人とシステム

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No.68 | システム紹介
岩手大学における金型技術の研究教育 
金型技術研究センターと産学官連携[その1]
岩手大学工学部 機械システム工学科 金型・鋳造工学専攻 准教授 清水 友治 岩手大学工学部
機械システム工学科 金型・鋳造工学専攻
准教授 清水 友治

日本の金型技術は、世界的にも最先端にある基盤技術の1つで、日本のものづくりを支えてきたと言えます。しかしながら、日本の大学において、これまで「金型」と名のつく研究施設・教育課程は、岩手大学が始めるまではなかったようです。ここでは、本学が日本で始めて「金型」と名前のついた研究センターと大学院のコースを設置し、研究教育に取り組むようになった経緯と現在の取り組みを紹介させていただきます。

金型の研究開発プロジェクト

岩手県における金型集積地域
岩手県における金型集積地域

岩手大学において本格的な金型技術に関する取り組みは、1998・1999年度に産学官連携プロジェクト「次世代金型製造プロセスに関する研究開発」が実施されたことが契機となっています。

このプロジェクトでは、岩手大学が中心になり、岩手県工業技術センター、東北大学の 13名の研究者、および地域企業の 7社によって、金型に関わる表面技術、シミュレーション技術、加工技術など 18の研究テーマで実施されました。プロジェクトのテーマに「金型」を掲げることになった背景には、地域の産学官連携活動が大きく関わっています。

岩手県における産学官連携といえば、岩手ネットワークシステム(略して INSという)という組織が全国的にも有名で、国内でおそらく一番の老舗(今年で設立 20周年)で、かつ、現在も最も活発な産学官連携組織と言われています。

この INSの活動の中で、当時の岩手大学地域共同研究センター長が地元企業との交流により、地域のものづくり産業の特徴が精密金型であることに気付き(岩手県の北上川流域と沿岸中部に集積している)、地域との連携を考え、金型に関係する加工・ものづくり分野の研究開発のプロジェクトを提案したという経緯があります。

金型に関する産学官連携組織と技術研究センターの設立

金型センターの組織と研究開発のスキーム
金型センターの組織と研究開発のスキーム

2001年6月には、前述のプロジェクトにより研究開発された技術の継承とその事業化を進めるため、プロジェクトに参画した産学官のメンバーが中心になり、 INSの下部組織として「INSいわて金型研究会」が設立されました。さらに、このような研究開発と産学連携活動が認められ、日本で始めて、「金型」の名のつく大学の研究施設として、2003年2月に、工学部附属金型技術研究センターの基礎研究部門が設立されています。

さらに、同年 5月には、金型関連産業などのものづくり企業の集積している北上市(盛岡より南に約 50km)に同センターのサテライトとして新技術応用展開部門が設立されました。この岩手大学の金型技術研究センターの研究開発の取り組みの特徴は、ニーズ対応型ということが言えます。企業の技術ニーズに対し、大学の基礎研究部門のさまざまな要素技術の専門分野から、そのニーズに応えることで研究開発を進め、新技術応用展開部門で事業化を目指していくというスキームを考えています。

この金型技術研究センターと INSいわて金型研究会は、産学官連携の両輪として活動を行い、その一環として、地域企業と共同で研究開発プロジェクトを提案してきました。下記のテーマのように、そのいくつかが採択に至り、その成果も実用化されてきたものもあります。

  • 「小型IT機器用減速装置の開発」
  • 「難加工材の微細超精密プレス技術とその応用製品の研究開発」
  • 「マイクロ成形機の開発とそれを活用した生産革新技術の研究」
  • 「次世代情報家電・自動車用高度部材の生産技術の開発」
研究室の様子
研究室の様子

また、大学における使命として、研究、教育、社会貢献の3つがあげられます。これらの金型関係の研究開発プロジェクトは、岩手大学における教育の組織の立ち上げにもつながり、大学院の修士課程に金型コースが設置(岩手大学における鋳造工学の分野と統合し、2006年度に金型・鋳造工学専攻として開設)されました。
さらに、地域の企業における人材育成のコースとして、「岩手マイスター」事業の設置に発展しております。この両人材育成事業については、次の機会に説明させていただくこととします。

研究開発へのCAEの活用

Simufact.formingによる複合プレス加工(冷間鍛造+絞り加工)のシミュレーション
Simufact.formingによる複合プレス加工(冷間鍛造+絞り加工)のシミュレーション

金型には、多くの種類がありますが、岩手大学では、代表的なプレス加工金型とプラスチック成形金型の両方の金型を対象とし研究教育を進めています。

金型設計へのCAEの適用は一般的となりつつあることから、岩手大学では、プレス加工については、Simufact.formingを、プラスチック成形については、3D-TIMONを導入し、大学院の課程の実習と研究開発のツールとして活用しています。さらに、CAEを用いる場合に、闇雲に多くの試行錯誤により問題を解決しようとすることになりがちですが、効率良く、効果的な結果を出せるように、多くの場合、CAEに品質工学のパラメータ設計法の考え方を組合せることも行っています。

冷間鍛造と絞り加工が組み合わされ複合化したプレス部品に対する金型設計の課題に対し、Simufact.formingにパラメータ設計法を使い、最適金型形状を求めた事例が下記の図となります。

次号(人とシステム No.69)では、金型・鋳造工学専攻と、Simufact.formingを使った実習などをご紹介する予定です。

組織のプロフィール

基礎研究部門
基礎研究部門
新技術応用展開部門
新技術応用展開部門

岩手大学 工学部附属 金型技術研究センター

URL http://www.kitakami.ne.jp/~kanagata/
(外部サイトへ移動します)

所在地 基礎研究部門:〒020-8551 岩手県盛岡市上田4-3-5
応用展開部門:〒024-0051 岩手県北上市相去町2-35
設立 基礎研究部門:2003年2月
新技術応用展開部門:2003年5月

INSいわて金型研究会

URL http://www.kitakami.ne.jp/~kanagata/kenkyukai.html
(外部サイトへ移動します)

設立 2001年6月
事務局 岩手大学工学部附属金型技術研究センター内

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