人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.113 | お客様事例
高難度でスピード重視のCFD解析に効果を発揮するSimulation-Space

大阪での創業は1903年という歴史を持つダイダン株式会社様は、建物の空調、給排水衛生、電気設備を通じて快適で良質な空間を提供し続ける、日本を代表する総合設備工事専門の老舗企業です。「建物の“いのち”をつくる」をモットーとする同社では、数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)で空調に関する気流解析に取り組んでいます。CFDソフトウエアは、既存のオンプレミス型に加えてクラウド型のSimulation-Spaceを採用することで、高難度でスピードを重視するシミュレーションに対応しています。

■POINT
1. 高難度でスピード重視のCFD解析にクラウド型のSimulation-Spaceを活用
2. 在宅でも問題なく気流解析が可能となりさらに目指すは全社的な利用環境の構築

■導入ソリューション Simulation-Space(解析ソリューション:Cradle CFD)

●ダイダン様の業務内容
重要案件の施工図作成には欠かせないCFD解析

ダイダン株式会社 イノベーション本部 ソリューション部 ソリューション課 課長代理 間宮 啓介 様
ダイダン株式会社
イノベーション本部
ソリューション部
ソリューション課 課長代理
間宮 啓介 様

ダイダン株式会社様は、空調設備、給排水設備、電気設備の3つの事業を柱として、建物の快適性と機能性を提供し続けてきました。国内では北海道から九州に至るまで支店を展開し、技術開発と支援を担うイノベーション本部も設置しています。同社が携わり完成した物件は、大規模工場、病院、オフィスビルなど全国にわたります。

今回、取材でお訪ねした埼玉県の三芳町にあるイノベーション本部は、全社的なサポートや指導を担う他、新規技術の開発やそこから派生した技術などを、実際の業務の中で活用していくためのさまざまな支援を行っています。その一つとして、CFD解析による空調設備のシミュレーションで、支店からの依頼や研究開発に生かしています。

イノベーション本部ソリューション部ソリューション課課長代理の間宮啓介様によると「CFD解析は年間30件から40件の依頼があって、平均でそれぞれ5から6パターンのシミュレーションを行います。空調であれば、部屋を快適に保つために冷気や暖気を送り込むことや、水などの熱媒体を使って実現するのですが、そういった熱流体解析を行うことが非常に多くなっています」と説明します。

そこでダイダン様が重きを置くのは快適さだといいます。間宮様によると「建物は箱を作っただけでは機能しません。空調、給排水、電気などの設備が不可欠で、単なる無機質な箱に命を吹き込むことが私たちの仕事だと考えています」と話します。

具体的には、設計事務所やゼネコンなどと協力しながら、空調、給排水、電気に関する専門業者として参画します。基本となる設計図は、それほど細かな指示が入っているのではなく、機能要求仕様書といったイメージが強いといいます。間宮様は「全体が分かる設計図から詳細な製作図として起こすのが施工図です。空調であれば吹き出し口の位置などを決めることになり、そこに経験と技術力が生かされます。設計図から施工図になるときの最適化を求めるシミュレーションが重要で、最近では設計図の中に施工段階で気流解析で確認する、という指示が記載された案件もあります。今後はそういうニーズがどんどん増えてくると思います」と説明します。それだけCFD解析が建築に重要視されているということが伺えます。

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イノベーション本部が入る社屋
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ZEB化を実現している北陸支店
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日本古来の伝統的な住まい方を考慮した北陸支店。縁側をイメージした空間に取り入れられた自然換気

●Simulation-Space利用のきっかけ
インターネット検索で見つけたSimulation-Space

ダイダン株式会社 イノベーション本部 ソリューション部 ソリューション課 長谷川 友哉 様
ダイダン株式会社
イノベーション本部
ソリューション部
ソリューション課
長谷川 友哉 様

