人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.77 | システム紹介
製造業におけるAR技術活用について
開発本部 ソリューション開発統括部
基盤ソリューション開発部 部長 鯵坂 昌広

はじめに

人とシステム No.76 「マニファクチャリングラボ(沖縄)の取り組みについて」でご紹介しました、マニファクチャリングラボ(沖縄)での工作機を使った実加工に基づくCAM加工技術開発以外にも、ソリューション開発統括部では、IoT、AR、ナチュラルインターフェースなどの新しい技術の調査・研究および、それら技術を使った製造業のお客さま向けソリューションの基盤開発を行っています。

今回は、その中からAR技術の取り組みについてご紹介します。

ARとは

ARとはAugmented Reality(拡張現実)の略で、コンピューターを使って人間が知覚する現実環境を拡張する技術、またはそれらの環境のことをいいます。人間の持つ知覚には、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚がありますが、現在のAR技術は主に視覚に対して現実環境を拡張するものがほとんどです。

図1 自動車リアカメラのガイドライン表示例
図1 自動車リアカメラのガイドライン表示例

例えば、最近の自動車にはリアカメラが装備されているものが多く、バックギアに入れるとカーナビ画面上にリアカメラの映像が映し出されます。その映像にオーバーレイで、自動車の幅を表すガイドラインや、舵角に合わせたカーブなどが表示され、バックによる駐車操作を支援してくれます。

このようなものがAR技術の実例になります。

また、マンガやアニメーションの世界では昔からグラス型デバイス越しに、人物や物の映像に重なり、その情報がオーバーレイ表示されるという場面がよく出てきます。そういうものもAR技術をイメージする際の参考になるかと思います。

AR技術の仕組み

現在、主流のAR技術は、カメラ上に映し出された映像から情報を取得したい対象物を何らかの方法で認識し、その情報をインターネット経由で取得して、映像に重ね合わせるというものがほとんどです。

日本では、一般的にセカイカメラが初めてのARアプリとされています(2014年1月22日にサービスを終了されています)。

そのARアプリは、スマートフォンのカメラ越しに街の風景を見ると、エアタグと呼ばれる建物上に関連する付加情報(文字・画像・映像)が重なって表示されるというものです。このサービスは、スマートフォンのGPSおよび電子コンパスの機能を使って、現在のカメラの位置および見ている方角の情報を取得すると、そのカメラに映っている建物(実際は地図上の位置)を推測し、サーバー側に管理されているその建物の付加情報を取得して、画面上のカメラ画像に重ね合わせるという仕組みになっています。これはロケーション型といわれるAR技術になります。

図2 マーカーのサンプル
図2 マーカーのサンプル
図3 マーカーレス型AR技術の例
図3 マーカーレス型AR技術の例
(クリックすると拡大画像が表示されます)

他にも、コンピューターが簡単に認識できるマーカーという決まった図形をあらかじめ用意しておき、カメラ上でその図形を認識すると、そのマーカーに関連した情報を取得し、カメラ映像に重ね合わせるマーカー型といわれるAR技術があります。

また、カメラ画像・映像のみを使って、情報を取得したい対象物を認識し、その画像を元に情報を取得して、映像に重ね合わせるマーカーレス型といわれるAR技術もあります。

AR技術は、カメラ機能、インターネット接続機能、位置・方角などを特定するためのGPSおよび電子コンパス機能、高速な描画機能、高速な演算処理機能、デバイスの高い可搬性がそろって初めて実現するものであり、それら機能を標準装備したスマートフォンの普及とともにさらに発展する技術と考えられます。

ARデバイス

カメラ機能、インターネット接続機能、GPSおよび電子コンパスを装備するスマートフォンやタブレットの普及とともに実用に近づきつつあるAR技術ですが、最近さまざまなメディアでAR技術が新しいデバイスと一緒に取り上げられることが多くなりました。

例えば、Google Glassなどのグラスウェアデバイスや、Oculus RiftなどのVRデバイスを使うことで、さらにAR技術が身近に利用していくことが期待されています。

図4 Google Glass装着例
図4 Google Glass装着例
図5 Oculus Rift装着例
図5 Oculus Rift装着例

製造業におけるAR技術の活用例

コンピューティングの発達とともに画像・映像認識の処理速度や精度もかなり高くなり、AR技術はコンシューマーサービスにおいては、問題ないレベルになっています。しかし、製造業が求める精度にはまだ達していません。そのため、製造業でAR技術を利用しようとすると、現状はマーカー型を選択することになります。

現在、ソリューション統括部では、マーカー型AR技術の調査・検証を行っています。その例を二つご紹介します。

図6 マーカー型AR 技術の使用例 その1
図6 マーカー型AR 技術の使用例 その1
図7 マーカー型AR 技術の使用例 その2
図7 マーカー型AR 技術の使用例 その2

例その1

金型や加工に使用する電極などを多数保管・管理されているお客さまが多く、それらを再利用するとき、目的のものを探すことが難しい場合があると聞きます。

そこでAR技術を利用し、金型や電極をスマートフォンやタブレット越しに見ることで、部品番号や、元図面、顧客情報などの必要な情報を簡単に取得・閲覧できるので、目的のものを容易に見つけることができます。

また、製品のCADデータをひも付けることで、寸法値や公差情報などの設計情報を参照しながら製品を見ることもできます(図6)。

例その2

納品物や工具・治具の管理にもAR技術を適用することができます。納品物や工具・治具などの保管場所にマーカーを付けておくことで、探したいものを簡単に見つけることができるようになります(図7)。

おわりに

AR技術は、コンピューターで管理する情報と現実を簡単につなげて見せる技術です。今後、デバイスの発展とともに、現実環境を拡張する技術は、ますます便利かつ一般的になることが予想されます。

私たちは、今回ご紹介したAR技術以外にもさまざまな技術を検討し、お客さまの業務改善・効率化に寄与するためのご提案を行います。