泉自動車株式会社様は、ステアリングホイールの専門メーカーとして高度な安全性、耐久性、操作性を常に追求され、長年培ったノウハウの技術をもとに、エアバッグをはじめ独自の製品を研究、開発されています。
今回は、GRADE導入の背景、ステアリングホイールのデザイン設計、解析、今後の課題などを中心に、業務本部 開発設計部 開発設計グループ 課長 小泉様、主任 菊地様、星野様にお話をお伺いしました。
事業概要について
当社は、自動車の部品メーカーでステアリングホイールの専門メーカーです。独自の資本で運営し、いろいろな自動車メーカー様と取り引きさせていただいています。自動車に限らず、ステアリングホイールと名がつけば、建設機械、農業機械、モーターボートなども含めて何でも手がけています。当社の売り上げの9割がステアリングホイールで、その内の8割が自動車メーカー様にOEM (Original Equipment Manufacturing)で出しています。
ステアリングホイールの材質は、鉄のプレス成形品やアルミニウム、マグネシウムのダイカスト鋳造品が内側に入り、外側をプラスチック樹脂で覆うという構造ですから、樹脂成形メーカでもプレスメーカでもなく、総合的にいろいろな技術を使って製品を作っています。
ステアリングホイールは、ドライバーが運転する時には正面に見えるためデザイン的にも厳しい要求があるのはもちろんですが、必ず触る部品ですから、操作性・感触も厳しい要求があります。
また、安全性としてドライバーを事故から守るエアバッグや、ステアリングホイールの外形自体も人間がぶつかったときの衝撃を吸収するように、衝突に対する安全性能をかなり厳しく要求されています。
設備構成
初めてGRADEを導入したのは昭和60年です。それから時代と共に設備を増設して、現在はGRADE/CUBE(FEM-CUBE含む)8台、GRADE DASH/DRAW 4台、ICEM SURF 1台を導入しています。
GRADE/CUBEはステアリングホイールの内側の2.5次元的な設計に使用しています。自動車メーカー様からいただくデータや当社で作るデータは3次元ですが、これの断面を切り、2次元に落とし込んで内側の構造を検討しています。必要に応じて3次元でも設計しています。
デザインの工程
デザインの工程は、デザイナーがスケッチ、レンダリングを書いてイメージを作ります。次に、粘土で立体的なクレイモデルを作り、測定して、点群データ、SPL、ARC、SURFという流れで作成していきます。
基本的には、自動車メーカー様からデザインのデータをいただいて、それから製品設計して製品を作ります。
今までは、デザインは自動車メーカー様で行い、形状が決定した後、設計を我々が行っていましたが、モノ作りの上で問題がある形状だったり、設計的に形状を変更しなければならない部分があったりしました。現状はデザインが決まる前から一緒に仕事を行うことが増えてきており、デザインから当社で行うケースも増えています。これまでは、ここまでは自動車メーカー、ここからは部品メーカーと分かれていたのですが、上流工程から一緒に設計するようになってきました。
自動車メーカー様では、内装部品のデータ化がかなり進んでいます。内装部品どうしの合わせがあり、初期からきれいなデータがないとスキマ・段差などの問題が発生するため、サーフェイスデータを支給されますが、ステアリングホイールの場合はどちらかというと他の部品との面どうしの合わせがほとんど無いため、データ化が後回しにされてしまい、データをもらえずにクレイモデルを支給されたりという場合も多々あります。
ステアリングホイールのデザインは常に新しい試みをしています。デザイナーは、新しいアイテムを採用したりエアバックの縮小化を進めるので、エアバッグ機能や、ホーンスイッチ機構、衝撃を吸収する芯金、振動を吸収するダイナミックダンパーなどを限られた範囲で設計するのに大変苦労します。
また、実車の衝突でダミーが受ける衝撃がどれくらいかは法律で規制されています。日本もそうですが、アメリカ、ヨーロッパにも規制はありますので、それを全部クリアするための設計は非常に難しいのです。
ICEM SURFでの設計
自動車メーカー様からくるデザインの情報がSPLデータの場合やクレイモデルの場合など、いろいろな形態で出てくるようになりました。そのため、どのような状態でも受け入れられるようにICEM SURFを導入し、体制を整えました。