空調機からの気流の流れを可視化することなど、施工前後の検証を行ってきましたが、その中でいくつかのお困りごとがあったといいます。

実際に解析作業を行っている中のお一人であるソリューション部ソリューション課の長谷川友哉様によると「これまで、オンプレミス型の解析ソフトウエアを使ってシミュレーションを行ってきました。その中で、外部オペレータの方に在宅で気流解析をお願いするにあたり、オンプレミスの環境を遠隔操作することでリモートでの対応を試してみました。けれども、我々でサーバー管理を行わなければいけないし、通信のスピードやサーバーがさほど高機能ではないため処理が遅いなどの問題がでてきました。さらに、研究用途で使用する機会も増えてきたので、今後ライセンスが足りなくなる可能性もあります。この状況を解決できないかと考えて、インターネットの検索で‘気流解析’、‘CFD’という言葉で見つけたのが、Simulation-Spaceのサイトでした」と当時の状況を説明します。リモートで利用するには管理の煩雑さなど、オンプレミス版の課題は、クラウド版のSimulation-Spaceを利用すれば解決できるのではないかと考えたそうです。

2025年1月にSimulation-Spaceの利用契約を結んでいただきました。利用してみた感想について間宮様は「実際に使い始めて分かったことですが、Simulation-Spaceで計算させるとオンプレミス版の数倍も速いことがわかりました。当社のパソコンもハイスペックなものを用意していたのですが、特に高度で複雑な解析になると、Simulation-Spaceでなければ対応は難しいと感じています。もちろん在宅での操作も快適です。さらに、オンプレミス版であればバージョンアップはOSが月に一回、ソフトウエアが年に数回あるので、その間はPCが使えなくなります。その点、クラウド上のライセンスであれば、OS、ソフトウエアを管理することなく、いつでも利用可能で大変便利だと思います」と話します。

●事例
解析用途は実案件と研究開発向け

現在、要求品質が高い案件に対してCFD解析を行っています。過去の実績では、データセンター、半導体工場、クリーンルーム、製薬工場などが対象でした。

例えばデータセンターの場合、センター内の温度を均一にしないとサーバーが熱暴走を起こすことになりかねません。一方、半導体工場、クリーンルーム、製薬工場は、気流だけでなく温度・湿度の要求仕様が厳しく、塵ひとつない状態を担保する必要があり、そのような厳しい条件に対してシミュレーションを行います。一般の建物では、大きな空間のホールやビル入口のエントランスなどの空調が難しい際に、吹き出し口や吸い込み口をどのよう配置すべきかが重要で、シミュレーションから導き出しています。

長谷川様によると「データセンター全体の空調は、事前にお客さまへシミュレーションを確認いただくことが多いですね。また、複数台ある空調機器のうち1台が故障したらどうなるのか、そういうときでも適正温度を担保できるのかを検討する依頼もあります。また、冬の寒い時期に外気を建物に入れて、サーバーの冷却に使う外気冷房システムが設計されたときに、外気の取り入れ口を床のどの位置にすると均一に効率よく外気冷却の効果が得られるかなど、適正温度を保ちながら省エネにもつながるシミュレーションを行いました」とCFD解析の用途の広さを説明します。

今後もデータセンター関連のニーズは増えるとのことで、さらにいろいろな建物の安全と快適さを支えていくことになります。厳しい要求の他にも、一般の建物ではコストや効率面での優位性を証明するためのシミュレーションを行い、提案につなげることもあるといいます。

もう一つの分野として、自社製品の研究開発のために行うシミュレーションがあります。その取り組みから生まれた製品の一つに、実験動物飼育ラックのアイラックシステムがあります。それが、実験に使われるマウスやラットを健康に飼育するための“ケージ個別換気方式の一方向気流のマウス・ラット向け動物飼育ラック”です。製薬工場をはじめさまざまな研究施設に導入され、非常に好評とのことです。

