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インドネシア金型工業会 会長 PT. K.M.K. PLASTICS INDONESIA 取締役社長 高橋 誠 様 |
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インドネシア金型工業会 会長 高橋 誠 様は、インドネシア金型工業会の設立から深く関わり、さらに活動としてもセミナー、見学会、研修会などを積極的に開催して、地場産業の育成に貢献しています。このたびは、インドネシア金型工業会設立の経緯から、インドネシアにおける金型を取り巻く状況などのお話をお伺いしました。
インドネシア金型工業会の設立まで
2004年12年、日本とインドネシアの首脳会談の際にインドネシア産業界の競争力強化のため、官民合同フォーラムの発足が合意されました。
それに基づき、私がインドネシアに赴任した2005年には、インドネシア産業の競争力向上を目的としたさまざまな部門のワーキング・グループが発足していました。その中の「産業競争力・SME振興ワーキング・グループ」のサブワーキング・グループに地場産業育成ワークショップとして「裾野産業振興プログラム」があり、そこに日系部品メーカーとして出席したことがインドネシア金型工業会を設立して携わっていくきっかけになりました。
地場産業育成ワークショップの座長は、当時のトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・インドネシアの社長、副座長は、パナソニック・ゴーベル・インドネシアのDirectorでした。メンバーは、インドネシア政府の工業省、日本貿易振興機構(JETRO:ジェトロ)、日系企業15社、ローカル企業15社で40人ほどが参加していました。
このワークショップでは、どうすればインドネシアのローカル企業を活性化できるのか、さまざまな課題を出して議論を行いました。そして、共通の課題として着目したのが人材育成です。
インドネシア側からは、ローカル企業に優遇して仕事を出すように求められていましたが、日系メーカー側としては、ローカル企業の品質が安定していないため、安心して仕事を出せないという状況でした。
このような状況で議論をしているうちに、マレーシアのアブドゥル・ラザク元首相が行ったマレー人を優遇するためのブミプトラ政策を思い出しました。この政策で、日系企業はローカル企業を育成して仕事を出すという優遇処置を取ることになりました。私は、そこでローカル企業の育成に携わっていました。
結局、ローカル企業は黙っていても仕事が入り、技術は教えてもらえるため、経営者が苦労することは何もありませんでした。このような至れり尽くせりの環境では競争力を養うことはできません。
このブミプトラ政策は、マレー人の経済的地位を向上させ、秩序維持を実現できたことは確かです。ただ、こうした優遇措置を長期的に実施するとマレーシアの発展を妨げる恐れがあるということで、見直しが行われました。
このマレーシアと同じことをインドネシアで繰り返してはいけないと思いました。何もしなくても仕事が入る仕組みでは、ローカル企業の競争力の向上はあり得ません。
そこで、インドネシアの中小企業を育成、支援するような会の設立を提案しました。この会のコンセプトは、「インドネシアに会社がある」、「国籍を問わない」、「業種を問わない」の3つです。業種を問わないというのは、部品を販売するまでに、材料の輸入、サービス、部品製造、組み立て、販売などいろいろな業種があるからです。
産業界の中心となるのは、やはり金型です。金型は、インドネシアの国としての重要案件に匹敵するということもあり、金型を会の名称に付けて、インドネシア金型工業会として設立しました。
■インドネシア金型工業会 2013年度活動方針
― 金型現調化率50%達成
- 部会金型現調化目標設定(2012年度実績比11%UP)
- サポート部会との連携強化
- 合弁・金型企業直接投資の促進
― 金型人材育成の継続
- 2015年中期人材育成年次目標設定(認定者2,500名・インストラクター500名)
- 新規支援受入案の模索とロビー活動
- 設備メーカーと連携による訓練プログラム実施
― 金型技能・技術・管理者認定・インストラクター制度の推進
- 目標合格率60%以上
- 目標認定者数1,950名、インストラクター365名
- 認定者待遇案の訴求
― 総合組織力の強化
- 目標会員数400
- インドネシア製造コマ大戦の実現
- 日本交流強化(人材交流・技術提携・合弁推進)
― 金型裾野産業強化(設備・材料・部品)
- サポート部会増員推進(鋳物・標準部品)
- インドネシア政府へ優遇案提言
- 裾野産業投資促進(日本・その他)
人材育成の活動
インドネシア金型工業会が実践することは、裾野産業の育成です。それともうひとつは、技能オリンピックを目指したトップランナーを考えており、技能訓練を行うことです。
