人とシステム

季刊誌
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No.56 | 社長インタビュー
金型加工技術を極める
―秋篠金型研究所の役割―
人物の写真 株式会社 秋篠金型研究所
ゼネラルマネージャー
合田 愼吾 様
人物の写真
NDES
代表取締役社長
渡辺 雅治

渡辺 秋篠金型研究所様には、設立以来、弊社のシステムをお使いいただいておりまして、ありがとうございます。
秋篠金型研究所を立ち上げてこられた合田様に秋篠金型研究所の役割や今後の思いなどについてお話をお伺いしたいと思います。

秋篠金型研究所 設立の経緯

渡辺 ここは、森精機製作所発祥の地だそうですね。

合田 そうです。森精機製作所の初代本社ビルと聞いています。秋篠金型研究所は2006年7月13日に設立され、翌2007年5月25日に開所式を行い、営業を開始しました。

渡辺 工作機械メーカとして金型研究所を設立されたのは、どのような思いからでしょうか。

合田 十数年前は、金型業界で森精機という名前はあまり知られていませんでした。森精機としても金型業界でシェアを伸ばしたい。そのために何をしたらいいのか、ということを社長の森がずっと考えていたようです。

金型のお客様のご要望でテスト加工は十数年行ってきていますが、金型部品のすべてを削るわけではなく、一番加工の難しい部分だけを切り取ったようなサンプルをマシニングで削ります。お客様に、面粗度、仕上がり、加工時間を評価いただき、納得していただくと森精機の機械を購入していただけます。

しかし、本当の金型部品は実際はもっと大きいですし、金型に部品を組み込んできちんと機能するかという評価まではできません。金型部品というと、我々がやっている樹脂であればキャビとコア、プレスであればパンチとダイのように製品部を形成する部品だけではなく、他にもたくさん部品があります。金型部品の加工というのは一体何があるのかということを追求し、その上で金型部品加工用の機械はこうあるべきだということが突き詰められるのではないでしょうか。

これを実現するために金型の製造販売の会社を作りたいという思いから、秋篠金型研究所がスタートしました。

秋篠金型研究所の役割

渡辺 会社名を研究所と命名されていますね。これには何か意図があるのでしょうか。

合田 「金型加工技術を極める」ということです。
お客様のラボラトリーとして、お客様のサポートセンターとして、お客様のサプライヤーとして、お客様のショールームとして、これらの頭文字をとった「L+3S」をコンセプトに、トータルな視野から金型メーカであるお客様をバックアップし、そこで得たノウハウを工作機械開発へとフィードバックしていきます。

【Laboratory お客様のラボラトリーとして】

産学協同の取組みをはじめ、ソフト・ハード両面から金型に関する研究を行い、機械開発やお客様の加工技術に還元します。

【Support center お客様のサポートセンターとして】

設計・加工技術に関するご相談や情報提供、設備機械の検証やアドバイスなど。お客様の金型づくりに関するあらゆる課題を解決していきます。

【Supplier お客様のサプライヤーとして】

設計、加工、仕上げ、メンテナンス。あらゆる工程における実製作を通してお客様の金型生産をサポートいたします。

【Showroom お客様のショールームとして】

工作機械やCAD・CAM、工具や加工サンプル、最新設備を常設する「金型ラボ+ファクトリー」を、いつでも見学いただけます。

ショールームの写真
実践型ショールーム
設計室の写真
設計室
展示コーナーの写真
工具・ホルダー等の展示コーナー

お客様に儲けていただく

合田 金型事業の営業活動でお客様を訪問すると森精機の機械を保有されていない金型メーカ様にも訪問できます。そこで金型の仕事で評価をしていただき、信頼関係を作りあげて、お客様が機械を購入されるときに森精機の機械をご購入いただけたら、我々の使命を達成できたことになります。先は長いです。今は種をまいて少し芽が出たかなというところです。

渡辺 取引先の金型メーカ様は増えているのですか。

合田 リピートオーダーをいただいているお客様もあります。受けた仕事は、絶対納期は遅らせません。良い品質のものしか納品しません。お客様からはきっちり仕事をするという印象を持っていただいています。

渡辺 納期と品質の良さ以外にも売りの部分があると思いますが。

合田 いろいろなお客様のところに行きますから、どんな業種のお客様にあたるかはわかりませんので、部品加工であれば何でもお受けします。金型一式となると設計から全部できるのは樹脂金型に限定されますが、部品加工はプレスでも鍛造でも何でもお受けします。これとは限定していませんが、結果的に受注したものは車関係が多いですね。

CADイメージ
金型の写真

基本は、お客様に儲けていただくという提案です。自分のところが儲けることばかり考えているとまず仕事はこないと思います。
金型が3面必要なものを2面に減らす提案をすると、これはお客様が絶対に儲かります。

