人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.42 | お客様事例
新技術の研究開発を担うCATIA V5

株式会社坂本設計技術開発研究所様は、「金型設計専門の設計会社が必要とされる時が必ず来る」と確信を持たれ、独立されました。そして、お客様である金型製造現場の技術を常に勉強され、現場の苦労を理解し何ができるのかを追求しながら、感性豊かで想像力あふれる技術者集団を常に目指されています。今回は、津田サイエンスヒルズの企業立地の申請中でのご苦労や、設計者として大切なこと、新技術の研究開発におけるCATIA V5の役割などのお話を中心に、代表取締役 坂本喜晴様にお伺いしました。

事業概要

人物の写真
代表取締役
坂本 喜晴 様

当社は金型設計専門の設計会社として、自動車・弱電・航空機・農機具・電車などのプレス金型設計、モデリング、NCデータの作成を行っています。また、さまざまな技術研究開発にも産学連携で積極的に取り組み、地道な努力を積み重ねています。

けいはんな関西文化学術研究都市津田サイエンスヒルズ

2004年、関西文化学術研究都市の大阪府域における文化学術研究地区のひとつである津田サイエンスヒルズの企業立地に応募しました。そして2005年7月、大阪府の審査・選考を経て、津田サイエンスヒルズに念願の新社屋を竣工しました。

これまで津田サイエンスヒルズは、研究開発施設、教育、研修施設だけの公募でしたが、当社が入る1年前ほどから、商品開発の機能をもった製造メーカーの立地が可能になったため応募しました。なぜ、当社が審査に合格したのかを考えると、地球温暖化の防止、二酸化炭素の低減、その他の環境問題が重視されるなか、公害、騒音に関係のない企業であったからではないかと思います。また、ITとものづくりの先端事業にも敏感な時期で、3次元CAD/CAMを使って設計をしていた当社が、ものづくりの根源を担っていたことも認められたと思います。

津田サイエンスヒルズは、関西文化学術研究都市(京阪奈=けいはんな)に所属し、13~16社の企業群になると想定されています。「けいはんな」は、京都府、大阪府、奈良県にまたがり、文化、学術、研究、産業の新しい拠点を形成し、居住環境、都市環境の街づくりと融合した都市の実現を目標としています。ロボットから最先端技術などのいろいろなテーマがあり、たくさんの研究施設があります。その中で津田サイエンスヒルズは、大阪の東部地区の核となる大阪大学大学院工学研究科自由電子レーザー研究施設、そしてイオン工学研究所などがあり、世界でここにしかないような技術があるため、海外からたくさんのお客様がいらっしゃいます。また「けいはんな」は、42大学が参加した産官学の連携があり、いろいろな情報があふれています。当社がその中に入れたことは、すごいことだと思います。

■20年先の将来の計画

中小企業経営革新支援法に基づく経営革新計画承認企業の申請をするため、20年先までの新たな取り組みの計画を文書化しました。会社の目標、方向性、毎年の計画、働く意味など明確に文書化して、それを具体的に実現していかないといけない。これは、社員が一丸となって達成していく必要があり、そのため毎週、社員と勉強会を開きました。

ドラフターからはじまり、CAD/CAMを購入して、4坪の事務所から12坪に移って、その次は22坪と36坪の事務所を両方借り、北へ北へ移動してきました。そして、申請を出すときは1フロア60坪のテナントでしたので、本当に津田サイエンスヒルズの900坪に自社ビルを建てようと申請するの?とはじめは思っていた社員も、大阪府、枚方市、商工会、工業会、中小金融公庫などいろいろな方が来社され、着実に状況が進んでいく様子を見て本気になってくれました。

承認を得られると、優遇措置があるため、企業選考の審査には非常に多くの書類を提出する必要がありました。最初の1年は毎月の計画書を作成し、それが実現できているか大阪府は月2回ほど確認にきました。期限までに自分の夢、計画を文書化し、計画を実績にしていく。それを延々と繰り返して承認されるわけです。非常に難関でしたが、経営トップの考えを社員と共有して、具体的に実践できることが、こんなに素晴らしいことだと初めて知らされました。また、当社の進むべき道を再認識できたことも良かったと思います。

