人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.8 | 社長インタビュー
GIS —Geographic Information Systems—

略歴

人物写真
北海道大学
大学院地球環境科学研究科
地域生態系学研究室
教授 山村 悦夫 様

経歴

1965年北海道大学 理学部 卒業
1971年ペンシルバニア大学 大学院修士 修了
1973年工学博士 (北海道大学)
1981年北海道大学 大学院環境科学研究科 教授
1993年北海道大学 大学院地球環境科学研究科 教授
日本地域学会論文賞受賞
1996年国際環境創造賞受賞

所属審議会

  • 北海道開発審議会特別委員(北海道開発庁)
  • 札幌市防災会議委員(札幌市)
  • 北海道防災会議委員(北海道)
  • 北海道経済同友会特別委員(経済同友会)
  • 国際環境創造研究所理事長(国際学会)
  • 北海道統計協会会長

人物写真
日立造船情報システム
取締役社長 桑木 光信

HZS 当社は、製造業のお客様が中心ですが、GIS/GPSはこれからの世の中で脚光を浴びるシステムでしょうから、GISとはどんなシステムか、将来的にはどのように発展していくかなどについて、お伺いできればと思います。

GISとは

山村 GISは地理情報システムというもので、皆様がもっとも身近に感じるのは、カーナビゲーション・システム(カーナビ)だと思います。カーナビで使われている地図は、正確な地図ではなく、見やすいように加工された地図で、これを使って何かを解析するということはできません。これはGISの初期段階の利用になります。

インターネットでアメリカ統計局にアクセスしますと、アメリカ全土の地図が出てきます。州から都市、町へと検索できます。例えばニューヨーク州から、マンハッタン、セントラルパークへとたどれます。さらに、電子地図にいろいろなデータを盛り込み、その年の人口調査検索データベースにアクセスしたりできます。GISの一面、電子地図というのを体験できると思います。

GISには、次の3つの段階があります。

「地図情報システム」

正確な電子地図を作成するためのシステムです。日本はこの地図情報システムのレベルです。

GIS画面
地理情報システム

「地理情報システム」

電子地図に、道路や河川、土地の利用状況、所有者など、さまざまなデータを地図の座標と結びつけて登録し、コンピュータで運用するシステムです。地図に情報を重ね合わせて分析をするオーバーレイシステムと、道路地図上にネットを張って、救急車の手配、配車などと結びつけるネットワークシステムがあります。

この「地図情報システム」、「地理情報システム」のことを、「一般GIS」といいます。

GIS画面
地図情報システム

「CAD/GIS」

次世代GISで、CADをベースに3次元データを作成し、解析します。工場の跡地における地下の汚染状況や、GPSで地震による地層のずれを測定し、地質の解析などに利用します。

CAD/GIS
CAD/GIS

GISの歴史的背景

山村 アメリカは、軍が膨大な予算を投入して24個の衛星を打ち上げました。例えば、湾岸戦争のときに、衛星を移動させて、相手の位置を探知し、攻撃しましたが、あまりの正確さに大変驚いたと思います。

アメリカの再生には、まず行政改革と財政改革のためにGIS/GPSの技術を民間に転用しました。一時シリコンバレー地域が衰退していましたが、このGIS/GPSの技術を民間に転用したことによって再生しました。そして、誰でも簡単にGISが使えるように、WindowsNTが開発されたといってもいいと思います。次から次へと新しいメディアが生まれ、情報産業が活性化しています。アメリカが再生できたのは、実は、GIS/GPSの技術を民間に転用したことによって可能になったのです。

アメリカでの発展過程

山村 1994年にアメリカでは、ゴア前副大統領が、「情報スーパーハイウェイ構想」を打ち出し、アメリカは情報通信分野でリーダシップを取ることを表明しました。情報インフラというと、光ファイバーを利用した通信、インターネットなどのイメージがありますが、そこに高度な情報を流すことが最も重要です。

アメリカでは、この「情報スーパーハイウェイ構想」に基づいて、連邦政府、州政府および地方自治体が管理している紙の地図、人口、住宅、交通、財政および福祉医療などのデータを電子地図化し、重要な情報インフラと位置づけて、データベース化を推進してきました。これらの実現にGIS/GPSの技術がベースにあったのです。連邦政府、州政府、地方自治体および民間企業が数兆円の資金を投入して、アメリカ全土を整備しました。