実際には、2005年から技術移行と人材育成、工場見学を始めました。まずは、日本の企業から技術者を呼び、技術移転としてワークショップを開催しました。それから、ローカル企業の方に、インドネシアの日系大手メーカーの工場見学をしてもらって、大手メーカーが何を要求しているのか、どういう品質管理を求めているのかということを学んでもらいました。
2008年には、日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)が始まり、日本政府の経済支援のひとつに地場の中小企業育成が上げられました。
これにより、インドネシア金型工業会は、ジェトロおよび経済産業省の支援を受けて、ますます人材育成に力を入れることができました。実際、私も経済産業省に出向いて行き、人材育成の柱として日本の技術者をインドネシアに招いたワークショップ開催を提案して実現したのです。そして、ワークショップ終了後には、テストを実施して修了書を出すということも行いました。
さらに、日本の中央職業能力開発協会(JAVADA:ジャバダ)が実施している技能検定をインドネシアへの移管を行うため、インドネシア金型工業会が主体となり技能検定を始めることにしました。
それまでは、大手メーカーが独自に技能検定を行っていました。その技能検定が日本の技能検定に準じていたため、これを元にしながら、インドネシア金型工業会の中小企業を対象に技能検定を行うことにしました。そして、2007年からEPAが終了する2013年3月まで実施しました。
技能検定を取り入れた理由としては、人材育成を行うことで、どのレベルに達しているのか、評価の基準にしたかったからです。現在は、インドネシア金型工業会独自の技能検定も行っています。
それから、この人材育成では外国人が教えるのではなく、インドネシア人がインドネシア人を教えることがベストだと思います。そのため、人材育成の技能検定にインストラクター資格を設けました。この資格を取ってインストラクターとして、自社以外の企業にも教えていくことで、さらに技術を広げることができます。
良い兆し
インドネシア金型工業会の活動を続けてきて、良い兆しが見え始めました。これまで、日系メーカーから仕事を受けていたローカル企業が、さらに技術レベルを向上させて仕事量を増やし会社規模を大きくしています。このようなローカル企業が先行モデルとなり、それを目指して頑張ろうとしているローカル企業が出てきました。
ローカル企業の経営者は、自分たちだけで競争力を高めることは難しいと理解しています。この状況を変える方法として、教育訓練で技術を向上させるのか、合弁会社を設立するのかを見極めようとしています。少しずつですが、産業界の雰囲気は変わってきました。
過去2年で、120社ほどの日系企業が進出してきました。日系企業でも、スタッフはローカル社員なので技術レベルの向上には1~2年はかかります。その間にローカル企業も頑張れば仕事を取ることができます。
人材教育には時間がかかりますが、技術レベルを上げれば仕事が取れるということを示せたことが大きな成果です。そして、ローカル企業の意欲が変わってきたことが良い兆しだと思います。
会長はインドネシア人に
2014年3月には、インドネシア金型工業会の会長の3期目を終えます。本来であれば、会長はインドネシア人がやるべきなのですが、1期2年で6年も携わってきました。次期は、会長をインドネシア人に替えようと提案しています。これまでは、会長を替えられない理由として、人材育成の経費を経済産業省に支援してもらっていたため、定期的に日本に行って経済産業省と話をする必要があったからです。会長として残ったのはそのためです。でも、経済産業省の支援は終了したので、インドネシアの方に引き継いでいきたいと思っています。
金型に関する工業会で会長が外国人なのは、インドネシアだけです。外国人がその国の工業会を作って、先頭に立って運営したという例は過去にはありません。そういう意味では、ひとつの見本ができたのではないでしょうか。
経済産業省は、今後もアジア圏を重視していくでしょう。そうしたとき、支援を受けながら民間レベルでミャンマー、ベトナム、フィリピンなどの国に応用することもできます。
金型を取り巻く状況
この2年間で、日本の自動車関連企業は地産地消を始めました。地元で作るものは地元で使うということです。そのため、地元で作れていないものは、作れるようにしていくという動きになりました。この動きは、2011年の東日本大震災とタイ洪水により、サプライ品の供給が切れてしまったことによるものます。そのときの問題は、自動車部品の最終的な製作会社を把握できていなかったということでした。
2012年、インドネシアに進出して部品を製造してほしいという自動車メーカーの求めから、いっせいにサプライヤーメーカーが進出してきました。しかし、インドネシアには、サプライヤーメーカーの要求を満たすことができる金型メーカーが少ないのです。
私の会社(PT. K.M.K. PLASTICS INDONESIA)では、家電の金型製作を専門にしていたので、自動車の金型製作を受けたことはありませんでした。それが、金型製作ができると自動車サプライヤーメーカーに話をすると、いくつか仕事をいただくようになり、2011年になると仕事が急増しました。ただ、当社のような金型メーカーだけでは製造能力に限界があり、総需要の1%も受けられないのです。そうすると、韓国や台湾から金型を持ってくることになります。
