人とシステム

季刊誌
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No.81 | 社長インタビュー
3Dプリンターでものづくりを革新
積層造形のパイオニアであるナブテスコが
産業用3Dプリンターを活用した製品の製造に挑む
ナブテスコ株式会社 執行役員 技術本部副本部長 兼 事業企画部長 尼子 清夫 様 ナブテスコ株式会社
執行役員
技術本部副本部長 兼 事業企画部長
尼子 清夫 様

ナブテスコ様は、モーションコントロール技術を中核に、産業・生活・環境の幅広い領域で事業を行っています。同社は3Dプリンターを活用した製造技術の研究開発に取り組むため2015年7月、ナブテスコ デジタル・エンジニアリングセンター(NDEC)を開設しました。NDECでは、ハイエンド金属3Dプリンター「EOS M290」を導入し、デジタルエンジニアリングによるものづくりの変革に取り組んでいます。EOS M290導入の狙いや今後について、同社の執行役員 技術本部副本部長 兼 事業企画部長の尼子清夫氏に、お話を伺いました。

モーションコントロール技術を核にした事業展開

NDES 代表取締役社長 木下 篤
NDES
代表取締役社長
木下 篤

木下 はじめに、御社の生い立ちや事業活動について、お聞かせください。

尼子 ナブテスコは、それぞれ長い歴史を持つ帝人製機とナブコが2003年に持株会社を設立して、生まれた会社です。両社は神戸の財閥である鈴木商店の系列で源流が同じです。ナブコは1925年に設立された日本エヤーブレーキが1992年に改称した企業で、帝人製機は1944年に帝人から機械部門が分社化した企業です。同じ源流を有する両社の製品、コア技術、企業文化を融合することが、企業価値の増大、持続的な成長を図る上で有効である、という判断のもとに経営統合いたしました。現在ではモーションコントロール技術(制御技術によりモノをうまく動かすこと)を中核に、産業、移動、生活、環境・エネルギーなどの幅広い領域で事業を展開し、売上高は経営統合時の3倍、営業利益も1桁アップという大きな成果を上げています。

木下 具体的な事業内容はどのようなものでしょうか。

尼子 ナブテスコは8つの主要事業(6社内カンパニー &グループ企業2社)を行っています。まず、産業分野では「精機カンパニー」が主に産業用ロボットに組み込まれる精密減速機を、「パワーコントロールカンパニー」では建設機械用走行ユニットを製造しています。人や物の移動に関わる分野においては、「航空宇宙カンパニー」がフライトコントロール・アクチュエーション・システム(FCAS)や航空機用各種アクチュエーターなどを提供しています。また、「鉄道カンパニー」では鉄道車両用ブレーキ制御装置や鉄道車両用ドア開閉装置を、「舶用カンパニー」では船舶用主推進遠隔制御装置などの製造とエンジニアリング事業に取り組んでいます。人々の日常生活に関わる領域では、「住環境カンパニー」が建物・産業用自動ドアや福祉・医療関連機器をそれぞれ製造しています。さらに、環境・エネルギー関連では、新規事業として、風力発電機用駆動装置や太陽追尾駆動装置を提供し、再生エネルギーの分野で市場開拓に取り組んでいます。

ナブテスコの自動ドアを採用したスイス ベルン郊外のショッピングセンター
ナブテスコの自動ドアを採用した
スイス ベルン郊外のショッピングセンター

木下 そういえば、最近「ナブテスコって、ナンデスコ?」というフレーズのTVコマーシャルを聞くことが多くなりましたが、以前から国内外で高い市場シェアを有する製品がいくつもあるとお聞きしています。

尼子 例えば、航空機の飛行姿勢を制御するFCASでは世界有数のメーカーの1社ですし、産業用ロボットの関節に使われる精密減速機では世界トップシェア(約60%)を有しています。また鉄道用車両用機器では新幹線・在来線のブレーキ装置で約50%、ドア開閉装置では約70%の国内シェアを有しており、海外市場の開拓にも取り組んでいます。中国の高速鉄道向けブレーキでは約40%のシェアを有しています。さらに建物用自動ドア開閉装置の国内シェアは50%以上であり、世界シェアでも20%程度とトップグループの一角を占めています。このようにさまざまな分野で高いシェアを持つナブテスコブランドのさらなる認知度向上に取り組んでいます。

アディティブ・マニュファクチャリングを推進する
3Dプリンター技術

木下 尼子さんが担当されている技術本部の役割、そして昨年7月に開設されたナブテスコ デジタル・エンジニアリング・センター(以下、NDEC)の目的についてお聞かせください。

