人とシステム

季刊誌
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No.77 | システム紹介
Beagleを利用した造船業における3D活用状況
開発本部 システム開発統括部 エンジニアリングシステム開発部
第一船舶システム課 課長 澤田 和弥

はじめに

前回、人とシステム No.61 「3D船殻ビューワ Beagle View のご紹介」にてBeagleを初めて紹介しましたが、今回は4年経った"その後"をご紹介します。Beagleは当初、GRADE/HULL(NDES開発の船殻CAD)の「3Dビューワー」として開発しましたが、多くの造船所様にご評価いただき3Dデータ活用ソリューションとして発展してきました。

3D化が進まなかった造船業

もともと造船業では造船用CIMなど、さまざまなIT化が取り組まれていました。ところが、その割には生産現場に3Dデータが流通していない状態でした。それは「船が個別受注生産でありデータ作成に時間がかかるため、データが生産検討に間に合わない」「現場のレベルが高く、図面だけで船が造れてしまう」という造船特有の事情があったからだと認識しています。

3D化への加速

ところが、ここ4、5年で、3D化が加速してきました。Beagleを導入した複数の造船所様から「現場での3Dの広がりが予想以上に速い」と聞きました。2D図面に慣れない若年層だけでなく、熟練層も「3Dは分かりやすい」と、その存在価値を認め、さまざまな用途に使ってくださっているとのことです。それは熟練層が減り、2D図面だけでは船を造れなくなってきたという切迫した事情もあります。

Beagleは、造船所様の要望がありGRADE/HULL(以下、G/H)以外のデータも扱えるようになりました。AVEVAやSmartMarineからの専用インターフェースも実現し、STEPなどの一般フォーマットを介してNUPASやNXの船殻や艤装のデータも活用する事例が出てきました。

「あるから使う」から「使うために作る」へ

ここ1、2年で「上流設計で3Dデータを作成する」という動きが活発になっています。解析やデザインレビューもありますが、フロントローディングで生産の初期検討に使いたいという動機が強くあります。実際、上流設計CADデータを生産の初期検討に活用する取り組みにNDESがご協力することもあります。また「G/Hを下流だけでなく上流にも使いたい」と言われ、実際に上流でG/Hを使い始めている造船所様もあります。今までは「せっかく3Dがあるのだから、生産で3Dを活用しよう」という考えでしたが、今は「生産で3Dを活用したいから、3Dを作ろう」という考えに変わってきています。

生産での3D活用

Beagleは、ブロックの配置・組立のための寸法・重量・重心計測、作業要領検討、作業指示書作成などさまざまな用途に利用されています。組立要領図では、いちいち鳥瞰図を手書きしていましたが、Beagleのアイソメ図を使って作業時間を大幅に短縮したという事例も複数あります。

またBeagleには、3Dビューワー(Beagle View)をベースとした、各種オプションがあります。

図1 生産での3D活用
図1 生産での3D活用

塗装面積集計

図2 ブロック塗装の作業指示書
図2 ブロック塗装の作業指示書

各種オプションの中で、もっとも威力を発揮しているのが塗装です。Beagle Paintは、塗装仕様や塗装ステージが異なる箇所を、3Dを見ながら詳細に塗り分けて面積を集計できます。従来のように図面やMicrosoft Excelを使って集計するより、圧倒的に短い時間でできます。例えば「これまで2カ月かかっていた作業が3週間でできる見込みが立った」など、3分の1ほどまで作業時間の短縮が実現できています。また、パートタイマーや海外作業委託など、非熟練者でも塗装面積集計が可能となり、効果を上げています。

PSPC対応

2012年に、一定規模以上の船舶を対象として塗装性能基準(PSPC)が適用されました。ところが、PSPCのルールに沿った計測点数算出を手作業にて実施しようとすると、大変な作業時間が必要になります。そこでNDESではいち早く、PSPCに対応するBeagleのオプション機能を開発しました。このオプション機能を、塗装膜圧計測の作業計画・指示の省力化にご活用いただき、塗装品質の高さの根拠を示す一手段としても有効活用していただきたいと考えています。

図3 PSPC対応
図3 PSPC対応

揚重検討

図4 楊重検討
図4 楊重検討
(クリックすると拡大画像が表示されます)

造船所様からもっとも深刻な相談を受けるのが揚重です。「工場で吊りピースの位置を決められる熟練者が1人しかいない」「数少ない熟練者が定年間際(あるいは延長雇用中)」「既に熟練者がいなくなってしまった」という話を聞きます。揚重は、巨大ブロックを吊り上げる大変危険な作業なので、経験豊富な熟練者がいなくなることに、多くの造船所様が危機感を持っておられます。

Beagle Liftは、吊り方と吊りピースの位置を決めれば、反力を計算できます。

しかし、揚重担当者からは「むしろ吊りピースの位置を決めるまでが大変だ」と言われます。今後、このような要望にお応えし、難しいところも支援できるようなシステムに成長させていきます。

精度管理

図5 精度管理
図5 精度管理

 

