人とシステム

季刊誌
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No.94 | トピックス
中小企業経営者が知っておきたい
「働き方改革関連法」改正のポイント
株式会社船井総研ITソリューションズ
代表取締役社長 シニアコンサルタント
西山 直生

はじめに

経営者の皆さま、「働き方改革関連法」への対応はお済みでしょうか。2019年4月1日より、「働き方改革関連法」が改正され、順次施行されています。「働き方改革」という言葉はよく耳にされると思いますが、「働き方改革関連法」について、「詳しい内容はよく分からない」という方も少なくないのではないでしょうか。

今回の「働き方改革関連法」の改正は、企業が事業を継続する上で無視できない内容となっています。特に、中小企業の経営者の皆さまは、今回の法改正の内容をしっかりと把握し、対応できていない場合は、対策を講じる必要があります。

「働き方改革関連法」改正のポイント

「働き方改革関連法」の改正により、2019年4月以降、企業が対応すべき主な施策は以下の通りです。

1)有給休暇取得の義務化
年間10日以上の有給休暇を付与している労働者に、年間5日以上の有給休暇を取得させる。

2)時間外労働の上限規制
残業時間の上限は、原則、月45時間かつ年360時間以内に収める。

3)「フレックスタイム制」の拡充
労働時間の清算期間を3カ月まで延長可能にする。
ただし、1カ月を超える清算期間を設定する場合、労働基準監督署への届け出が必要となる。

4)「勤務時間インターバル制度」の導入
終業時間から次の始業時間の間に一定以上の休息時間を設定する。

5)労働時間の客観的な把握の義務づけ
タイムカードやICカード、パソコン使用時間などから客観的な労働時間を記録する必要がある。
管理職も対象となる。

前述の「1)有給休暇取得の義務化」や「2)時間外労働の上限規制」に違反した場合、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という重い罰則を受けます。

また、企業規模によって法律の施行時期が違いますが、「2)時間外労働の上限規制」以外は、企業規模に関わらず、2019年4月より施行されていますので、中小企業の経営者の皆さまも注意が必要です。

「働き方改革関連法」が
中小企業に与える影響

「働き方改革関連法」により、想定される中小企業への影響は以下の通りです。

  • 人件費・外注費の増大
    有給休暇や時間外労働の上限設定により、従来の従業員では対応しきれなくなった業務(時間)をカバーするため、人員の拡充や、外部委託の促進など、人件費・外注費が増加する。
  • 管理コスト・手間の増大
    従業員の労働時間を客観的に把握することが義務づけられていることや、有給休暇や時間外労働の上限設定により、業務効率を向上させる必要があるため、その管理コストや手間が増大する。
  • 売り上げ・利益の減少
    これまでの従業員数では、時間外労働の制限や、有給休暇の取得義務を満たせない場合、新たな人員を雇用するか、従業員の稼働時間を削減せざるを得なくなり、売り上げ・利益の減少につながる恐れがある。
  • 人手不足の深刻化(法令違反の場合)
    法改正に対応できず、法令違反となった場合、厳罰を受けるだけでなく、企業イメージが悪化し、採用が難しくなったり、従業員の離職率が高まったりする可能性がある。

前述のような影響を最小限に抑えるには、まず、現状の業務を見える化し、無駄な業務を洗い出し、削減することから取り組まれることをお勧めします。その上で、IT・ツールを上手に活用すれば、本質的な生産性向上、さらなる業務の効率化が可能となります。

今回の「働き方改革関連法」改正について、中小企業の経営者の皆さまから、「どう対応すれば良いか分からない」、「人手不足で採用もうまくいかないので、残業時間を減らすことができない」などの課題やご意見を伺いますが、その課題解決のためにも、まずは、法改正の内容を把握し、自社に必要な対策を講じることをお勧めします。

次に「働き方改革関連法」改正への対応について、中小企業の経営者の皆さまにまず、実施いただきたい対策をご紹介します。

働き方改革への第一歩は、
業務の見える化から

従業員数の少ない中小企業が、安易に有給消化の促進や、残業時間を削減すると、生産性が下がり、売り上げ・利益の低下につながる恐れがあります。

法令に定められた範囲内の労働時間でも、生産性を下げないようにするには、まず、現状の業務の無駄を省くことから取り組まれることをお勧めします。

具体的には、以下のような手順で業務を把握し、無駄を削減します。

①業務の流れを見える化する。
会社全体の業務の流れを図(業務フロー)で表現します。まずは、部門単位からでも大丈夫です。

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②業務にかかる時間と作業ボリュームを見える化する。
各業務・作業単位で、それぞれにかかっている時間と作業ボリュームを明確にします。同じ業務を複数の人が実施している場合は、それぞれの人ごとに時間を確認することをお勧めします。

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③業務の流れから無駄や非効率な箇所を探す。
①の手順で作成した現状の業務フローから、無駄や非効率な手順・業務を探します。

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④時間がかかる業務を探す。
②の手順で明確にした業務・作業時間から、多くの時間が割かれている業務について、なぜ時間がかかるのかを調査します。週単位や月単位で整理することをお勧めします。

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⑤無駄な業務を削減するための対策を検討する。
③、④の手順で抽出した、無駄な業務や、時間のかかる業務について、改善につながる対策を検討します。

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⑥改善後の業務の流れをシミュレーションしてみる。
⑤の手順で検討した対策が、問題なく実行できるかどうか、範囲や期間を決め、シミュレーションしてみます。

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⑦改善後の業務の流れを実行・定着させる。
⑥の手順のシミュレーションで業務に支障がないことが分かれば、実際に改善後の業務の流れに移行し、継続することで定着させます。

以上の手順で業務の無駄を削減することが可能です。

ほとんどの現場担当者は、自分自身の担当業務のうち、重要な業務と無駄な業務を判断できません。特に、前任者から引き継いだ作業などは、独自のやり方や判断により生み出された作業であることも多く、そういったところに無駄が多く発生しがちです。

おわりに

まずは、現状の業務について、流れや手順、かかっている時間やボリュームを見える化し、本当に必要な業務を見極めることで、無駄な業務のない、効率的な業務の流れを作ることが必要です。

業務の見える化は、一度実施して終わりではなく、事業や組織・人員、取り扱う商品・サービスなどに変化があった際、随時実施する必要があります。