製造ソリューション事業本部 営業統括部 AMソリューション部 部長 橋爪 康晃 |
はじめに
1970年代後半に登場したRPは、一般的な試作品製造の工法のひとつとして定着しました。その後、個人が自宅で使用するパーソナル3Dプリンターと呼ばれるものが多数登場し、注目を集めています。そして、低価格化も進んだ今では、いずれ「3Dデータを使用したDIY(Do It Yourself=日曜大工)の時代」がやってくると言われています。
AM(Additive Manufacturing)

ハイエンド機は実装できる部品を作ることができます。
材料:NickelAlloy IN718
高さ:160mm、肉厚:0.75mm

既に一般的になった活用方法です。

試作品を製作する工法としてのRPの中でも、私たちが取り扱っているEOS社のEOSINT・FORMIGAは、ハイエンドに位置付けられ、これまでも他と一線を画してきました。そのポイントは、従来の工法で製作された最終製品、金型、砂型とほぼ同等のモノが作れるという点です。使用する材料やそれを高精度、高品質で造形できる点において優れています。このことから、次第にハイエンド機は試作品だけでなく、最終製品を生産する装置として期待されるようになりました。
RPは従来の工法よりも、より速く、より安価にモノを作る技術と位置付けられていたため、当然ハイエンドRPにもそれが求められました。しかし、ハイエンドRPは、細かいピッチで粉末材料を固めながら積み上げる工法であり、装置は高額で材料は専用の粉末になります。そのため、製品の製作に用いることが必ずしも工期短縮とコスト削減に効果的であるとは言えないのが実情でした。一方で、この工法でしかできないこと、この工法を使うことで大きなメリットがあるものに関心が高まってきました。本来、一品一様でモノを作ることが望ましい医療分野は、積極的に取り組んでいます。加工や金型による成形では作れない中空構造が造形できることは、CO2削減義務により軽量化を強く求めている自動車や航空宇宙分野にとってソリューションに成り得ます。複雑な内部構造を造形できる点は、効率的な冷却回路を持った金型製作に活用できます。
また、これまでに無いデザインの自由性は、アクセサリー、スポーツ、インテリアなどライフスタイル分野にとって、重要な検討対象となりました。もちろん、少ロット製品を速く安く製造できる場合もありますが、それだけでなく、ケースバイケースでハイエンド積層造形ならではの可能性をいかに活かすかということが、関心事になりました。さらに、その名称も定義され、目的をより広義にとらえる「積み上げてモノを作る」ことを意味する「AM=Additive Manufacturing(付加加工)」となりました。これは、切削加工に応じる名称です。
なお、AMはISOやASTMインターナショナルでも定義されています。
カスタマイズを前提にした製品やサービス


より安全、確実な手術を行うためのものです。
通常の大量生産では、同じモノを大量に効率良く生産することで低コスト化を実現しています。しかし、製品のライフサイクルが短くなり、消費者のニーズも多様化し、以前よりも売れる製品を生み出すことは、より困難になっています。消費者としての私たちの目も厳しくなっていることが自覚できると思います。製品をより魅力的にするために、製品に新たに付加できる価値は、洗練されたデザインであったり、多機能であったり、生産国を変えることで実現した低価格や短納期でした。
これに加えて出てきたトレンドが、カスタマイズを前提にした製品やサービスです。これまでも特注品は色々とありましたが、その手間ゆえに、総じて高額でした。これが、従来品と同じ、あるいは、ほぼ同等の価格で提供できるのであれば、大きな価値となります。例えば、アメリカのスポーツ総合メーカーは、インターネットのショップに訪れた顧客がシューズの各パーツの色の組み合わせやデザインを自由に行い注文できるサービスを提供しています。高額なサービス料を請求するものではありません。これが、色だけでなくカタチまでも対応できれば、やはり大きな価値です。すでに一部のトップアスリート達は、AMを用いて自分に合わせて作った道具を使用し始めています。次のオリンピックでは、さらに製品は増え、使用するアスリートも増えるでしょう。このように、新しいビジネスも登場しています。
少し飛躍しますが、AMを用いてより高度にカスタマイズを前提にした製品やサービスを実現している分野のひとつが医療です。これまでも何度かご紹介してきましたが、本来、一人ひとり違う(カタチが違う)体に対して最も適切な器具や道具で応じることができれば、それがベストです。これまでは、効率良くそれを行うことができませんでしたが、AMによって急激に変化を遂げています。歯のクラウンやブリッジ、各種インプラント、手術用器具、シミュレーションモデルなど、個人の体に合わせた機器へのAM適用は、今後ますます進むでしょう。
AMの使いどころ

従来工法では、作ることが困難であったり、または作れなかったりした形を作れることは、以前から認識されている積層造形の良さです。AMの場合、前述のカスタマイズを前提にした製品やサービスの実現において、最も力が発揮できる部分です。これまでのRPと違うのは、最終製品にこれを適用できるということです。
ハイエンドRPはAMとなり、活用場所を本格的に製造現場に移し始めました。欧米では、学校のカリキュラムにも組み込まれ、従来のモノづくりに加え、AMの活用方法を学んだ技術者が巣立ち始めています。
米国は、国立のAM研究機関の設立を決定しました。複数の大手経済誌をはじめとするメディアが、AMや3Dデジタル技術は第三次産業革命を起こすといった記事を掲載し話題となりました。
造形機、材料は適用範囲を広げるために進化しています。AMを前提としたソフトウェアや新しいビジネスも次々と登場し、一部ではAM産業が成立しています。先進国の製造業の在り方に関わる技術として、ますます関心を集めています。
一方、パーソナル3Dプリンターは、登場以来、安価で操作性も高い簡易3Dモデリングツールが次々と登場し、ゲームなどとも結びついて、新しいトレンドを作り出しています。
AMを用いてモノを作る企業にとっても、AMで作られたモノを使用する家庭や個人にとっても、積層造形を使用したモノづくりが、ますます身近になっていくことは間違いないでしょう。
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