営業本部 造船ビジネスユニット 営業部 部長 広崎 貴 大阪グループ 高倉 俊治 |
3次元艤装設計システム開発の背景
艤装設計は、系統図→機器配置図→装置図→一品図の順番で設計工程が進められます。その設計作業において、大手造船所を中心に様々な外資系の3次元CADが導入されて運用されています。系統図から一品図作成まで一貫して3次元CADを使用している造船所はまれで、その多くは、装置図までは2次元CADで作成し、「装置図をもとに3次元CADへ入力する」という運用方法であり、一品図の作成を艤装システムで行うという設計スタイルが一般的です。

それに対し中小造船所では、いまだに2次元での設計が大きな比重を占めていて、3次元CADの導入が浸透していません。そこには、3次元CADの設計要員の確保が難しいという事情と、設計作業の大半を設計会社に外注しているという現状が背景にあります。外注を受けた設計会社は装置図から一品図の作成までを受け持つ場合が多く、たいてい2次元のAutoCADを利用しています。設計会社が3次元CADを導入し運用していくには、それに見合う明確な効果を見いだすことが必要ですが、大手造船所と同じような運用方法では設計工数を減らすことは極めて困難です。このようなことから中小造船所および設計会社は、艤装設計の3次元化に対し二の足を踏んでいる状態と言えます。
一方で、造船の生産現場では、ベテラン作業者の減少が進み2次元図面が読めない作業者が増えてきて、図面の3次元標記やビューワでの作業指示といった3次元に対する要望が高まっています。設計現場も同様で、ベテラン設計者の減少が進み、若手設計者の早期育成が急務となっています。2次元のみでの若手設計者のスキルアップはハードルが高く、3次元設計への要望が高まっています。
そこで私たちは、比較的小さな投資で導入でき、なじみやすく効果を出しやすい艤装設計システムをご提供し、艤装設計の3次元化に貢献できないかと考えてきました。そして今回、プラント向け機能を豊富に有するAutodesk社の3次元設計ツール「AutoCAD Plant 3D」に対して、艤装設計向けの機能を開発し、3次元艤装設計システム(仮称)管ナビとしてご提供させていただくことになりました。これまで使い慣れたAutoCAD の操作感でなじみやすく、2次元と3次元の親和性も高く、造船会社はもちろん小規模の設計会社でも導入が可能な等身大のシステムで、投資効果をもたらすことが期待できます。
システムの特徴
AutoCAD Plant 3D
Autodesk社が提供する複合型プラント設計ソリューションであるAutoCAD Plant 3Dは、以下の4つの製品が統合されたソフトウェアです。
1. AutoCAD Plant 3D Spec Editor:部品カタログ、配管スペックの作成
2. AutoCAD Plant 3D :プラント設計およびモデリング
3. AutoCAD P&ID:配管系統図の作成
4. AutoCAD Plant Report Creator:部品表、スペックシートの作成

幅広く使われているAutoCADをベースにしているため、トレーニングや準備作業に要する時間を短縮できます。また、コストの高いサーバシステムやデータベースも必要としません。プロセス設計(P&ID)機能に加え、配管クラス/スペックの設定から設計資料の出力にいたるまで、AutoCAD Plant 3Dは簡単に行えるスペックベースの作業環境を提供しています。また、自動ルーティング、線分からの配管変換、ベンド管(ベンダー曲げ)、いも継(枝管)、傾斜管、アイソメ図作成と配管設計に必要な機能は揃っているので、艤装設計で十分に使用できる製品です。
3次元艤装設計システム(仮称)管ナビ
造船艤装3次元設計を早期に立ち上げ、導入効果を確実なものにするため、AutoCAD Plant 3Dの持つ3次元配管設計(配管、管サポート設計等)に加え、造船業界に対応する以下の機能・ライブラリをご提供します。
提供する機能とライブラリ
- 管一品図出力機能
- バンド配置とバンド集計表出力機能
- 舶用シンボルライブラリ
- Beagle連携
それでは、次に各々を説明します。
管一品図出力機能
AutoCAD Plant 3Dで作成したpcfファイルを入力として、管一品図(dwgファイル)を出力します。管一品図の基本構成は、管の形状を示すための描画区画に、エルボやティーなどの部品形状と管を示す線を三角法で示します。さらに、船番、管符号、系統などを記述するタイトル部、パイプリストとパーツリストの表で構成されます。
バンド配置とバンド集計表出力機能
バンドはAutoCAD Plant 3Dのモデル上に、カスタマイズコマンドでバンド(配管サポート)の形状タイプと支持するパイプ(複数可)、バンドの指示面を選択して配置します。バンドは等辺山形鋼とパッド、U-BOLTを組み合わせた形状で表現します。
バンドの形状は右の6タイプとその反転形状からの選択とし、L1、Ln、Y1、Y2寸法は可変とします。

