人とシステム

季刊誌
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No.62 | 社長インタビュー
世界を代表する中堅造船会社
―内海造船株式会社のご紹介―
内海造船株式会社 管理本部 理事 情報管理部長 近藤健二 様 内海造船株式会社
管理本部 理事
情報管理部長 近藤 健二 様
内海造船株式会社 新造船事業本部 設計本部 船殻設計部長 岡野 行孝 様 内海造船株式会社
新造船事業本部 設計本部
船殻設計部長 岡野 行孝 様
NDES 代表取締役社長 木下 篤
NDES
代表取締役社長
木下 篤

木下 御社とは長いお付き合いをさせていただいています。特に、2009年よりERPの導入や3次元CAD情報の活用など、御社の新しい取り組みをお手伝いさせていただいています。

まずは、御社の事業について、お話をお伺いしたいと思います。

事業概要

2,500TEU積コンテナ船
2,500TEU積コンテナ船
ケミカルタンカー
ケミカルタンカー
調査兼取締船
調査兼取締船
カーフェリー
カーフェリー
5,000台積自動車運搬船
5,000台積自動車運搬船

木下 中型船を建造されているとのことですが、具体的にはどのような種類の船舶を建造されているのでしょうか。

近藤 基本的には、武器を持たない船であればどのような種類の船でも建造します。しまなみ街道沿いに瀬戸田工場、因島工場、田熊工場と3か所に拠点があり、これらは多種多様な力を発揮するシップヤードです。

新造船事業

近藤 顧客ニーズに基づいた受注生産で、年間建造数は、瀬戸田工場および因島工場でそれぞれ、5~7隻です。

コンテナ船、プロダクトタンカー、自動車運搬船、バルクキャリア、旅客フェリー、冷凍運搬船、調査船などを建造しており、船種はバラエティーに富んでいます。

我々の特徴は、豊富な船種を短納期で顧客に提供してきた経験と技術を基盤とした「プロダクトミックス体制」が、今日の内海造船を作り上げているということでしょうか。過去、さまざまなピンチをチャンスと受け止めがんばってきた結果だと思っています。

これからも顧客の信頼を得ながら技術力の継続、そして向上に務めながらがんばってゆきます。

木下 船首付近にフィンをつけて、造波抵抗を減らすような開発もされているとお伺いしています。

近藤 STEP(Spray Tearing Plate)と称する省エネ装置を海上技術安全研究所と共同で開発し実船装備しました。STEPは、波浪中、船体が波をうけることによって生じる速力抵抗を抑え、燃費悪化を減少させることができる装置です。

今回、STEPを装備した自動車運搬船(以下PCC)の船型では、世界で初めて実海域性能指標(海の10モード性能評価指標)鑑定を取得しました。さらに、PCCの特徴でもある薄板鋼板の“溶接熱ひずみ”に対する研究も大学研究所と共同で取り組み、成果を出しています。

自動車を積むデッキは、比較的薄い鋼板を使用していることから、溶接熱による変形が精度管理および作業工数上問題視されていました。この度、大学と共同で溶接方法および作業手順を考慮し、最新の解析技術を活用した数値シミュレーションにより、最適な設計・施工方法を見いだし実船に適用しました。

これからも、産・学・官の連携を積極的かつ有効に活用し、新しい技術にチャレンジしてゆきたいと考えています。

改修船事業

近藤 お客様に信頼をいただいている高い技術力をベースに、各種船舶、艦艇の修理・改造を行っています。

具体的な改修船工事は、一般修繕船、検査関係開放受検、船体・各部塗装、主・補期間の開放整備、改造工事、背高車・船体延長、資格変更(沿海→国際など)、延命などがあります。

改修船ドックとして、瀬戸田工場では、主にパナマックス型船向けの改修を行っています。

田熊工場では、官公庁、特殊船を対象とする改修船工事を行っています。

ERPシステム導入の経緯

木下 御社が日立造船グループ関連企業ということもあってERP導入へ積極的に取り組まれた、と伺っています。実際にはERP導入に向けいろいろなご苦労があったと思います。導入の背景や今後の経営戦略への活用に向けたお話をお伺いできればと思います。

