人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.51 | 社長インタビュー
お客様に「安心」と「驚き」を ―日々、"挑戦"―
人物の写真 フルタニ株式会社
代表取締役社長
古谷 幸一 様
人物の写真
NDES
代表取締役社長
渡辺 雅治

渡辺 御社は今年の3月で創業85周年になられますね。今までにいろいろな歴史がおありになると思います。岩国に成形工場も新設されており、古谷社長の思いや業界についてのお話をお伺いしたいと思います。

創業85年の歩み

古谷 大正12年(1923年)に祖父が創業した会社で、私は3代目です。創業当時は、金型というよりも町の鍛冶屋から興し、旋盤や機械加工を付け加えながら、その時代の流れに即した仕事をしていくうちに金型にたどり着いたと思います。戦前から、荷車のタイヤの金型、野球・サッカ・バレーのボール、靴のゴム底などを手がけながら、戦後の昭和26~27年頃に、MAZDAの前身の東洋工業に入って本格的に自動車の金型を始めました。今、MAZDAの一次として立派な会社がありますが、そういうところと肩を並べて仕事をしていたようです。

渡辺 戦後60年ですから、本当に長い歴史のある会社ですね。

古谷 長く続けられるということは、当然、取引先と社員に恵まれたということがあります。取引先が倒れてしまえば一緒に倒れてしまうので、取引先が成長されて大きな企業になられている。それに引っ張られる形でついてきてよかったと思います。

私が見ているのは30年ほどですが、現在、工業用・車輛用・一般用各種金型の設計製造において着実な実績を積み上げ、長年にわたって蓄積された技術力・開発力は、次の時代への飛躍を可能にしてくれました。

バスケットの経験がベース

古谷 私は学生時代ずっとバスケットをやっていました。大学のときにある高校からバスケットを教えに来てくれと言われて、バスケット部のコーチをしていました。あるとき校長先生から、「この高校の教師にならないか、そしてバスケット部をインターハイに行けるように強くしてくれ。」と言われました。父親に話したら、「認めてくれる人が一人でもおるのなら、そこに行きなさい。」と承知してくれ、29歳まで教師をしていました。その間インターハイにも出場して、校長先生と約束したとおり強いチームになりました。

バスケットを教えていたときのことは自分の心の中にずっとあり、それが生き様になっているのかもしれません。体育会系でずっと過ごしてきた経験が、自分にとっては非常によかったと思っています。

渡辺 教師というよりは、チームをいかに強くしていくかという指導、マネージメントをしてこられたということですね。

古谷 今はそれを会社に置き換えて実践しているところですね。

強いチームでは、高校3年間で教えるレベルも全然違います。同じ走るにしても走り方から要求されるわけです。普通の学校では「頑張って走れよ」くらいですが、一流へ行くと、腕の振り方が違うとか、足の運びが違うとか、こと細かく教えてくれますから、ただの3年の差ではなく、5年10年の差がついてしまいます。たったひとつの動作でも、要求されることが全然違いますし、生徒の意識やモチベーションも違います。

ひとつ上のステージへ上げてやる努力をするのが、監督・コーチ・社長の役割でしょうね。でもその上のステージを知らないし、上げ方もわからない。そういう意味で、零細企業が大企業になれないという理由があるのだと思います。

人材の育成

渡辺 人材教育についての古谷社長のポリシー、あるいはやり方はどうなのでしょうか。

古谷 我々の社員はすごく幅があり、優秀な人もいれば、そうでない人もいます。レベルを上げるのに時間がかかります。じゃあその努力を諦めるかというと、諦められないのです。いい人はなかなか採れないですから、社員のレベルをどのようにして上げるかです。私は、やればできるという自信をつけるために、怒るよりは褒める方がいいと思います。よく3つ褒めて7つ怒ると言いますが、我々のところは8つ褒めて2つ怒るぐらいにして、時間をかけて徐々にレベルを上げていくようにしています。

私がコーチをしていたときに、ある先生から言われたのは、「365日、365回同じことを言え。それができれば、あなたもあなたの生徒も上がる。諦めたときがお互いのおしまい。」と。「でも、365日で終わらないかもしれません。」と言うと、「それはそのとき。できるまで言いなさい。とにかくあなたが諦めたら終わってしまう。」と言われました。指導者が諦めた段階で生徒の成長は止まる。現状の人間のレベルを1つでも2つでも上げるという努力をしていきながら、外部から新しい良い血を持ってくる努力もしなければならないのです。

弱いときはお願いしても誰も来てくれませんでしたが、インターハイに行くようになると、こちらがお願いをしなくても全国から情報が入ってくるようになりました。ここまで来るのに何年かかるかです。企業は学校のときのように5~6年ではできないですね。