HZS GISを推進するため大統領令が出され、FGDC(連邦空間データ委員会)が設置され、全米の国土空間データの開発を統合する組織として、データの二重投資を防いだり、地図データの管理など、中心的な役割を果たしたそうですね。

山村 アメリカで行政改革・財政改革を実施したときに公共投資を削減しました。ハードの方を削減されると、企業として成り立たなくなります。そこで出る雇用の喪失を、ソフト面の整備で吸収したのです。アメリカは、土木・建設業界をハイテク建設業界にするために、土木・建設会社の測量部に電子地図を作らせるということを予算化しました。これにより、GIS/GPS関連の雇用者は500万人に達し、大きな雇用効果を達成しています。アメリカはこの分野に投資することによって失業などを防いで、新しい産業を開拓できたわけです。

この結果、市町村のレベルまで電子地図化をして、住民でもアクセスできるようになりました。固定資産税の集計など、日本では膨大な人員を配置して実施していますが、電子地図化してGISを導入すると、一瞬のうちに計算できます。この分野での人員が削減できて、その分、住民サービス、福祉関係などを充実させることができたのです。

HZS 「情報スーパーハイウェイ構想」の原点を理解し直す必要がありますね。GIS/GPSで国民社会の役に立つ情報を流すことが、雇用を促進したり国家地方の安全につながるという強いポリシーがあったのですね。

GISの適応分野

<セキュリティ>

山村 身近な問題としては救急医療、警察のパトロールの配置、各市町村などGISを利用しています。例えば、どこかで事故が起き、救急医療が必要になったとき、どこに救急車、パトロールがいるか、すぐに地図上で確認できます。

次に、地図上でどこの病院が受け入れ可能かどうか調べます。するとその病院と患者の最短ルートが出てきて、そこで救急車にルートを連絡します。このようなシステムを使うと、患者が病院をたらい回しにされるというようなことはありません。

病院をはじめ、セキュリティに関係しているところはすべて、いつもデータベースを更新しなければいけません。いつもタイムリーに更新するために、病院をはじめすべての関係機関に端末が整備されています。ただ単に地図を作るという話ではなく、その地図にのせるデータベースを作るということに膨大な予算を掛けたということです。

<環境問題>

工場では、いろいろな重金属を使っているので、その重金属が地中に埋まっており、地下水にまで影響を与えています。地下の汚染を調べるために、ボーリングしたデータを元にGISに入力しますと、汚染物質がどのような形で地下に広がっているかが分かります。

日本であるメッキ工場が移転し、そのあとに住宅が建ちました。実は何も調べずに住宅が建ったものですから、後から重金属の汚染が出てきて、住民の健康に大変被害を及ぼしたということがありました。アメリカではCAD/GISを使って地質の状態を調べ、住宅地に適さない場合は、別の利用、土の取り替えなどをします。日本の場合は、首都圏からどんどん工場を移転しましたが、その跡地がどういう状態なのか調べなかったので、今になっていろいろ問題が出ています。CAD/GISでは、汚染の状況を解析できますので、どのような対策を取ればいいか判断できます。

<気象>

GIS/GPSを使って気象の予測をしようという動きが出てきています。その地域のアメダスのようなデータを入力するための地図を作成します。それに、GPSを使うと、晴天と雨天の日の電波のずれを測定できます。このことを利用して、どのように雨が降るのか、時間的にどのように移動していくのか、予測できるようなシステムが考えられています。

HZS 気象庁からの依頼で、この分野もお手伝いさせていただいています。GPSで位置の情報が分かり、空中に水蒸気があると電波の透過時間、透過量が変わってくる。それで、気温との関係で雨の予測が簡単にできるということですね。

<森林環境>

山村 森林の破壊が問題になっています。日本は世界でも有数の森林国で、国土の6割が森林です。

森林が生き生きと茂っているのかどうかを把握するのに、歩いて調べるというのは至難の業です。正確な地形図や植生図を作り、ランドサットで航空写真を取り、地図と重ね合わせて、その森林が活性化しているのかどうかを解析します。これも徐々に研究されており、一部実施されています。

<地質>

アメリカ、特にロサンゼルスでは大きい地震が起こるので、活断層がはっきりしています。活断層の正確な地形図を作り、GPSで周りに基点を配置して、地震が起こったときにどれだけ歪みが生じるか、連続観測します。