放電を使わないと加工できないような細い深いリブの溝を、マシニングセンタだけで加工してみる。お客様は、納期短縮やコスト削減のために、何か違う加工方法がないか、もっと違う方法で加工できないかと、見積りを依頼されます。ただ単に図面をベースに納期とコストの競争だけであればここで受ける必要はありません。

研究所なので新しい技術にチャレンジはしなければならないのですが、本番の金型を受注している以上、納期がありますから、納期を守るために合理的な加工をするという判断もしなければなりません。

補強リブの底のコーナRに0.1Rと指示が書いてあるので、角を取るために放電加工をしなければならない。でも、補強リブですから1Rでも問題はなく、そうすると太い工具を使えるので早くできます。どんな加工をするかという判断をしながら、お客様に対して合理的な加工方法を提案する、というのも我々のやるべきことです。

また、言いにくいことでも、金型側からセットメーカにこういう図面を描いた方がいいという提案をしないと良い製品はできません。中には金型加工を全然理解されていないような図面が出てくることもあります。部品点数が減ると、ひいてはお客様の利益になります。金型メーカ様を経由してでもセットメーカに提案が伝わらないかということをいつも思っています。

前職では常に新しい生産技術を開発するような部署でしたので、これまで経験したことのない難しいことばかりやっていました。量産日程は決まっていますし、新しい技術にもチャレンジをしなければならないので、かなりハードでした。新しい金型技術を開発して量産に持ち込むという仕事をしていましたので、常に製品設計に関わり、設計段階から金型側からどうすればいいかと関わってきました。そういうやり方がやはり効率的なので、設計の立場に立って提案していきたいと思っています。

渡辺 開発部門でやっておられたから、ジレンマもおありなのでしょうね。

合田 今、金型業界では仕事量の減少で経営が苦しいということをお聞きします。今日言って、今日持ってこい、明日持ってこいというような要求に対応できる便利屋さん的金型メーカは、過去にはよかったですが、現在はそれだけでは生き残っていくのは難しく、技術力を持たなければいけないと思います。しかし、技術力は急につくものではありませんので、グループを作ってそれぞれの会社の技術を活かして、総合力でやっていくという生き残り方もあると思います。製品設計に物申すくらいの技術力と提案力を持たないと生き残っていくのが難しい時代ではないでしょうか。

OJTの受け入れ

合田 秋篠金型ではOJTも受け入れています。最近は、成形メーカ、プレスメーカも、コスト力と技術力をつけるため、金型も内製化したいというお話をよく聞きます。ところが金型の経験者がいない。そこで、金型一面だけ発注してもらって、実作業でOJTを受け入れるという取組みを進めています。指導料はいただきません。設計の段階では設計の担当者に来ていただいて、製品図をもらったら金型を作る上で何をチェックするのか、どこにゲートを持っていくのか、金型構造をどういう風に決めるのか、このような基本は学べます。手とり足とり教材があって教えるわけではありませんので、質問事項を書きだしてもらって、午前に1回、午後に1回質問に答えましょうというやり方で、2社で5名ほど受け入れました。

渡辺 OJTはどれくらいの期間ですか。

合田 それはお客様次第です。金型の設計は一人前になるには最低3年はかかりますから、1~2週間では基本的な内容です。設計が終わってマシニング加工のときはマシニング担当者、仕上げのときは仕上げ担当者に来ていただいて指導をします。これは好評です。指導料はいただいていませんから、お客様にとってはメリットがあると思います。

渡辺 確かに金型メーカ様も若い人は少ないですし、どのようにして育てるかというところを苦労されていますね。ここでOJTで勉強できるというのはお客様にとっては良いことでしょうね。

合田 OJTを受け入れるということを始めたのはよかったと思っています。金型メーカ様は通常技術やノウハウを出しませんが、当社は自社でどういう風に加工しているか、独自に取組んでいることをオープンにして学んでいただけます。

これからの課題

渡辺 今後についても、いろいろなアイデアをお持ちだと思いますので、お聞かせいただけますか。

【お客様の部品加工を代行】

合田 規模が小さく、いい機械を購入したいけれども今は購入できないというお客様の部品加工もお受けします。今のように買えない時期は代わりに部品加工をお手伝いして、近い将来皆さん設備投資をされますから、景気がよくなったときに森精機の機械をご購入いただけることを期待しています。