■設立当初の思いは変わらず

来年(2007年9月)には、会社を設立して30周年を迎えますが、「金型製作現場の職人さん達の苦労をどうにか助けて楽にしてあげたい。」という設立当初の思いは、今だに変わっていません。現場の金型製作技術を理解して設計を行い、機械加工や仕上げのことを考慮した図面を作成できれば、現場の無駄な作業を削減でき、工数も大幅に短縮できます。この思いがあるので、当社の設計者は現場が好きで、必ず現場に行きます。良い設計者になるには、人とコミニュケーションをとれるかどうかがポイントになります。特に職人さんとのコミニュケーションです。普通に聞いても教えてくれない頑固な職人さんは、やはり心を開いてお付き合いする必要があります。それから現場の職人さんと話せるだけの技術を自分で勉強する必要があります。現場の職人さんと話せるようになって、はじめて設計者としての喜びがあります。

当社がお付き合いいただいている会社の多くは、少人数で取り組まれている会社です。なぜかというと、そこに行けば、自分が設計した内容が全部確認できるからです。そこには、機械に頼らない職人の技術があり、創意工夫がたくさんあります。「こんなやり方はいけない。」、「これはうまくいった。」と、ものを見ながら教えてくれます。ところが、会社の規模が大きくなると外注に出している場合もあり、設計の良し悪しが確認できないことがあります。やはり、ものづくりの技術は現場に行かないと伝わってこないと思います。

■地域社会への貢献

インターンシップとして、学生を受け入れています。また、地域の人を採用することによって、雇用促進に貢献しています。今までは採用していなかったパートの女性も受け入れて、設計、NCデータなどの業務に携わっています。今後も増やしていきたいと考えています。

設計者として

■金型製造現場を体験する

毎年新人は、当社の図面で金型を作っているお客様の現場へ行きます。そこで、一緒に鉄板を切ったり、溶接をさせてもらいながら、その技術を教えていただいています。女性もヘルメット、軍手、作業服、安全靴を持っています。それから、鋳造現場や実際にプレス機械で成型している現場にも行きます。そこで、我々の書いた図面にミスがあれば、どれだけ大変なことになるか、現場の人たちは、どんな苦労をして作っているか、現場の空気、匂い、音の全てを感じて、いろいろなことを体験するのです。現場の光景が分かって、はじめて良い設計ができるのです。

■オフィスの環境

挿絵

植栽計画として、門前には花の咲く低木、横は中高木、裏は自然の雑木林と果実の木を植えました。季節によって、花や果実が順番に楽しめるように考えました。社屋の周りには、歩くと20~30分ぐらいの「哲学の道」を作っています。歩くだけではなく、雑木林の間に、柿、ブルーベリー、ラズベリー、みかん、栗、さくらんぼなどの果実の木を植えているので、散歩しながら季節の果実を取りに行く楽しみもあります。当然、木々への散水なども社員がします。土を触ったり、花を育てたり、雨の日や雪の日も自然を肌で感じてほしいと思います。今の若い人は設計をする上で、もっと自然に関わることが大切だと思います。

また、設計していると1日中動かないことが多いため、フロアも人が動くように設計しました。2階が設計するフロアで、3階がロッカールーム、トイレ、食堂です。2階にはトイレがないので、1日中皆が動いています。体を動かすことで、血液が流れ体温も上昇するため思考力も俊敏さが出てきます。そして、フロアを行ったり、来たりしている間に、景色を見たり、空気を吸うことにより気分も変わるので、いろいろなアイデアがひらめいたり、今まで行き詰まっていた問題の解決策が見つかったりするものです。

今では、こういうことを考えて実行できるきっかけを与えてくれた大阪府に感謝しています。

■勉強会

担当者を1人決めて、自分が感動したこと、体験したことを1時間以上発表する、という勉強会を何年も続けています。また、仕事で分からないこと、悩んでいることを皆で話し合ったり、設計で必要と思われる基本的な材料や機構学、構造の勉強もしています。勉強会には書記がいて、大学ノートに鉛筆で筆記した後、1人ずつに回覧して間違っていれば赤で書いて返しています。この勉強会で大事なことは、発表する能力、人が話していることを書く能力、それをまとめる能力です。これが設計には大切なことです。

■ファンを作る

生き残る会社というのは、お客様がその会社のファンになってくれることだと思います。例えば、ドラッグストアで体調を聞いてくれて、薬選びのアドバイスをしてくれる店員さんがいると、また相談して薬を買いたいと思います。自分に得な情報を教えてくれる店員さんのファンになってしまいます。

当社も一番大切なことは、ファンを作ることです。とにかく、良かったこと悪かったことを金型製造現場で聞いてきて、お客様が楽になり利益を得られる提案ができることを目指しています。そして、当社のファンになっていただいて、相談してもらえるようになりたいと思っています。結局、会社も社員もそのファンに支えられることになるので、人をひき付ける魅力ある設計者になってほしいと思います。

