株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ 造船・橋梁ソリューション事業部 事業部長付 土井 憲治 |
はじめに
造船業では、近年の日本における出生率の低さから、近未来は“ものづくり”に興味を持つ就職適齢期の若者の減少を招き、日本が誇る熟練作業者の技能・技術を未来に受け継ぐべき優秀な人材の確保が困難になることが危惧されています。
他産業では、近年さまざまな分野で人工知能(AI)や、3Dプリンター、ドローン、IoTあるいは拡張現実(AR)などの最新の情報通信技術(ICT)が画期的な成果を上げつつあります。今までは人にしかできなかった熟練の技がデジタル化され、コンピュータと機械でその役割を担う日はそう遠くはないと感じるニュースを目にすることが多くなりました。
もちろん、造船分野においても産学官の各方面で同様な研究開発が活発に行われており、いずれは造船技術の衰退を止め、労働集約型産業からの脱却が期待されます。
そのような状況にあって私たちは、日本船舶海洋工学会が主催する「船舶海洋分野への人工知能(AI)の導入可能性の調査と評価」に関するストラテジー研究委員会に参加し、AIを基盤とした未来の造船所についてブレーンストーミングする機会をいただきました。その成果を参考にして、造船分野に私たちが貢献できることについて考察してみました。
近未来の3次元CADシステム
現在、多くの造船所様に私たちの3次元CADシステム「GRADE/HULL」(図1)や3次元艤装設計システム「管ナビ(kan navi®)」(図2)をご活用いただいています。そう遠くない未来にAIを搭載したGRADE/HULLや管ナビが実現し、さらなる業務効率化を期待されるお客さまが少なからずいらっしゃるはずです。そこでまず、GRADE/HULLや管ナビに搭載可能と思われるAIを机上検討してみます。
なお、ここでいうAIとは、マシンラーニングやディープラーニングなどの情報技術を使ったAIを意味します。過去の実績をビッグデータとして利用するか否かは今後の課題です。
1. 3次元CADシステム「GRADE/HULL」
GRADE/HULLには、自動修正、類似構造設計、設計標準作成、自動ネスティングなどのさまざまな自動設計機能が既にあります。これらの機能は、厳格に決められたルールに従って実行されます。ルールに合致した場面では強力な武器となりますが、想定外の場面ではお客さまが期待する結果とならないことがあります。そこで、これらの機能にAIを付加することで、厳格なルールに柔軟性を持たせ、自動設計の適用範囲を拡大させることができれば、設計結果に対するお客さま満足度の向上が期待できます。
2. 3次元艤装設計システム「管ナビ(kan navi®)」
現在、管ナビには自動設計機能は整備されていませんが、GRADE/HULLのAI化が実現すれば、管ナビへの応用が期待できます。特にAIを用いた自動配管ルーティングや自動管割は艤装設計者の長年の夢です。また、パイプサポートの自動配置やP&ID(配管計装図)との整合性チェックもAI化に期待したい機能です。
近未来の生産計画支援システム
CADシステム以上にAIがその力を発揮するのは、造船現場を支援する造船業界向け3Dデータ活用ソリューション「Beagle」のアプリケーション(図3)だと考えています。例えば、ブロック分割を支援する「Beagle-BLOCK」や組み立てネットワークを支援する「Beagle-ANET」は、その最たるシステムです。

BeagleのAI化に必要な統合ソリューションDB
これらBeagleのアプリケーションにAIを搭載するためには、GRADE/HULLと管ナビから生成される設計のプロダクトモデルと実際の造船工場をモデル化したデジタルファクトリーを登録できるデータベースが必要となります。私たちは、このデータベースを「統合ソリューションDB」(図4)と呼び、具現化の構想を固めつつあります。

次に、統合ソリューションDBとAIを搭載したBeagleアプリケーションに期待する機能の一部分を紹介します。まず、AIを搭載したBeagle-BLOCKでは、工場設備や日程の制限を考慮した複数のブロック分割案を自動で作成し、最適なブロック分割を決定するためのシミュレーションの実現が期待できます。また、AIを搭載したBeagle-ANETでは、工場設備や日程の制限を考慮したブロックの組み立て手順を複数自動生成し、最適な組み立て要領を提案するシミュレーションができそうです。さらには、日程計画支援システムと連携すれば、日程計画と定盤計画を連動させたシミュレーションが自動化できるはずです。
さらにAI化が進むと、基幹業務システムにもAIが活躍する場があるはずです。例えば、私たちのソリューションである設備工事・エンジニアリング業向けERPテンプレート「Project-Space®」(図5)にAIを搭載し、決算の早期化や資材管理に貢献できるかもしれません。さらに、Project-Spaceから出力する財務と資材の進捗データとIoTやドローンから得られる作業の進捗データを統合ソリューションDBに取り込み、日程計画データと対比することによって経営の見える化に貢献できそうです。

おわりに
厳しい情勢が続いている造船業を考えると、造船システムの開発へ積極的に投資していただくことが難しい状況にあると重々承知しています。しかし、国内の造船システムにおける失われた20年の影響やIndustry4.0に代表される国外の造船システムにおける積極的なICT導入の取り組みを見ると、焦りを感じざるを得ません。
本稿で述べた統合ソリューションDBおよび既存システムのAI化を実現するための提案は、可能性を机上で示しただけであり、多くの技術的課題が山積みであることは認識しています。しかしながら、この机上検討が、少しでも将来の展開にお役立ていただければ幸甚です。
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