尼子 先ほどご紹介した各カンパニーが持続的な成長を続けていくためのロードマップを技術面から支えていくのが技術本部の最大の役割です。NDECは、そのロードマップの中で重要なデジタルエンジニアリングによるものづくりを革新することを目的に設立しました。デジタルエンジニアリングを実現するためには、データをデジタル化して、3次元化し、最終的には産業用3Dプリンターであるアディティブ・マニュファクチャリング(以下、AM)システムで、積層造形することが重要であると考えていました。ナブテスコには、光造形システム(産業用3Dプリンター)を開発し、それによって製品開発の現場の支援を行うシーメットというグループ会社があります。AMシステムで試作から製造までを一挙に行うことができるようにすれば、製品開発のリードタイムを短縮することができると考え、同社の知見を活用してまいりました。加えて、2015年夏にNDESからハイエンド金属3Dプリンター「EOS M290」(以下、EOS)を導入し、京都リサーチパークに開設したNDECにて、EOSの稼働を始めました。

木下 NDECを京都に開設した理由は何だったのでしょうか。

尼子 国内主要生産拠点(8カ所)のうち、6つ(三重県、岐阜県、兵庫県)が京都から半径100kmの場所にあるという地理的な理由が1つあります。またオープンイノベーションで、外部の力を借りたいというときに、京都には多くの大学や研究機関をはじめ、オムロンや島津製作所などに代表されるものづくりに長けた企業など、いわゆる研究者や技術者の智恵が集積している場所であり、我々が進めるデジタルエンジニアリングによるものづくり革新の力になるだろう、と感じたからです。

木下 NDECでは、EOSが設置してある部屋の隣室にはシーメットの光造形システムが設置されています。それぞれの役割が違う造形機を活用し、ものづくりへの取り組みを深耕する姿勢に正直驚きました。

尼子 ものづくりでどう勝っていくかが極めて重要で、海外に工場移転しても、ものづくりの原点として、国内工場で減速機やアクチュエーション、鉄道用ブレーキなどのコンポーネントを作っています。それをコアにして、設計・製造していくわけですが、ものづくりが3D化すると、開発期間の短縮だけでなく、さまざまな目的のためにAMシステムを活用するようになります。そのためのノウハウや運用の仕方、プロセスの変え方をNDECで試し、蓄積していくつもりです。

マーケットに直結した技術開発を目指す

EOSで造形したJAXA向けスワラー部品
EOSで造形したJAXA向けスワラー部品

木下 御社がターゲットとされる市場はどのような分野でしょうか。3Dプリンターを武器に展開されるとすれば、やはり多品種少量のニーズが多い航空宇宙分野でしょうか。

尼子 ナブテスコは専門性豊かな「グローバルニッチトップ」というポジションですが、航空分野・ロボット分野・建機分野など、グローバルでのトップクラスの企業との取り引きが多くなっています。航空分野に限らず、そうした世界の一流企業を大切にしながら、3Dエンジニアリングや積層造形を追究し、お客さまとも一体となって開発していきたいと思っています。

木下 今まで、ものづくりというと、切削加工や塑性加工がほとんどでした。それに対して、積層造形はいわば粘土細工のような加工法で、新しいものづくりの手法といえます。この手法を使えば、今までできなかったものが、例えば金型では成形できなかったものが積層造形で成形できるようになります。そうした新たなものづくりへの取り組みも狙っておられるのですか。

尼子 そういった面もありますし、各カンパニーの事業では、多品種少量生産といった需要も出てきています。それに従来の機械加工ではできない複雑形状のものもあります。こうした加工の制限などで従来できなかった複雑な形状の製品が作れるということは、設計プロセス自体から変えていく必要があります。技術本部にはCAEを担当している専門部署があり、古くから3Dに取り組んでいます。NDESが提案するCAEソフトウェアを活用したり、材料技術も強化して、取り組んでいきたいと考えています。

木下 今後、AMシステムをどのような分野、顧客に展開することを考えておられますか。

尼子 量産一歩手前にある金属の積層造形には高い付加価値があります。航空機のエンジン回りやフライトコントロール、鉄道、福祉事業でも大きな可能性があるとみています。特に航空分野は米国のエンジンメーカーが先鞭をつけているので、数少ない日本の取引企業であるナブテスコとしては、すぐにでも参入すべき分野だと考えています。

