管理統括部 財務部 企画グループ 田中 秀樹 |

とある会社で
社内のIT運用を担当させられている高橋くんが、山本課長から質問を受けているようです。
いつものことながら、全て筆者の想像で書いたことで、何処かの会社をイメージしたわけではありません。
クラウドのような最新のITを活用して、社内業務を改善することは重要なことですが、社内の業務プロセスの可視化や社員の意識改革、などが行われないままITを導入しても、当初の効果が得られない結果に陥りがちです。しかし、旧態依然たるIT設備(ハードもソフトも)を使い続けていては、大幅に運用コストを削減することは、困難なことも事実でしょう。
クラウド導入の前提となる
IT経営能力指標
それでは、クラウド・サービスを導入する企業は、どのような準備をしておく必要があるでしょうか。例えば、IPAがまとめた「中小企業のためのクラウド安全利用のための手引き」(参考文献1)では、本書の対象とする企業はIT経営能力指標がステージ2以上であること、としています。
ここで、「IT経営能力指標」(参考文献2)とは経済産業省が取りまとめたもので、企業のITへの取り組みを表1で示す4ステージに区分しています。クラウドを導入し、効果を上げるためには、少なくとも、組織内での業務プロセスが明確で、ITスキルを持つ人材がいて、経営層がIT活用の有効性とリスクに理解があることが求められています。
経営戦略と IT戦略の融合 |
業務プロセスの 可視化 |
IT基盤の構築 | IT人材育成 | ITに起因するリスク | |
---|---|---|---|---|---|
ステージ1 | IT導入目的が不明確 | 可視化されていない属人的 | 自社システムの構成を理解していない | ITスキル向上策がない | 経営層が理解していない |
ステージ2 | IT活用が組織毎 | 組織内で可視化されている | 業務毎のアプリケーション導入 | ITスキル向上の啓蒙活動 | 経営層が理解している |
ステージ3 | IT活用が企業全体 | 全社的に可視化されている | 全社的なシステム基盤の標準化 | ITスキル向上の啓蒙活動 | 経営層が理解し、対応策を検討している |
ステージ4 | IT活用が企業とその連携企業間 | 企業と連携組織間で可視化されている | 企業間でのインフラ基盤を構築 | 連携企業間を含めた啓蒙活動 | 経営層が理解し、対策を検討している |
ここで、改めてクラウド・サービスの3形態について、簡単に説明をしておきましょう。
IaaS「読み方:イアースまたはアイアース」
サーバやネットワークなどのハードウェアを仮想化して提供するサービス(Infrastructure as a Service)PaaS「読み方:パース」
IaaSが提供する環境に加え、OSなどを使える形で提供するサービス(Platform as a Service)SaaS「読み方:サース」
アプリケーションを含んで提供するサービス(Software as a Service)
クラウド・サービスは表2に示すように、ユーザ側の負担とソリューションの自由度が異なってきます。いずれの形態を採用するかは、ユーザが導入による効果をどこに重みを置くか、判断することが必要となります。ユーザにとって、投資費用の割に効果が出しやすいのは、SaaSであると言えます。先に示したIPAの手引きでも対象とするサービス形態はSaaSを前提として記述されています。

クラウドにいるクラウド
それでは、現時点ですぐ使えるクラウド・サービスでは、どんなことができるのでしょうか。最近、私はデジカメを購入したのですが、その時のことを例に紹介してみましょう。
私の要求としては、コンパクトでありながら従来の一眼レフと同じようにレンズ交換に対応したミラーレスでファインダーに対応したものが欲しい。
Googleで検索してみると3機種ほどが対象に上がり、それぞれのメーカのサイトを確認しながら、Youtubeでそれぞれのデザインや撮影動画例をチェックし、価格.comで実売価格やレビューから更に絞られてくる。
さて、Amazonでユーザレビューを最終確認して購入決定して、マウスをポチッ。
2、3日後に配送されてきて、使い勝手がなかなか良いので、facebookでそのメーカの"いいね"ボタンをマウスでクリック!。
使い込んできて、ホワイトバランスの使い方がわからないので知恵袋に相談する......この様な私の行動は、従来の商品開発のライフサイクルのほぼ全体を網羅していると言えます。(図1)
商品開発の前段である市場調査や商品企画は、今までであれば調査会社の協力が必要だったのですが、市場における大衆の声(crowd)は、既にクラウド(cloud)に存在していると言うことができます。
しかし、ここにはミッシング・リンク(失われた環)が存在しています。

商品開発におけるクラウド・サービス
市場調査・商品企画・販売予測・販売促進・カスタマサービスなどの段階は、前述したように、既にフリーのクラウド・サービスを活用することで、対応できるとも言えます。しかし、ものづくりの段階である商品開発をクラウド・サービスで対応することはまだまだ実現できていないと言えます。その理由は、いくつも上げることができます。
設計の機密情報をクラウドにあげて大丈夫か?
3Dの大容量データを扱うことは可能なのか?
製造業各社の業務プロセスは多様で対応できない
専門的課題を議論する場がない
とはいえ、海外拠点との連携、BCPにおけるDRPへの対応、設備投資・運用維持コストの削減、など今の製造業に課されている課題には、待ったなしの対応を求められています。その対策のひとつが、商品開発領域におけるクラウド・サービスの実現であると考えます。
既存の3D CAD/CAM/CAEなどの大容量で高負荷処理のクライアント・ツールをクラウド化するのではなく、以下に示す作業をクラウド化して、クライアント・ツールと使い分ける、ハイブリッドなクラウド・サービスが、現時点では、より現実的な解であると言えます。
専門性の高いコミュニティ・スペースの提供
金型設計や、加工ノウハウのQ&A、お客様間での情報交換など専門性が高く、処理負荷の大きい作業のクラウド対応
3Dモデルの図面化、CAEのプリ・ポスト処理、加工工程設計など設計情報の安全で、確実なデータ共有環境の提供
海外拠点との図面やモデルの設変履歴を含んだ共有など
早い時期に、私どもから、設計開発領域において、ハイブリッドなクラウド・サービスをご提供できるよう努めてまいります。
参考文献
- 「中小企業のためのクラウド安全利用のための手引き」著:独立行政法人 情報処理推進機構(略称:IPA)(http://www.ipa.go.jp/security/cloud/documents/cloud_tebiki_V1.pdf)
- 経済産業省 IT経営ポータル(http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/it_keiei/index.html)
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