ガラス構造の建物を提案する
株式会社デバイス様は、世界でもトップクラスの建築家がデザインする建物の主に外装の設計から施工までをトータルにサポートする技術集団です。建築だけでなく幅広い分野の技術、ノウハウが必要とされ、建物の安全性の検証ではNASTRAN を使った解析シミュレーションを行うなど、常に建築業界をリードする新たな技術開発・研究へ取り組まれています。
今回は、地球温暖化対策として、消費エネルギーを削減できる建物を社屋で実験、検証して、CO2の80%削減という高い目標を立て実証したお話などをお伺いしました。
建築業界での事業

高田 良道 様
当社の業務は、一般的な事業分類に当てはまるものがないのですが、基本的には建築業界に携わっています。
私もそうですが、会社自体も好奇心が強く業務内容も様々で、現在は大きく分けて「D-Project」、「Project」、「Product」の3つを柱にした事業を展開しています。この中で「D-Project」は、先行投資という位置付けで進めています。そして、実質的な収益業務は「Project」と「Product」になります。
建築家のデザインを実現する:Project

部長 関矢 均 様
施主が建物を依頼すると建築家が建物のデザインを検討します。この建築家が我々の本質的なお客様になります。世界中には建築家が数百万人もいますが、その中で世界のトップグループは日本でも数十人です。これをプロスポーツの世界で考えると、大リーグで活躍する選手はほんのひと握りだということです。
どこの業界でも世界のトップになる人は、自分の哲学、生き方、考え方があり、感性や構想力のレベルの高さが違います。我々のお客様は、建築家でありながら芸術家に近い方々で、世界中のコンペで勝ち抜いている実績をお持ちの方もいらっしゃいます。
たとえば、ある大手の施主から、こういうコンセプトで美術館を作ってほしいと依頼がきたとします。もちろん、建築家に大きな期待を持たれて依頼されるので、建築家は、いかに今よりも高いレベルで施主が満足するものにしようと考えます。そして、そのモデル、プランを作ることが勝負どころです。そうすると、建築家が作りたいデザイン、コスト、工期など制約条件を踏まえて我々に実現するための提案をしてほしいと依頼がきます。この制約条件には、様々なものがあり、コスト的な問題もありますが、一番重要なことは建築家のデザインに、より忠実な建物を作れるように最適化することです。この意匠的な要素が最も大きく、それに付随してスケジュール、コスト、性能を満足していただける内容で実現させることがProjectの仕事です。

いわゆる業界トップの建築家は、芸術家ですから妥協はありません。建築家から提示されるデザインは、毎回その発想の豊かさに驚かされ、さらに一言でいうと無理難題なことばかりです。常に、これまでに存在しない新しい作り方になり、実績がない素材、構成でものを作ります。ですから、いつも最初は無理ではないかと思うことばかりで、最近ではさらにエスカレートしてきています。ですが、このエスカレートしている部分が建築業界を引っ張っていくことになり、建築の最先端としていろいろな影響を与えているのです。まさに日本を代表する建物として、建築雑誌にも掲載され話題になっています。
世界には300~400社が参加するコンペがあります。そのコンペに出展する建築家から依頼された場合、確実に作れる素材、構成を提案する必要があり、我々は受注前から綿密な調査、検討を重ねています。
その中には、建物の外側に金属やガラスのパネルを使った場合、大きく分けて地震、風や台風、太陽熱で壊れないようにするという制約があります。たとえば、風が吹いたときの荷重は地域ごとに計算で決まります。その荷重で壊れないようなガラスの厚み、形状、構成を考えます。そこには、経験値が含まれていますが、特殊な場合は、実際にものを作り風圧力を与える試験を行って理論値との差異も分析します。地震に関しても同じです。実際に建物を揺らして、地震でも壊れない構造になっているかを検証します。
以前は奇抜なデザインはあまりなかったので、地震、台風、太陽熱などの影響は経験値でもよかったのですが、時代の流れとともに、よりリスキーで制限ぎりぎりのデザインが求められるため、実際の試験が必ず必要になっています。ですから、このような制約条件が設計段階である程度予測できれば実際の試験を削減できるため、以前は、他社の研究所へ解析を依頼していました。しかし、いろいろな解析を自社でタイムリーに行いたいという理由から、8年前にNASTRANを導入して、ひずみ、たわみのシミュレーションを設計段階で行っています。
蓄積した技術で製品化を図る:Product