旧財務管理システムの問題点

近藤 財務管理システムは、COBOL(プログラム言語)を中心に開発したシステムで、構築後30年が経過していました。内的・外的要因により、度重なるシステムメンテナンスを実施していますのでシステムは複雑化しており、またCOBOL自体の陳腐化により、今後の国際会計基準(IFRS)対応など、システム変更対応が著しく困難になることが予想されます。

COBOL技術者は、日本全体でみたときに大幅に減少しているため、現行システムの変更に社外技術者を採用することができなくなってきつつあります。

また、当社の情報管理部内での若手教育も、最近のプログラム言語であるACCESSやJAVAなどと併行して教えるため、新旧のギャップが大きく技術の伝承が難しくなってきていました。

今後ますます強化される内部統制に対し、社内のシステム基盤技術が、監査で求められるレベルに追随できなくなる恐れがありました。

対策案

カスタマイズしたERPの例
カスタマイズしたERPの例

近藤 国際会計基準(IFRS)を始め、グローバル基準に的確に対応するために、大手中堅企業および同業他社で導入実績が多い、ERP(統合業務パッケージ)をベースとして、財務管理システムの再構築を行うことにしましたので、システム構築には、御社がHitz日立造船に導入したERPを使用し、一部当社用にカスタマイズをお願いしました。

COBOL資産を棄て、主流のシステム技術を採用することにより、システム技術の遅れを取り戻すことができ、さらに、財務管理システムの維持管理を、外部委託することにより、グローバル基準に的確に対応できるとともに、内部統制の高度化も実現できます。

また、当社の情報管理部要員を、最近のプログラム言語でのシステム開発に専念させることができるため、当社の情報化推進の新たな展開が期待できます。

新事務系電算システム(情報システムフロー図)
新事務系電算システム(情報システムフロー図)

現状の設計

木下 20年前と比べると、設計者や現場の作業者がすごく減っているように思います。長い年月をかけて生産性の向上を図られてこられたことと思いますが、具体的にはどういった施策をされてきたのでしょうか。

岡野 やはり機械化とシステム化の影響が大きいですね。今では珍しくありませんが、NC切断機から始まり自動溶接機などの機械化への流れは作業者の減少とともに加速したように思います。昔は現尺原図といって原寸大の部品形状を罫書き切断していたものが、今ではCAD、しかも3次元のシステムが主流となっています。

それに伴い、現場に属していた作業者も設計業務やCADの運用に取り込まれ、業務は上流へとシフトしました。私も、はじめてCADを目にしたときの驚きを今でも覚えています。機械の中で図面がかける。さらに、きれいな線で線の太さまで変えて作図できるといったものでした。それが、いつのまにかNC切断機と連携できるCADとなり、3次元情報を持つCADとなってます。やはり機械化、システム化の促進は大きいですね。

木下 詳細設計の段階になると鋼材配置や部品形状はより具体的になって、現場での安全性を配慮した構造配置やブロック分割などを事前検討できることは大きな意味がありますね。

岡野 古くからある課題ですが、我々ユーザーからすると、基本設計やヤード設計でそれぞれ異なるCADを使うといった状況は問題がありますね。データベースが異なる、多能化の妨げになる、間違いの素を生み出すといった問題ですね。CADにも得意不得意の分野があるようで、上流では使えるが下流に弱い。また、その逆とか、思うようにいかないですね。

今さらながら思うことは、やはり作業は一気通貫したいですね。確かに韓国や中国では一気通貫でやっていますが、日本ではなかなかそうならない。それは、ある程度完成したシステムを選択することから始める海外とシステムを作り込んできた生い立ちを持つ国内の歴史の違いもあるでしょうし、造船所の独自性もあると思います。

GRADE/HULL
GRADE/HULL

幸い我々が使っているGRADE/HULLは下流のシステムとしては他社のシステムに乗り換えるといった考えは浮かんできません。GRADE/HULLを使っているユーザー会にしても大手から中小手まで、尚かつ、経営的なつながりがない造船会社とサポートする会社の集まりです。そして新規導入する造船会社も増加しています。そうしたことはGRADE/HULLをある程度評価しているという証ではないでしょうか。設計標準機能の奥深さとか自動修正の信頼性は強力な武器になっていると思います。質の高いシステムといった感がありますね。

