人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.9 | システム紹介
3次元ソリッドモデラー活用のすすめ 第1回
[デザイン検討]
東洋運搬機株式会社
滋賀工場 設計部 実験課
CAD担当 主事 横山 正文様

はじめに

東洋運搬機(株)の横山です。滋賀工場 設計部でCADのシステム管理を担当しています。このほど、日立造船情報システム(株)[以下HZS]様から、「3次元設計について」という題で連載の依頼がありました。3次元設計は、一部のメーカでは非常に進んでいますが、一般的にはそれほど進んでいないようです。これから3次元CADを導入しようと考えている、あるいは3次元CADを導入したが、何にどう活用すれば良いかわからない、というところが多いと思います。私自身3次元CADを使い始めて約10年になります。3次元CADについての考え方や使い方を、弊社での具体的な活用事例を参考にして話を進めて参りますので、参考にしていただければ幸いかと思います。

東洋運搬機および滋賀工場について

まずはじめに、東洋運搬機(株)[以下TCM]について簡単に紹介させていただきます。TCMはフォークリフト・ホイールローダなどの産業車両・建設車両をはじめとし、港湾荷役システムなどの物流システム全般を扱う「総合物流システマ」であります(図1)。東洋運搬機というよりもTCMでご存じの方が多いと思います。滋賀工場は琵琶湖の東岸、近江八幡市にあり(図2)、主な製品はフォークリフトなどの中型以下の産業機械です。滋賀工場ではTPM・ISO活動を推進しており、1996年にTPM優秀賞を受賞、1997年にISO9001認証を取得いたしました。

東洋運搬機(株)について

設立:1949年(昭和24年)
資本金:76億円
製品:フォークリフト、ホイールローダなど産業車両、建設車両
   トンネル機械システム、港湾荷役システムなど物流システム全般

図1

滋賀工場について

所在地:滋賀県近江八幡市
設立:1969年(昭和44年)
製品:フォークリフト、ショベルローダ、スキッドステアローダなど
   1996年TPM優秀賞受賞
   1997年ISO9001認証取得

図2

TCMの3次元CADの推移

1984年にHZSのGRADE/Gを導入して以来、2次元設計で活用しています(図3)。3次元CADも1987年にGRADE/SOLIDを導入し、以降GRADE/Shapeを経てI-DEASに至っています。GRADE/SOLIDはモデリング能力も低く、ハードへの負荷も大きかったため、単体部品を作成するのが精一杯でした。それでも、カウンターウエイト(フォークリフト後部のおもり)の重量計算で使用していました。その後GRADE/Shapeを経て、1995年にI-DEASを導入しました。翌1996年、I-DEASユーザ会でのソリッドモデルコンテストに応募し銀賞を受賞、昨年1997年は、ユーザ会での事例発表(「フォークリフト設計におけるI-DEASの活用事例」)を行うとともに、ソリッドモデルコンテストで金賞を受賞しました。

TCMの3次元CADの推移
1984年10月CAD(GRADE/G)導入
設計製図で活用
1987年10月ソリッドモデラ(GRADE/SOLID)導入
カウンターウエイト重量計算で活用
1992年10月ソリッドモデラ(GRADE/Shape)変更
1995年7月I-DEAS導入
1996年4月車両全体モデル完成
1996年11月第7回I-DEASユーザコンファレンス
ソリッドモデルコンテストにて銀賞受賞
1997年7月I-DEASユーザシンポジウムで事例発表
1997年10月第8回I-DEASユーザコンファレンスで事例発表
ソリッドモデルコンテストにて金賞受賞
図3

3次元設計への考え方

ここで、3次元設計についての考え方を少し書いてみたいと思います。3次元CADの導入と活用は、トップダウンで行うべきであるとよく書かれています。確かにそれは理想の形で、現実には設計あるいはシステム部門の担当者が、2次元設計の限界を感じて導入を進めることの方が多いと思います。TCMの場合も、トップダウンの導入ではありませんでした。したがって、導入後は"3次元CADがこんなことに使えるよ"という具体例を示す必要があります。そのために、私は次のような考え方をするようにしています。

(1)素直になること
いままでのやり方よりもっといい方法があるのでは。

(2)3次元CADについて
エキスパートになること。自分のレベルが高くならないと、指導もできません。

(3)できないことより、現状でできることを行う。
現在の3次元CADは使いにくい一面もありますが使える機能もたくさんあります。

(4)根性ではなく熱意をもって
根性では物事は解決しません、担当者のやる気です。

I-DEASの導入

I-DEAS導入前後のことを少しお話ししたいと思います。最近、フォークリフトのデザインが曲面を多用したデザインに変わってきました。ある機種のモデルチェンジで2次元設計の限界を感じるとともに、当時実用的になりつつあった設計指向の3次元CADをいくつか調査しはじめました。最終決定の前に、設計者に対しデモを行ってもらいました。弊社の設計者は3次元CADをほとんど見たことがなかったのですが、全く予備知識を与えずにデモを見てもらいました。その結果、一番使いやすそうだと設計者の感じたものがI-DEASでした。最終的にはそれ以外の要素でI-DEASに決定したのですが、設計者の判断は、この決定に大きな影響を与えました。トップダウンでなく導入する場合、使う立場からの選択を重視する必要があると思います。弊社がI-DEASを選定したポイント(図4)は次の4点です。

