人とシステム

季刊誌
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No.73 | 社長インタビュー
デジタルをアナログ化する?! 
3Dプリンターはブームじゃなく革命だ
株式会社 DMM.com 代表取締役社長 松栄 立也 様 株式会社 DMM.com
代表取締役社長
松栄 立也 様

ネット動画配信サービスで成長しているDMM.comは近年、ネットを活用した証券業務や英会話事業、ソーラーパネル事業など多角化を進められています。さらに、昨年にはタレントのビートたけしさんを起用したCMで注目された、3Dプリントサービスも始められました。

この3Dプリントサービスには、NDESが販売する、ドイツEOS社の3Dプリンター「EOSINT M280」、「EOSINT P760」、「FORMIGA P110」の3台を導入いただいており、サービスの拡大を進めておられます。

今回は、「3Dプリンターはブームじゃなく革命だ」とお話しされるDMM.comの松栄立也 社長に、3Dプリントサービス事業の取り組みのほか、ものづくりに対する考え方など、多岐にわたるお話をお伺いしました。

創意工夫で課題を解決

NDES 代表取締役社長 木下 篤
NDES
代表取締役社長
木下 篤

木下 御社は、ネット動画配信にはじまり、証券業、英会話、3Dプリントサービスと事業を拡大されておられますが、まずは、会社の始まりについて教えていただけますか。

松栄 私は元々証券会社で働いていたのですが、当時としては珍しくインターネットも得意だったこともあり、1998年1月に知人の税理士の先生から紹介を受け、ビデオレンタル店などで事業を拡大していた、弊社の亀山会長を紹介されました。お会いしたところ、システム的な考え方に長けた方で、話を聞けば聞くほど面白い方だなと感じ、その年の3月に入社しました。

そこで、インターネット動画の配信サイトを立ち上げることになったのですが、たった2カ月で配信サイトを立ち上げることを約束してしまいました。

木下 2カ月というと大変短期間ですが、どのようにして立ち上げたのでしょうか。

松栄 月々2,000円で2,000本くらいの動画を見放題にするシステムを作りたいと考えていたのですが、いざ始めるとなるとサーバーをどうすればいいのか、課金の仕組みをどうするかなど、悩みばかりでした。そこでまずは、システムを作るのに大手のシステム会社数社に見積もりを依頼したのですが、どこの会社も開発期間は年単位で費用も数億円かかるという回答ばかりでした。

それで自分の力で何とかするしかないと考え、知人の協力などもあり動画を配信できる仕組みに目処は立ちましたが、課金の仕組み作りが難題でした。それで、課金の仕組みだけを見積もり依頼したのですが、こちらも半年以上、数千万円の費用がかかると回答されました。それで悩んでいたところ、クレジットカードの番号と期限を入力するだけで課金ができるということが分かったのです。

それで、ウェブ上でカード番号と期限を入力してもらい、自動的にIDとパスワードを発行する仕組みを作成しました。そして、パート従業員を1人雇って、IDとカード情報をCAT(Credit Authorization Terminal=信用照会端末)システムに1件ずつひたすら手入力してもらいました。これで数千万円の費用がかかると言われた課金の仕組みが、パート従業員1人で解決できてしまったわけです。その後、毎月1,000人単位でユーザーが増えましたが、パート従業員2人で2年間対応できました。結局、いろんな問題や課題は「本当に何が必要なのか」ということだけに焦点を合わせ、創意工夫をすれば意外と解決できてしまうことが多いように思います。

木下 それは面白いですね。もちろん今はシステム化されていますよね。

松栄 不思議としか言いようがないのですが、このころは神がかり的に、人とのつながりでいろんなことが解決できたのです。さすがにシステム化しないとまずいと思い始め、インターネットの本場は、米国だということで米国のシステム会社を探していて、米国のサンノゼにそれらしい会社を見つけました。その会社から紹介されたのが、当時本社があった金沢市の隣町の石川県松任市(現白山市)の会社だったのです。金沢発サンノゼ経由の隣町の松任市ですよ、ビックリしました。結局、その会社にシステム構築を依頼し、数年以上かかるといわれたシステムが1カ月でできたのです。その後、ネット動画配信は順調に売上が推移し、それなりに紆余曲折はありましたが、2004年まで毎年売上高で100%成長しました。ところが、2004年から2010年までは、急に10%程度の成長しかしなくなり、ほぼ横ばいになってしまったのです。それが昨年オンラインゲームの「艦隊これくしょん」(以下「艦これ」)が大当たりし、久々に100%成長しました。ただ「艦これ」がどうして当たったのか全く分かりません。

