SI統括部 企画部 主任技師 田中 秀樹 |

とある会社で
担当の高橋くんが、山本課長に無理なお願いを言われているようです。
いつものことながら、全て筆者の想像で書いたことで、何処かの会社をイメージしたわけではありません。
新規に導入したITシステムを社内で説明するのは、どこの会社でも大変なことです。今までとは違う使い勝手だったり、業務プロセスを変えたりする必要があったり、せっかく高価な設備投資をしても、使う人すべてから喜ばれることのほうが少ないようです。できるだけメーカの資料だけではなく、それぞれの会社の運用に則った説明をするように心がけるべきなのでしょう。
驚異のプレゼン技法
プレゼンテーション(略してプレゼン)は、大勢の聴衆に対して、会社の方針や、個人の思い、製品の良さを伝えることで、その技術の上手い下手によって、聴く側の印象は大きく変わるものです。一般的な意見として、欧米人のプレゼンは明解でわかりやすいものが多く、日本人のプレゼンは説得力が欠けると言われます。個人的な意見ですが、最近の新進IT企業の日本人起業家のプレゼンは、非常に上手くなっているように感じます。
このプレゼンテーション技法で言えば、なんといっても名人はApple社のスティーブ・ジョブズ氏において他ならないでしょう。iMac、MacBook、iPod、iPhone、iPadなど、新商品発表の際には必ず登壇し、プレゼンをしています。多くの動画がYouTubeにアップされておリ、それらは、あたかもプレゼンの教科書のように扱われています。
(参考:YouTube「Steve Jobes 驚異のプレゼン」)
彼のプレゼン技法を分析した本では、ストーリを作る、経験を提供する、練習をする、の3章に分けて紹介されています。その中で、誰にも参考になりそうな点を上げてみましょう。
アナログなツールで構想を作る
ジョブズ氏ですら、全体構想の時は紙と鉛筆を使うようです。試行錯誤や修正を関係者で共有するには、アナログが一番適しているのかもしれません。
敵役と正義の味方を登場させる
話をわかり易くする一番の手段なのでしょう。1984年にMacを初めてこの世に出した時のTVコマーシャルで、大手コンピュータ企業を敵役に想定したような内容を流したのを思い出します。
陳腐な言葉を使わない
自分のメッセージを伝えるために、ジョブズ氏はどれだけ言葉を選んでプレゼンを組み立てているか、「未曾有」、「想定外」など同じ言葉を使い続ける人たちに、教えてあげたいものです。
聴衆に「うっそー」と思わせる
初代iPod nano(液晶を持ちながら薄くコンパクトさが特徴)のお披露目の際、ジーンズのコインポケットから取り出してみせたのは、まさにこの手法です。
簡単そうに見せる
新商品発表の前には、想定問答集を作り、デモ・シナリオを何回も行い、手際良く見せるのが重要です。
台本を捨てる
聴衆に目を向けず、下を向きながら台本をまる読みする。この手法が一番ひどいプレゼン技法なのです。
もんたメソッド?
日本に目を向けてもプレゼンの優れた技法を生み出した人がいます。日本Rubyの会の高橋征義さんが始めた、通称「高橋メソッド(http://www.rubycolor.org/takahashi/)」と言われるものです。
その特徴は、
- 大きな文字で
- 簡潔な文章で
- 図やグラフを使わない
と、いうものです。


自分の伝えたいことを、1シートに1文というより1単語で、できる限り巨大なフォントを使い、表現する手法です。(図1)
私もこの手法でプレゼンしたことがありますが、利点は後ろの席からでも見やすく、1枚1枚の話をテンポよく進められることです。そして、欠点はプレゼン資料の枚数が多くなり、全体の流れを見失いがちになり、持ち帰り用の別資料が必要となることでした。
さらに、この高橋メソッドの変化形と言われる、「もんたメソッド」なるものがあるようです。基本は高橋メソッドと同じですが、メッセージの全体を先に出して、その一部を隠し、それを剥がして話題をつなげる、という特徴があります。(図2)
いわゆる、ワイドショーでフリップを使って説明する、「みのもんた」さんの手法ということのようで、プレゼンの世界に入ってもらえやすいのですが、あざとさが見透かされたらアウト、と言う危険性を持っているかもしれません。
いずれにしても、会社でプレゼンをする機会は多く、その重要性はますます大きくなることでしょう。皆さんもいろいろな工夫で魅力あるプレゼンを行うようにしてください。
参考文献
「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン」 著:カーマイン・ガロ、井口耕二 (翻訳) 日経BP社(ISBN-13: 978-4822248161)