木下 まずは技術本部が技術的革新を取り込み、マーケットニーズに合わせた新たな設計プロセスを確立し、カンパニーで実践的に適用していくわけですね。

尼子 そうです。私たち技術本部が手掛けている技術はマーケットと直結しており、取引先企業の要請や事業環境そのものが遅かれ早かれそうなっていきます。

積層造形で大きく変わる製品の認証

木下 米国では、多品種少量生産に向いているAMシステムを何百台も導入し、大量生産を行う構想があるようですが、御社ではどのようにお考えですか。

尼子 米国の企業がやっているような巨大な仕掛けは今すぐにはできません。ただナブテスコはそうしたお客さまと直結しているので、入ってくる最先端の情報を大事にしながら、AMシステムを使ったエンドユーザー向けの製品の設計・開発から生産プロセスにわたる技術革新や効率の最大化に挑戦していきます。

木下 AMシステムを使うことで、ものづくりはどう変わるのでしょうか。

尼子 設計の基本から見直す必要があります。それは、工場が主体となったものづくりをすることを前提にしたものになります。そうすると、生産プロセスが変わるので、設計者は複雑な設計図を3Dデータで製造部に渡せるようになります。今まではそんな難しい設計図を渡しても、できるはずがないと言われていましたが、それが可能になります。

木下 昔からCAEを用いて最適化を目指してきていましたが、成形性の限界や加工方法の制限で最適形状にならない課題がありました。例えば金型の冷却管は数学的には最適化形状を求めることはできましたが、実際にはそうした形状を製造することはできず、直線状の冷却管としていました。それがAMシステムで作ることができるようになるわけですね。ただ、誰が認めるのかということが問題になります。航空部品や機能部品にはさまざまな検査があります。今までは設計して、試作し、製品を作って、認証を受けていました。それがAMシステムを使うことで、大きく変わるような気がします。

尼子 変わってしまいます。エンジン製造企業には部品レベルの認証と材料の認証があります。従来は工場でフライス盤を使って削り、型を取って、そこから仕上げていました。その際、マシニングセンターはこれ、材料は鋳物だという具合に米国連邦航空局(FAA)が認証します。そこで一旦区切って、次に部品レベルで、FAAがまた認証していきます。AMシステムを使うと、それがなくなります。最初からモニタリング・インスペクション(査察)を入れ込んで、問題なく成形できていることを確認し、結果的にうまくいけば、再現性は十分にあることになります。従来のように区切らなくなるので、途中の検査は不要になります。モニタリングで正常に動作しているかどうかを確認する認証制度になり、プロセス認証が工程ごとになっていたのがなくなるわけです。

木下 モニタリングすればよいというのは分かりますが、それで部品の欠陥が分かるのでしょうか。後処理で超音波検査や非破壊検査で確認しなくてはいけないと思うのですが、どうなのでしょうか。

尼子 EOSもプロセスノウハウを蓄積していますが、こういう場合はどうするかという具体的なプロセスは、私たちとお客さまで作り込んでいかなければなりません。

木下 例えば造船の分野では船級規定というものがあり、船体や機関、設備などの規定に沿った検査が行われています。航空機分野はどうなのでしょうか。

尼子 大型機械ではなく、部品レベルなので、インプロセスモニタリングで、アルゴリズムを作って、ソフトウェアでコントロールしていくことになります。

"シェフ"として
EOSを電子レンジのように使いこなす

木下 話は変わりますが、私はEOSが電子レンジのような存在になるべきだと思っています。電子レンジは、例えば酒のお燗をつける場合に、必要な時間と出力を選ぶだけで設定できます。それと同じように、EOSもボタンを押せば積層スピードやレーザー照射量が決まるというのが理想です。ただ、材料によっては成形性が異なったり、成形する形状に限界があるため、それを実現するのはなかなか難しいでしょう。

尼子 プロセスをどんな形にして、どういうノウハウを入れていけば、時間短縮できるのか。ナブテスコは料理の“シェフ”みたいな存在になるべきだと思います。調理器具はEOSを使いますが、混ぜる材料と調味料、水の分量や調理の仕方などに独自のノウハウがあります。それで時間が制御され、おいしい料理、つまり高品質のコンポーネントができ上がるのです。

木下 自ら考案したノウハウのもとで製造された部品や製品は、同じEOSを使っても同様のコストや性能を持つ製品ではない、ということになりますね。

尼子 確かにそれは理想です。そのやり方が航空以外の分野にも波及し、高価な材料が出てきて、それを扱いながら、多品種少量ですぐに開発できるようにしていくことが目標です。今まで、新しい製品を開発する際には協力会社に試作品を作ってもらう必要があり、材料を渡して完成までに半年以上かかっていました。しかも、それで失敗すると、もう一度、最初からやり直さなければなりません。それが今ではトライ&エラーでも、1カ月で答えが出ます。まず光造形で形を作って、積層造形で本体作りに着手し、表面温度が上がらないなどの問題があれば、経験を積んだシェフが出てきて、調味料を変えたり、火加減を見たり、鍋の大きさを調整したりして、うまく作っていくのです。