そのため、日系サプライヤーメーカーは、日本の金型メーカーに進出するように呼びかけました。しかし、日本の金型メーカーは9割が20人以下の中小企業です。それが、土地取得、設備投資などで最低でも3億円をかけてインドネシアに進出するかというと難しいと思います。さらに、社員を赴任させるとなると、海外でも任せられる人材になりますが、そういう人材が社内に居ればいいのですが、居ない場合もあります。そうなると、進出できる金型メーカーは限られてしまい、インドネシアで金型メーカーが急激に増えることは期待できません。
■PT. K.M.K. PLASTICS INDONESIA
- 創業・設立: 1992年8月
- 資本金: USD 800,000
- 事業内容:
プラスチック金型の設計・製造・販売及び金型変更・修理
プラスチック部品・二次加工(印刷・塗装)並びに組立品の製造・販売 - 従業員数:760名(日本人スタッフ8名、正社員724名、派遣社員36名)
インドネシア進出について
現在、日本に残って活躍している金型メーカーは、特殊技術、先端技術を持っている企業で、多くの金型メーカーは、大手メーカーが要求する過酷な条件を受けて、生き残るための努力を続けています。
海外進出する決断を簡単にはできませんが、拠点を持つこともひとつの選択だと思います。インドネシアでは、外資で現地法人を設立する場合は、約1億円の資本が必要になります。それは、日本から持ってくる機械設備を含めてもいいのです。また、5年先の計画をしっかり立てて投資水準から事業拡大、売上高を明確に書ければ、資金を銀行から借りられます。もちろん信用と実績は重要なのですが、信用と実績はこれから作るものです。事業計画をしっかり立てれば、不可能ではありません。
それから、投資額を1年で取り返そうというのは、あり得ない話です。せめて5年は必要なので、5年間は海外で暮らすという意気込みを持ってください。
合弁で会社を設立する場合がありますが、メリットとデメリットがあります。まずはメリットですが、全く知らない文化の土地で工場を運営するノウハウや、従業員の確保が非常に楽です。そして、設立認可や法的な問題点がある場合、地場と組んだほうがスムーズに立ち上がります。次にデメリットですが、こちらの合弁先は華僑が多いため、利益配当などの運営に関してのトラブルが比較的多いということです。
インドネシア金型工業会では、無料で相談を受けています。日本では得られない現地事情など、いろいろな問い合わせがあります。また、会社設立についてのコンサルティング会社の紹介も行っています。
インドネシアの進出を考える場合、最初は既に進出している企業で1年ほど研修して様子を見るといいでしょう。日本とは、考え方も文化も違い、この国で守らなくてはいけないこともたくさんあります。
それから、海外ではその国の言葉が話せないと本当の活躍はできません。インドネシア語は、ローマ字読みなので日本人にとって比較的覚えやすいほうだと言われています。日常会話をするには500~600単語を覚えれば問題ありません。英語は4,500単語が必要だそうなので、それから比べると取り組みやすいでしょう。
今後について
インドネシア金型工業会の2013年の狙いとしては、合弁会社を促進して技術革新を行っていくことです。
今後、難しいのはインドネシアの経済がどこに向かうのかです。このまま継続して上がるのか、下がるのか、これが非常に不透明です。ただ、マーケットとしては非常に大きいということ、そしてインドネシアは、輸出産業より、内需に目を向けているので、金型の需要はさらに高まるのではないでしょうか。
インドネシア金型工業会プロフィール
インドネシア金型工業会 / Indonesian Mold & Dies Industry Association (IMDIA)
URL http://www.imdia.or.id/japanese/index.html
(外部サイトへ移動します)
事務所 | Kompleks PT. Panasonic Manufacturing Indonesia, Gedung Graha Managemen YPMG Jln. Raya Bogor Km. 29, Jakarta 13710, Indonesia 電話 +62 21 870 2852 Fax +62 21 871 7864 |
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設立 | 2006年2月 |
事業内容 |
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■インドネシア金型工業会 活動内容
- 会員相互の交流を通じ、経営・技術・技能の格差をなくす。
- 世界の最新技術情報の収集と発信を行う。(情報誌、インターネット)
- セミナー・見学会・研修会等の企画・開催により技術・技能の向上支援を行う。
- 会員の共通する問題点を抽出・分析し、解決案を導く。
- その結果として、インドネシア金型現調率の向上を図る。