そして、その地域の住宅の状態、古い住宅、新しい住宅の情報、道路地図などを入力し、地震が起こった場合にどういう被害が出るのかをシミュレーションします。住宅は建設年度によって壊れ方が違います。阪神大震災のときに経験しましたが、基準が厳しい高層建築は壊れていませんが、過去のものは倒壊しています。

人物写真
日立造船情報システム
常務 増見

HZS マンションの構造などは、瞬時にセンターですべて分かりますから、地震が起こったときには、被害状況を把握して、適切な配置、出動が予想できます。GISの力を駆使して人命救助するわけですね。

こういう世の中になったら、状況を早めに想定した対策が打てるので、被害も少なくなるでしょうね。

山村 州、市町村で、常時現場の担当者がデータベースを更新しています。さらに、ガス管など地下埋設物の情報も入力されています。ガス管が壊れた場合に、どのように対応したらいいか、復旧をどうすればいいか、などの情報も入っています。日本ではまだ、地図上に配管が平面的に書かれているだけですね。建設・土木関係でも、工事する場合、埋設管を壊すと大変なことになりますから、細心の注意を払っています。CAD/GISで地下の配管が整備されますと、工事の費用削減になります。

<経営>

銀行の場合、取引先のお客様を電子地図にプロットして、支店から顧客に対しての商圏エリアを作ることができます。所得の統計があり、それを重ねると、どういう所得の人が、どのエリアに住んでいるか分かります。それで、どのような店を配置すればいいかなど、分かります。個人情報ではないですが、ある程度メッシュになっています。

<福祉、医療>

大きな病院などの場合は、患者さんの住宅が電子地図に記入されています。診察に来られた患者さんが、どこに住んでいるかが分かり、住宅環境、周りに工場があって喘息になった、などを把握することができます。診察予約をする場合、何日が空いているかとか、どのような患者さんが診察に来るかといったことも、地図上で分かります。病院によっては、患者送迎バスがありますので、患者さんを迎えに行くルートを決めるのに利用します。アメリカでは、高齢化が進んでいる町で実施されています。

我が国のGISへの取組み

山村 先進国で、日本だけが地籍図を作っていません。登記書に書いてある土地の坪数は正確ではなく、例えば、左から測っていくと、右の端の家は土地がなくなります。なぜかというと、登記されているものと、実際の土地の整合性がとれていないからです。アメリカをはじめヨーロッパでは、膨大な時間を費やして地籍図を作っています。それによってはじめて、皆さんの住宅の財産は守られています。これから、土地を活性化するためには、膨大な時間がかかると思いますが、地籍図を整備していかなければなりません。国土地理院がGPSを設置しています。ディファレンシャルGPSは、2~3mmぐらいの精度で測れますので、地籍図を迅速に作成できるのではないかと思います。これは、国の基本ですので、国がこういうことに投資をすべきだと思います。

日本では、中央省庁や自治体で多種多様の異なる地図を作成しています。残念なことに、まだ国家として統一した電子地図は作られていません。これは、早急に整備していく必要があると思います。日本では、電子地図を作る基準がありません。早急に行政が中心になって基礎を作り整備していくことが望まれます。

アメリカではISO、さらに国際ISOにしていこうという動きがあります。日本も国際ISOに準拠して整備していく必要があると思います。

GISの整備に当たっては、特に情報の公共投資分野を積極的に増やすべきです。1995年10月にNSDIPA(National Spatial Data Infrastructure Promoting Association:国土空間データ基盤推進協議会)が設立され、石原前内閣官房長官が会長を務め、「空間データを社会基盤として国家で整備すること」を提唱しています。日本におけるGISを推進する多くの企業が参加しており、企業が率先して行うことにより、ベンチャービジネスとして発達するでしょう。この分野への民間の投資も増えることは、アメリカでも実証されています。

GISによるコンピュータ社会の変革

山村 住民参加が重要です。アメリカでは、施設への道筋なども、家庭のコンピュータから引き出すことができます。

例えば、落石が起こる危険地域があるとします。情報はそこに住んでいる住民が一番詳しいはずです。落石が起こり、市民自身がGIS/GPSで地図上に入力すると、その情報はすぐに行政に自動的に送信されます。住民が積極的に情報提供をしてくれれば、詳細で最新の情報が手に入り、パトロールの手配も行えます。