目的にシンプルに応える

木下 一般的に、経営戦略には分析型とプロセス型というのがあります。分析型は様々なデータなどを分析しながら戦略を生み出すやり方で、プロセス型は行動の中から戦略が生み出されていくそうです。今のお話をお伺いすると、御社はまさしくプロセス型ですね。

松栄 確かにそうかもしれません。ただ、「艦これ」はよく分からなかったですが、3Dプリンターは、必ず面白いことになるという、勘というか確信があるのです。いずれにせよ、シンプルに「目的に応える」ことが大切だと思います。

木下 具体的にはどういうことなのでしょうか。

松栄 例えば人工衛星を打ち上げたいと考えたとします。まず打ち上げるという目的があって、そこからプロセスを考えればいい。しかし、打ち上げることが決まっているのに、その外枠を必死に埋めようとする人が多い気がします。もっと分かりやすくいうと「ここ恵比寿から、渋谷に早く着く交通手段を造ってください」とお願いすると、蒸気機関車を作り出す人がいるんですよ。それで、この機関車のフォルムが美しいとか、自分のやりたいことを説明しだすわけです。しかも、蒸気機関車だとスピードが遅くコストもどれだけかかるか分からない。渋谷まで早く行くのだったら機関車よりタクシーの方がすっと早くて安く行くことができますよ。「求められている目的に対して、応えられるものは何か」という問いに対し、きちんと回答できる企業や人でないとダメだと思います。

デジタルはアナログ化への手段

木下 3Dプリンターについて、それを広く知らしめた「MAKERS」の著者クリス・アンダーソンは、革命だと言いました。一方でブームと見る向きもあります。そのあたりをどうお考えですか。

松栄 その質問に答える前に、少し大きな話からさせてください。偶然ですが我々は1998年にデジタル業界に参入しました。しかし、デジタルで事業をしていながら思うのですが、どう考えてもデジタル市場よりアナログ市場のほうが大きいのです。ごはんも食べなきゃいけないし、電車や自動車を使って移動もしなくてはならない。これらは全てアナログの世界です。世の中では、デジタル、デジタルと喧伝されていますし、確かにデジタルの比率は上がっていますが、実はデジタル市場はアナログ市場に比べると、たいしたことはないのです。

そんな中で、私は、3Dプリンターはデジタルをアナログに変えることができる唯一の装置だと思っています。例えば、音楽の世界では、CDの売上高よりコンサートやライブの売上高の方が大きいと言われています。つまり、デジタルはアナログにいくためのきっかけや手段でしかないということです。デジタルで音楽を聞いて「この人の音楽がいいな」と思ってアナログのライブに行くわけです。結局、デジタルよりアナログの市場のほうが大きいのです。これが逆転するのは映画の「マトリックス」のような世界以外にありえないと思います。では、ビジネスをデジタルで行っている我々が、アナログの世界に行くために何をすればよいのかと考えると、最適なツールが3Dプリンターだったのです。

3Dプリント事業部 事業部長 白井 秀範 様
3Dプリント事業部
事業部長 白井 秀範 様

木下 なるほど。それでは、御社の3Dプリントサービス事業の内容を簡単に教えてください。

白井 弊社のサービスの大まかな流れとしては、ユーザーが作りたい3Dデータをアップロードしていただき、そのデータを基に造形物を弊社が作成して、お客様にお渡しするというものです。作成期間などは、デザインや素材によって異なりますが、特徴的なのはその造形物を弊社のサイトで販売していただくことも可能なことです。

儲からなくても才能が集まればいい

木下 3Dプリントサービス事業としての収益性というのは、いかがなものなのでしょうか。

松栄 3Dプリントサービス事業と言っていますが、実は利益はほとんど出していないです。弊社が手掛ける3Dプリントサービスは、同じビジネスモデルと比べると価格は半額くらいだと思います。下手をすれば3Dプリントの機械の元も取れていないのではないかとさえ思っています。1年後には性能は倍で、価格は半分の3Dプリンターが出てくると思いますが、この1年で何をしているのかというとDMM3Dプリントに才能が集まってくればいいと思っているのです。才能が集まれば何か新しいものが生まれる可能性があると思います。既にすごく面白いものを3Dプリンターで作って欲しいという依頼もあるわけです。そういう意味で3Dプリンターには無限の可能性を感じます。

