
名誉会長
黒田 彰一 様
黒田 彰一 様 プロフィール
大正13年 | 東京都生まれ |
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昭和21年9月 | 東京帝国大学(現東京大学)工学部 精密工学科 卒業 |
昭和18年1月 | 黒田精工株式会社 代表取締役社長 |
昭和60年6月 | 黒田精工株式会社 取締役会長 |
平成13年6月 | 黒田精工株式会社 名誉会長 |
現在 | NPOアジア金型産業フォーラム 理事長 |
公職団体経歴 | ・社団法人 日本金型工業会 会長 ・アジア金型工業会連合会(FADMA)会長、名誉会長 ・国際金型協会(ISTMA)会長 ・日本精密測定機器工業会 理事長 ・SME(Society of Manufacturing Engineers)東京支部長 |
顕彰 | 昭和62年4月 藍綬褒章受章 平成7年11月 勲四等瑞宝章受章 |

福武 映憲
福武 日本、アジア、さらには世界の金型産業のために日本を代表してご活躍されてきました黒田会長に、今回、アジア金型産業フォーラムを設立された目的や、アジアを中心とした金型産業の実態、その中で日本の金型企業さんが考えなければいけないこと、国やメーカーさんがやらなければいけないことなど、枠を超えてお伺いできればと思います。
世界の金型関連の団体
【国際金型協会】
黒田 私は、国際金型協会(ISTMA)の日本代表の理事として、32年間やってまいりました。もともと、ヨーロッパには、金型屋さんを中心とするインフォーマルな集まりがあり、情報の交換をしていました。そのうち、アメリカも加わったほうがいいのではないかということでアメリカに働きかけ、また日本にも顔を出したらどうだという話がありました。
当時、日本金型工業会の中に国際委員会がありまして、私が国際委員長をしておりました。金型の国際的な組織を作ろうと大きなミーティングがワシントンであり、参加いたしました。国際的には金型に対する認知がかなり高いと感じました。
そして、1972年に国際金型協会が設立され、日本も参加していかなければいけないということで、以来32年間、日本代表の理事として、昨年までの3年間は、会長として活動してまいりました。
【アジア金型工業会連合会】
黒田 そうするうちに、日本の後を追っていくという形でアジアNICs(新興工業国)が出てきて、アジアの発展のエンジンとなりました。そのような時代背景の中で、当時の通商産業省が「金型アジア貿易会議」をシンガポールで開催し、私が議長を勤めさせていただきました。そのときにはすでに、日本とアジア諸国との金型を通じた交流はかなりあり、アジアにおける金型工業会の連合会のようなものをぜひ作ってくれという話が出ましたので、促進委員会を作りまして、私が委員長をしました。ちょうど日本ではINTER MOLDが始まっておりましたので、そういう機会にアジア諸国の委員を招待しました。
中国では、国として金型が非常に重要だという認識がありまして、G to G (Government to Government)で、中国の政府から日本の政府に対して、金型技術者の育成についてどのようにすればいいか提案がほしいという要請がありました。そこで、私が団長となり、中国各地を回って、国としてまずナショナルセンターを作るべきだという提案を出しました。その結果、中国に金型工業会ができたのです。
アジア金型工業会の発足に向けては、台湾と中国がことごとにいがみあい、その調整に2年かかりました。結局、台湾という呼び方をやめて、Chinese Taipeiということで参加することになり、金型の工業会がある国、シンガポール、マレーシア、台湾、中国、日本で、1992年に「アジア金型工業会連合会(FADMA)」を結成し、発会式をシンガポールで行いました。
【国際金型協会へのアジアの加入】
黒田 その後、国際金型協会からアジアもぜひ加入すべきだという話がありましたが、入会するまでには紆余曲折がありました。アジア金型工業会連合会は、それぞれの国で、すでにかなり重要なポジションを占めておりました。国際金型協会の会員になる条件は、国としての入会です。しかし、アジア金型工業会連合会として団体加入をしたいという希望があり、その調整にまた2年ぐらいかかり、とうとう国際金型協会の定款を変えて、2001年に国際金型協会に団体加入しました。
