株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ 技術開発本部 エンジニアリングシステム統括部 第二技術サービス部 第二CAEシステムサービス課 |
はじめに
私たちは長年にわたり、自動車・航空機・船舶・圧力容器・産業機械・原子力・土木建築などの各分野における構造解析・流体解析の受託解析サービスを行ってまいりました。本稿では、その受託解析サービスにおける取り組みの一例として、流体解析を使用したスロッシング解析の事例をご紹介します。
スロッシングとは
スロッシングとは、液面(自由表面)を持つ液体が入っている容器に振動を加えた場合に、内部の液体が大きく揺れる現象をいいます。
例えば地震などの外力による加振によってタンク内の液体が強制運動を受けた場合に、スロッシングの固有振動数と外力の固有振動数が一致すると共振が起こります。このような共振が起こることでタンクから液体が溢れたり、固定屋根の破壊などの事故を起こすことがあります。このため、スロッシングによる液面の高さ、固有振動数の評価やスロッシング防止方法の検討が必要となります。
以下に、VOF法※を用いた簡単な流体解析の例を示します。
※ VOF(Volume Of Fluid)法:解析領域の各要素に占める流体の体積率をF値(0≦F≦1)として定義し、この輸送方程式を解くことにより界面を求める方法。
長方形タンクのスロッシング解析
スロッシング防止の方法として、バッフルプレートをタンク内に設置することで、スロッシングの液面高さを抑えることが考えられます。本解析では簡単な例として2次元での長方形タンクモデルを用い、タンク内に設置したバッフルプレートの有無と位置や高さの変化における液面高さの確認を行います。
スロッシング解析は気液2相流での解析となります。この気体―液体の界面を表現するためにVOF法を使用して解析を行います。加振条件は、スロッシングの固有振動数でタンクを振動させ共振条件とし、スロッシングの固有振動数はバッフルプレート無での固有振動数としています。
図1に解析モデル、表1にバッフルプレートの条件を示します。
表1に示すバッフルプレートの条件において、左側壁の液面高さの時刻歴を図2に示します。
図2に示すように、CASE1のバッフルプレート無では液面が一番高くなっており、CASE2、3、4と設置バッフルプレートの高さの順で液面は低くなっています。バッフルプレートを設置することにより、スロッシングの液面高さを抑える効果があることが分かります。
また、図3のCASE1に示すようにバッフルプレートが無い場合、ベクトルは壁面に向かい、壁面近傍では上向きのベクトルが発生して液面を高くしています。CASE2、3、4のようにバッフルプレートがあることでその近傍で渦が発生し、液面に影響を及ぼしているのが確認できます。渦の発生はCASE2、3ではバッフルプレートがタンク中心位置にあり、大小2個の渦が発生しているのが確認できます。CASE2ではバッフルプレートが大きいことで2個の渦が液面近傍で発生しており、液面の形が大きく変わっています。CASE4では、バッフルプレートを壁面寄りに設定していることで小さい渦が発生しています。このようにバッフルプレートを設置したことで、液体の流れが変化し液面高さを低くする効果があることが分かります。
スロッシングの液面高さの計算では線形計算で液面を算出する方法がありますが、CAEによる流体解析を行うことで非線形性を考慮して計算しています。非線形スロッシングの理論解にはMilesの式※があります。これとバッフルプレート無での液面高さとの比較を図4に示します。液面高さの上方向運動と下方向での非線形性は解析結果でもよく表現できています。
※ 参考文献:Miles, J.W.: Nonlinear Surface Waves in Closed Basins, J. of Fluid Mechanics, Vol.75, No.3, pp.419-448, 1976
おわりに
今回は流体解析でVOF法を使用したスロッシングの簡単な解析を行いました。実設計の場合にはタンク形状を考慮し、解析を行うことでスロッシング現象の把握、対策を検討することができます。また、動水圧を算出し強度解析を行うことでタンクの強度確認を行うこともできます。
本稿では簡単な解析例をご紹介しましたが、私たちは多種多様な解析サービスを行っております。解析に関するご相談がありましたらご遠慮なくお問い合わせください。
<受託解析サービスの実績例>
・構造解析
VLCC疲労強度解析、キャスクの熱伝導・熱応力解析、原子力発電所設備耐震計算、HCSR対応応力評価解析など
・流体解析
船体の造波解析、VLSSガス置換流体解析、アンチローリングタンク流体解析、ガスタービン室吸気流れ解析など
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