そしてICEM SURFを使ったはじめての仕事は、2種類の似たようなクレイモデルをいただいての設計で、別のクレイモデルのある部分と合わせた形状にしたいという指示でした。完成させる製品の形状がどこにもない状態でしたので、別のクレイモデルから持ってくる部分と滑らかに接合するためには、曖昧なつじつま合わせに優れているICEM SURFが適していました。
この仕事は初めての挑戦で実績が全くなかったので、HZSにはオペレーションやテクニックを教えてもらうなど、大変助けてもらいました。デザインには正解がありませんので、いいのか悪いのかの判断がつかず、作って直しての作業が続きました。また、デザイナーがイメージしているものと違わないように同じ考え方をするように心がけました。それでも内側を検討していく上でどうしても収まらない部分が必ず出てきます。これまでは、デザイナーへ図面でこの辺りの断面を5mmぐらい大きくしてほしいと申し入れても回りの変化のイメージが伝えられなかったのですが、今回はICEM SURFを使って的確に伝えることができました。
今回のようにCADでデザインして自動車メーカー様のデザイナーに、当社に来ていただいて画面上で見ていただき、CADの中で承認を得たのは初めてでした。
GRADE/FEM-CUBEでの設計
ステアリングホイールには内側に強度部材として金属の骨が入っています。今までは、鉄の棒や板が入っていたのですが、エアバッグで軽量化を要求されて、アルミニウムやマグネシウムのダイカスト鋳造品の芯金になってきました。鉄であれば簡易的なプレス型と溶接で製品を作り、実験できるのですが、ダイカストだとそういうことができません。そこで最初の設計段階で精度を上げるために、解析することが必要であり、GRADE/FEM-CUBEを導入しました。
GRADE/FEM-CUBEで解析に取り組んで、モデリングの方法や解析するための物性値を準備するのに約1年かかりました。
- モデリング -
はじめに作った解析モデルは、メッシュを非常に細かく作りすぎて、解析ができませんでした。講習会で習う内容は標準的なモデルリングの仕方で、製品はそれぞれの会社特有のものがありますから、結局それは自分達で、どういう流れで作るのが一番いいのか模索するしかないのです。
- 物性データ -
材料のデータは材料メーカーがある程度持っていますが、ある一定の形に作った材料で試験した結果と製品で作った強度には、違いが出てきます。
異種材料が組み合わされている製品がありますので、異種材料が接合している部分の強度はどうやって出すのかなど、苦労しました。何十回もパターンを考えて形は作ったのですが、ダイカストなどの鋳造品に関しては、鉄のようにある数値を入れれば正解というわけにはいきません。表面側と中では強度が違いますので、製品ごとの物性値を決めるのは、経験の積み重ねしかありません。
- 導入後の効果 -
最初は、実際のデータと解析値が違ったときに何が違うのかが見当もつきませんでした。物性がおかしいのか、モデリングの仕方か、いろいろな変動要因があって、どれが影響して最終的に違ってきているのかがわかりませんでした。それでもモデルを作り直したり、物性のパターンを検討するということを何回も繰り返していくと、それがノウハウになって蓄積していきます。
それから、最初は解析データと実際の製品データとの差があり、かなり工数がかかっていました。いろいろ苦労はしましたが、実際の製品と解析結果との精度は相当上がってきましたので、材質や形状にもよりますが、マグネシウムだと約5%以内の精度になってきています。
また、これまではお客様は実際の製品による実験結果がでなければ判断をしていただけなかったため、多額の費用をかけて金型を作っていました。
GRADE/FEM-CUBEで試行錯誤しながら、平成8年からかなり実績が上がって、お客様にも信頼されるようになってきました。今は我々の作った解析データだけで量産の金型を作る決断をしていただいていますので、トータルの開発費用で見ると相当効果が上がっています。
- 解析の内容 -
