人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.31 | システム紹介
樹脂流動解析の最新技術について
―東レ TIMONシリーズのご紹介―
東レ株式会社 CAEソフト事業部
主任部員 小西 研一 様

はじめに

近年の3次元CADの普及にともない、CAEもまた、設計者や技術者にとって必要不可欠なツールとして利用が拡大しています。プラスチック製品/部品においては、樹脂流動解析の活用で、設計段階での成形不良の予測が可能となり、金型修正回数や試作回数の削減を通じ、開発期間の短縮・コスト削減に貢献しています。

樹脂メーカである東レ㈱が開発・販売する射出成形CAEシステム:3D TIMONは、いち早く3次元樹脂流動解析を実用化したシステムとしての豊富な実績とソリ解析における高精度を誇るシステムとして、高いご評価をいただいております。

説明図
図1 3D TIMONの基本構成
(上図をクリックすると拡大図が表示されます)

本稿では、3D TIMONの最新モジュールと、この秋に発表した高速解析かつ低価格を特徴とする金型設計支援システムについて紹介させていただきます。

射出成形CAEシステム:3D TIMON

3D TIMONは、プラスチック射出成形品のソリ予測をターゲットに開発された樹脂流動解析システムです。従来のソリ解析が中立面上に定義されたシェル要素に対する2.5次元解析が主流であったのに対し、3D TIMONではソリッド要素でのソリ解析をいち早く実現しました。現在では、コネクター等の電子部品から大型自動車部品まで、幅広い製品を対象に活用いただいています。

3D TIMONは、以下の特徴を備えています。

  • 繊維配向や金型温度分布を考慮した高精度3次元ソリ解析機能
  • 複数の成形条件に対し、バッチ処理で一括解析を可能にしたプロジェクト管理機能
  • ソリッド要素以外に、シェル要素やビーム要素(2.5次元モデル)が混在するハイブリッドモデルの解析が可能
  • 汎用構造解析ソフトや最適化システムとの連携等お客様でのカスタマイズを容易にするオープンインターフェイス

さらに、3次元樹脂流動解析の特徴を生かすべく、今回、新しいオプション機能としてインサート成形解析モジュール:3D TIMON-INSERTならびに複屈折予測モジュール:3D TIMON-OPTICSのご提供を開始しました。

画面例
図2 3D TIMONでの解析結果例

3D TIMON-INSERT

3D TIMON-INSERTは、インサート成形における変形問題を解決すべく開発されました。

その主な機能は以下のとおりです。

  • 充填時における樹脂の流動圧力によるインサート部品への応力ならびに変形の予測機能
  • インサート部品の剛性を考慮したインサート成形部品のソリ解析機能

加えて、上記解析を行うための解析モデル作成(メッシュ作成)を容易にするため、キャビティ形状並びにインサート部品を一括で自動メッシュする機能を新たに開発しました。

説明図
図3 3D TIMON-INSERT
(上図をクリックすると拡大図が表示されます)

これらの機能により、試作を行うことなくゲート位置や成形条件の最適化を行うことが可能となり、金型修正回数の削減と開発期間の短縮を支援できるものと考えます。(図3)

3D TIMON-OPTICS

3D TIMON-OPTICSは、プラスチックレンズや導光板等光学素子成形における大きな問題である複屈折の予測機能を実現しました。複屈折現象のため、光学素子成形サイクルは長くならざるを得ず、加えて試作でしか複屈折量を評価することができませんでした。

3D TIMON-OPTICSでは、樹脂流動及び冷却に起因する複屈折を予測することが可能となりました。

説明図
図4 複屈折シミュレーション事例:
3D TIMON-OPTICS
-ゲート近傍に発生する複屈折-

これにより、複屈折の少ない製品形状・ゲート形状の設計、最適な成形条件の事前検討が可能となり、光学素子成形品の開発期間短縮と、製品品質の向上・コスト削減に貢献できるものと考えます。(図4)

金型設計支援システム:Timon-MD

Timon-MDは、射出成形用の金型仕様検討時、あるいは金型設計時に電卓感覚で利用できる設計者向けCAEをめざして開発しました。だれでも使えるシミュレーションを基本コンセプトに、以下の機能を実現しました。

  • 解析のための設定作業・解析結果の評価作業の簡略化を実現するコンシェルジェと呼ぶガイダンス機能
  • 製品形状やSTLファイルの品質に依存しない高速・高精度解析
  • お客様の扱う製品・評価項目に応じたデフォルト値・評価規準値のカスタマイズ機能
画面例
図5 Timon-MD
注:本画面は開発中のものです。
(上図をクリックすると拡大図が表示されます)

特にガイダンス機能は、解析に不慣れな方でも迷うことなく、解析モデルの作成・解析条件の設定から解析の実行・結果評価までの操作を、わかりやすくガイドします。(図5)

本製品は、本年12月にリリース予定です。

おわりに

製品開発の初期段階で解析を活用することで、後工程で発生する不良・トラブルを未然に防ぐこと(いわゆるフロントローディング)は、開発期間の短縮と試作コストの削減・そして量産の垂直立上げを実現する上で、今後ますますその重要性を増してくると考えます。

今回ご紹介したソフトウエアは、単に試作・量産段階における成形不良現象を予測するだけでなく、インサート成形品や光学素子といった製品/部品の機能・性能を設計段階から作りこむことを可能にし、より競争力のある製品開発を実現するためのツールとしてご活用いただきたく考えます。

私ども東レでは、国産ソフトの強みを生かして開発・技術・販売・サポートが一体となったソフトウエア開発を通じ、今後とも世界最高水準を誇る日本の製造現場で役立つシステムのご提供を目指していきます。

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