3Dプリントサービス全体のイメージ
3Dプリントサービス全体のイメージと3Dプリントウェブサイト画面イメージ

※3Dプリントウェブサイト http://make.dmm.com/(外部サイトへ移動します)

ブームじゃなく革新になる

木下 それでは、最初の質問に戻りますが、今後、3Dプリンターは革命になると思いますか。

松栄 なると思いますね。そのきっかけのひとつが、クリエーターが当たり前のように使う、Adobe社のソフト「Photoshop」の中に、3Dプリント用のデータの出力機能が実装されたことですね。本来3次元のデータを紙や写真の2次元でしか出力できなかったものが、3次元で出力できるようになるわけです。まだまだ改善の余地はあると思いますが、これで3D化のハードルを越えたと思っています。しかも「Photoshop」を使っているユーザー数は多いですから、3Dプリンターの世界もAdobe社がスタンダードになるのではないかと思います。さらに、Adobe社がこの機能を出したことは「平面のプロたちが、全員3Dプリンターのクリエーターの予備軍になった」とも言えるわけです。だから、これは凄いと思いますし、これで決まったのではないかとも思います。かつて3Dプリンターはブームになりかけては下火になるようなことを繰り返してきたわけですが、これでブームじゃなく革新になります。「それを使って何をするのか」ということだけが、まだ正直誰も分かっていないというのが現状ではないでしょうか。

トキワ荘ならぬDMM.com荘

EOSINT M280と造形物

木下 そうすると、今後3Dプリンターをどのように使っていこうとお考えですか。

松栄 どうやって使えば面白くて革新的なことができるかという解は、多分3Dプリンターを作った人でなく、3Dプリンターを使うクリエーターが持っていると思います。だから、弊社に才能が集まればいいなと思うのです。

木下 御社としては3Dプリンターがどうあるべきだということを考えているわけではないのですね。クリエーターがこうやれば面白いと考えて方向性を示し、発展していくことを期待しているわけですね。

松栄 そうですね。そこで才能を発揮してもらえればいいと思っています。人が集まってくれればいいし、逆提案もあればいい。最終的には、ものづくり工房のようなものにクリエーターが集まってくれればいいと考えています。かっこいい言い方をすれば、漫画の「トキワ荘※1」出身みたいに、「DMM.com荘」出身なのだと自慢する人が出てくればいいなあと思います。

※1 東京都豊島区にあった木造アパート。漫画家の手塚治虫や石ノ森章太郎、赤塚不二夫、藤子不二雄らを生み出したことで有名。

人の想像することは実現できる

木下 松栄社長はものづくりもお好きなようですね。

松栄 電子工作などもやっていた関係で、ものづくりは大好きです。若い方はご存じないかもしれませんが、昔、「TK-80※2」の本を読んで、コンピュータは本当にすごいと、衝撃を受けたことを覚えていますが、それと同じくらい3Dプリンターには可能性を感じています。それは、インターネットが登場した時よりも、3Dプリンターが現れたことの方がより強いインパクトを感じました。

木下 そのインパクトが、日本の製造業に好影響を与えることを期待したいところです。

松栄 海外の方から日本のものづくりって「魔」改造と呼ばれているってことはご存知ですか。残念なことですが、日本のものづくりは、オリジナリティは低いと言われています。しかし、改造能力に優れ、どんなものでも性能を2倍以上にしてくる力があると言われているそうです。それが「魔」改造だそうで、海外の方から悪魔と思われるほどの改良力があるのですね。ただ、その力を取りまとめてマネジメントする力が乏しい。私はアニメも好きなのですが、マジンガーZの悪の首領「ドクターヘル」以外、仮面ライダーの時代から工学系の人間の首領がいないことが残念でならないのです。これも技術をマネジメントする力のなさの象徴なのかもわかりませんね。

木下 悪になってしまうとダメですが、今の社長のお話しだと工学系の人間へのエールですね。

松栄 そうですね。もちろん悪の首領の「ドクターヘル」になれとは言いません。けれど、アニメの力というか想像力って意外とすごく、宇宙戦艦ヤマトの武器で「反射衛星砲」というのがあるのですが、本当に米国が実現しようとしましたからね。それって結局、ジュール・ヴェルヌが「人の想像できることは全て実現可能だ」と言いましたが、その通りだと思います。実は子どものころに、テレパシーの能力が欲しかったんです。それが今や携帯電話でほぼそれに近いことができてしまうし、その上、テレパシーではできなかった「着信拒否」までできるんですから、凄いことだと思います。まあ、何が言いたいかというと、結構無茶な設定だと思っていたことでも実現していることが多いということです。