今、解析を行っているのは芯金です。胸や頭が当たると想定し、それに合わせて芯金を変形させて衝撃を吸収させるということです。実際の事故は動的な衝撃ですが、衝突の解析は数ランク上の解析で相当難しくなります。また、ステアリングホイールやステアリングコラム等の複数の部品で衝撃を吸収するため、各々の部品への性能割り付けを決め、静的な目標値を決め、それに合わせて静的な変形をさせるようにしています。変形域は弾性域だけではなく塑性域までの解析をしています。現在は実際の衝突との相関はかなりとれています。
今後の取り組み
いま自動車メーカー様では、3次元設計を進めていく方向にあり、部品メーカーにもソリッドで仕事をするようにという動きがでてきています。
当社の部品に対してどのような仕事の仕方を要求されるかが問題です。さきほどもお話しましたが、ステアリングホイールはサーフェイスデータがあれば、お互いの干渉チェックがほとんど必要ない部品なので、他の部品がソリッドになっても、ステアリングホイールはソリッドになりにくいように思います。ソリッドデータを出せば、そのまま解析につなぐことができるということですが、解析用のモデリングの仕方があるので、ソリッドデータをそのまま使えません。
今後、仕事の仕方は変わるでしょうが、一番いいやり方の結論が出ていない状況です。
当社もソリッドで設計をしたほうが、ミスが減っていくと思いますが、人間と時間と費用をかけて投資をしても実際の効果はというとよくわかりません。
いまは2次元の設計を行っていますが、必要に応じて内側の構造もサーフェイスを作ってクリアランスチェックをするなど、本当に効果があるところは3次元で、必要ないところは2次元で設計しています。
これが、いまのところ一番効率がいいやり方だと思います。
まだソリッドは、自由曲面を含んだものを十分に表現できないので、当社のような複雑な曲面で構成された部品に対しては、まだ使えません。設計はソリッドで行っても、デザイン形状を作るのは当分の間ICEM SURFなどを使ったサーフェイスモデラーだと思います。
以前より、当社でNCにつないでいくことが課題としてはあげられていますが、社内より先に協力メーカーでGRADEを導入して、電話回線を使ってオンラインでデータのやり取りを始めています。そういう意味では、協力メーカーとのリンクもうまく取れるようになってきました。
HZSについて
サポートしていただく姿勢が親切で丁寧で、細かいところまで協力していただいています。
GRADE/FEM-CUBE、ICEM SURFに関してもHZSにサポートしていただいたので今の状態があるのです。
会社の個々の形状がありますから、実際の製品と解析データの値が近づいていくスピードというのは、いかにHZSが協力してくれるかによりました。最初の立ち上がりがある程度のところまで早くいけたので、我々でもできるようになったのです。ある程度のところまで早く立ち上がらないと、1年2年の単位で遅れをとってしまいます。
解析のソフトの操作性で何点か要望はありますが、今後良くなっていけばいいかと思います。
取引しているメーカー様で違ったCADを使っているので、データのやり取りが多く、データの変換が正常にできるようにお願いします。
GRADEは自動車部品業界での認知度が上がってきました。昔はHZSのGRADEを使っているといっても分かってもらえませんでしたが、最近はGRADEというだけで分かってもらえます。いい意味で認知されてきていると思います。
おわりに
ステアリングホイールは丸形状でどれも似ているので、汎用性があるのかと思っていましたが、実はいろいろな違いがあって、どれも一品料理だそうです。作成されているモデルを見せていただきましたが、グリップの山谷まで綺麗にモデリングされていて、容量は20Mもあります。自動車に乗ると必ず触っているハンドルがエアバッグ以外にも衝撃を吸収する安全性を追求されていることを改めて認識させていただき勉強になりました。
たいへんお忙しいところ、貴重な時間をさいてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。
会社プロフィール
泉自動車株式会社
本社 | 神奈川県厚木市 |
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創業 | 昭和23年8月19日 |
資本金 | 12,000万円(平成9年度) |
従業員 | 320名(平成9年度) |
主な営業品目 | 自動車のステアリングホイール、シフトレバー、プラスチック成形部品、電子部品 |