知見の上にノウハウを蓄積し提案につなげる

木下 そう考えると、材料がこれからのキーになりますね。

尼子 樹脂でも金属でも材料がカギです。その上で、プロセスノウハウと造形装置としての特徴がありますので、EOS装置およびそれを活用するプロセス確立でこれだけできるという世界をどのようにして実現していくかが大きな課題です。

木下 材料ではその特性を管理、保証することも重要ですね。

尼子 引っ張り試験などを行う必要が出てきます。これもNDESやEOS社と一緒にやっていきたいと思います。両社との関係をよりオープンにして、扱う分野の焦点を絞って取り組んでいきたいと考えています。

木下 EOS社との関係について具体的にはどのような考えをお持ちですか。

尼子 現段階では「装置ありき」というところですが、周辺装置から材料粉末、プロセスノウハウ、運用ノウハウ、最後にインプロセスモニタリングと順を追って、つないでいきます。私たちはものづくりの会社で、設計やエンジニアリングを行ってきたわけですが、その知見とノウハウをフルに活かしていきます。EOS社に対しても、設計をこう変えた方がよいのではないか、こうすれば改善できるのではないかなど、提案を積極的にしていきます。

木下 私どももその提案にぜひ、お力添えできればと思っています。

尼子 ナブテスコには今までの知見もあり、周辺装置や材料のノウハウから、プロセスの省略、検査方法までを全てセットで行っていくときに、さまざまな形で示唆を与えることができると思います。そして、EOSの標準機能とは別に、FCASや減速機などの分野では弊社のノウハウでプロセスイノベーションが可能になる環境をNDESと共に作りたいと思っています。

最先端情報をもとにものづくりを変革していく

木下 今、EOS社は磨きまで含めたエンド・ツー・エンド・ソリューションを展開しようとしており、そこに御社が提案をしていくということですね。その上で、NDESも関わってほしいと言われましたが、EOS社とナブテスコが正面から向かい合うときに、NDESに期待されることはどのようなことでしょうか。

尼子 大きく言って、2つあります。1つは、NDESは日本におけるEOS社の総代理店として、ユーザー企業の活用事例を把握できる位置にいます。そこで、ユーザー企業が苦労している点などの情報を蓄積して、それを情報の引き出しとして提供してもらうことを期待しています。もちろん、中身まで詳細に言えないかもしれませんが、私たちがヒントにできる情報はたくさんあると考えています。

もう1つはソフトウェア・アルゴリズムです。AMシステムに関わるアルゴリズムの標準モデルを開発していただきたいと思っています。それをもとにユーザー固有のモデル開発に取り組むことができれば、開発時間を大幅に短縮できます。私たちはプロセス改革に取り組んでいますが、ハードウェア中心で、ソフトウェア側から見る者がいないため、そうした部分でNDESにサポートしてもらえると、大変助かります。

木下 NDESは自社で3次元CADを開発して、金型マーケットを開拓してきました。システム開発や運用の経験もあり、CAEシステムを活用した設計経験者もたくさんいます。AMシステムも20年以上の経験と実績がありノウハウも蓄積していますので、御社のご期待に沿えるようなサポートに尽力いたします。

最後にNDESへのご要望をお聞かせください。

尼子 EOSを導入して、これから運用や材料、認証の問題などが具体化してきます。そうした中で、NDESにはナブテスコの課題だと思うところを引き出して、私たちのロードマップの先に何があるか、EOS社が知っている内容を指し示してもらうことが大事だと考えています。材料やインプロセスモニタリングは大体把握することができました。ものづくりを考えたときに、3Dとデジタルエンジニアリングで設計が変わり、サプライチェーンも変わっていきます。これから5年後、10年後どこに行くのか、一番よく知っているのはその最先端にいるEOS社です。EOS社と強いパートナーシップを結んでいるNDESも知り得る多くの情報があります。それについてアドバイスしてもらい、ナブテスコのデジタルエンジニアリングによるものづくりの変革に貢献してもらうことができたらありがたいです。

木下 ぜひとも、御社のものづくりの変革のお役に立てるよう、我々も努力してまいります。

本日は、ありがとうございました。

NDECの皆さん
NDECの皆さん

会社プロフィール

社屋外観
本社

ナブテスコ株式会社

URL http://www.nabtesco.com/(外部サイトへ移動します)

本社 〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-9 JA共済ビル
設立 2003年9月29日
資本金 100億円
業務内容 精密減速機、建物・産業用自動ドア、航空機用フライト・コントロール・アクチュエーション・システム、鉄道車両用ブレーキ制御装置、船舶用主推進遠隔制御装置、建設機械用走行ユニットなどの製造・販売