人とシステム

季刊誌
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No.102 | トピックス
SDGsは中小企業の経営を持続可能にするヒント集
株式会社日刊工業新聞社
編集局 第二産業部 編集委員
松木 喬

はじめに

SDGs(持続可能な開発目標)は、企業経営を持続可能にするヒント集と思っています。

「SDGsはビジネスチャンス」という声を聞きますが、どうでしょうか? 会社のホームページにカラフルなSDGsのアイコンを掲げ、スーツに円形のSDGsバッジを身につければ売上高は増えるかというと、SDGsに賛同しただけでは得られるものはないと思います。問題はSDGs達成に貢献する意識があるか、ないかです。

確かに社会課題や環境問題を解決するビジネスは成長しています。ただし、簡単にSDGs達成への貢献が業績向上につながるとは限りません。そこで、まずは自社の課題解決にSDGsを活用してはどうでしょうか。自社の経営を長続きさせる上で課題はありませんか。その「社内課題」解決のヒントがSDGsだと思っています。

『日刊工業新聞』(月~金曜発刊)は企業活動に関連する情報を提供する産業紙であり、主に職場で購読されており、SDGs報道にもビジネスの視点を入れ、企業活動に役立ててもらう内容を目指しています。これまでのSDGsに取り組む多くの中小企業への取材から、「人とシステム」をご覧の皆さまにもご参考いただける事例を紹介したいです。

従業員、消費者、取引先
地域に根強いファンを増やす

そもそもSDGsは条約ではないので法的拘束力はなく、達成できなくても罰則はありません。ではなぜ、企業はSDGs達成に貢献するように求められているのでしょうか。私の考えですが、企業がSDGs達成に貢献するメリットは会社と社会を良くし、ファンを増やすことでしょう。会社を良くすると従業員が会社に愛着を持ってくれます。ファンとなった従業員は簡単に離職しません。社会を良くすると消費者や取引先、地域がファンになってくれます。従業員、消費者、取引先、地域に根強いファンを増やすことは経営を長続きさせる(=サステナブル経営)重要な要素です。

ここで、実例をもとに、中小企業によるSDGsへの取り組みケースを紹介します。

金属加工業のA社があるとします。同社は従業員10人。社長は「良い仕事をしているけど、大企業に比べ知名度がない」と課題を抱えていました。社長はSDGsを勉強し、捨てていた材料を活用して商品をつくることにしました。SDGsのターゲット「廃棄物を大幅に削減」の実践です。

すると、この取り組みを地元のテレビ局や新聞社が「10人の町工場がSDGs」という気を引くタイトルで紹介しました。番組や記事を従業員の家族や知人も見るはずです。従業員は「うちの会社が話題になっている」と感じ、会社に誇りを持てるはずです。SDGsによって知名度がアップするだけでなく、従業員が会社のファンになる効果です。

次に装置メーカーのB社があるとします。同社の社長は「従業員にも会社に誇りを持ってほしい」と思い描いています。ある日、SDGsが理想の姿と重なると思いました。そして社長は従業員と一緒にSDGsと事業の関係を整理しました。自動化装置は未経験者や障がい者も操作できるのでターゲット「障がい者を含むすべての男女の完全かつ生産的な雇用」に貢献しています。また、新しい目標として廃棄物削減、有害物を含まない材料の採用を掲げました。ターゲット「廃棄物を大幅に削減」「化学物質の健康への影響を最小化」がヒントです。どれも“社会を良くする”活動です。

B社はSDGsに取り組む企業を登録する自治体の「SDGsパートナー」制度に登録しました。SDGs推進企業として積極的にPRして社会から評価され、従業員も“良い会社”と胸を張れるようになります。活動によって従業員が会社に誇りを持つきっかけになります。根強い会社のファンとなった従業員は熱心に働いてくれるので、持続可能な経営につながります。

ターゲットを自社になりに解釈
当然の活動をレベルアップ

繰り返しになりますが、SDGsは「企業を持続可能にするヒント集」と思っています。そして“良いこと”の基準をはっきりと示しています。ターゲットを自社なりに解釈することで、自社に不足する活動を見つけることができます。節電やゴミの分別、交通安全など、「やっていて当然」の活動をレベルアップすることから始められると思います。例えば従業員の健康診断は当たり前ですが、食事の指導や睡眠の改善、トレーニングジムの補助など生活習慣病の予防に踏み込むとどうでしょう。従業員は感謝し、会社のファンになると思います。ターゲット「非感染症疾患による早期死亡を、予防や治療を通じて3分の1減少」に通じます。ぜひSDGsを活用し、社会にも活動をPRして長続きする会社を目指しましょう。

最後にアンケートを紹介します。日本立地センター(東京都千代田区)が2020年11月、関東と山梨、新潟、長野、静岡の11都県の中小企業500社に調査したところ、SDGsを実践している割合は3.4%(17社)でした。2018年の前回調査と比べても2.2ポイントの上昇にとどまりました。

今ほどではないですが、2020年にはSDGsが社会に浸透しており、実際にこの調査でも中小企業のSDGs認知度は5割を超えていました。

あくまで私の考えですが、SDGsを実践していなくても「良い会社」はたくさん存在します。「SDGsに取り組まないと生き残れない」「取引先から外される」と言う人がいますが、もし本当なら調査対象のほとんどの企業は倒産したり、取引先を失っていたりするはずです。

SDGsの実践を検討するなら、「なぜSDGsに取り組むのか」という理由を明確にするべきだと思います。「SDGsをやらないとまずい」という雰囲気にのまれ、理由もなく始めても進展はないと思います。自社が持続可能になるための課題を特定し、その課題解決を理由にSDGs活動を始めてみてください。

SDGsのゴール別のターゲットと経営での取り組み
SDGsのゴール別のターゲットと経営での取り組み
中小企業でSDGsに取り組む企業は少数
「2020年度 中小企業のSDGs認知度・実態調査」(日本立地センター)。n=500
中小企業でSDGsに取り組む企業は少数
対象は関東経済産業局管内(関東、新潟、長野、山梨、静岡の11都県)の中小企業500社