【小型精密から中型へ】

今、ここにある成形機のサイズが小さく100tonなので、それに乗る金型サイズは400mm角です。今までは小型精密モールドに限定していて、引き合いをいただいても、大きさによっては、自分たちでトライをして評価をすることができないのでお断りしていました。
300tonの成形機を入れて、600~700mmの金型が受注できるようにしたいですね。今期中には300tonを入れて、小型精密から中型へ市場を広げていく予定です。

【人員の強化】

人が少ないので多くの仕事を一度にお受けすることができません。400mm角くらいの小型精密モールドの金型の単価は200万円~500万円くらいで、平均すると300万円くらいです。ここで収支を取ろうとすると、月10面以上流さないと無理です。今はだいたい納期が1~1.5ヶ月ですから、設計は1週間から10日とすると、1人で月3面。今は2人なので6面しかできません。だから人を増やして入口を広げるということです。

現在、仕上げ担当も1人しかいません。ここも増強したい。人が入れば、マシニングはたくさんありますから稼働は上がりますし、業容を拡大していけます。

【ドイツ ギルデマイスター社(DMG)との協業】
森精機製作所とドイツのDMGは販売の提携をしました。DMGのレーザー加工機をここに入れて、小さな金型のインサートをレーザー加工する。新しい金型の加工技術としてここでどんな応用ができるのかということと、森精機にはレーザー加工機を知っている人がいませんから、ここでレーザー加工機のスペシャリストを育てていきます。

切削のイメージ

レーザーは今期中に入るかどうかはまだ判りませんが、せっかく一緒になったので、DMGの機械を置きたいですね。DMGの機械の金型テスト加工が、ここでできるようにするのもひとつだと考えています。やらないといけないことはたくさんありますが、ひとつずつ進めていきたいと思います。

渡辺 世の中の景気が良くなってくるといいのですが。

合田 お客様にお伺いすると、金型も少しずつよくなってきて仕事が出始めましたから、まだ今期いっぱいは辛抱しないといけないかもしれませんが、来期は良くなっていくのではないでしょうか。それに期待するしかないですね。

NDESに期待するところ

Space-E画面のイメージ
Space-E/Mold
Space-E画面のイメージ
Space-E/CAM

渡辺 当社のSpace-Eを使っていただいていますが、ご要望やご意見などございますか。

合田 NDESの5軸のSpace-E/5Axisを使わせてもらうようになり、他社のソフトも入っていますので、いろいろ比較しながら検証してフィードバックもさせていただいています。定期的に指導にもきていただいています。日常の設計には特に問題はありませんし、あとは5軸での金型加工をどう展開するのか。まだまだ当社も同時5軸まではプログラムが難しいので、使いこなせていません。割出しがメインになっています。たまに同時5軸で加工しますが、金型用の同時5軸のCAD/CAMがなかったので、皆さん割出しで行っていたというのが現状で、これからが同時5軸金型加工が普及していく段階ではないでしょうか。

渡辺 5軸は、皆さん、適応性、効率性でご苦労されているようですね。

合田 割出しでは、確かに削れますが、面と面の境目に線が出てしまいます。段差がなくても線が見えるのです。金型メーカ様は、筋が入っているとやはり納得できないのです。これを消そうと思うと同時5軸で削るしかありません。テスト加工でも去年の前半は3軸の加工が100%でしたが、去年の後半からテスト加工の60%が5軸になりました。テスト加工の処理日数が、3軸では、形状データをもらって、加工プログラムを作って、加工して5日の作業になります。ところが5軸になると、2週間かかります。どうしてこんなに時間がかかるのかと聞くと、やはりプログラムです。加工パスを出すのに苦労しています。同時5軸でのテスト加工依頼も来ますから、テスト加工チームは、5軸の加工も早くから取り組んでいます。それを本番の金型にどう取り込んでいくかが課題です。

本番の金型を作るときには、目標を設定させています。今回の金型の技術ポイントは何か、今回はこの部品は5軸で、今回はこの部品は切削だけで、放電レスでというようにテーマを決めます。こういうことをやることで技術レポートを残していきたいのです。ただ単に型を作って納めるだけでは、我々のところには何も残らないので、技術レポートとして加工担当者も設計担当者も仕上げ担当者もみんな、自分のやった加工、新しい加工はこれでしたとテーマを決めて取組んでいます。

渡辺 経験を積み重ねていくと着実に蓄積できますね。我々も営業と開発部門間で、お客様のご要望をどう実現するかを強化していきますので、良いシステムをご提供できるよう努力しています。本日は、お忙しいところを本当にありがとうございました。

会社プロフィール

会社の写真

株式会社 秋篠金型研究所

設立 2006年7月13日(2007年5月25日 営業開始)
本社 奈良県大和郡山市北郡山町106番地
資本金 1億円
社員数 21名
業務内容 中小樹脂成形金型及び部品の設計・製造及び販売