負荷制御を活用した5軸荒取り
一般社団法人 ものづくりネットワーク沖縄 伊佐 和彦 |
NTTデータエンジニアリングシステムズのMold Future Space - OKINAWAと協業する、ものづくりネットワーク沖縄様による5軸加工の技術情報を4回連載でお届けします。今回で最終回となります。
はじめに
ものづくり企業では、生産性向上を目的に5軸加工機を導入したがうまく活用できず、現場の効率化が難しくなっているのが現状ではないでしょうか。その課題解決の一助となるべく、私たちとMold Future Space - OKINAWAは、切削加工の効率化を図るために工具、機械メーカーとさまざまな開発に取り組んでおり、その中から今回は「負荷制御を活用した5軸荒取り」をご紹介します。
トロコイド加工と負荷制御
エンドミルの代表的な加工方法としてトロコイド加工があります。側刃を使い円弧軌道で径方向に移動する加工方法となり、直線加工より振動や折損が少なく、送り速度・回転速度・切り込み量の要素を最適化することで高速加工が可能になります(図1)。また、工具と被削材の接する範囲が狭いため切粉側へ熱が伝わり工具寿命を延ばすことができ、切屑の色により工具の摩耗具合や送り・回転速度の最適な条件設定も決めることが可能です。

切り込み量が同じでも、削る箇所によっては被削材との接触角度(エンゲージ角)が変わるため、それを一定にする負荷制御が必要になります。図2に示すように負荷制御を行うとアプローチから放物線を描くような軌跡になり、接触面積を一定にすることで工具負荷が減少し、安定した高速加工を実現できます。

Space-E/CAM 2022の負荷制御機能
単純な一方向の加工であれば径方向の切り込みを一定にした経路を作成しますが、コーナー部などがある場合は加工負荷が高くなり工具が破損する可能性があります(図3)。

負荷を一定にして高速加工を実現するには負荷制御を搭載したCAM機能が必要です。そこで、負荷制御機能としてエンドミルを使い効率的に荒取りできる加工モードを搭載したSpace-E/CAM 2022がリリースされました。高速加工、工具負荷のどちらを優先するかで加工経路が変わり形状に最適なNCデータの作成が可能です(図4)。
負荷制御の有効性
大荒取り工程において負荷制御機能を用いると加工時間を短縮できます。図5に示す加工モデルで、従来のインサート式による大径エンドミルの高送り加工とφ10のフラットエンドミルを用いた負荷制御によるNCデータで一般鋼材の加工を行いました。その結果、従来の加工より負荷制御の方が、切屑排出量は約2.7倍増え、加工時間は58%も削減しました。このように加工時間が短くなると、全体的に加工コストを抑えることができます(図5)。
負荷制御機能を用いた5軸荒取り
割り出し5軸加工に負荷制御を用いると、加工において高い有効性があります。形状側面の深い段差などを加工する場合、3軸加工では工具の突き出しが長くなり加工時間もかかります(図6)。大荒取り工程では加工の歪みを気にすることなく、早くて安全な加工が望まれます。そこで、加工時間の大幅な削減が可能な割り出し5軸加工において負荷制御を用いた大荒取りを行います。短い工具長で加工時間を短縮できるため、工具交換の時間や費用も削減できます。図7に示す加工モデルで割り出し5軸の大荒取り加工を行いました。
工具はエムーゲフランケン社のデュプレックスΦ10(図8)を使用し、被削材は高硬度材の焼き入れ硬度HRC44の熱処理材です。1本の工具で大荒取りを完結でき、従来の加工方法よりも短時間で加工することができました。焼き入れ鋼を切削する際は、切削抵抗が大きくなるため剛性の高いホルダで突き出しを短くする必要があります。今回の切削結果は、トロコイド加工の負荷制御機能を用いると切削効率が向上し、工具寿命の延長も可能なため非常に有効性が高いといえます。

