人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.50 | お客様事例
EOSINTを活用して製品試作の短期化を図る

株式会社マキタ様は、モーターの販売修理会社として産声をあげ、昭和33年に国産初の携帯用電気カンナを発売以来、50年に渡って電動工具メーカーとしての地歩を固め、現在は「人の暮らしと住まいづくりに役立つ工具の国際的総合サプライヤ-」を目指した製品づくりとサービスに取り組まれています。

今回は、家庭用からプロ用まで幅広い工具製品の試作においてEOSINT Pをご活用いただいているお話を中心に、開発技術本部 製品試作部 試作課 課長 鈴木和彦様、係長 犬塚哲夫様、主任 尾崎吉隆様、総務部 総務課 手塚智貴様にお伺いしました。

事業概要

当社は、プロ用の電動工具や林業で使われるチェーンソーから家庭で使う芝刈機や草刈機を含めた園芸用機器、その他では家庭から新幹線の車内清掃用として充電式のクリーナをはじめとした機器を製造、販売しています。

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総務部
総務課
手塚 智貴 様

牧田電機製作所という会社名で創業したのが1915年、もともとはモーターの修理・製造・販売を行っていました。名古屋で創業したのですが、第二次世界大戦中に工場疎開を兼ねて現在の本社がある安城市に移りました。1958年に国産初の電気カンナを発売、これがその後の事業の柱となる電動工具の第一号でした。翌年1959年の伊勢湾台風の被災からの復興もあって、電動工具の需要が高まりました。それを契機に電動工具専業のメーカーとして発展し、全国113ヶ所に営業所を構えています。

現在、国内でもっとも売れている製品はインパクトドライバというネジを締めたり、先端工具を付け替えて穴をあけることもできる電動工具で、売上全体の約20%を占めます。また、国内市場でのマーケットシェアは全体の約40%強です。

1935年からモーターをロシアに輸出するなど海外にもいち早く目を向け、1959年から電動工具の輸出を開始し、1970年には米国に現地法人を設立しました。以降、ヨーロッパ、オセアニアなどに現地法人を設立し、現在では連結売上高が3,426億円、海外子会社は44社、海外での売上が全体の85%を占めるまでになりました。

【製品試作部について】

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開発技術本部
製品試作部 試作課
課長 鈴木 和彦 様

製品試作部は開発技術本部に属し、試作機の製作に取り組んでいます。試作課では、部品の作製・モーターの作製・試作機の組立の担当があり、樹脂部品作製部署にて、昨年よりRP造形を開始しました。

また同じ試作課の中で、Space-Eを簡易金型の設計に利用しています。ここで設計を行い、加工から成形まで行っています。最初はGRADEからスタートし、3次元パラメトリックソリッドモデラーであるGRADE/Solidを導入したのも当社が初めてだと聞いています。現在はSpace-Eが4台稼働しています。

EOSINT P導入の経緯

【試作の納期短縮とコスト削減】

EOSINT P導入以前は樹脂部品を真空注型と射出成形にて作製していましたが、設計部門からは、開発期間短縮を目標に試作部品の早期作製の要望が強くなってきました。さらに、試作数が近年増加傾向にあり外注への依存が高まることで、コスト増となる課題が生じてきました。

また、試作課において数年後には退職する社員が数名おり、熟練工が姿を消すのは大きな痛手で「職人に頼らない部品製作」を思案していました。以前から、外注の方や展示会などで真空注型に代わる技術としてナイロン造形については聞いていましたが、設備が高価な点から導入に足踏みしていた状況でした。しかし、年々、造形機の価格が下がってきたこともあり、これらの課題を解消すべく導入検討に至りました。

【EOSINTについて】

挿絵
EOSINT P385が稼動するRP造形室

EOSINTを知ったきっかけは、外注に造形をお願いしていたことからです。他社と比較してみて、決め手となったのはその信頼性でした。日本製、米国製もありましたが、将来性を考えると、EOS社が一番いいと判断しました。多量の部品作製を、早く少ない人数で行えるかという点を主な検討項目に挙げ、真空注型との作業工程・コストの比較、造形作業、材料リサイクル率など考慮した結果、2007年3月にEOSINT P385を導入しました。

EOSINT Pの活用

【期待通りの処理能力】

製品の写真製品の写真
EOSINTで造形したハウジングと試作機

試作課では、設計からの依頼に対して早期作製することが重要です。「今日依頼を受けて明日が納期」という仕事をいかに数多くこなせるかにかかっています。その点、EOSINT Pは、真空注型と比べて頭出しが早いという利点がありました。また一度の造形で100点以上の部品が作製でき、稼動中のマシンを一旦止めて、さらに別の依頼品の作製を追加で組み込めることも大きな利点になっています。導入からの1年間で計画通りの数量を造形することが可能になり、また、少人化にも対応でき、満足のいく結果を出しています。

【後処理の時間を短縮するために】

造形はうまく軌道にのせることができたのですが、造形物を仕上げて依頼部署に渡すまでの期間が短縮できないという問題がありました。

一度の造形で100点以上の部品が造形できても、その取り出しからブラスター処理に至るまでの後処理に時間がかかり、付属のブラシやツールでの対応ではとても追いつきません。そこで、仕上げの作業時間を短縮するために、当社の集じん機や社内で使用していた機器・部品も活用してさまざまな改造を行いました。