導入後は、教育が大切です。基本的な操作は(株)電通国際情報サービス[以下ISID]様の教育コースを受講しました。弊社では、このコースを受講する前に、1週間程度I-DEASを操作して講習を受けることにしました。そうすることで、同じ講習を受けても設計者の理解度がはるかに良くなります。講習後は、オペレーションの習熟度の向上をねらいとして、共通部品の登録を行いました。その後、その登録部品を使用して、アセンブリと機構解析の講習をISIDに行ってもらいました。このとき自社の製品を練習問題にすることで、受講者の理解度が増し、実際の活用時の問題点が明らかになってきます。

上記の教育の間に、データ管理の方法をHZSの担当者と検討しました。ここでのポイントは、ライブラリの管理方法です。データの共有を行うためにもよく議論して決定する必要があります。従来のCADでは、物理的にディスク領域を分割してデータを管理していたので、理解するにはデータ管理の考え方の転換が必要になりました。

(1)設計者の選択 → 実際に使うのは設計者です

(2)使いやすさ → 習得しやすいものがよい

(3)解析の実績 → 今後はCAEとの連動を重視

(4)サポート体制 → 導入後のサポートは非常に重要

図4

I-DEASの活用事例

ここから実際の活用事例の説明に入ります。活用のテーマは次の6項目です。

①デザイン検討

②マスプロパティの計算

③型への展開

④3次元検討

⑤視野検討

⑥FEMの活用

「3次元設計について」というテーマを4回に分けて連載する予定なので、今回は①デザイン検討についてお話しします。次回の第2回で②マスプロパティの計算と③型への展開を、第3回で④3次元検討と⑤視野検討を、最終回で⑥FEMの活用を予定しています。

デザイン検討

近年、フォークリフトのデザインは、曲面を多用した丸みを帯びたデザインになってきました。従来の直線を基調とした平面的なデザインでは、2次元で形状を正確に把握することができました。しかし曲面構成のデザインでは、2次元で形状を把握することは非常に困難です。しかし、3次元であれば誰でも容易に、しかも正確に形状を把握することが可能です。今まで形状把握のために模型を作っているところであれば、3次元CADでモデリングすることをお勧めします。弊社で作成したフォークリフトの3次元モデルを紹介します。1点目は、滋賀工場の主力製品である1~3トン積みエンジン式フォークリフト(通称700シリーズ)のモデルです(図5、6)。

モデル
図5
モデル
図6
上図をクリックすると拡大図が表示されます

このモデルは、すべてソリッドで作成しています。車両の外観を構成する部品だけですが、外側の形状だけでなく内部の形状も正確に作成しています。それは、FEM(有限要素法解析)などの使用する部品があるためです。各部品の詳細寸法が決まっていて、このレベルのモデルが1週間で作成できれば、まずオペレーションは合格だといえるでしょう。デザイン検討用のモデルは、通常シェーディングを行なっていますが、より高品質なアウトプットが必要な場合はレイトレーシングで出力します。このとき、I-DEASのピクチャーファイルを作成して保存しておけば良いでしょう。なお、プリンタは昇華式のプリンタを使用しています。

2点目、3点目は最新のリーチ式バッテリフォークリフトの例です。まず、現行車のモデル(図7)を作成しました。このモデルで、昨年度のI-DEASユーザ会ソリッドモデルコンテストで金賞を受賞しました。それをベースにして形状変更を行い、新型車(図8)を作成しました。この形のフォークリフトはデザインの自由度が非常に小さいので、塗色・デカルを含めてどれだけ新しさが出せるかが、デザインの大きなポイントになりました。最終的に、新型車の方はI-DEASの画面をTIFFデータに変換し、パソコンソフトのPhotoShopでデカルの貼り付けと色の調整を行いました。

モデル
図7
モデル
図8
上図をクリックすると拡大図が表示されます

フォークリフトの外観デザインが、I-DEASの基本機能だけで十分実用になることがわかりました。よほど複雑な自由曲面をもつ製品以外はこれで十分だと思います。弊社では2次元のデザイン画から3次元CGでのデザイン評価へと移行しています。これにより製品の企画段階で完成後のデザインが評価でき、全員が明確なイメージを持って設計に携わることが可能になりました。特に車両の塗装に関しては、多くの案を容易に検討することができるようになりました。今後は、車両外観だけでなく内部の構成部品も作成し、デジタルモックアップに発展させたいと考えています。