おわりに
トロコイド加工の負荷制御機能を活用した切削加工は近年増えつつあります(図9)。今回ご紹介した割り出し5軸加工では、工具・ホルダ・機械干渉やアプローチ・回避時の事故を防ぐため、CAMでストックをしっかり認識した上でNCデータを作り込む必要があります。5軸加工は加工リスクが3軸加工より高くなりますが、これからのNCデータの信頼性を高めるCAM開発が必要です。さらに、それを使うユーザー側の『進化させる工夫』も必要と考えます。

関連するソリューション
関連するソリューションの記事
- 2024年04月01日
-
Space-E 新バージョン 2023 R2
リリースのお知らせ
- 2024年04月01日
-
片山工業株式会社 様
金型技術者の育成強化を図り
成長するグローバル企業
- 2023年07月01日
- Space-E 新バージョンCAM 2023、Version 5.11リリースのお知らせ
- 2023年01月10日
-
第31回 日本国際工作機械見本市
JIMTOF2022 出展のご報告
- 2023年01月10日
-
第25回 関西 設計・製造ソリューション展
出展のご報告
- 2023年01月10日
-
5軸加工 技術情報 連載vol.3
CAMの自動中取りと3+2の有効性について
- 2023年01月10日
- 新製品「Space-E/5Axis 2022」のご紹介
- 2022年10月10日
- INTERMOLD名古屋 出展のご報告
- 2022年10月10日
-
5軸加工 技術情報 連載vol.2
東台精機/HEIDENHAINの優位性
- 2022年10月10日
- 新商品「Space-E/CAM 2022」のご紹介
- 2022年07月01日
-
5軸加工 技術情報 連載vol.1
異形工具の活用と効果
- 2022年06月14日
- 「IT導入補助金2022」のお知らせ
- 2022年04月01日
- Space-E Version 5.10リリースのお知らせ
- 2021年07月10日
-
金型づくりの自動化を目指した
「Mold Future Space - OKINAWA」の取り組み
- 2021年07月10日
-
4事業部のご紹介(2)
製造ソリューション事業部
- 2021年03月01日
- 補助金・助成金診断サイト開設のお知らせ
- 2021年01月01日
-
Manufacturing-Space® Version 4.6
新機能のご紹介
- 2020年04月01日
-
大連永華技術有限公司と中国における代理店契約締結
-日軟信息科技(上海)有限公司の閉鎖について-
- 2020年04月01日
-
Manufacturing-Space® Version 4.5
新機能のご紹介
- 2019年10月01日
-
Manufacturing-Space® Version 4.4
サービスインのお知らせ
- 2019年07月01日
-
Space-E Version 5.8リリースのお知らせ
~自動化に向けて進化する~
- 2019年04月01日
-
Space-E
マルチスレッド技術による
特殊隅取りモーフィングモードの高速化
- 2019年04月01日
- Manufacturing-Space® Version 4.3 新機能のご紹介
- 2019年01月01日
-
CAD/CAMシステムオンラインサポートサイト
e-support リニューアル公開のお知らせ
- 2018年10月01日
-
Manufacturing-Space® Version 4.2
サービスインのお知らせ
- 2018年07月01日
-
経済産業省のプロジェクト参加報告
「標準の利用/活用推進委員会」の活動について
- 2018年04月01日
- NTTDATA (Thailand) co., ltd. 活動報告
- 2018年04月01日
-
沖縄マニファクチャリングラボの取り組み
5軸加工機能の強化および実用化に向けて
- 2017年07月01日
-
Manufacturing-Space®が目指す
方向とロードマップ
- 2017年07月01日
-
クラウドを利用した
「ものづくり産業」の生産性向上
- 2017年04月01日
-
Space-E Ver.5.6リリースのお知らせ
~沖縄マニファクチャリングラボの研究成果を反映~
- 2017年01月01日
-
5軸加工への取り組み
沖縄マニファクチャリングラボにおける
5軸加工機能の技術開発
- 2016年07月01日
-
第1回 名古屋 設計・製造ソリューション展
出展報告
- 2016年04月01日
-
Space-E Version 5.5リリースのお知らせ