一般用に製品化する
我々のお客様である建築家の成果を見ながら、他の方々が建物を作っていく傾向にあります。このことから、建築家トップのものを一般用に製品化しているのがProductです。
これまで研究開発してきた技術は、特許を取っているものが多く、それをもとに製品化して販売しています。そのひとつが、“汎用階段システム シューマッハ”です。
Product の製品は、量産品として不特定の方が使われるので、使い方の保証や組み立てを間違わない配慮が必要になります。これまでのProject とは違った面での苦労はありますが、軌道に乗せることができれば順調に販売できます。
パネルシステム“MPS(Multipurpose Panel System)”
現在の少子高齢化の影響は大きく、古く使われていない建物がたくさんあり、家がさらに余っていく状況にあります。これまでは、建築着工数に売上が連動する製品を販売してきましたが、この建築業界から離れて一般消費者向けに最終商品に近いものを作ることを目的にしました。それが、パネルシステム“MPS(Multipurpose Panel System)”で、一般の方に販売しています。
MPSは、面材にポリカーボネート複合材を使用しており、さらに意匠的なことも考慮しました。たとえば、本やパンフレット、iPadを入れることができるユーティリティオプションを作っています。これらを組み合わせて、受付カウンタや待合室などをMPSのパーティションで区切ることで、明るい空間を演出できます。さらに色を付けたり会社のロゴを入れることもできます。
また、このMPSを使ってインテリアとしてテーブル、そしてショップなどでハンガーを使った洋服かけなど、用途に応じた組み合わせが自由にできます。このMPSは、規格サイズにしているので誰でも組み立てられ、自由にレイアウトを変えられることも利点のひとつです。
MPSの荷重に関してもシミュレーションをする必要があり、NASTRANを利用しました。また、組立説明書などはIronCADで作成しています。
建物の消費エネルギー削減の提案:D-Project
地球温暖化とプロジェクトの開始経緯

「D-Project(温暖化対策プロジェクト)」
地球温暖化の話は、それこそ昔のローマクラブのように、このまま資源採取や環境汚染が拡大すると人類の破局が訪れると言われていました。それが、12~13年前からCO2(二酸化炭素)濃度の上昇による地球温暖化がこのまま進めば人類が滅びるという説がノーベル賞に近い実績のある方々から出てきています。そして、地球シミュレータの気候シミュレーションでも温暖化が予測されています。その温暖化により、シベリアの永久凍土からのメタンガス放出や、北極の氷が融けて太陽光の反射が少なくなり海が暖められ、さらに温暖化を加速させていると予測されています。地球温暖化の原因はCO2ではないという説もあるのですが、我々は専門家ではないので証明することはできません。しかし、この100年間にCO2濃度が高くなっているのは、自然現象ではなく人為的な要因だということは間違いないのです。
名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、たくさんの生きものたちが危機に瀕しており生物多様性の問題が重要視されています。
もし、今後CO2が現在の3~4倍になると、人類の生命の危機が訪れるでしょう。これは、時間的な差が地域であったとしても結果的には全ての人類に危険がおよぶことになります。いずれにしても地球温暖化の話は、我々が議論することではないのかもしれませんが、人類が解決すべき課題としては最上位にあるということが私の結論です。あくまで主観的な理由ですが、ほぼ正しいと思っています。そして、地球温暖化を加速させている速度が暴走を始めるというある一定のしきい値を超えていないことを願っています。
この地球温暖化が進む中で、会社として何かできることがあるはずだと考えました。一般的なCO2の削減を一言でいうとエネルギーの問題になります。そこで、建物内で排出されるCO2をいかに削減するかということを目的にしたD-Projectを開始しました。我々には、有効な解決案を検討できるProject で培ったノウハウ、技術があります。
CO2の80%削減という高い目標
我々の社屋がD-Projectの検証現場です。新築モデルを作るという案もあったのですが、17年間使っている従来の建物に対して解決案をモデリングし、その効果を検証することで、より明確にエネルギー消費を比較できます。
従来の建物では、空調など電気エネルギーを使用し、年間にCO2を16.8t排出していたため、これを80%削減するという目標を立てました。建物を改装して性能アップしただけでは、目標に足りないので太陽光発電も導入することにしました。このCO2の80%削減を電気料に換算すると93%の削減になります。もし、今の電気代が100万円だとしたら、6万7千円で済むことになります。これは、あまりにも高い目標設定で無理のような話にも思えますが、我々はProjectで無理なことへの挑戦は得意ですから、80%削減するには何をすべきかを分析して解決案を作ればできるはずです。
解決案はガラスで覆う構造