バンド集計表は、バンド配置で配置したバンド情報を元に、Excelで出力します。
舶用シンボルライブラリ
舶用のシンボルとしてJIS-Fのライブラリをご提供します。
Beagle連携
次期開発にてご提供するインターフェースにより、Beagle MobileでのCADデータの利用が可能となり、3次元モデルと関連図書を携帯端末iPadにより生産現場で手軽に参照できます。部品名からのモデルの検索はもちろん、モデル形状からの部品の属性参照が可能です。さらに、iPadで関連図書を参照することで、ペーパレス作業が可能となります。このことから、艤装現場作業でのもの探しの強力なツールとしてご利用いただけます。
また、万が一に備えるため、端末の紛失によるデータ漏えいのセキュリティ対策として、事務所でのデータのダウンロード時点から一定時間経過後に端末内のすべてのデータを自動削除できます。
メリット
以下は、本システムを導入した3次元化のメリットです。
- 設計時に、形状や干渉部分を検証できるようになり、取付時に見つかっていた設計ミスが減り、設計変更や加工部品の追加工数、時間ロスを削減できます。
- 装置全体のバランスを視覚的に確認することができ、おさまりの良い設計ができます。
- 複雑なレイアウトの場合でも、2次元図面に比べ図面のチェックが容易にできます。
- 装置全体のイメージ化がしやすくなり、船主側の図面誤解による設計変更を削減できます。
- 3次元イラスト図が手軽に利用できるようになり、プレゼンテーション資料、作業指示書や手順書を分かりやすく短時間に作成できます。

このように、3次元化のメリットは十分ありますが、3次元設計では2次元装置図からあらためてモデル化作業を行う場合もあり、設計時数が2次元設計に比べ大幅に増加するデメリットがあります。
私たちが配管設計を受託している設計工数の試算は、以下のとおりです。これは、機関室の管艤設計で管本数4,000本、機器モデル定義200個とし、装置図は、3次元モデルから投影して作成する場合です。
2次元設計から3次元設計への移行では、管装置設計の工数は削減できる見込みですが、管装置設計のために船殻モデル・機器モデルを作成する必要が生じてトータルの工数は増大します。
そこで、本システムを導入することにより、管一品図およびバンド集計を自動的に行うことで3次元設計導入による工数が増加しても、それ以上の削減が期待されます。
まとめ
今後も造船所が設計外注に装置図から一品図までを依頼するスタイルが変わらないとすると、本システムであれば、設計外注先において、費用対効果が見込め、現状の限られた設計工数でも、3次元艤装設計システムとして導入していただけると考えております。そして、その結果として、造船業界での3次元化、設計品質の向上に寄与できればと思っております。
また、本システムは開発段階から、設計会社の要望を取り入れて、管一品図の標準化を進めています。さらに、操作教育とユーザーサポートの面でも設計会社と協力して進めていきます。
今後、本システムの導入が広がることで、設計会社間での連携や各種設計ガイドラインの作成および協創活動の普及につながれば幸いです。
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