~生産準備業務の効率化を目指す~
- 2016年02月22日
- ものづくり業界向け「オートサーフェス」サービスを提供開始
- 2016年01月01日
-
沖縄マニファクチャリングラボにおける
5軸加工機能の技術開発
- 2015年07月01日
-
トータルソリューションのご提案(4)
PDMを活用した鍛造解析向けトータルソリューション
- 2015年07月01日
-
Space-E Version 5.4 リリースのお知らせ
~まずは削ることから刷新~
- 2015年04月01日
-
トータルソリューションのご提案(3)
NDESがご提案するトータルソリューションとは
- 2015年01月01日
- マニファクチャリングラボ(沖縄)の取り組みについて
- 2015年01月01日
-
トータルソリューションのご提案(2)
フロントローディングソリューション
- 2014年10月01日
- CAXA社との協業について
- 2014年10月01日
-
トータルソリューションのご提案(1)
STLの活用例
- 2014年07月01日
- Space-E Version 5.3 リリースのお知らせ
- 2013年09月25日
-
金型業界初のクラウドサービス「Manufacturing-Space®」
10月1日サービス開始
- 2013年07月10日
-
東南アジア地域における
Space-E販売代理店の支援強化について
- 2012年10月01日
- 雲をつかむような話し
- 2012年01月01日
-
導入支援レポート(第11回)
Space-E/Moldにおけるカスタマイズについて(2)
- 2011年10月01日
- Space-E Version 5.1 新機能のご紹介
- 2011年10月01日
-
導入支援レポート(第10回)
Space-E/Moldにおけるカスタマイズについて(1)
- 2011年10月01日
-
Space-Eで実現する
デジタルエンジニアリングにおける4つのCサイクル
- 2011年07月01日
-
導入支援レポート(第9回)
Space-Eにおけるプレス金型向けユニット部品構築方法(2)
- 2011年04月01日
- Space-E Version 5.0 新機能のご紹介
- 2011年04月01日
-
導入支援レポート(第8回)
Space-Eにおけるプレス金型向けユニット部品構築方法(1)
- 2011年01月01日
- 5軸加工およびSpace-E/5Axisのメリット
- 2011年01月01日
-
導入支援レポート(第7回)
Space-Eによる3次元金型設計を中心としたシステム構築
- 2010年10月01日
-
3次元CAD/CAM/CAE一体型システム
Space-E/Pressのご紹介
- 2010年10月01日
-
導入支援レポート(第6回)
Space-Eによる3次元金型設計の実現(3)
- 2010年07月01日
-
導入支援レポート(第5回)
Space-Eによる3次元金型設計の実現(2)
- 2010年04月01日
- Space-E Version 4.9 新機能のご紹介
- 2010年04月01日
-
導入支援レポート(第4回)
Space-Eによる3次元金型設計の実現(1)
- 2010年01月01日
- Space-Eの有効活用「電極設計の効率化」
- 2005年07月01日
- Space-E最新バージョンのご紹介
- 2005年01月01日
- Space-E Version 4.3のご紹介
- 2004年07月01日
- Space-E Version 4.2 Modeler & CAMのご紹介
- 2004年04月01日
- Space-E/Global Deformation Version 1.0のご紹介
- 2002年04月01日
- Space-E Version 3.1のご紹介
- 2002年04月01日
- Space-E/STEPのご紹介
- 2001年07月01日
- Space-E最新バージョンのご紹介
- 2001年07月01日
- Space-E/Mold Version 2.0のご紹介
- 2000年10月01日
- Space-E/SolidCAMの紹介
- 2000年07月01日
- Space-E/Moldのご紹介
- 2000年04月01日
- Space-E Version 2.1 のご紹介
- 1999年10月01日
- WindowsNT版 製図支援システム Space-E/Draw のご紹介
- 1999年07月01日
- Space-E Version 2.0 最新機能紹介と今後の展望
- 1999年01月01日
- Space-Eのご紹介