[マスプロパティの計算と型への展開]
東洋運搬機株式会社 滋賀工場 設計部 実験課 CAD担当 主事 横山 正文様 |
はじめに
「3次元ソリッドモデラー活用のすすめ」第2回として、マスプロパティの計算と型への展開についてご説明いたします。(「①デザイン検討」はNO.9に掲載)
②マスプロパティの計算
マスプロパティの計算は3次元ソリッドモデラーの最も得意とする分野です。3次元形状を定義するだけで体積をデータとしてもつので、重量密度(比重)を与えるだけで、簡単にその形状の重量や重心位置を計算してくれます。
フォークリフトは、前車軸を中心とした前回りのモーメントと後ろ回りのモーメントが一定の比率以上になるように、車体後部に鋳鉄製の重り(カウンターウエイト)を積んでいます。(図1参照)弊社ではカウンターウエイの設計は、すべて3次元ソリッドモデラー(I-DEAS)で行っています。カウンターウエイトは、車両の安定性の上で非常に重要な部品であると共に、デザイン上でもフォークリフトの顔ともいえる部品です。最近のフォークリフトの特徴である曲面を活かしたデザインでは、従来の2次元設計で正確な重量計算は難しくなってきました。

実際の設計では、車両の安定計算から必要なカウンターウエイトのモーメントが算出できます。従来の方法は、先に図面を作成してから重量計算をしていたので、所定のモーメントが得られない場合は、図面修正と重量計算を繰り返し行ってきました。ところが3次元ソリッドモデラーを使用すれば、常に重量計算を行いながら、車体寸法からの制約条件(全長、全幅、高さ、最小旋回半径など)と内部の部品(ラジエータ、マフラー、テイルパイプなど)からのクリアランスを考慮した設計を行うことができます。これにより、試行錯誤の回数が減り、効率アップにつなげることができました。(図2参照)

現在、先に3次元で形状作成(重量計算)を行った後、図面化しています。型作成のためには3次元データを提出するので、図面を提出する頻度は減少しています。カウンターウエイトのモデル例を2つあげます。マスプロパティ計算結果は、専用のウインドウに表示されます。(図3、4参照)

(マスプロパティ計算ウインドウ)

③型への展開
3次元CADで最も効果的な使い方のひとつに、3次元形状データを活用して型を作成することがあります。
残念ながら弊社は自社で型の作成は行っていませんので、ここではあまり効果が出ていません。(図5参照)型に展開している物は、カウンターウエイトなどの鋳物類、ボンネットなどの薄板プレス類です。(図6参照)形状は、通常IGESに変換して提出していますが、最近I-DEASのデータで受け取れるところも増えてきました。

カウンターウエイトでは、データで受け取れない外注業者には、3次元シェーディング表示のハードコピーを図面と共に提出しています。これにより、面構成の把握が容易になるとなかなか好評をいただいています。カウンターウエイトは、マスプロパティの計算ですでに正確な形状を作成しているので、そのままデータ変換して提出するだけです。(図3、4参照)
ボンネットについては、型の種類により2種類のデータを作成しています。外板のプレス用では、外形形状だけです。(図7参照)ボンネット内側のインシュレータ(防熱、吸音材)用には、板厚と内部の補強材・ブラケット類を正確に作成した物が必要になります。(図8参照)どこまでモデル化するかは、型の種類により使い分けていますが、内部を正確に再現したモデルは、ボンネット内部の干渉チェックや強度計算に使用できます。



3次元モデルを正確に作成することにより、ひとつのデータをマスプロパティの計算と型への展開に使用したり、型への展開と干渉チェック、強度計算で使用することが可能になります。したがって、これから3次元を活用しようと考えるとき、2つ以上の活用目的のある部品からモデリングしてはいかがでしょうか。