新工場の立ち上げ

渡辺 山口県岩国に成形工場を新設されましたね。まさしく今は大変な時期ですね。

古谷 そうですね。でも、私がしなくてもいいことは全部社員がやりますから、私はあまりすることはありません。業界が元気のない時期にという話もあるのですが、取引先から「やる気があるなら」というアドバイスをいただいて、その指導をもとに運んでいますので、我々企業のレベルでは非常にありがたいことです。

渡辺 決定するためには条件としていろいろなパラメータがあるということですね。

業界の動向

渡辺 車などは前年比を見ると販売数が減少していますが、そういう影響は何かございますか。

古谷 減ってもゼロにはならない、というのがひとつですね。半導体関係ならゼロになる可能性がありますが、自動車は年間で1,200~1,300万台作りますから、1~2割減っても1,000万台前後ですね。まだ需要としては決してゼロにはならないということです。

もうひとつは、エネルギー転換の時期にきていると思います。過渡期なので全体的にいろいろなものが落ち込みますね。バトンタッチをする時期ですから、高スピードでバトンタッチができるわけがないので仕方がない。バトンを受けたら今度はハイブリッドであるとか、いろいろな省エネのものがどんどん動いていくので、新しい需要が動き出せば元に戻ると思います。

先日も九州で話をしたのですが、トヨタさんが25%減産されますよね。部品メーカーさん何社かにお伺いすると3割ダウンを打ち出しています。でも、去年の段階から3割ダウンですから、4~5年前と比べるとレベルは高いのです。10の3割だから大きいよと言われればそうかもしれませんが、過去何年間から見れば、上がってきた中での3割ですから、ここだけとらえて騒ぐことが間違っているのだと思います。

渡辺 その3割に対する対応をどうするかということを考えればいいわけですね。

古谷 打つ手があるのか、仕方がないと思って受け入れざるを得ないのか、そこが勝負だと思います。

前年を100とすると、設備を100とか110持っているかというと、そうではないですね。15~20%は必ず下で、残業や休日出勤で追い込んで100にしているわけですから、3割下がっても実際には1割くらいにしかならないかもしれません。

一概に3割下がったから3割売上げが落ちるかというとそんなことはなくて、3割下がっても平気な顔をしている会社はいくらでもあると思います。もちろん、どこかに負担はいくので、痛い目にあうところは出てきますが、全体がそうではありません。

渡辺 リスク管理がある程度しっかりしていると、ある程度体力があるということですね。

古谷 過去に儲けた数字があるわけですから、それをどのようにして蓄積しているかだと思います。

本業の金型に関して言えば、新車種が出てこないと、金型としての仕事は出てきません。今はまだ仕事はありますが、次のモデルが出ないということになれば、金型は相当冷え込むと思います。これから開発しないという方向にメーカーさんが動いていますから、それがはっきりすると、金型は限りなくゼロに近づきますね。それが怖いですね。

でも、一方では次のモデルチェンジの試作の金型が動いています。そうなると発売は全世界ですから、ひとつ金型が決まると全世界で8~10型必要です。そういう動きもあります。メーカーのトップでは決まっているのでしょうが、我々のレベルで知っている情報では、どれが止まってどれが動くのか、まだはっきりしないですね。

3割下がるという話もありますが、これとは別に増産という話があって、今まで暇になりそうだと言っていたのに、今度は部品が間に合わなくなる。わからないですね。非常に読みにくいです。だから読もうとしないのです。どちらにしても、我々のレベルでは波にもまれるだけもまれるわけですから、沈まないようにするだけの話で、もまれるのは仕方がないですね。大波が来ないように隠れるすべをどうやって探すかということです。それをうまく探せれば生き残れます。

渡辺 読むというより、波は来るものという考えですね。

古谷 波がないのが不思議だということです。一昨年から社員には、「ずっと忙しいからこんなことは今までにないよ、何が原因かわからないけど必ず不景気になるよ。なったときには慌てないようにしよう。」と言っています。今年になったらすーっと引いてきましたからね。必ず波は来ますね。

製品の写真
エアホース(ゴム製品)
製品の写真
カップホルダーASSY(樹脂製品)

常に変わり続ける

渡辺 常に安定するということはありませんからね。

古谷 安定すると何も考えなくなると思います。よくピンチはチャンスと言いますが、尻に火がつくくらいにならないと本当に動けないと思います。

心の中でいろいろシミュレーションしておくのは、ゴルフと一緒ですね。ティーグラウンドに立ったときには、いいシミュレーションをしていますが、かまえた瞬間に緊張してしまってどこへ行くかわかりません。シミュレーションはいいことばかりではなく、右へ行ったら、左へ行ったら、OBだったらどうする、ということではないでしょうか。ど真ん中に打つ準備は常にしなければいけない。でも必ずまっすぐ行くとは限りません。自分は完璧なスウィングをしたけれども、風が吹いて林の中へ行く可能性もありますからね。そのときに動じないように準備できているかどうかだと思います。

