“Timon Mold Designer”、“3D TIMON”と
東レエンジニアリングの解析技術のご紹介
東レエンジニアリング株式会社 エンジニアリング事業本部 CAEソフト事業部 白数 正視 |
はじめに
本稿では、昨年12月にものづくり業界向けクラウドサービス“Manufacturing-Space”でサービス提供を開始したTimon Mold Designer(以降TMD)の機能を中心に、ハイグレード版の3D TIMONとの違い、さらに近い将来に商品化が予定されている東レエンジニアリングの解析技術をご紹介します。
TMDとは
TMDは、樹脂製品、射出成形金型の設計や成形プロセス検討に必要な金型内部の樹脂挙動や成形品に発生する不良現象を簡便な操作で予測できる高速樹脂流動解析ソフトウェアです。
操作面では、初めての人にもすぐに使える直感的な操作としました。解析設定コンシェルジェに従い設定を行うことにより、短時間でウェルドライン、ヒケ、変形などの成形不良や金型表面温度、冷却管の効率など金型設計に必要な情報が得られます。解析結果の評価は複数の解析結果が容易に比較できるよう作られており、結果評価コンシェルジェでは、一目で評価が可能です。
TMDは用途に応じて、2つの製品を用意しています。
- TMD-FLOW:充填・そり解析
- TMD-COOL:金型冷却解析
TMDの機能
(1)解析条件入力
解析設定コンシェルジェに従ってゲート位置、ランナーや冷却管配置、樹脂選択などの設定が可能で、必要な情報を確実に入力できるよう作られています。
成形条件は射出時間や樹脂温度などを任意に設定することができます。さらに、樹脂を選択することで、同時に成形条件が自動設定されます。これは成形条件が決まっていない設計段階で有効な機能です(図1)。
また、TMDは解析用の3次元ソリッドメッシュを自動生成します。製品形状、解析目的に応じてメッシュの大きさを通常~超精密までの5段階から選択し、使い分けることができます。
(2)樹脂データベース
TMDは約2500種類の樹脂データを搭載し、さらに材料データをお客さまで追加することも可能です。データベースに登録のない材料グレードは、強化繊維の有無や流動比※などを参考に類似の樹脂を選択することで解析ができます。
また弊社では樹脂物性測定のサービスも行っており、樹脂データベースにない材料で解析を行いたいご希望がございましたら、ご相談ください。
※ 流動比 L/T(エルバイティー)とも呼ばれ、樹脂のスプルー、ランナーを含め流動距離を成形品肉厚で除した値で、材料の流れやすさの目安として使用されています。
(3)解析結果評価
プルダウンメニューより表示したい解析結果を選択し、表示できます。また、結果評価コンシェルジェでは、評価基準値を製品形状や樹脂ごとに設定、登録することで、誰もが同じ基準で解析結果の評価を可能としています(図2)。
主な解析結果は次のとおりです。
・TMD-FLOW
充填パターン、圧力、温度、ウェルド、流動比、そり
・TMD-COOL
型表面温度、肉厚中心温度、キャビコア温度差、冷却管寄与度
TMD 検討事例紹介
(1)ランナー、ゲート違いによる充填、そり評価(TMD-FLOW)
・ウェルド位置評価
ウェルドはゲート配置により発生する場所が異なり、外観品質や強度など製品の性能に大きな影響を及ぼすため、あらかじめ発生位置を確認しておくことが重要です。
この解析結果(図3)では、モデル1のゲート配置は、中央の細い部位にウェルドが発生しています。例えば強度要件でこの位置にウェルドを発生させたくない場合、ウェルド発生位置をコントロールする目的で検討を行います(モデル2)。
・そり評価
この製品はガラス繊維強化樹脂を使用しています(図4、5)。両モデルを比較すると、ゲート位置の違いにより充填パターンが変わることでガラス繊維の配向が異なり、その結果そり変形モードが異なっています。ガラス繊維配向はおおむね流動方向と同じと捉えてよいと考えています。
・圧力評価
充填に必要な圧力は成形機サイズを左右し、製品コストに直結します。TMD では充填完了時圧力を算出できます。
(2)形状の違いによるそり低減検討(TMD-FLOW)
TMDを初期検討ツールとして活用することにより、設計品質を高めてものづくり全体を効率化することができます。
この例(図6)は、製品形状の一部(青色部位)の肉厚を変更することで、そりが2割程度低減することが確認できました。TMD のそり解析は形状の違い、ゲート位置の違いなどによるそり傾向、大小関係を素早く比較できます。
(3)多数個取りのランナー径最適化(TMD-FLOW)
多数個取りの金型設計において、ランナー径検討の際に各キャビティーが同時充填するようランナー径を自動で最適化できます(図7)。
(4)冷却管配置の検討(TMD-COOL)
ここでは、冷却管の効果を従来型の機械加工による直線状のものと、金属3Dプリンターで造形し、製品形状に沿うように配置した、3次元冷却水管(コンフォーマルクーリング)で比較します(図8)。
製品表面温度を比較すると、3次元冷却水管で冷却したものは均一に冷却されていることが確認できます。後述する3D TIMONでの冷却解析とおおむね同等の結果が得られています。
TMD-COOLでは解析設定コンシェルジェに従い簡単に冷却管配置ができます。またIGESフォーマットのラインデータで読み込むことも可能です。
3D TIMONとTMDの違い
TMDと同じモーターケースモデルについてそり解析と金型冷却解析を行いました。
(1)そり解析
3D TIMONは、そり量を絶対値で評価することができます。図9のように3D TIMONでは任意の箇所のそり量をグラフなどで確認することが可能です。この事例では、3次元冷却水管とした場合、従来型水管と比較してそりが約30%、半径誤差が約35%改善することが確認できました。
(2)金型冷却解析
3D TIMONの金型表面温度分布を図10に示します。TMD-COOLで求めた図8の金型表面温度分布とおおむね一致しています。
また、3D TIMONでは金型冷却過程での詳細機能として、成形サイクルによる過渡的な温度変化を求めることができ、さらに金型の内部温度も表示することができます。この事例では成形サイクルを約20%短縮できることが確認できました。
弊社の解析技術
近年注目を集めている3Dプリンター関連の解析技術をご紹介します。
(1)冷却管の最適自動配置機能
金属3Dプリンターでは、金型の冷却管を自由に配置し冷却性能を高めることができます。
箱の内側に高さ違いのリブがある形状で説明します(図11)。初期は直線状に配置された冷却管に対し、内部の蓄熱部を解消するために自動的に配置を調整する技術です。初期と自動配置された冷却管でそれぞれ金型冷却解析を実施すると、初期配置では箱の内側に蓄熱部(より赤色が温度が高い)があるのに対し、自動配置されたモデルでは、蓄熱部が解消されています(図12)。
(2)3Dプリンター樹脂造形品収縮解析
この技術は、熱溶解積層法(FMD)などの3Dプリンターによる造形物について収縮計算を行う技術です。造形する過程を1層ごとに解析し、造形中に発生した残留応力を含めて収縮計算をします(図13、14)。
将来は強度予測にも対応し、3Dプリンター造形品の製品活用に向けて解析技術を提供したいと考えています。
おわりに
弊社では、お客さまが抱えている樹脂製品の設計や成形に関するさまざまな問題に対し、解析や測定技術を活用することで、問題に適したソリューションをご提案させていただきます。
問題解決に向けてぜひご相談ください。
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