【シーブステーションのカスタマイズ】

製品の写真
増圧用ブースター

そのひとつとして、ブラシで粉を落とすのではなく、エアで飛ばそうと考えました。普通、工場のエアは5~6気圧なのですが、それでは細かい部分まで飛ばないので、増圧用のブースターで、10気圧に増圧して後処理を行っています。ブラシで仕上げをしていた時には、1バッチの処理に2日ほどかかっていましたが、エアの処理により半日で仕上がるようになり、1/4に短縮できました。

製品の写真
シーブステーション
製品の写真
加圧エアーで粉を除去する様子

しかし、エア処理を行うと粉の飛散が起きます。そこでシーブステーションの作業スペース横の吸排気口より、造形物から取り除いた粉を大型の集塵機で吸引し、装置の外に飛散されることを防いでいます。一般的な方法であるブラシで粉を除去する場合には問題ありませんが、エアで飛ばすと、標準で取付いているラバーだけではフロント部からの粉洩れは抑えられないので、改造してアクリル板を取り付けました。

【作業効率を上げるための工夫】

製品の写真
材料供給装置とオリジナルの周辺機器

その他にも、作業者の負担を軽減できるよういろいろ工夫し、作業効率を上げています。

まず、材料供給装置の周辺機器を自分達で製作しました。通常は、人がリサイクル材料を材料供給装置のタンクに投入すると、粉が飛散し手間もかかります。

そこで、当社製集じん機にて吸引し、粉とエアを分離させるサイクロン装置を活用し、材料供給装置のタンクに材料供給を行っています。

製品の写真
EOSINT Pで作製した逆流防止弁

リサイクル材料を吸引する際、材料が逆流しないような弁があればよいと考え、逆流防止弁を社内で設計してEOSINT Pで造形し、材料タンク内に組み込んで使用しています。

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自社製の材料供給容器の補助器具を取り付けたリフティングトラック

また、本機内の材料供給容器は高い位置にあり不安定なため、補助器具を製作してリフティングトラックにセットし、EOSINT Pから材料供給容器を抜き差しする時に活用しています。

現在のしくみが出来上がるまで、あまり時間はかかりませんでした。試作課には試行錯誤して問題に取組む風土があり、こんなものを作ってみようと思いたって形にすることが普通なのかもしれません。

我々の工夫などは、他社でも参考にしていただければと思います。これをきっかけに、他社との交流が実現すればいいとも考えています。

材料について

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開発技術本部
製品試作部 試作課
係長 犬塚 哲夫 様

さまざまな条件で試作を行い、最適パラメータを探すのは大変な作業です。試作ですから、形になればいいというわけではありません。樹脂の部品は一般的にカバーなど外装用として多く使われますが、電動工具ではベアリングなどを直接受ける構造であり、精度と強度の両方が必要です。基本的には試作機で評価試験を行うため、振動や衝撃などにも耐えられる性能が求められます。

そのためにも、力を加えても変形しにくい、いわゆるヤング率が高い材料が望まれますが、まだまだRP造形は要望を満たすところまで至っていません。RPの方が短納期なのですが、強度が必要なものは注型品で作製してほしいという設計者からのリクエストが強いというのが現状です。その依頼をRP造形に置き換えたいというのが、導入当初からの課題ですので、ぜひ、この課題を実現できる新しい材料を開発してほしいと思います。ガラス入りの材料についてはまだ評価している段階です。強度は高いのですが、リサイクル率が悪くなるので、現在利用しているPA2200(ナイロン12のみの材料)とは全面的に入れ替えられない状況です。しかしながら、設計者要望に応えるためにもPA3200GF(ガラス入り材料)の活用を増やしていきたいと考えています。

価格については、もっと安価になることを期待しています。

今後について

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開発技術本部
製品試作部 試作課
主任 尾崎 吉隆 様

昨年度はおおむね予定していた数量の造形ができ、目標はクリアできたと思うのですが、現在は導入以前とは状況が変わり、昨年の倍を越える依頼数があり、EOSINT Pでの造形能力を増やす必要があります。

波があって一時的に依頼が多いのかもしれませんが、継続的に能力アップの検討を行っていく必要があります。また、静電気対策や、ナイロン廃材を使っての評価用治具製作にも取り組んでいきたいと考えています。

NDESについて

メールでのやりとりでいろいろ教えていただいて助かっているのですが、名古屋地区にも技術スタッフの方が常駐し、フレキシブルな対応ができることを希望します。当社は24時間休日も休まずEOSINTを稼動していますので、定期的なメンテナンスの時間も短縮できればいいと思います。また、将来的に利用できそうなものについては何でもトライしていきたいと考えています。ぜひタイムリーな情報提供をお願いします。

おわりに

日々「こんなツールがあったら業務の時間短縮につながるのにな」というアイデアをご自分達の力で形にして活用されているお話をお伺いし、歴史ある企業を支える確かな技術力に感銘を受けました。

大変お忙しいところ、貴重な時間をさいてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

会社プロフィール

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本社

株式会社マキタ

本社 〒446-8502 愛知県安城市住吉町3丁目11番8号
創業 大正4年3月21日
設立 昭和13年12月10日
資本金 242億561万円(2008年3月31日現在)
売上高 3,425億7,700万円(2008年3月期)
従業員 連結10,436名 単独2,941名(2008年3月31日現在)
事業内容 電動工具、エア工具、園芸用機器、家庭用機器などの製造・販売
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充電式
インパクト
ドライバ
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高圧エア釘打
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集じん機
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エンジン刈払機