基本動作、基本的なスタンスは何でも一緒で、きちっとしておかなきゃいけない。だけどそれができているから結果がいいかというと、これはわからない。自分では不可抗力な部分がありますよね。そういうときにどうするかだと思います。それも考えておかなければいけないと思います。

渡辺 予見する、読むというのは結果を予想するということですね。色々なパターンがありますから、悪い場合もいい場合も考えていないと、今どうすべきかが判断できないですね。

古谷 想定外のことが起きたときこそ、深呼吸して泰然自若としているように見せたいですね。周りには、意外と平然としているなと見せないと、自分の後についてくる人間はもっと不安になりますからね。そういうときに逆に後ろを向いて、振り返ってにこっと笑って、駄洒落でもひとこと言って、前を向いてから深刻な顔をするようにしたいと思います。

これもバスットから学んだことですね。形勢が悪くなったときに選手はベンチを見るのです。ベンチの監督やコーチがおろおろしていると負けるのです。平然として、大丈夫、大丈夫、まだ時間はある、自信を持てと言うと、動き出すのです。言葉なんかはいりません。動作と目を見れば、全部予見されてしまうのです。ベンチの前に立って堂々としておくと、たとえ負けても、選手は自信があったんですかと聞くので、あったよと答えると、次の試合は勝つのです。

渡辺 精神的なものが結果にかなり影響するということですね。

古谷 その裏には血の滲むような練習をしておかないと駄目ですね。高校時代クラブに入ったこと、教師として教えていたこと、いろいろな経験をしたことが自分としては良かったなと思います。ただ、昔はお金の計算をしなくてもよかった。これは大きいですね。

お客様に「安心」と「驚き」を

渡辺 たとえば技術でも材料でも、こういう点で検討をしておきなさい、というようなことを経営者としては言わなければならないと感じますか。それとも自分たちで世の中の情報を集めさせるのでしょうか。

古谷 情報はお互い共有し合うようにしています。私は私で情報を集めますし、社員は社員で情報を集め、新しい情報があると集って話をして、社員が知らないと言えば、こういうところが資料を出しているからとそれを渡して調べさせる。結果どうだったかを聞いて、それが面白そうだったらやってみようということになります。すべてそういうスタイルですね。

私は、判断というのは現場の人間がすればいいと思います。私は最終的に決断をするだけです。判断は社員に任せて、いい材料、悪い材料を持ってこさせて、最後どうしますかと言われたときに、決断をする。

私のレベルで集められる情報と、社員のレベルで集められる情報には差がありますし、私が現場で実践をするわけではないので、それはすり合わせをしていかないとまずいと思います。ただ、勉強という意味ではずっとしなければならないと思います。

常に世の中は変わっていきますから、我々が変わらないということはありえないですね。周りが変わっていくから変わらざるを得ない場合もありますし、お客様から要求されて変わらなければならないこともありますし、自らが変わっていってその新鮮さをお客様にアピールするということもありますね。

私は社員に、お客様にご提供するのは「安心」と「驚き」だと言っています。フルタニに仕事を出せば、品質もコストも納期も全部守って返ってくる。これが安心です。それに+αが驚きです。お客様に、実はこういうことができます、ということを付け加えてお返しすると、そんなことできるの、そんなものがあるのかという驚きがあると、まずお客様は離れない。安心だけではいけない。安心と、その先にある驚きですね。それが我々が提供するものです。現実にはまだまだ出来ていません。

渡辺 驚きというのは、お客様から見て新鮮なものという意味ですね。

古谷 仏教に諸行無常という言葉がありますね。どんなことでも常なるものはない。安定志向というのは逆に不安定だと思うのです。安定していると見ていること自体が退化していることだと思います。

85年という年月を積み重ねてこられたのは、時代時代に即応して変わってきたからだと思います。日本のトップメーカですら変わってきていますから我々が変わらなくて生きていけるわけがありません。そういう思いはいつも社員に話しています。変化を嫌がる人もいますが、それは逆に退化してしまう。変化することを楽しまないと驚きは与えられないと思います。

機械も回転数が500~600から今や10万以上です。それに合わせて機械を使う人間も変わって、勉強しないとついていけません。機械だけがよくても宝の持ち腐れになります。納期や品質やコストを満足するためには、一歩でも先の機械を使うということが必要ですし、今よりは先に何があるかということも勉強しておかないと、今勝っているかもしれませんが、その次のステージでは負ける可能性もあります。常に勉強しながら進んでいかないといけないと思います。

渡辺 私も最近はQCDとPDCAを盛んに社員に話しています。でも、驚きの部分は話していなかったですね。Qは良いもの。Dはこんなに早くできるのという驚き。満足度でいえば高精度な品質ですね。