近年、3次元測定機が発達し、各製造業界で品質保証・リバースエンジニアリングに幅広く利用されています。測量用のトータルステーションも距離・精度・手軽さがアップし、造船業でも、専門家・熟練者のみに頼っていた精度管理を3次元的分析で改善しようとする動きが活発になっています。

Beagleの精度管理オプションでは、計測したブロックの計測点群を、コンピューター内の3Dブロック上の計画点と比較し、精度を確認したり、精度が悪い場合の作業計画に利用したりすることができます。特に搭載工程においては、いかに現場合わせをすることなく効率的に行うかが重要であり、そのような生産性向上に貢献できるものと考えています。

物量集計(切断・曲げ)

図6 物量集計(切断・曲げ)
図6 物量集計(切断・曲げ)

一定のルールに基づき、切断・曲げ作業を自動的に設備に割り当て、設備ごとの作業物量算出を実現した事例もあります。部材の属性を基に適切な割り当てができ、作業者が最後に確認・修正するやり方で運用できます。これは、図面から物量を拾うより圧倒的に効率的です。

G/Hのデータであれば、開先などの詳細情報がBeagleに取り込めるので、比較的容易に実現できます。

物量集計(溶接)

図7 物量集計(溶接)
図7 物量集計(溶接)

 

ここ1、2年で、多く相談をいただくようになったのが溶接です。

溶接作業は組立作業の大半を占めており、溶接作業の適切な見積・計画・指示が生産性を飛躍的に高めます。しかし、溶接は物量が膨大で、溶接ステージ・溶接区画・溶接機種・溶接姿勢・片面/両面・仮溶接/本溶接・溶接待ちなど、さまざまなことを考慮する必要があり、扱うこと自体とても困難です。造船所様によって作業内容はまちまちですが、新船の溶接長集計だけで数百時間から千時間以上かかっていると聞きます。

このような状況から、Beagleをベースとして溶接線集計の自動化に取り組む造船所様が複数いらっしゃいます。G/Hのデータであれば、さまざまな属性データを使うことにより、精度の高い溶接作業の見積・計画・指示ができるようになります。

現場活用

現場作業者の多くは、図面など紙の束を持ち歩きながら作業をしています。これを図面データが何万枚も入るタブレットにおきかえれば、大変コンパクトになります。しかもタブレットで3Dデータを見ることで、部材や構造をはっきり理解でき、誤作業を減らすことができます。そのため、非熟練者が増えている生産現場では、3Dがないと作業ができなくなるという危機感により、タブレット活用に興味を持っておられます。

Beagle Mobileは、部材や構造をiPadで3次元的に見ることができ、簡単に部材を見つけたり、属性を確認したりすることができます。特に艤装は膨大な数の部品が入り組んでいて人間の頭ではイメージしにくいため「3Dが役に立つ」と言われています。

殻艤一体

図8 Beagle
図8 Beagle

「殻艤一体」は、かなり以前からの課題ですが、実際に殻艤一体が実現できている造船所様は多くありません。しかし、生産では船殻と艤装を一緒に組み立てるため、船殻と艤装を一緒に扱い生産検討することに大きなメリットがあります。例えば、適切な先行艤装の組立ステージを検討したり、先行艤装と船殻の両方を考慮して最適な作業要領検討を行ったりして、効率的な組立計画を策定できます。

完全な殻艤一体(システム統一)を目指すのは、得られるものの割には負荷が高過ぎるようですが、適切な詳細度の形状・配置情報と属性を統合したデータベースで統合管理することにより、必要なときに船殻と艤装を重ねて見ながら検討できるようになります。今後は、設計情報のデータ統一というアプローチでの造船向けソリューションを開発していきます。

昨年、私たちはAutoCADをベースとした3D艤装設計システム「kan naviR」をリリースしました。自社製品のkan naviRを皮切りに、Beagle上での殻艤一体を実現していきます。

定盤検討

図9 定盤検討
図9 定盤検討

定盤に関するニーズもあります。G/Hに組冶具図面出力機能はありますが、「微妙な姿勢調整が難しい」「扱えないブロックがある」など完全ではありません。Beagleの組冶具オプション機能では3Dを見ながらブロックの姿勢が決められ、自由度の高い検討ができます。

定盤に関連して、定盤配置計画を簡便に行いたいというニーズもあります。現状では、専用システムやMicrosoft Excelが使われるなどさまざまですが、手間がかかるため課題と感じられています。この分野でもBeagleでご支援していく予定です。

おわりに

近年、生産検討・現場作業の3D化が加速していることを実感します。ここまで情報化できれば、情報統合化された工程計画・日程計画の実現が夢ではなくなっていると思います。造船は長年、効率化しつくしていますが、段取りの改善によりさらなる効率化は可能であると考えます。工場シミュレーション、バーチャルファクトリーと言えば大げさですが、根拠ある作業物量に基づき包括的なデジタル計画策定を実現し、変更に強い日程計画と全体最適化を目指します。

私たちは、それぞれ造船所様の事情に合わせ、実現したいことを一緒に実現できるベンダーとして努力を続けていきます。今後ともよろしくお願いします。

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