簡単にいうと、従来の建物をガラスで覆った構造です。従来の建物の外壁の外に電動ブラインドを入れて、その外側をガラスで覆っています。今回、新しい技術も取り入れていますが、もともとあったガラスの技術を洗練化しています。このような温暖化対策を行っている建物は他にはないと思います。
夏季の晴れた昼間を例にして説明すると、まず、外側のガラスから入ってきた熱をブラインドで取って、その熱を外側と内側のガラスの間に閉じ込めます。熱は赤外線なので、内側は赤外線をカットするガラスを使うことで室内に熱が入ってきません。そして、下から空気を導入して上の排気口から熱を排出することで室内は涼しくなります。電動ブラインドで日射の熱を調整しているので、その操作はいろいろな条件で異なります。
その他にも、夏の晴れた日の夜は外気温が下がるので、その冷気を取り入れる操作や冬の場合に温かい熱を室内に取り入れる操作もあります。冬用には床暖房を入れています。改装前は、2階は3部屋ありましたが、空気の流れがよくなるように壁を壊して1ルームにしています。この1ルームが一番省エネになります。そして、MPSのパネルシステムで自由に間仕切りして作業スペースを作っています。このように、建物をひとつのシステムとして考えて、いかに効率良く最適化するかということです。そして、気候がいいときは外気を入れて、自然の力を利用することが一番良いモデルだと思います。
さらに外装をメンテナンスフリーに
建物の外装はメンテナンスフリーを目指しました。今までは外装のペンキがはげて10年で塗り直しが必要になり、そのたびに人が動くことからCO2を排出していました。このことを考慮して検討した結果、外壁はガラスになりました。ガラスは塗装が不要で形状変化もないので、建物の耐用年数は100年になります。
結果はCO2を84%も削減することに
この建物が完成して1年になります。建物全体に40個のセンサーを取り付けて、コンピュータで温度などの統計管理をしており、そのデータはWebに10分単位でアップされます。
最初の1年目の統計としてはCO2を84%も削減できる見通しになり、目標値よりもさらに良い結果となりました。建物完成後の3年間は検証・評価期間にする予定です。D-Projectに挑戦して、いろいろな意味で良かったと思っています。
おわりに
社屋を改装されてから使用する電気料が非常に少なくなったこともあり、電力会社から「お変わりありませんか?」という電話があったほどだそうです。社屋の天窓より明るい光と自然換気により、室内は明るく心地よい風が入っていました。
大変お忙しいところ、貴重な時間を割いてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
会社プロフィール
株式会社 デバイス
URL http://www.device-inc.com/(外部サイトへ移動します)
所在地 | 〒310-0841 茨城県水戸市酒門町226番地の1 |
---|---|
事業内容 | 製品の企画・製造・販売 ガラスファサード・外装の企画および設計施工 ガラス・金属パネル・金物を利用した設計施工 |