古谷 お客様への安心は、十分ではなく十二分、十分なら100%ですが、十二分は120%です。十二分な安心と驚き、これは難しいから頭を使おうと話しています。過去のように長時間一生懸命頑張ったからできるという時代ではありません。こつこつやるというスタイルはもちろん大事ですが、それがすべてではない。どこかでひらめくようなことが必要です。普段考えていないとひらめきはありませんから、十二分な安心と驚きは出てきません。

渡辺 私もまったく同感です。ノーベル賞を受賞した人たちは四六時中考えていますからね。

古谷 歩いていてぽっと浮かぶのが直感です。直感は説明できないのです。でもひらめきは説明できるのです。説明できるということは今社長がおっしゃったようにずっと考えているからなのです。その過程がわかっているのですね。結果は右と左で、右しか出てこなかったのが、ある日突然左が出てきて、おおこれだ!とひらめきになるのです。

トップは常に変化を求めなくてはいけない。現状不満足でないと、人間としても企業としても向上しない。そういう思いがなくなったら私は辞めるときだと思います。どこかに行ってゆっくりしたいと思い始めたらもう終わりかなと思います。

渡辺 社長としてのミッション・役割は現場の人とは違いますが、やり方や考え方は一緒ということですね。

古谷 そうですね。目先の業務が違うだけで、精神的なものは一緒だと思います。道理のようなものなので、変わることはないと思います。役員・部長・課長などのポジションによって変わるものもあると思いますし、仕事の中身によっても変わるものはあると思いますが、基本的な部分は変わらないと思います。

3つの夢の実現に向けて

古谷 山口の岩国工場で樹脂の成形を始めますので、やっとひとつの夢が叶い、金型から成形まで一貫の生産体制が組めるようになりました。

二つ目は自社製品を作ること。

三つ目は海外と取引を積極的に行っていくこと。

そのために変えていきたいですし、光造形の機械など、どの時期にどのような設備を導入していくかというシミュレーションも考えています。

現状の金型をどう広げていくのか、成形をどう広げていくのか、いつまでに自社製品を作るのかということも考えています。

すべてはこれからです。次の世代へつなげたいと思います。

挿絵
Mold Furutani (Thailand) Co., Ltd.

渡辺 親の背中を見ていますから、8割9割は大丈夫じゃないでしょうかね。

古谷 我々の企業レベルでは後継ぎは息子でないといけないという考えは特に持っていません。でも継げるものなら継がせてやりたい。ただし私と同じことをやったのでは社員に対するアピールが何もありませんから、違う分野で違うことを勉強して帰ってこいと言ってあります。同じことをしていては変わらないですし、社員にも変わってほしいと思っていますので。

NDESに期待するところ

渡辺 最後に弊社への期待などお話いただけますか。

古谷 我々はどうしても情報が業界に偏ってしまいます。NDESは、いろいろな業界に販売しておられますから、そういうところの情報を聞きたいですね。航空部品業界の話などは全然わかりませんし、他の会社がどんな風にしているのか、他の地域がどういう状況なのか教えてもらえればありがたいですね。

我々も今5軸のCAMに取組んでおり、担当者と話をしていたら、「同じ仕事を受けて5軸なら前回の半分の時間でできた。まだ5軸の機械に慣れていないから、さらにもう半分縮めることができる。」と。そうすると1/4です。あとは慣れることで、より一段と難しい仕事にもチャレンジできます。今まで難しいから20日かかっていたものが、この機械とCAMを使えば10日でできるなら、新規受注にもつなげられます。そうすると自動車業界に限らず、違う業界にいける可能性があります。この業界は、こういうことで忙しそうだというような情報や、他の業界の企業をNDESに紹介してもらえれば非常にありがたいですね。それで新しい仕事が始まればお互いwin-winの関係になりますね。

あとはNDESが現状どういう活動をされているかをもっとわかりやすく提供してもらえればと思います。CAD/CAMの開発がどういう方向に向かっているのか、何年か先にどういうことをやろうとしているのか、このようなことを教えていただいていれば、我々が新しいことを考えているときに結びつくところが出てくると思います。それがお互いのビジネスチャンスにつながれば非常にありがたいです。

渡辺 商品の戦略、ロードマップということですね。営業と開発とでいろいろ取組ませていますが、今お話いただいた点も、今後、取組んでいこうと考えています。常に変化を求められる御社のお役に立つソリューションや情報をご提供できるように努めてまいります。

本日は、お忙しいところをどうもありがとうございました。

会社プロフィール

会社の写真

株式会社フルタニ

創業 大正12年3月
資本金 1,000万円
従業員数 33名
事業概要 プラスチック金型
ゴム金型
その他各種金型
プラスチック成形