国際金型協会は、ヨーロッパとアメリカとアジアの3つのリージョンに分かれて運営しています。国際金型協会の全体としての最大のイベントは、そのときの重要な問題を集まって議論するという会議で、20年間やってまいりました。
【規格の重要性】
黒田 アジアを回ってみますと、規格はJISが使われているのです。それにもかかわらず、日本の政府は規格に対する戦略的思考がなく、ISOができたら、JISをISOにするという方向に動いております。
金型についてのISOの規格も、国際金型協会が母体になって決めることになっていましたが、規格の制定というのは、技術の領域というよりは、国益や経済上の駆け引きの場です。
たとえば、プレス型に使うばねは、強度によって色分けをしています。イタリアは一番強いのを赤にしたい。ドイツは黄色だと。これには、技術的な要素が全くないですね。私は、そのような規格を、金型屋が集まって決めていいのか、国際金型協会は規格を扱うべきではないと提案し、アメリカも賛成いたしました。アメリカは、デファクトスタンダードの国ですから、規格化が嫌いです。それで、規格の制定を国際金型協会からはずしてもらったのです。
国際規格の制定は非常に属人的です。同じ人がずっと出ていることで、発言力が強くなります。日本のようにできたら従うということは、非常に大きな欠点です。現実には、JISが一番よく使われているのに、ISOになると自然に一種の文化的な囲い込みをされてしまいます。国際金型協会が規格に関与することをやめさせたのは、成功だったと思っています。
規格活動で非常にうまくやったのは、カメラですね。カメラの交換レンズのヘリコイドも、世界で販売するためには、日本が規格を決めておかなければならなりません。ずいぶん努力されて、国際商品になりました。すべてがそうでなければいけないですね。
また、欧米の金型関連企業も、発展するアジア地域に進出してきておりまして、標準部品、CAD/CAMをはじめとする各種の規格をデファクトスタンダードとすることを指向しています。日本が手をこまねいていれば、アジアはまさに欧米の関連企業の草刈場となるおそれがあります。
国際的な活動をしている業界、関連団体も含めて、日本の規格のデファクトスタンダード化をやらなければいけないと常々思っていたわけです。
NPOアジア金型産業フォーラム
【設立の背景】
黒田 アジアで各国では、ものの作れるフォアマン、日本で言えば、基盤技術・技能を持った職長のような人が一番求められていまして、日本からの教育者の受け入れに熱心です。
私は、かつて金型工業会にシルバーボランティア制度を設けてもらいました。海外から技術者の応援を頼まれると、登録している人の中から推薦をして、個人が契約をして行っていただく。NPOアジア金型産業フォーラムでもやったらいいと思います。このことでは、敵に塩を送ると受け止められる方もいて、金型工業会でもこれについてはかなり議論をしたことがあります。
また、FTAを強力に進めてほしいですね。金型に対する課税が非常に高いので、アジアの間のFTAができれば、日本国内で作って輸出もできます。
野村総研で分析をしていましたが、アジアのGDPが1上がると、その関係で日本のGDPが0.1上がる。アジアの国の成長がそのまま日本に入ってくる。事実今の日本の成長は、そういうパターンになっています。ですから、好む好まざるにかかわらず、日本はアジアの中で、自然な形でリーダーシップをとっていかなければいけないということを痛感しております。
物の仕組みを作るというのは、行政か市場原理かの2つです。でも、ヨーロッパはどうもそうではなく、歴史的にNPOが存在していて、コミュニティー意識があります。地域のコミュニティーもありますが、業界のコミュニティーもあります。
日本の場合は、いわば同業者の集まりです。帰属意識が強く、コミュニティーのような横の軸がないということが、日本のものづくり文化におけるひとつの欠点であるという意識がたえずありました。
【アジアの期待】
潜在的に、アジアの諸国は、中国を大変意識していて、中国にリーダーシップを取られるのはいやなのです。アジアは、利己的な要望だけではなく、中国の覇権主義でもなく、日本に頑張ってほしいと期待しています。アジアが伸びれば日本も伸びるということで、日本もしかるべき地位を占めるということを、業界人自ら広めていくべきだということを考えていました。
一方、東南アジア、中国、韓国によく行く人たちの間で、どうしてもNPOを立ち上げたいという非常に強い思いがありました。
