「標準の利用/活用推進委員会」の活動について
株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ カスタマー&サービス事業本部 クラウドサービス事業部 第一営業部 第一営業課 課長 服部 正太郎 |
はじめに
平成27年度~29年度の「経済産業省 省エネルギーに関する国際標準の獲得・普及促進事業委託」活動のテーマである「標準の利用/活用推進委員会」へ参加しましたので、その内容についてご報告します。
活動の背景
自動車業界において、CADの3Dデータを主体とするデジタルデータを活用した業務が本格化したのは、2000年代の初期ごろです。当時は企業グループ(系列)内での業務が中心となり、CADを共通のツールとして作成した3Dデータをさまざまな領域で流通させることで、多大な効果がもたらされる結果となりました。
やがて、2010年頃から本格的に自動車ビジネスがグローバルに拡大するとともに3Dデータをはじめとするデジタルデータについては、ツールに依存したデータ形式が窮屈となり、いろいろなツールで利用できる標準データの流通へと大きく変化しています(図1)。
図2は、日本の人口推移について将来の推計を交えてまとめた図(総務省の国勢調査や国立社会保障・人口問題研究所の資料を基にみずほ総合研究所が作成した資料)です。
この資料で15歳~64歳の人口(就労人口)に注目すると、2000年をピークに減少していることが分かります。さらに推計では、人口の減少率が年々高くなっています。特に製造業にとっては人手不足という現象が顕著であり、この人手不足により企業の事業すら成り立たなくなっている実情も散見されつつあります。この現象を一時的な現象として捉えるのではなく、日本が本質的に抱えている構造的な課題として認識する必要があります。
このような背景の中、本委員会の取り組みとして、標準の利用/活用の推進とそのための環境構築を検討してきました。さらに、産業界で標準を定着化させ、継続して価値を生み出し続けるための施策検討を実施しました。
体制と計画
本委員会が所属する上位組織(経産省のプロジェクト)を図3に示します。
本プロジェクトは、「各種ITツールの活用を保証するデータ基盤の国際標準化」を具体化し、そのメリットや課題を明確にして次の施策につなげるため、標準のデジタルデータの利活用に向けた実証実験を最終年度に計画しました。さまざまな角度から国際標準化の状況を検討するため、図4に示す計画に基づき活動を実施しています。
本プロジェクトの体制を図5に示します。
本プロジェクトのまとめ
日本の"ものづくり"を支える製造業の活性化へ向け、直面する人口構成の構造的な課題や本プロジェクトの3カ年の活動の中で得られた知見を踏まえ、実証実験で確認した現在の標準を利活用する課題に対応するために、以下の項目が重要であると提言しました。
①STEP AP242のさらなる利活用
②"ものづくり"下流領域でのデジタルデータ利用促進
③標準規格開発と連携した標準の利用活用の推進
NDESの取り組み
本プロジェクトにおける実証実験が対象とした領域は、デジタルデータ(情報)の利活用を積極的に進めていくことになる領域、あるいは産業界の課題を解決するために必然的にデジタルデータを駆使した"ものづくり"が拡大する領域です。この領域に含まれる企業は比較的規模が小さく、ITの環境やITを運用する要因が十分そろっていないことが想定されます。これまで、あまりITを利用されていないことから、新しいIT環境に対して柔軟な対応が可能だということが期待できました。
そこで実証実験では、IT環境の提供形態としてクラウド環境を利用することにし、利用する企業側ではITの専門知識の習得や技術者の育成などの負荷を削減し、本来のデジタルデータを活用したものづくりに専念できる環境を想定しました。
NDESは、この実証実験向けの環境として、ものづくり業界向けクラウドサービス「Manufacturing-Space」の基盤をご提供しました(図6)。
NDESの主要顧客である金型メーカーを想定し、金型受注~製造指示までの工程を実証実験におけるユースケースとし、クラウドサービスの活用によってどのような効果があるのか、またどのような課題があるのかを検証しました(図7)。
実証実験では、ITツール群をクラウド環境に搭載することは実施しませんでしたが、利用したいITツール群がクラウド上で簡単にしかも使用数に応じた従量制的な価格で安価に利用できたという仮定の下で進めました。
ただし、そのITツール群で利用する3Dデータをクラウド環境上で共有し、お互いの画面を共有しながらコラボレーションを行うことができるインフラ環境については実際に稼働する環境として構築しました。
効果の検証
今回、金型メーカーにおける一部の業務フローをユースケースとし、クラウド環境により標準化したITツールの活用効果を検証した結果として以下の内容を報告しました。
- 取引先とのデータの授受において、クラウドストレージを利用することで簡単かつセキュアな状況で実現できることが確認できました。
- 業務に必要なITツール群がクラウドサービスとして整備されると、従来の設備投資に比べ少ない費用で最新ツールを利用でき、業務を効率的に進められることが確認できました。
- コミュニケーションツールを活用することで、効率的かつ低コストで打ち合わせを実施できることが確認できました。
総括として、現在の中小企業においては、設備投資に対する負担が大きく、特に海外企業との価格競争において競争力を低下させる要因の一つとなっています。クラウドサービスは、さまざまな情報の共有環境と充実したITツール群を便利に利用できる総合的な業務支援環境と言え、今後の中小企業の競争力を高めるソリューションになり得ると報告しました。
おわりに
このたびの実証実験に参加したことで、クラウド環境の課題として、外部のクラウドストレージを利用して機密性の高いデジタルデータを取り扱う業務には、万全なセキュリティー対策とその安全性を保障する外部標準規格の取得など、利用者側のセキュリティーに対する不安を解消し、安心してご利用いただける環境の重要性を再認識できました。
さらに、従来のITツール群をクラウド環境で便利に安価に利用できる形態のご提供だけでは、利用者側の効果が少なく、一連の業務がクラウド上でスムーズに流れる仕組みと進捗状況の可視化など、従来の個別ITツール群では実現できなかった一連の業務支援環境が必要であることが分かりました。
※本件に関する内容は、平成30年2月に一般財団法人 製造科学技術センター 国際標準部、調査研究部にて作成された 経済産業省委託 平成29年度 省エネルギーに関する国際標準の獲得・普及促進事業委託費(省エネルギー等国際標準開発(国際標準分野)) 【省11】各種ITツールの活用を保証するデータ基盤に関する国際標準化 標準の利用/活用推進委員会 『製造業の"ものづくり"領域へのデジタル活用へ向けた提言』の内容の一部を抜粋し、記載しています。
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