人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.110 | トピックス
システムズエンジニアリング 連載番外編
ドイツにおけるバーチャル開発に関する調査について
株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ
新事業企画室 DX推進部 企画課
課長代理 加藤 智之, Dr. Eng.

はじめに

これまで、システムズエンジニアリング(SE)に関する情報を本誌で3回(No.105、No.106、No107)にわたり掲載してきました。ここ数年、自動車業界では(MB)SE*1への関心がますます高まっています。私たちNTTデータエンジニアリングシステムズは、モデルを用いたバーチャル開発を推進するための業界団体である一般社団法人MBD推進センター(以下、JAMBE)に参画し、SIerとして自動車業界を中心としたバーチャル開発の支援ができる体制を構築してきています。JAMBEのような団体は日本のみならず海外にも存在しています。

この度、ドイツの業界団体であるprostep ivip(以下、PSI)のシンポジウムが2024年4月10日、11日にミュンヘンにて実施され、このイベントに参加しましたので、地域の様子を交えながらご報告します。

*1 本文では以下SEとします。MBSEについてもSEという言葉に含まれます。

日程

今回の渡航は、ドイツにおけるバーチャル開発のトレンドや技術情報の獲得および、JAMBEの他社メンバーやPSIメンバーとの信頼強化が目的です。図1にスケジュールを示します。初日の4月9日は組み込み系のイベントである「embedded world 2024」に、4月10、11日はPSIのシンポジウムに参加し、最終日の4月12日はJAMBE、PSI、System Xの3団体の合同会議に出席しました。

図1 スケジュール
図1 スケジュール

組み込み系におけるバーチャル開発の機運の高まり

「embedded world 2024」に参加するため、4月9日はミュンヘンから少し足を延ばしてニュルンベルクまで行きました。ミュンヘン中央駅からドイツの新幹線ICE(InterCity Express)に揺られることおよそ1時間の場所にあります。ニュルンベルク中央駅を一歩出ると駅舎の美しいゴシック調の建築に目を奪われました。そのまま旧市街に出れば中世から現代までの歴史と民族性に思いをはせることができる美しい街並みを見ることができます(図2)。

図2 ニュルンベルクに思いをはせて
図2 ニュルンベルクに思いをはせて

「embedded world 2024」は、このニュルンベルク中央駅からUバーン(U-Bahn)に乗って少し先にあるニュルンベルクメッセで開催されています。この会場は東京ビッグサイトの1.5倍を超える大きさで、その展示場に1000社ほどの出展がありました。とにかく1社あたりのブースが広く、展示品を見て回るのに十分なスペースがありました。この展示会の最小サイズのスペースは、東京ビックサイトで開催される展示会の最小サイズの3倍程に相当していました(図3)。

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図3 embedded world 2024の様子

「embedded world」は、組み込み技術の展示会ですので、多くのハードウエアの展示がありました。またそれ以上にAIの活用やバーチャル化の展示が多く、ハードウエアとソフトウエアはより密接なものになったと改めて実感できます。ここでは、フラウンホーファー研究所で行われているバーチャルECU(以下、vECU)のデモの説明を拝聴する機会を得ました。vECUとは、制御がより複雑化する自動車のECU信号処理の開発をより良くするためにバーチャルなECU上でシミュレーションするSILS(Software In the Loop Simulation)のことで、製品の品質向上や開発コストの低減などを目的としています。日本では、2012年ごろより議論が始まった記録が見受けられます[1]

私は、vECUを専門にしていませんので詳細な取り組みを把握していませんが、縁あって2018年ごろに日本のvECU関係の会合に参加したことがあります。当時は、まだまだ課題が山積みで、とても実用に足るレベルではなく、各社の草の根的な研究に過ぎない状況であったと記憶しています。それが現在では、展示会でアピールできるほどのコンテンツへと昇華されていることに驚きました。

図4はvECUへ各信号が入力され、処理した結果がビークルダイナミクスモデルで3Dシミュレーションができるというデモンストレーションです。自動車の制御をする上で、応答性は非常に重要な問題です。その厳しい条件を満たせるようになりつつあることに技術の進歩を感じます。

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図4 vECUのデモンストレーション

prostep ivip Symposium 2024

4月10、11日は、今回の一番の目的であるPSIのシンポジウムに参加しました。ミュンヘン中央駅からUバーンで45分ほど揺られるとシンポジウム会場に到着します。PSIは1993年に、効率的な製品データ管理のためのプロセス開発を目的としたドイツの組織体です[2]。年に一度、所属企業が持ち回りでシンポジウムを開催しています。今回のシンポジウムは、ドイツ国内外から700名以上が参加しました。日本の出席者は、JAMBEに積極的に参加している私たちを含むメンバー5名の他に、10名以上がいたと思います。私が参加した2023年の本シンポジウムは、JAMBEに関わるメンバーのみが日本の参加者でしたが、今回の参加人数が増えているのは、JAMBEの活動が日本の自動車業界を中心とした製造業に広まってきていることが大きいと思います。

