開発本部 サービス開発統括部 CAEサービス開発部 システムサービス課 廣川 啓 |
はじめに
本項では、Simufact Engineering社が開発した最新の溶接シミュレーションシステム"Simufact.welding"の概要をご紹介いたします。Simufact.weldingは、従来の溶接シミュレーションソフトウェアとは一線を画す、ユーザーフレンドリかつパワフルな溶接計算解析用システムです。
Simufact.weldingができること
Simufact.weldingには、非線形構造解析用の強力な有限要素法コードMSC.Marcをベースとする、溶接計算専用のソルバーが採用されています。このソルバーによる計算は、溶接工程における温度分布、変形、残留応力・残留ひずみ、材料プロパティの正確な予測を実現します。
ところで、溶接技術者が溶接シミュレーションソフトウェアに期待することは、コンポーネントに対する「溶接性(Weldability)※注1」の評価を行えるか、ということでしょう。Weldabilityの評価には、次の4つの正確な予測がまさに重要になります。
- 溶接部位およびその近傍の温度分布の予測
- 溶接中・後の変形の予測
- 残留応力・残留ひずみの予測
- 材料プロパティ(強度、微細組織の変化)の予測
溶接シミュレーションにおいて、これらの4つを正確に予測するためには、3つの分野の解析が重要です※注2。
- a. 溶融プロセスのシミュレーション
溶融プール形状、溶滴の移行などの解析 - b. 構造のシミュレーション
温度変化、変形、残留応力などの解析 - c. 材料のシミュレーション
機械的特性の変化、相変態などの解析
この3つの解析は、相互に強い連成関係があります。
「a. 溶融プロセスのシミュレーション」は、「b. 構造のシミュレーション」に対して、熱源の情報などを提供します。「b. 構造のシミュレーション」で得られる応力などの情報は、「c. 材料のシミュレーション」において材料特性の変遷の計算に使われます。
「a. 溶融プロセスのシミュレーション」を行うためには、温度変化を考慮した「c. 材料のシミュレーション」が必要です。これらのうちSimufact.weldingでは、直接的には「b. 構造のシミュレーション」と「c. 材料のシミュレーション」の領域を扱い、溶融部を生み出す熱源は、数学モデルにて再現します。
参考文献
※注1 Radaj, D. : Heat Effects of Welding (1992) p.3
※注2 Radaj, D. : Eigenspannungen und Verzug beim Schweissen (2002) p.4
計算事例
Simufact.weldingによる計算事例を4つご紹介します。
アーク溶接によるパイプのT形接合

2本のアルミニウム合金製パイプをT形に接合する溶接の計算事例を、溶接部近傍の温度分布とともに示します。
熱源がある場所の温度は融点を超えています。設定した伝熱特性をもとに、コンポーネントの温度変化が正確に計算されます。なお、モデリングにおいて設定している溶接ビードの構成要素は、熱源が通過すると同時にアクティブになり、コンポーネントの一部として機能します。2本のパイプおよび溶接ビードの接触面における境界条件は、融点を超えた時点で自動的に「固着」状態となります。
レーザー溶接による板の突合せ接合

レーザー溶接により、2枚の鋼板を接合する計算事例を、温度分布とともに示します。
端部をクランプしない場合は、溶接中にギャップが発生します。ギャップ発生回避のためのクランピングコンセプトが検討できます。
鋼板のV溝への2層肉盛溶接
鋼板の中央部にあるV溝への2層肉盛溶接の計算事例を示します。
溶接中の温度分布、溶接後の残留応力(長手方向断面の垂直応力)分布を示しています。モデル上に設定したトラッキングポイントから、残留応力値を直接出力できます。図のA-A'における残留垂直応力値は、実験結果と良い一致を示しています。

プロセスチェーンのシミュレーション

Simufact.weldingは、Simufact.formingとのデータの互換性を持ちます。Simufact.formingとの連携は、「溶接後の塑性加工」、「塑性加工品の溶接」のような「プロセスチェーンのシミュレーション」を可能にします。
例として、テーラード・ブランクの製作(Simufact.welding)、およびその塑性加工(Simufact.forming)を示します。
システムの特長
グラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)
Simufact.weldingには、Windowsライクな表示と操作感を持つ、ユーザーフレンドリなGUIが用意されています。
溶接工程は、直感的にわかりやすいツリー構造で管理されます。工程の作成に必要なジオメトリ・溶接パス・材料・温度条件は、カタログとして管理します。カタログに登録したオブジェクトを、溶接工程のツリーにドラッグ&ドロップするだけで、基本的なモデリングは完了します。

溶接パス

計算モデル作成において、溶接工程を正しく再現するためには、溶接パスを正確に設定する必要があります。
Simufact.weldingにおける溶接パスの設定方法は、主に3つあります。GUIのプリウインドウ上で計算モデルの節点を直接ピックする方法、座標を直接入力する方法、溶接ロボットシミュレーションソフトウェア"Robcad"などで作成した溶接パスのcsv形式ファイルをインポートする方法です。
溶接パスを利用したビード形状(フィレット)の自動生成機能も備えています。
熱源


溶接部位の熱源の形状は、実際の溶接で得られるマクログラフ、あるいは溶融プロセスのシミュレーションから得ます。
Simufact.weldingでは、熱源の形状を数学モデルにて表現します。熱源の形状は、「楕円球モデル」と「円柱モデル」の2種類が用意されています。熱源の寸法と溶接条件を指定するだけで、入熱分布が計算されます。入熱領域に合わせて、熱源モデルを複数組み合わせることもできます。
溶接による変形を正確に再現するためには、実際の溶接における熱影響部との合わせこみ作業が重要になります。この確認作業を容易にするために、Simufact.weldingには「ウェルドモニター」が用意されています。ウェルドモニターでは、溶接パス上の断面において、熱源が通過したときの溶融領域の大きさを確認できます。ウェルドモニターを使えば、実際の溶接における熱影響部との合わせこみ=キャリブレーション作業が簡単にできます。
タイムマネジメント
溶接ロボットやクランプの稼働時間を正確に管理することは、溶接工程を成功に導くための重要な作業のひとつです。
Simufact.weldingでは、複数のロボットを同時に稼働するような複雑な溶接工程も、各ロボットについて溶接パスの順番、溶接開始・終了時間、ロボットの停止時間などを、わかりやすい表を用いて管理・編集できます。また、全体の溶接スケジュールも、タイムテーブルを使って確認できます。

材料


Simufact.weldingには、Simufactプロダクト共通の材料データベースとして"Simufact.material"が標準採用されています。Simufact Engineering 社の溶接のスペシャリストが作成した、溶接計算用の材料も用意されています。
また、材料物性値計算ソフトウェア"JMatPro"で作成した材料データのインポートも可能です。等温変態曲線(TTT)、連続冷却変態曲線(CCT)のデータがあれば、溶接後の材料プロパティの変化が予測できます。
まとめ
Simufact.weldingは、溶接部位およびその近傍の温度分布、変形、残留応力・残留ひずみ、材料プロパティの変化を正確に予測します。Simufact.weldingを利用すれば、コンポーネントに対する溶接性(Weldability)の評価がきわめて容易になるでしょう。
お問い合わせ先
- 営業本部 PLMビジネスユニット 営業部 渡辺
電話:03-5711-5353 - 開発本部 サービス開発統括部 CAEサービス開発部 廣川
電話:03-5711-5322
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