昨年の12月まで、国際金型協会の会長をしておりましたから、各国の金型関係の人は良く知っておりますし、事情もわかっております。お役に立つ間はお役に立とう、あとは橋本先生がやっていただけると、自分で勝手に決めて、「NPOアジア金型産業フォーラム(ADMF)」の理事長をお引き受けした、というわけです。
【ADMFにおけるプロジェクト】
福武 ADMFのポイントになるプロジェクトについてもお話いただけますか。
黒田 定年後の熟練者の技術に新しいイノベーションを期待することは難しいですが、アジアの各国で講師として活躍する場があります。
むしろアジアが栄えれば日本もその繁栄でよくなるぐらいの気持ちでいてほしいです。
アジアにおける日本のリーダーシップの発揮と、日本の同業者との協業の機会を切望していますからね。
【金型関連用語・翻訳システムプロジェクト】
福武 産業フォーラムの中で面白いなと思ったのが、中小企業さんが海外と取引をされるときに、技術用語の翻訳するプログラムを立ち上げたいというのがありましたね。
黒田 日本は、言葉のハンディキャップが非常に大きいですね。日本の英語教育の欠陥ということもありますが、日本では知りたい情報は日本語になって手に入るので、真剣に外国語をマスターする動機に乏しいのです。
英語が話せないのは、むしろ、恥をかきたくないという心理の問題だと思います。日本は、沈黙が美徳ということもありますし、腕のいい技術者は、多弁でないと言われますからね。
私も始めは通訳を雇っていましたが、どうも言いたいことが伝わっていないということがわかりましたので、通訳なしで仕方なく話すうちに、何とか話せるようになりました。必要にせまられればできると思います。
私が、FADMAでやった仕事ですが、金型関連の用語集を、英語をキーにしてFADMAの加盟各国の言葉にしたCDを作成しました。
福武 アジアの8~9ヶ国語が入っているのですね。
黒田 FADMAが売らせてほしいというわけです。私は、将来、これにデータを入れてCADのデータベースにしようと思っています。だからこそ規格が非常に大事なのです。将来の基盤作りに役立つことであれば、NPOでやることはいろいろあると思います。
【金型作り人材交流プロジェクト】
黒田 隔月に未来塾を開催していきます。息切れをしないようにしないといけませんが、地道に積み上げていくことが大切だと思います。
福武 未来塾のレポートを見せていただきましたが、2ヶ月に1回開催されるとなると、準備も大変ですね。
黒田 皆さん「志を同じくする仲間」のボランティア活動によって成り立つ組織で、「集団の使命感」を基本として活動する法人です。
ですから、一人でも、また一社でも多くの企業が設立の趣旨に賛同して会員となっていただき、アジアの発展とともに日本の金型産業の展望を開くことができるようご協力をお願いしたいと思っています。
NPOアジア金型フォーラム(ADMF)http://www.npo-admf.org
【役員構成】 | 理事長:黒田 彰一(黒田精工名誉会長)、副理事長:橋本 久義(政策研究大学院教授)、 |
【事務所】 | 東京都文京区本郷4-12-16 TEL:090-4960-1496(井戸) |
【会費】 | 正会員(個人)5,000円、法人会員 20,000円 |
アジア・ヨーロッパの金型産業
【韓国の台頭】
黒田 アメリカではヒュンダイに人気があります。TOYOTAの車を徹底的に分解して咀嚼し、自分たちの設計能力を身につけています。立派なものを作っているので、将来は強敵だと聞きます。ビジネスウィークにも、日本の企業に打ち勝つ韓国の3企業としてヒュンダイ、サムスン、ポスコ(浦項製鉄)が紹介されていました。
彼らもある意味でのそれぞれのものづくりを文化として蓄積するところまできていますね。
技術は、一種の文化の中で積み重ねて良くするものです。イノベーションで次のステップに行く。技術移転ではなく、ものづくり文化の確立が大事なのです。そういう文化がアジアにも伝わってもらいたいですね。
【中国】
黒田 中国人は今、金型を作ると儲かるという利潤動機で動いています。
本質的に、日本人は職人であって、中国人は商人だと思います。将来、もっとほかに儲かるものがあれば転業するでしょう。
プラスチックは、温度と圧力、熱伝導をコントロールすれば一工程で決まりますので、比較的後進国のキャッチアップが早いですね。プレス型はより複雑ですから、中国で一番多いのはプラスチック型です。
日本人のCAD/CAMに対する取組み方では、アジア諸国に負けるのではないでしょうか?