2日間のシンポジウムで60件を超えるセッションが開催されました。特に痛感したのがドイツの産業全体でスクラムを組んで進めるパワーです。Catena-XやGAIA-Xといったデータスペースに関するテーマが2023年に比べて大幅に増えていました。このデータスペースというデータを取り巻く新しい概念が昨今議論されていますが、ドイツのIndustrie4.0のイネーブラー(Enabler:実現子)として近年ホットになっているテーマです。2023年はデータスペースのための技術であるGraph DBを主題としたプレゼンテーションがたくさんありましたが、今回はGraph DBを主題としたものは著しく少なくなっています。たった1年の間にデータスペースの概念が業界として広まり、プレゼンテーションできるレベルに到達させたことこそがドイツの産学官連携の強さだと感じました。

JAMBEの進捗についての講演は、マツダ株式会社の小森様、AZAPAエンジニアリング株式会社の市原様により行われ、数百名を超える聴衆に日本での取り組みを紹介していました。私たちもドイツとは違う方法で産業界を盛り上げていきたいと思います。

シンポジウム中はドイツ国内外のエンジニアリングプロバイダーやITベンダーの展示会も併設されています。私たちのグループ関連としては、NTT DATA Deutschlandのグローバルオートチームが出展し、下記の7テーマのソリューションを紹介しています。

・Application Lifecycle Management(ALM)for the Software-Defined Vehicle
・SENSEI -Systems Engineering and Scalable Enterprise Integration
・Virtual ECU Testing
・Fast. Agile. Sustainable.
・Higher Automotive Cybersecurity with V-SOC from NTT DATA
・Trustworthy AI -Effective Management of AI risk
・Creating a Vision for a Sustainable Future

これらの詳細についてご関心をお持ちでしたら、ぜひNTTデータエンジニアリングシステムズまでお問い合わせください。

シンポジウム1日目の終わりには懇親会が開催されました。バイエルン地方の料理に舌鼓を打ちつつ、鞭と音楽を合わせたバイエルン地方のパフォーマンスで盛り上がりました。周囲との会話ができないくらいの大迫力でした。

そして、ニュルンベルクといえば忘れてはいけないのがソーセージのニュルンベルガーです。ランチにはもちろん、ビールとともにおいしくいただきました(図5)。

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図5 prostep ivip Symposium2024の様子

製造業をより盛り上げるための連携強化

4月12日はJAMBE、PSI、そしてSystem Xの3団体による進捗報告会をデンソー・オートモーティブ・ドイツにて行いました。以前からオンライン会議ではコミュニケーションをとっていましたが、顔を合わせて会話をするのは初めての機会でした。この会合が有意義な時間となり、定期的に顔を合わせた会合を開くことになりました。先に述べた通り、欧州の業界が力を集約しようとするパワーに対して、日本の取り組みが十分に相対すると思われている証拠であると感じます。

ところで、昼食にはなんと塩鮭と照り焼きのお弁当が振る舞われました。帰国前に白米と魚をいただけるとは思わなかったので、大変なサプライズとなりました。

会合後にはJAMBEのメンバーとミュンヘンのビアホールにて懇親会を開催しました。このビアホールはバイエルン州立のブルワリー直営のもので1589年から続く超老舗ブルワリーです。1リットルのビールジョッキは顔と同じくらいの大きさでドイツのビールは水と同等であるということがよく分かります。そして、食事で逃してならないのは何といっても白いソーセージです。燻製されていないため、お肉本来のうまみを存分に感じながらも、意外にもあっさりであるという不思議さがありました(図6)。

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図6 会合と懇親会

おわりに

今回、当初の目的を達成できただけでなく、特にJAMBEメンバーと、異国の地で同じ釜の飯を食うことで関係がより強固なものになったと感じます。

私たちは、このたび獲得した情報や関係性を活用し、(MB)SEに関するサービスをさらに強化していきますのでぜひともご期待ください。

<参考文献>

[1] 仮想マイコン応用推進協議会vECU-MBDワーキンググループ、http://archive-vecu-mbd-public.3vsg.org/(外部サイトへ移動します)

[2] prostep ivip Webページ、https://www.prostep.org/en/(外部サイトへ移動します)

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