人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.98 | トピックス
新型コロナ禍の国内製造業の今とこれから
株式会社日刊工業新聞社 編集局 経済部 池田 勝敏

この度、新型コロナ禍における日本の製造業の現状と今後について日刊工業新聞社様にご執筆いただきました。

新型コロナウイルス感染症が日本の製造業に大きな影響を与えています。日本の乗用車メーカー8社の2020年上期(1-6月)の世界生産台数は前年同期比33.2%減の約946万台となりました。昨年から続く世界的な販売減に加え、新型コロナウイルスの影響で国内生産、海外生産ともに落ち込みました。世界的な需要減少やサプライチェーン(部品供給網)の寸断が生産活動に響いています。

ただ、単月で見ると減少幅が縮んでおり、回復傾向がうかがえます。8月は前年同月比12.1%減の約187万台で、中国や米国市場の回復が後押ししています。

自動車は逆風が吹いていますが新型コロナ禍を追い風とする品目もあります。日本半導体製造装置協会(SEAJ)によると、日本製半導体製造装置の8月度の販売高(速報値、6-8月の3カ月平均)は、前年同月比17.3%増の1884億円で、9カ月連続で増加しています。第5世代通信(5G)向け半導体の需要が旺盛で、台湾や中国の半導体受託製造(ファウンドリー)の投資が活発化していることが牽引しています。一方日本製フラットパネルディスプレー製造装置の8月度の販売高(同)は、前年同月比43.7%減の255億円となりました。

8月の鉱工業生産指数速報値(2015年=100、季節調整済み)は88.7で、前月比1.7%上昇。3カ月連続の上昇となっています。新型コロナ禍で停滞していた内外経済活動の再開に伴い、回復基調が続いています。基調判断は「生産は持ち直している」としています。前月は「生産は持ち直しの動きがみられる」でした。

鉱工業生産指数(季節調整済み指数、2015年=100)

働き方が変わる、営業スタイルが変わる

新型コロナ禍では働き方の刷新が求められています。経団連が会員企業を対象に4月に実施した調査によると、「緊急事態発令後の新型コロナへの対応としてテレワークや在宅勤務を導入しているか」との問いに97.8%が「導入している」と回答しました。また調査時点におけるテレワークや在宅勤務者の割合がどれくらいかを尋ねたところ、5割以上が7割を超え、テレワークが一気に普及しました。

働き方の変化は製造現場や展示会を通した提案のあり方をも変えています。自動車工場は自動化が進んでいますが、組み立て工程などは人が介在し、ソーシャルディスタンスの確保が難しいといえます。しかし、「3密」を回避するため、工程や作業の特性に合わせてマスク・フェースシールドの着用や間仕切りの設置などで距離を確保する動きがあります。検温を朝・夕の2回実施し、個々の体温情報を見える化するなど従業員の体調管理も徹底しています。1直と2直勤務者の接触時間が減る措置などを講じるといった動きもあります。

一方「日本国際工作機械見本市(JIMTOF)」を主催する日本工作機械工業会(日工会)は、東京五輪・パラリンピックの開催延期を受け、12月に東京ビッグサイト(東京都江東区)で予定していた「JIMTOF2020」の開催中止を決めました。代替として11月16-27日にオンライン展を開き、動画配信などを活用した製品・技術のPRの場を提供します。ウェブセミナーなどの併催企画も用意しています。

今期の業績予測は厳しいが、
今後に向けた研究開発投資は伸長

各社の業績予想はまちまちです。乗用車7社の2021年3月期では、期末に向けた需要回復と収益改善策の徹底などで、一部メーカーが当期黒字の確保を見込んでいますが、大幅な減益や赤字となるメーカーが目立っています。電機業界も厳しく大手8社のうち5社が営業減益になる見通しです。日米欧に先駆けて経済活動を正常化させた中国市場が復調していますが、米中貿易摩擦の激化も重なってスマートフォンなどハイテク製品を中心に需要回復の足を引っ張っています。鉄鋼大手も、米中貿易摩擦などによる鋼材需要減少に加え、新型コロナ禍が拍車をかけており厳しい見通しです。

厳しい環境下で鉄鋼大手は、設備投資計画を見直しています。高炉の設備は老朽化するほど改修費用がかさむことも踏まえ、経営資源の選択と集中で高炉の停止や拠点閉鎖など合理化策を打ち出しています。各社は今後の需要回復次第で合理化策の前倒し・追加を検討するとしており、設備投資がさらに減額される可能性もあります。

2021年3月期の設備投資額は、乗用車7社がすべて前期比減を計画するなど大企業製造業による投資案件の厳選傾向が強まっています。しかし、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)といった成長が見込まれる分野では設備投資にかかわらず、研究開発においても旺盛な投資意欲がうかがえます。

日刊工業新聞社が実施した研究開発アンケート(有効回答238社)によると、2020年度の研究開発費計画額を回答した102社の合計は、前年度実績1.9%増となりました。リーマン・ショック時に投資を控えたことで復活に時間がかかったことを反省して新型コロナ禍では投資を維持するという声があがっています。また、製薬では持続的成長を狙って積極的な投資を行うなどといった声があり、前年度実績より積み増す企業が多くみられました。新型コロナ禍で当面厳しい事業環境が続くと思われますが、中長期の競争力を見据えた成長投資は続きそうです。

テレワーク、ウェブ会議で新たな商機が芽生える

また、新型コロナ禍で普及したテレワークを商機につなげる動きが活性化しそうです。職場の複合機で受信したファックス文書を自宅のパソコンに転送できる機能など新たなサービスが出ています。

矢野経済研究所によると2020年度のビデオ・ウェブ会議システム市場規模は、前年度比20.4%増の487億円になる見通しです。ウェブ会議システムを中心に需要が拡大しているようです。同研究所の調査によるとテレワークを行った人の8割近くがウェブ会議システムを利用しており、同研究所ではテレワークを円滑に進めるために大きな役割を果たしているとみています。新たな日常をもたらす新型コロナ禍は、企業の新たな成長につながる可能性を秘めています。

ビデオ・ウェブ会議システム市場規模推移・予測(単位:億円)