福武 日本に追いつくために、最先端のCAD/CAMを手に入れています。最初からCAD/CAMを使うということでスタートします。また、中国ではソフトも海賊版を使いますね。WTOに加盟し、最近ではずいぶん改善されているようですが、ソフトのコストは安いし、人件費も安いので、とても勝てないとおっしゃいますね。
最初から3次元のCADをうまく使う。できないことを工夫してやらない。できる範囲のことをやる。徹底されているようですね。
黒田 私もそうですが、日本人は営々としてやることが性に合っています。日本のものづくりの文化です。心配することはないと思うのですが、日本がリーダーの立場であり続けるためには、今まで伝統的に積み上げてきた文化の素地がなくならないようにすればいいと思います。
【台湾】
黒田 台湾の金型屋さんは、日本のお客さんを敬遠するのです。アメリカのお客さんは、送られてきたデータでものを作れば、日本のようにやかましいことは言わないのです。日本は無料の修正を何回もさせるので、日本との取引はいやだと、台湾の業界は総じてそう言っています。
【日本と欧米の収益性】
黒田 2004年のスイスとドイツの金型業界の利益率が20%、日本は4%です。ドイツもいいものを作れない型屋さんは、30%ぐらい減りました。生き残っているクオリティーの高いところは、20%儲かる。日本では、きっちりやっていても儲けさせてくれないですね。
かつて国際金型協会の会議に出ていたとき、日本の台頭が著しいので、日本は彼らの関心の的でしたね。日本の金型屋はどういう機械を設備しているのか、5軸のマシニングは使っているのか。プレスの金型で言えば、最小さん幅、細かいピッチはどこまでできるのか。いろいろ技術的な質問をしてきましたね。それが経営指標の比較の話になって、当時、日本の金型製造業の経常利益率が2%だと聞いたら、さぁと散っていきましたね。
【日本はチームワークの文化】
黒田 韓国も他のアジアの国と同様ですが、チームワークができないですね。韓国の経営者と話をしていても、うまくいかないのはTQCだと言います。こうしたらいいということを自分の中だけにしまいこんで、自分の提案にしてしまいます。
マレーシアでも、ジョブホッピングがあり、技能・技術を習得させるのが難しいと言います。
日本はチームワークの文化を非常に大事にします。そういう文化が残っていれば、CAD/CAMをやる人と現場との交流関係など、自然とやれるのではないかと期待をしているのです。
金型は、Support Industry
【金型は、Supporting Industry】
黒田 金型工業会は、専業者だけという縛りがかかっています。私は、メーカーさんの金型部門、関連会社も含めた形にしたほうがいいと思います。
我々の金型というのは、Supporting Industryです。金型産業がない製造業はありませんし、需要は、発注する側に従います。アメリカの金型業界には、1社に受注を30%以上集中させないという暗黙のゴールデンルールがあります。これは親会社がこけると下までこけるからです。
顧客をどう選ぶかというのは、金型業界にとって、非常に大きな問題だと思います。
外国でも日本でも、Tier1、Tier2、Tier3、Tier4と言いますが、金型工業会の会員の相当数の顧客は、Tier3、Tier4です。大きなことが決まっていくのは、エンドユーザであり、Tier1です。その人たちの意見を聞いていないと、先のことがわからない、ということがあるような気がします。
【メーカーへ】
福武 中国での製品の質と日本の質が違うにもかかわらず、中国の価格を押し付けるのは、メーカーさんがきつすぎるのではないかと思いますが。
黒田 フェアーじゃないですね。納期に関しても、私どもは、超鋼のラミネーションダイをやっていますが、リードタイムは1ヵ月半です。ヨーロッパでは、早くて4ヶ月。その差は、どう評価するか。
