人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.85 | システム紹介
造船業をITで支援する取り組み
~現場支援・艤装設計支援・技術開発~
株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ
ビジネスインテグレーション事業本部
第一事業部 第一営業部
造船システム営業課 課長 澤田 和弥

1.はじめに

私たちは、長年にわたり造船業をITで支援する取り組みを行ってきました(図1)。船殻CAD/CAMであるGRADE/HULL(以下、G/H)、基幹業務(ERP)システム、そして設計受託・解析受託といったサービスなど、さまざまな分野においてご利用いただいています。また、舶用積付け計算機(ロードメーター)も長年にわたりご利用いただいております。

図1 造船業をITで支援する取り組み
図1 造船業をITで支援する取り組み

近年は、日本の造船業の動向に合わせ、さらなる競争力強化のお手伝いをするために、今まで手薄だった現場支援や艤装設計に力を入れると共に、新しい技術開発にも取り組んでいます。本稿では、「現場支援の取り組み」「艤装設計支援の取り組み」「新しい技術的取り組み」の3点についてご紹介します。

2.現場支援の取り組み

近年、造船業では、設計の3次元化が急速に進んできました。難しいと考えられていた上流設計の3次元化も実現する造船所が増えてきました。このような動向において、せっかく工数をかけて作った3次元データを有効活用する手段が乏しいという課題が顕在化しています。

2.1 Beagleについて

図2 Beagleの機能
図2 Beagleの機能
(クリックすると拡大画像が表示されます)

3次元データを活用するために開発したのがBeagleです(詳細は「人とシステム No.77」をご参照ください)。Beagleは、CADデータから現場用に変換したデータを利用して、現場でブロックの構造・寸法を確認したり、組立要領や揚重・塗装の検討や、切断・曲げ・溶接・塗装の物量を算出したり、さまざまな用途に活用できます(図2)。Beagle導入によって「誤作が激減した」「現場から設計への問い合わせが激減した」「設計と現場の課題の共有と解決がスムーズになった」という成果が出ています。

2.2 近年の現場支援トピック

Beagleにはさまざまなオプションがありますが、最近は特に、溶接と組冶具に注目が集まっています。溶接は、船の建造作業の7~8割を占めるといわれており、施工要領検討・作業指示が大変であることはもちろんですが、予量を算出するだけでも多大な時間がかかります。また、組冶具で時間を要するのは、曲がりブロックの姿勢・配置決め、冶具高さ計算、図面作成です。内構冶具でもロンバルなど折れ曲がっている場合は、地味に手間がかかります。

2.3 溶接物量集計

ここ数年で、溶接物量集計の自動化に取り組む造船所がますます増えています。単なる予量・総量計算だけではなく、CADなどで作成したブロックツリー情報を利用して、溶接物量を溶接ステージ別に算出して、日程計画に割り当てる取り組みを行っている造船所も複数あります。溶接姿勢、溶接機種、溶接マテ、直送部材/貼付部材などのさまざまな条件も考慮して、詳細に物量を算出したり、区画ごとの溶接を原単位に割り当て作業者ごとの作業時間を割り出したり、溶接施工要領図をシステムから自動的に出力するなどして、省力化を進めているところもあります。

2.4 組冶具

G/Hユーザーの多くは、G/Hの機能で組冶具検討や図面作成を行っています。ただしG/Hでは、ブロックの姿勢・配置の細かい調整が困難であるなどの課題があり、Beagleで3次元の絵を見ながら詳細な検討ができないかという要望にお応えして、2014年度に組冶具オプション機能を追加しました。今では、Beagleでの詳細な検討結果をG/Hに戻して、G/Hで続きの図面作成を行ったり、また逆にG/Hで基本検討した結果をBeagleに持っていって、その続きの細かい姿勢・配置の調整はBeagleを使って現場側で行ったりというように、運用の幅が広がるソリューションに発展しています。もちろん、G/H以外のCADデータでも組冶具検討が可能です。

2.5 G/H以外のCADデータの活用

これまでG/Hユーザーを中心にBeagleを活用いただいていましたが、ここ数年でG/Hユーザー以外でもBeagleを導入し活用いただくケースが増えています。

3.艤装設計支援の取り組み

私たちはこれまで、船殻に関するシステム開発を先行して進めてきましたが、造船業向けビジネスを強化し造船向け総合ベンダーとなるという方針の一環で、2014年に艤装CADの開発に乗り出しました(詳細は「人とシステム No.73」をご参照ください)。

3.1 kan naviRについて

図3 3次元艤装CAD 管ナビ
図3 3次元艤装CAD 管ナビ

kan naviR(以下、「管ナビ」)は、艤装設計の3次元化の切り札として私たちが開発した3次元艤装CADです(図3)。AutoCAD Plant 3D上で動作します。AutoCAD Plant 3Dの使い勝手の良い配管部品・機器類の配置機能をベースに、艤装の特徴である「ベンド設定」「バンド配置」「バンド集計表」の機能を備えると共に、「舶用JIS部品」を使うことができます。

