとSシリーズに採用されているIntegrated Process Chain Management(IPCM:統合生産運営)システムがあげられます。これは、造型機本体への材料供給、非焼結パウダーの回収、リサイクル、造型機本体への再供給という一連のサイクルを自動化し、造形プロセスの省力化、効率化を図るとともに、作業環境を快適にする仕組みで、定常的な生産設備としての面も考慮されています。


プラスチック部品を直接造形できるEOSINT Pの主な特長は次の通りです。
- 耐久性に優れた部品が造形できる。
- 造形中は、チャンバー内の非焼結パウダーが支持材の役割を果たすためサポートが不要。
- レーザー焼結により、材料が十分融着しているため、造形直後から最終的強度に達している。
- 複雑形状を持つ部品を造形しても、造形部分以外は、未焼結パウダーのままであり、除去が比較的容易。
耐久性については、ABSに近い強度を持っており、既にエンドユーザー製品や機能試験用の試作モデルなどで使用されています。サポートについては、アンダーカット形状などを支持するために造形されるもので、多くのRPで必要としています。これが不要になることによって、3次元的にどのような複雑形状でも造形できること、造形可能空間において、3次元的に複数部品を任意の姿勢で立体的に配置、造形できること、そして同一部品か、別部品かを問わず1回の造形ジョブで多数の部品を造形することが可能になっています。大型機であるEOSINT P700は、700mm×380mm×580mmの造形容積、約1mの対角線長さを持っていますが、これは、大きなものを造形できるだけでなく、より多くの部品を一度に造形できることも意味します。EOSINT Pは、これらの特長によって、試作だけでなく、エンドユーザー製品を生産する設備としても評価され始めています。
EOSINT Pの事例
写真2は、遠心機のウォッシングロータという部品で、エンドユーザー製品として使用されているものです。金型を使用したプラスチック成形部品と金属部品合計32部品で構成されるものです。これをEOSINT Pを使用した生産方法にシフトすることで、性能面、コスト面、生産性までも大きく改善することに成功しています。新製品は写真3のように、チューブ取り付け方式も改良され、機能を向上しています。EOSINT Pによる造形部品が2つと金属リング1部品の合計3部品構成となり、圧倒的な部品点数の削減、それによるアセンブリ作業の省力化、金型レスによる工期短縮とコスト削減を実現しています。このようにRPを使った製品開発は、単に「工法を置き換える」というものではなく、設計の根本を変え、多面的に効果を発揮しうる新しい生産形態と言うことができます。

ウォッシングロータ(旧製品)

ウォッシングロータ(新製品)
写真4は、EOSINT Pを使用した公衆電話の受話器ホルダーの事例です。こちらはアルミ入りナイロン材料で造形したもので、金属的外観と十分な強度を持ち、製品として使用されています。生産にはP380が使用されています。340mm×340mm×620mmの造形容積をフルに活かし、図1のように製品を配置し、1回の造形で120部品を製作しています。金型を使用していないので、今後発生する設計変更に、容易に対応できることも、EOSINTを使用した生産形態における特長的なメリットといえます。



写真5は、自動車のセンターコンソールの試作品です。EOSINT P700の造形容積を最大限に活用し、1回の造形ジョブで、同じものを8個、約62時間で製作しています。造形後は、特別な補強や追加工も無く、取り付けまで行われています。他の事例でも同様ですが、製品データを使用して部品が直接造形できることも、製作プロセス省力化の効果としてあげられます。
次回は、EOSINTを使用した金属部品製作と新しい分野について、ご紹介させていただきます。