付加価値の高い商品を作っているのに、コストだけで評価されると、日本は何もなくなってしまいます。
日本の関連企業は、大企業にとって、金の卵を産む鶏ですから大事にし、絞るところはもっと他にあると思いますね。
福武 絞るというのが、一番上が一言おっしゃると、次にしわ寄せが来て、下にくるほどしわ寄せが大きくなるので、一番下におられる金型屋さんが一番困っていらっしゃいます。
黒田 そういう話をしますと、何も値下げをしろとは言っていないのに、勝手に下げて持ってくるとメーカーさんは言うのです。全体の金型の相場がそれに引っ張られるので困るのですね。
福武 競争をして安く足を引っ張り合うのは、非常にもったいないと思いますね。はるかに中国よりいい金型を中国並みの値段で出すというのは、信じられないと思うのですが。
黒田 日本の金型の価格水準を公正に見てどうかと調査したことがあります。日本の業者だけで研究のために相見積もりをしてみましたら、ものすごくばらつきます。高い安いの根拠がないので、比較のしようがないのです。なしとりんごを比べてどっちが安いか高いかというようなことですから。本当の品質を評価する。制度としてやるなら、ブランドの認定などをやってもいいと思いますね。
これからの日本の金型産業
【ショップフロアーから知的創造へ】
黒田 国際金型協会でも、私は、見積りの仕方を変えたほうがいいと言っています。
今の見積りは、ショップフロアーでの時間に対して賃率をかけていますね。ところが、段々、CAD/CAMなど、頭脳作業が増えてきて、そちらに対する装備も投資もしなければいけない。メンテナンスもしなければいけない。それは、ショップフロアーの時間の中には出てこない。今、日本の金型工業会が問題としている知的財産権にもかかわってきますので、国際金型協会の場で見積りの仕方を変えようよと提案しました。たとえば設計料をいただくなどですね。
金型産業は、かつては低レベルの労働集約的な産業でしたので、賃金の安いところが強かった。ところが、だんだん技能集約的になってきて、CAD/CAMが必要になり、装置産業であり、知的創造を必要とする領域に入ってきています。しかし、商取引の実態が旧態依然としていて、それについていっていません。
【情報装備型】
黒田 金型はインフラと非常に結びついた産業だと思うのです。職場の中でローテーションをしても将来会社のためになるという、暗黙の了解のもとにやれたインフラがありました。しかし、移動の自由度が高まると、インフラが維持できなくなる。そういうときに、どうするのかということになれば、スキルから暗黙知でないものに移っていかなければなりません。積み上げのきくスキルから、CAD/CAM/CAEなどに移っていかなければならない。そうなると情報投資が必要です。
情報装備型のいい例がアメリカです。20年前のアメリカの金型の平均規模は12~13人でした。それはなぜかというと、家内企業が多いからです。それ以上多くなると、管理をするために人を雇わなければいけない。これがいやだということで、分割していった。それが今は、情報装備型になってきて、注文は全部デジタルデータということになると、それに対応できない会社には注文がこない。今は、平均規模が25人ぐらいになっています。
日本で一番苦しいのは、中堅ぐらいの規模ではないでしょうか。小さいところは身のこなし方がいろいろありますが、ある程度門戸をはると、屏風と同じで広げすぎると倒れるといいますから、必要な情報装備に対応できないと倒れてしまいます。
【相互の信頼】
黒田 今、国際金型協会で一番大事なのは、顧客との間のミューチュアルトラスト(Mutual Trust)だと言い出しています。相互の信頼ですね。それは、長期的な取引を前提にしなければ成り立たない話です。特に、リードタイムも極端に短くなる中で、設計工数が一番問題になって、やがては、デザイン・インということになっていかざるを得ないと思います。デザイン・インするためには、貴重なデータをシェアーするわけですから、コストだけで競争力があるのないのではなく、信頼関係がないと成り立たない話になります。コストとは何なのか、ブレイクダウンした工数がいくらかということを出さない、という慣習を作っていくことは、知的財産権との関連で、非常に大事なことだと思います。