ご紹介した事例のように全社的に請け負うシミュレーションは、オンプレミス版と共存しながらクラウド版のSimulation-Spaceが実働を続けています。

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高難度でスピードを重視するシミュレーションはクラウド版のメリットを生かしてSimulation-Spaceが担当

●事例
支店の建て替えにCFD解析を活用

2022年に竣工した同社の北陸支店(石川県金沢市)の建て替えプロジェクトという自社案件では、自然換気によるZEB(Net Zero Energy Building)化で省エネルギーを実現しています。そこでもCFD解析は活躍したと間宮様は話します。

「我々は、支店の建物を改修してノウハウを蓄積しています。特に注力したのは省エネしつつ快適性を損なわないことです。その中で快適性の評価でシミュレーションを活用しています。ご紹介する北陸支店は、金沢市の春から秋にかけて東南東から吹く卓越風を考慮したシミュレーションを行うことで、効率的な自然換気・通風の利用につなげています。自然と共生するという、日本の伝統的な住まい方を取り入れたもので、昔の縁側風の空間も作っています。この建物を利用している北陸支店の皆さんからは、前よりも快適で良い建屋になったという評価をいただいています」

同社では、建物のエネルギー効率の改善とともに、働く人にとってもより快適な環境を提供しています。

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北陸支店 ZEBソリューション:設計・施工段階からCFD 解析で自然換気の導入効果の予測と課題抽出を行った、換気風量の確保に有効な窓開放の組み合わせのCFD解析の一例
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Simulation-Spaceでの解析ソフト起動画面
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Simulation-Spaceでのシミュレーション画面
(北陸支店と周辺街区の気流分布)

●今後のCFD解析の活用について
CFD技術者を増やしたい

依頼があるシミュレーション対象は今後増えるという長谷川様は「自分たちが施工する段階で確認のためにCFD解析を行うこともあるので、件数はもっと増えていくという予想です。オンプレミス版で解析して1、2時間で終わる簡単なものもあれば、特に時間がかかるのは非定常解析で、ものによってはSimulation-Spaceを使っても3日ぐらいかかる解析もあります。要求がどんどん高度になり複雑なものが増えています」と話します。

今後は、全社的にCFD解析を行える技術者を増やしたいというのが目標だと間宮様は言います。「設計を担当している全国の社員がCFD解析を使えるような環境になれば、もっと活用できる場面が広がると考えています。現場でレイアウトが少し変わるとき、その場でCFD解析で行って確認することができれば、タイムリーに対応できると思います。今は、我々が気流解析を行った後に、現場で吹き出し口を少しずらしたい場合、再度こちらに解析を依頼することがあるため、現場では作業が1日止まってしまうことになります。それが、設計や施工の段階で我々に依頼をしてこなくても、現場の設計者がちょっとしたCFD解析の知識を持っていたら、そこでシミュレーションできるような内容もあると思います。そうなると現場で調整することができるので作業効率がよくなり生産性も上がります」

Simulation-Spaceの評価を伺うと「繰り返しになりますが、オンプレミス版だと対応できなかった案件について、スピード感を持って対応できていてます。お客さまからも評価をいただいていますし、重要案件に役立っているので非常に助かっています」とのコメントを長谷川様からいただきました。

現在、年間2~3割は厳しい要求案件にSimulation-Spaceでご対応されているとのことで、今後もご利用していただくご要望としてコスト的に適している利用料金のご相談をお受けしました。私たちは真摯に検討し、お役に立てるよう尽力いたします。

会社プロフィール

ダイダン株式会社

創業 1903年3月4日
設立 1933年10月10日
資本金 4,479,725,988円
本社所在地 大阪市西区江戸堀1丁目9番25号
従業員数 2,445名(個別:2,070名)
※2025年3月末現在、契約社員・パートタイマー含む
事業内容 電気工事、空調工事、水道衛生工事、消防施設工事および機械器具設置工事の設計、監理、施工
イノベーション本部 埼玉県入間郡三芳町北永井390番地

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