救急医療の場合も同じです。ボランティアに参加したいと住民からの連絡がくると、地図上で検索をかけ、どのようなボランティアにどのような人が参加しているかが表示されます。登録を地図上で行い、参加する場所を教えてくれます。GISを導入したことにより、住民参加がしやすくなります。

阪神大震災のとき、最も有効だったのは、パソコン通信で、電話は全然駄目でしたね。パソコン通信のネットワークでメールのやり取りをしました。しかし、中央官庁は全然整備されていなかったので、あのときは状況を把握できなかったんですね。私の場合は、たまたま電子メールが送られて来たので、テレビより先に震災のことを知り、大変驚きました。このようなことは、地図情報が整備されていれば、瞬時に震災状況を把握することができます。実際、定例閣議で状況の把握が4~5時間遅れるというお粗末な事態でした。危機管理に関してはアメリカの得意とするところで、ホワイトハウスまで、きっちり整備されています。日本の官邸にGIS/GPSがないのはおかしな話です。

すべてにおいてGIS/GPSを導入していくことが安全な社会を作っていくのに役立つと思います。それから、市民が情報を提供していく、提供された情報が地図上で入力されて、実際のデシジョンメーカがそれを見て判断できるようにする。市民からの情報というのは重要な場合がありますから。これは、全産業に効果を与えますので、そのための投資はどんどん行っていくべきだと思います。それが行われなければ、いつまでたっても行政改革や財政改革はできないと思います。すべての効果が住民に返ってきます。企業においても、イントラネットワーク効果があります。

事務関係の仕事で日本はアメリカと比べると大変遅れていて効率が悪いのは、GIS/GPSを活用していないからです。これを導入することによって、中間管理職がいらなくなり、イントラ効果で企業が再生します。もっと、顧客へのサービスができる体制で人員を配置し直せます。管理のために時間と人を費やすということはとても無駄なことです。

それから、情報を共有できるということです。今まで個人の頭の中にあった情報が、すべてデータベース化されますから、みんなで共有できます。このようなことが大きな価値です。企業も再生する。行政も再生する。国民もよりよいサービスを受けることができます。

人物写真

HZS デジタル化社会でのGIS発展性の意識を持つことと、国家的な標準データベースを作るということが大切ですね。また、個人も企業も自治体も、同じものを扱う地図情報の標準化を行うことですね。早く標準化を完成して次のステップに進み、GIS本来の利用活用の段階に移りたいですね。標準化ができると次は、地図情報システム、地理情報システム、CAD/GIS、地図をベースとした各種の情報付加、または解析、シミュレーションなどを可能とするソフトの領域ですから、我々も含めてソフトメーカがどんどん開発実用化していくことになります。さらに、GPS、リモートセンシング、インターネットを組み合わせると、世界は大きく変わりそうですね。

HZSに期待すること

山村 GISとGPSは夫婦のようなものです。

HZSのように、この二つの技術を持っているところは、日本ではあまりありませんから、この技術をぜひ活用していただきたい、ということを一番期待しています。次世代のGISはCAD/GISですから、これは、CADメーカでないと対応できません。HZSはCADメーカとしては、相当な業績がありますから、ぜひ、次世代のGISの開発、日本においての導入に尽力していただきたいと思います。

これからは、いろんな要求を持ったユーザが出てくると思いますので、そのユーザに合ったGIS/GPSを提供していくことがとても重要だと思います。きめ細かい、ユーザに合ったアプリケーションを提供し、PCで誰でも気軽に使えるものを提供してほしいと思います。どのような地図も読め、解析できるようなオープンGISが求められます。さらに、国際ISOが入ってきますので、それに対応するようなアメリカの情報を的確にとらえ、これは一企業では対応できない膨大な業務ですから、いろいろなところとネットワークを組んでやっていくのが重要だと思います。

これがひいては日本の再生につながりますし、行政改革・財政改革もそれによって成功するわけですから。こういうチャンスは100年に一度あるかないような国家的な大変革の時期で、明治維新以来の変革の時期だといわれていますから、商売だけでやっているのではなく、日本の再生のために企業が役立つ、貢献するという立場でぜひ推進していただきたいと思います。

HZS GIS/GPSの技術だけではなく、社会的な重要性をよく認識して、ビジネスだけではなくて、社会に貢献できるものだという確信を持って取り組んで参ります。いろいろな面で、今後も益々ご指導していただくことが多いと思いますので、よろしくお願いいたします。