当社は、公差を入れた図面は一切出しません。お客様と相当やりとりをして、そういうふうになりました。プレス型で言いますと、コーティングの種類やギャップなどは、ノウハウです。それをメンテナンスのために出せとよくと言われますが、出さないでいいお客様としか取引しないというようにしています。
【これからの経営の資源は】
黒田 経営の資源は、モノ、金、人と言いますが、私はあと2つ加えたほうがいいと言っています。それは、時間と情報です。これから勝負するのは、時間と情報でしょうね。時間はどこも共通に与えられますから、情報化を進め、できるだけ無人にして、いかに時間を有効に使うかですね。
【グローバルニッチ】
黒田 日本はニッチに行かざるを得ないですね。
福武 ニッチというのは、難しいということですね。日本でしかできないということですね。
黒田 私は社内でも言うのですが、グローバルニッチです。日本だけのニッチではなく、世界の中のニッチです。
アメリカで話をしていて気が付いたのですが、昔は、お客様との平均距離が10マイルでした。地場産業として金型があったので、営業の範囲は、金型企業の回り10マイルの範囲で十分でした。ところが、現在では、海外にまで範囲を広げた1000マイルになっています。
当社の場合も、お客様の距離の平均は、1000kmを越えます。逆に言えば、日本にお客様がなくなったのです。日本の親会社から発注があっても、送るのは中国などです。それで、中国に会社を作りました。そういうようなスタイルになってきていますね。
福武 日本の金型企業さんが、これからどう考えればいいのかというのは、グローバルニッチでしょうか。
黒田 そうです。グローバルニッチです。
福武 自分にしかできないことをやっていく。
黒田 自分にしかできないと思っていらしても、CAD/CAMでできる領域が結構あるのです。ですから、常に勉強をしていないといけませんから、世界に出て行って知見を新たにしておくというのも非常に大事です。もう少し外に目を向けてはどうですかね。
福武 そのことのお手伝いをしましょうというのが、NPOアジア金型産業フォーラムですね。

黒田 橋本先生が、籠に乗る人、担ぐ人、そのまたわらじを作る人がありますからと、おもしろいことをおっしゃいました。
みんな籠に乗る人になれないので、勉強をしなければ、わらじを作る人になってしまいます。
技能が技術に置き換えられると、さらに新しい技能が生まれてきます。本当に必要な技能は、日々進化するものです。最も重要な部分は、まだまだ優れた技能に頼るところが多いです。
日本の金型製造は、世界一の力を持っています。日本の、工夫する文化、常に良いものを作ろうとする文化、よく働く民族性、コツコツとやる文化など、金型づくりは、世界の中で最も日本人にあっている産業であると言えます。
【HZSへ】
福武 最後にHZSへのメッセージをいただけますでしょうか。
黒田 AOTS(海外技術者研修協会)から講師を頼まれて、何年かやっています。インドやパキスタンからも研修生が来ますが、彼らはITやCAD/CAMにはものすごく長けていますね。また、バングラディシュやベトナム、アフリカなどにも金型に関連したニーズがあるのですね。
開発途上の国は、技能ベースの金型作りではなく、CAD/CAMに基づいた金型作りをしていますので、CAD/CAMのニーズは随分ありますね。そういう意味からすると、御社も日本の金型産業と連携したCAD/CAMで、世界の規格になっていただくべきだと思います。
福武 本日は、大変貴重なお話をお伺いすることができ、どうもありがとうございました。
これからも、世界の金型産業のために、ますますのご活躍を祈念しております。