ただ、残念ながら、操作画面はいただけないですね。機能は充実していても操作画面を若者にも評価してもらえるようなものにしていただきたいですね。このところは、他のシステムに大きく水をあけられているように思います。

木下 ご指摘の通り、ビュー機能については、一昔前のシステムといった印象はぬぐえませんが、機能や性能は最新のものです。操作画面などについては、改造へのコストや開発期間、そして他のお客様からの意見ですが、操作性が大きく変わる等の意見もあって、より多くの皆さんのご意見をお伺いして今後の判断をしたく思っています。

艤装設計

木下 艤装設計のツールとして導入されたCATIAで、実船への適応などされ、成果が上がっていると聞いていますが、いかがでしょうか。

CATIA V5
CATIA V5

岡野 CATIAを使って誤作をなくす、干渉の有無をきちんと把握する。事前にCADの設計段階できちんとした設計をして、現場に持って行ったときには間違いがないようにと配管設計にCATIAを使っています。CATIAで配管を設計した場合、今までと違って誤作の報告がほとんどなくなりました。

木下 私たちの立場としては、道具を提供して、こういう精度で、こう作るためにカスタマイズしていきましょう、などいろいろな案が出せますが、それ以上は踏み込めません。設計コンセプトはお客様の頭の中にあって、それを私たちが引き出し、CATIAでどう実現できるか、お互いキャッチボールしないとシステムが“設計ツール”として生かされないと思います。私たちも定期的にお伺いをして、現場のみなさんときちんとキャッチボールができるように、CATIAの運用を支援してまいります。

設計3D情報の有効活用

造船所の作業風景
造船所の作業風景

岡野 今まで3D-CADといえばある意味、特別な扱いをされ専属のオペレーターによってのみ使われてきました。確かに、生産設計に特化したシステムとオペレーターであることは間違いありません。

かたや、3D-CADの持つ情報および機能が注目され多様化することを期待されはじめました。その期待に応えるためにシステムは、塗装面積の出力、3Dアイソメ図の出力、といった機能を既存のシステムに植え付けることでさらに変化してきました。

しかし、さまざまな理由から肝心のオペレーターには目を向けられていません。即ち、“3D情報のありがたみは理解できた。しかし、誰もがオペレーターになるには限界がありますよね”という問題に直面し、システムの能力とは別に期待通りの出力はできていないという話を聞きませんか。3D-CADの機能アップに費用を費やしても何も変わらないといったこともよく聞く話です。

このことは、長い間、私のストレスでした。

木下 当たり前の話ですが専門の仕事をするための努力に加え、3D-CADのシステム操作は2D-CADほど安易ではない。専門外の知見やセンスが必要とされる複雑な形状モデリング作業に専念するあまりに、本来の仕事がおろそかになりがちになるということはよく聞きます。

岡野 解決策は単純で、3D情報を必要とする部署と作業者全員がGRADE/HULLを持てばいいのですが、現実的な話ではありません。

しかし、今回、Beagle Viewという使いやすいシステムを作っていただき目の前が開けた思いでしたね。

汎用3Dビュワーとでも申しましょうか。GRADE/HULLから3D情報を吸い上げた新たなプラットフォームとでも言うのでしょうか。このBeagle Viewは、GRADE/HULLのオペレータの手を煩わすことなく、現場のスタッフをはじめ多様な部署で3D情報を参照することができます。

また、Beagle Viewをプラットフォームにしたアプリケーションシステムも開発できます。今回作ってもらった塗装システムは、工務の塗装スタッフが操作・活用します。今後は計画、組立て、溶接などの管理スタッフなど、さまざまな部門のスタッフが同じようなシステムを幅広く使うことができれば、もっともっと効果がでてきます。本来の3次元のモデルを作る効果が出てくると思います。

導入してよかったと思いますね。今回入れてもらった機能を使ってどんどん効果を出して、さらに次のステップに進んでいきたいですね。

私達が思い描いていた“設計情報を始めさまざまな情報を、iPadを使っていつでもどこでも確認できる”といったものも今後期待しています。

木下 今導入していただいているBeagle ViewをiPadでも利用できるようにしてより現場で身近に使えるプラットフォームとインフラをまもなくご提供する予定です。もちろん、GRADE/HULLのデータも見ることができます。