※2 NECの半導体事業部(現在のルネサスエレクトロニクス)が1976年に発売した、マイクロコンピュータ(マイコン)システム開発のためのトレーニングキット。

素人の力は凄い

木下 御社の考え方のDNAには、なんでも実現してやろうという部分があり、あらゆるビジネスに夢があって楽しくなりますね。「艦これ」も3Dプリント事業と同じDNAが流れていると思うのですが、少し内容を教えてください。

松栄 大日本帝国海軍の艦艇を、キャラクターに擬人化した「艦娘(かんむす)」と呼ばれるキャラクターのカードをゲーム中で集め、強化しながら敵と戦い、勝利を目指すというものです。たまたま、角川書店の艦隊好きの人と知り合いだったことがきっかけで、生まれました。

木下 これほどの人気になった理由は、何なのでしょうか。

松栄 当初はこれほどまでヒットするとは思っていませんでしたが、設計が「なるほど」という感じになっていることが理由の一つだと思いますね。例えば、「島風」という艦艇はなぜ人気だったのかというとスピードが速かったからなのです。艦艇「雪風」は、全然沈まなかったから人気があるんです。「艦これ」にはそういった属性が全て反映されているのです。改造レベルというものもあるのですが、史実に基づいて改造するんです。知らぬうちに自分も艦艇マニアになっているんですね。また、素人の方の力って凄いんですよ。それもヒットの理由の一つかもしれませんが、実は「艦これ」にはどうやって楽しめばいいというマニュアルは一切書いていないのです。にもかかわらず、この組み合わせが最高だとか、なんだかんだと持ち上がり、マニアたちがマニュアルや組み合わせのデータベースを作り上げてしまっているのです。とにかく、「艦これ」がヒットしたおかげで違う分野にも投資ができるようになりました。基本全て、投資、投資、投資なんですよ。何か大ヒットができるまでやり続ければいいと考えています。

クリエーターの発想が世界を変える

3Dプリント事業部 営業部長 企画営業プロデューサー 岡本 康広 様
3Dプリント事業部 
営業部長
企画営業プロデューサー
岡本 康広 様

木下 3Dプリント事業の話しに戻りますが、御社の3Dプリントサービスは、法人とコンシューマーの両方を対象にされているのも特徴的ですね。

岡本 3Dプリントというキーワードから、弊社のことを知らない方や、今まで考えられない企業様と接点が生まれるのは大きいですね。

木下 依頼がくる造形物に法人とコンシューマーのニーズに違いなどはあるのでしょうか。

岡本 法人はどちらかというと、今の製品を形にすることやコストダウンの方向が多いですね。特に製造業は3Dプリンターで素早く試作品を作って、どうしよう、こうしようという改善のニーズが多いです。だから、我々のところに相談があるのは、試作的な話が多いですね。

木下 コンシューマー向けのニーズはどうですか。

岡本 個人のクリエーターは個性的な要望が多いです。そこから、すごい製品が生まれる可能性があると思います。それがDMM3Dプリントから生まれればいいですね。法人はコストや収益などの関係で、使い方が限定されると思うのですが、個人であるクリエーターは、柔軟で自由ですから、天才的なものを生み出す可能性があると感じています。

木下 日本の製造業はご指摘にもあったように、今あるものを早く・安く作りたい、もしくは改善したいと言う声が多いように思います。一方で、柔軟なクリエーターの発想や能力が発揮されてAppleのiPhoneのようなドラスティックなものを生み出す力はまだまだ希薄なように感じます。御社にはこの2つの部分をうまく融合していただきたいですね。

岡本 他社の3Dプリントサービスは、B2Bが大半なんですね。弊社は法人向けもありますが、ネットで幅広くコンシューマーにも対応していますから、将来的に弊社はその融合が図れるポジションにいるとは思っています。

松栄 先ほど、才能が発掘できればと申し上げましたが、そこでビジネスにつながるような話になれば弊社としては、エンジェル投資家的な動きでバックアップしたいと思っています。

木下 今後も私どもとしては、装置販売は当然ながら、加工技術でのご相談にも応じますし、もっと協業できる場が増えていけるようにしていければと思います。本日は、3Dプリンターの話だけにとどまらず、本当に多岐にわたる貴重なお話しをどうもありがとうございました。

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