人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.107 | リフレッシュ
新幹線の技術
②海外への展開も期待される快適で安全な新幹線

「トコトンやさしい新幹線技術の本」にて著者の辻村功氏は、「四季折々の日本列島を疾走する新幹線の旅を、より身近なものに感じていただければ幸いです」と記します。快適に旅を楽しめる新幹線には、速く遠くへ移動するだけではない魅力がたくさん詰まっています。新幹線のテーマで最後となる今号は、快適な新幹線を支える清掃スタッフや空調の工夫、世界でも活躍する日本の技術などをご紹介します。

※今日からモノ知りシリーズ「トコトンやさしい新幹線技術の本」(日刊工業新聞社刊2021年5月発行)
著者:辻村 功 [つじむら いさお] 様

日本列島を縦断する清潔で快適な空間“新幹線”

短時間でも完璧な“魅せる”清掃

高速鉄道の運転頻度が世界一である東海道新幹線の東京駅ホームでは、折り返し時間は15分しかありません。さらに東北・上越・北陸新幹線のホームではたったの12分です。そのうち降車に2分、乗車に3分かかります。その残りわずかな時間で、忘れ物チェックとゴミ集め、座席転換、床やテーブルの清掃と同時に窓と座席を整え、必要に応じて座席カバーを交換、並行してトイレ・洗面所の清掃を行い、清潔で快適な車内を準備します。想像を超えるスピードでその作業を終えられているのは、清掃スタッフの技術とチームワークがあるからです。マニュアルに沿った訓練だけでなく、スタッフの提案で小さな改善を積み重ねることで、作業時間の短縮を図り新幹線の快適な旅をトータルサービスで支えています。また、清掃スタッフの明るい色のユニホームから、見せる清掃につながり「乗客を魅せる清掃」を実現しています。

気密・空調・換気が快適の秘密

山地が多い日本はトンネルの区間が長くなりがちです。さらに、世界の高速鉄道と比べてトンネル断面が小さいため、トンネル内の気圧変動は激しくなります。そのため、前号(No.106)で紹介した圧縮波で生じるトンネルドン対策に加え、車内の気圧を一定に保つことが快適な旅には重要になります。現在の新幹線がトンネルに突入しても耳がツンとしないのは、車体が気密構造になっているためです。停車時にドアの両脇を見ていると気密を保つロックが外れるのがわかります。

また南北に貫いて走る新幹線は、外気温の変化や乗客からの発熱などに合わせた細やかな温度調節が必要です。その冷暖房などの空調と密接な関係にあるのが換気です。以前の車両では喫煙の煙や臭い、近年は新型コロナウイルス感染症対策もあり効率的な換気が求められてきました。新幹線は1両で毎分30~40㎡の換気を行い、熱交換器の設置による省エネルギーも図られています。

換気装置における熱交換

空調電源にインバーターを導入することで強弱を調整。入気と排気を混ぜることなく熱交換して、よりエコで快適な空間を作り出しています。

換気装置における熱交換

海外展開する新幹線の技術

現在の新幹線における海外展開としては、インドで建設中のムンバイ~アーメダバード間約500km、アメリカで計画中のダラス~ヒューストン間約380kmなどがあります。

都市伝説まで生み出した新幹線が世界へ

幸せになるドクターイエロー新幹線

黄色い新幹線“ドクターイエロー”は、偶然出会えたら幸せになるという伝説を生みました。正式名は“電気軌道総合試験車”といい、営業列車と同じ速度で走行しながら、電気や軌道などの状態を検測しています。東海道新幹線の開業当初から何回か代替わりし、現在の923形は700系をベースにした試験車で、東海道・山陽新幹線を走っています。東北・上越・北陸・北海道・山形・秋田の新幹線は“イースト・アイ”という白地に赤の塗装の電気軌道総合試験車です。ちなみに中国高速鉄道の試験車も黄色で「黄医生」(=Dr.Yellow)と呼ばれています。

700系ベースのドクターイエロー923形(2008年、岡山~相生)
700系ベースのドクターイエロー923形(2008年、岡山~相生)
日本の700系をベースに誕生した台湾高鐵700T(2012年、新竹)
日本の700系をベースに誕生した台湾高鐵700T(2012年、新竹)

台湾と中国にも伝わった新幹線の技術

2007年に開業した台湾高速鐵道は、日本の新幹線の初輸出といわれています。土木構造物は当初、欧州規格で建設されましたが、車両や信号などは日本から導入しました。最高時速300㎞で走行し、異なる部分もたくさんあるものの、外観や車内は新幹線によく似ています。線路は日本と同じ左側通行の複線ですが保守作業や事故の際に右側通行も可能で、信号システムは当時日本で導入され始めたデジタルATCを採用して双方向の運転が可能なように再構築しました。

日本の新幹線と違う中国の高速列車のおもしろい点として寝台車両の導入があります。山陽新幹線博多開業時に、東京~博多間に寝台列車を走らせる計画がありましたが、夜間走行中に保守作業ができない、周辺への騒音問題などの理由で実現しませんでした。一方、中国では高速列車の走行距離が長く、寝台列車の需要があります。新幹線と車体断面が同じなので、幻の新幹線の寝台車を体験できます。

日本のE2系をベースにした中国の寝台高速列車CRH2E(2011年、上海)
日本のE2系をベースにした中国の寝台高速列車CRH2E(2011年、上海)

リフレッシュ企画は、次号から新たなテーマがスタートします。お楽しみに。