岡野 そうなると、塗装管理資料に限らず、組み立て要領、精度管理資料、揚重情報、3Dブロックモデルなどさまざまな情報が現場で確認できたりしますね。

既にBeagle Viewの基本機能である、重量・重心・寸法確認も有効に使えそうですね。

木下 先ほどのGRADE/HULLに対するご意見と重複するかもしれませんが、現在ヤード設計においてGRADE/HULLを設計ツールとして利用されています。

Beagle Viewとの連携で組立情報や建造工程の“見える化”を実現したいとのことですが、その他にどのような場面でのGRADE/HULLの活用を期待されていますか?

岡野 やはり上流でGRADE/HULLを使いたいですね。GRADE/HULLからの出力とまでは言わないにしてもBeagle Viewの登場で塗装面積システム、揚重システムのようにBeagle Viewを介することでFEMで使用するモデルにつなげることができるのではないでしょうか。今では、上流の設計段階でもFEM解析を行う場面が多々あるように思います。

我々は期間・費用を睨みながら取り組むわけですが、もっと身近な存在にしたいものです。

大手から中小手まで幅広い指示を受けているNDESさんですから是非、リサーチしていただきたいものです。

また、課題の上流設計にどの様なアプローチで食い込んでこられるのか。その辺りを木下社長のお考えと意気込みをお聞かせ願いたいですね。

木下 上流設計への支援の取組みについてですが、いわゆる概念設計や基本設計においては、客先要件を満足させながら、船体の主要目と構造配置や運動・推進性能等とバランスよく短期間にしかも最適な設計を行うといった、ヤード設計とは異なったテーマが要求されます。

そのため、強度や性能検討をするための他のシステムとのインターフェイス機能や、高精度で詳細なモデリング機能よりはむしろ設計変更に柔軟に対応でき、スピーディにモデリングできる機能などが重要かと思います。

現時点で、GRADE/HULLにそうした機能を追加、改造することは、システムのデータ構造の改造と機能の再設計を意味し、本来の特徴を失うことになりかねないと思います。むしろ、上流で活用されているシステムとの親和性を高め、自動車業界に関わるお客様を数多くサポートしてきた経験をもとに、形状データの変換技術をベースにしたソフトウェアによって“データを骨までしゃぶり尽くす”ことができるよう、ご提案したく思います。

また、FEM解析につきましては、船体構造の強度や耐久性、振動特性などをモデル化から解析・評価まで、長年にわたる経験がありますので、機会がありましたら一度ご紹介します。

Beagle Viewを使った3D情報の有効活用

NDESへ

木下 ビジネス系もエンジニアリング系もずっと一緒にやらせていただいておりますが、その中で我々に対する要望や期待など、お話いただければと思います。

岡野 御社のスタッフは、造船の実務に携わっておられた方々の集団というところが隠れた魅力だと思います。我々の日常業務の感覚で話が進行してゆくのはありがたいです。今、思えば、GRADE/HULLを導入した頃に違和感がなかったのは、その辺りからかもしれませんね。古い話しですね。

近藤 35年の長い付き合いとその信頼関係がありますから、当社の要望を理解して、そのことを実現してくれるという信頼を持っています。

岡野 そうですね。導入し、随分時間が経過しましたが、我々の言葉に対する反応の早さは当時のままですね。感心します。キャッチボールが常にできるというところがいいですね。

我々の主役は“人”です。

これからも、その“人”が違和感なく使える“システム”を提供していただけますようお願いします。

木下 導入いただいたBeagle Viewでさらに3D情報を有効活用していただけるよう、お手伝いさせていただきたいと考えております。

これからも、キャッチボールをさせていただきながら、システムを進化させていきたいと思います。

本日は、まことにありがとうございました。

会社プロフィール

瀬戸田工場全景
瀬戸田工場全景

内海造船株式会社様

URL http://www.naikaizosen.co.jp/(外部サイトへ移動します)

発足 昭和47年10月1日
資本金 1,200,170千円
本社 広島県尾道市瀬戸田町沢226-6
工場 瀬戸田工場、田熊工場、因島工場
従業員 1,075名
事業概要 中型船の建造および各種船舶、艦艇の修理・改造