使い慣れたAutoCAD上のシステムであるため、実際に使い始めたユーザーに操作性が良いと好評です。また、充実したチュートリアルがあり、チュートリアルを見ただけですぐに運用を開始できそうという感触を持つ方もおられます。

3.2 3次元艤装設計の適用に向けた取り組み

2015年度から3カ年の日本財団助成事業である「3次元艤装設計ツールの導入による中小造船所の人材確保事業」において、「管ナビ」が未熟練者教育用のツールとして選ばれました。本事業は、技術者の高齢化・減少が深刻化している艤装設計分野を存続・発展させる目的で実施されています。昨年度、私たちは実施者である一般社団法人 日本中小型造船工業会がとりまとめた造船所の要望を基に、管ナビの機能追加および管一品図システムの開発を行いました。管ナビにおいては「特殊バンド設定」「バンド製作図出力」「バンド材料集計」など主にバンド関連機能を強化し、主だった舶用機器(180機器)を追加しました。管一品図システムにおいては見やすい図面であることを考慮し、「管符号採番」「カッティングプラン表示」「材料集計表出力」「諸管集計表出力」などを自動化したことで、管一品図作成の大幅な省力化を実現しました。

3.3 IT導入補助金

経済産業省の平成28年度補正予算の中小企業者を対象とした「サービス業等IT導入支援事業」において、「管ナビと管一品図システムのセット(管ナビ プレミアム)」が補助金の対象になりました。本事業は、最大で導入費用(税抜き)の3分の2の補助金が交付されるというもので、多数の造船所・設計会社から申し込みをいただきました。一次募集は既に2月28日に終了しましたが、二次募集・三次募集の可能性もあります。ご関心のある方は、お問い合わせください。

4.新しい技術的取り組み

日本の造船業は、不況の長期化や中国・韓国の生産力向上に圧迫され、新技術開発に取り組む余裕を捻出しづらい状況だといえます。とはいえ、これまで培ってきた高い技術力を背景として、さらなる競争力向上を目指せると考えています。私たちも、拡張現実(AR:Augmented Reality)技術、IoT、ビッグデータ、ウェアラブル、3次元図面などの技術開発の支援に取り組んでいきたいと考えています。

4.1 ARに向けた取り組み

図4 AR技術の取り組み(プロトタイプによる実験の様子)
図4 AR技術の取り組み(プロトタイプによる実験の様子)

ARとは、実映像に仮想情報を付加し人間の現実認識を強化する技術のことです。スマートフォンの普及に伴い、ARに類する技術を使ったサービスが一般に大流行しています。製造業一般でも配管の取り付け支援などさまざまなソリューションが発表されています。このARを造船に応用することも可能であり、私たちもAR技術の活用に取り組んでいます(図4)。

4.2 ロケーション管理に向けた取り組み

造船業は、個別受注生産で部品・部材が多種多様であり、広大な敷地に大きな部品・部材が点在するという事情から、造船所内の物流管理は他製造業種と比べ難しいといえます。艤装品を見つけるために多大な時間がかかったり、艤装品が見つからないので新たに別の艤装品を手配して、後に探していた元の艤装品が見つかったり、ということも決して珍しくはないそうです。広大な敷地に鋼板が点在している環境下では、無線LANを全面的に敷くことは困難です。そのため、無線LANがなくてもGPS/RFID/QRコードなどを駆使したロケーション管理のソリューションが成り立たないかを検討しています。実証実験にご協力いただける造船所を探しています。

図5 Beagleによるデータ活用
図5 Beagleによるデータ活用

4.3 データ活用のさらなる発展形態

Beagleが、多種のCADに対応できるようになり、また逆にデータ出力機能も増やしています。これをさらに発展させ、Beagleを介して多岐にわたる業務間・工程間でのデータを連携することにより、データのさらなる活用形態が実現できると考えています(図5)。例えば、設計CADで作成したデータを、Beagle上で少し加工して、解析や施工要領作成に利用するという基本的な考えに加え、解析などの上流システムのデータを、下流の設計システムや生産システムに渡して活用するなどさまざまなケースが考えられます。

5.おわりに

私たちの造船向けソリューションであるG/H、Beagle、管ナビは共に、年々ご利用いただけるお客さまが増えています。私たちのソリューションの普及が進むほど、業界に対する責任の重さも増していきます。特に、G/Hに関しては「これからもずっとG/Hを使い続けられるようにしてほしい」というありがたいお言葉をいただくことが多く、G/Hの機能強化・新しい環境への追従などを、常に検討しながら取り組んでいきたいと考えています。

また、私たちはERPシステムを複数の造船所にご利用いただいている実績もあります。この業務系の経験・スキルも踏まえて、全体最適化のためのソリューション、すなわち総合ソリューションの構築も行っています。ご興味ある方は、ぜひお問い合わせください。

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