永遠のテーマでもありますが、ものづくりとは人づくりで、良い人材に恵まれることと、人材育成が非常に重要です。

CATIA画面 CATIA画面

今後の取組み

■ソリッド設計

これまでGRADEからSpace-Eに移行し、CATIA V5を6台導入して設計に取り組んでいます。当社の計画の中にソリッド設計があるので、将来はもっとCATIA V5を導入する予定です。今後、ソリッド設計は進化していきますが、2次元図面は無くなることはないと思うので、当社は両方やっていきます。新産業のテーマに関しては、シミュレーション、干渉チェックなど、新しいデザインに対応できるCATIA V5でのソリッド設計が重要になってくるでしょう。

製品の写真 画面例

■金型製作データのご提供

金型製作に関するデータを全てご提供することを考えています。設計から面データ、ソリッドデータ、NCデータなど金型ができるまでの一連のデータをご提供できれば、現場で加工するときに形状をPCで確認することもできます。

■金型設計プロセスの自動化

金型設計におけるプロセスの自動化にも取り組んでいく予定です。必要な条件を入力すれば、ある程度まで自動で金型設計ができるようにCATIA V5のナレッジを利用して構築していきます。その中で行う解析シミュレーションに反映させるため、職人さんの知恵や技術の数値化を行いたいと考えています。これにより、生産実績のある金型のソリッドデータがデータベースに蓄積され、再活用が容易になります。

なぜ職人さんが自分の技術を伝えることが難しいのかということが、この度の申請書類の作成をしてよく分かりました。ただ、理論的に裏づけできる数値がなければ、若い人に技術を伝えられません。

■発泡加工の新技術

1階に発泡加工機を入れる予定です。自分達で作った面を1:1で加工して、実際の形状を見ながら検討したり、画面で見落とした箇所を確認するためです。それから、加工した発泡形状を鋳造現場に供給したいと考えています。その他にも、アクリル、樹脂の加工も考えています。そして、発泡加工機を入れる一番大きなテーマは、大阪府の産業技術総合研究所や大学の先生方と一緒に、新産業技術の開発に取り組むためです。レーザーを使って、CATIA V5で作った3次元ソリッドデータをもとに発泡ビーズを硬化させる技術を検討中です。

■新技術への取り組み

産業界と大学でいろいろなコラボレーションをして、さまざまな技術、情報交換が盛んに行われています。津田サイエンスヒルズに来て、いろいろな大学の先生や研究者の方々とお話したり、企業の方々との交流があります。当社が目指していた設計屋としての目標は変わりませんが、産学連携で将来に向けての幅広い技術開発ができる環境になりました。

今後、医工連携での人工臓器、人工関節、人工骨などを専門とした学部ができるようですので、この分野の新技術の研究開発へも取り組んでいきたいと思っています。

■会って話をする

将来、第二京阪道路が完成すると、ここから京都は13分、大阪市内は9分で行けるので、交通アクセスが非常に良くなります。今までは、電話線があれば山の中でも十分やっていける仕事だと思っていましたが、最近は人と会って直接話をすることが一番大事だと感じています。メールでもやり取りはしますが、横に居るのにメールで用件を伝えて話をしないというのはどうかと思います。若い人の間で定着しているメールでの情報交換ですが、このことで人と話す機会が極端に減っています。直接人と会って、その場の雰囲気を全て感じ取ることがとても大切なことだと思います。

NDESへのメッセージ

NTTデータエンジニアリングシステムズ(略称:NDES)に社名が変わっても、今まで通りのお付き合いをしてほしいと思います。当社は、システムの機能の違いなどで、メーカーを変えたりはしません。ひとつのところと付き合って、そこに技術的にもレベルアップを図ってほしいのです。他のシステムにできることは、当然NDESにもできるでしょう、という考え方ですし、今のNDES担当営業を信頼してお付き合いしています。だから、NDESもファンをたくさん作って今後も頑張ってほしいと思います。

おわりに

ヒートアイランド現象も考慮され、電力の使用をひかえるため、昼間は、蛍光灯を付けずに自然光を取り入れ、エアコンを使わず自然の風が入ってくるように社屋を設計されたそうです。取材中も、気持ちの良い風が入り、鳥のさえずりが聞こえていました。大阪府の中心地とでは、7度の温度差があるそうで、自然の気持ち良さをしみじみ感じました。

大変お忙しいところ、貴重な時間をさいてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

会社プロフィール

会社の写真
社屋
会社の写真
設計フロア

株式会社 坂本設計技術開発研究所

経営革新計画承認企業
大阪府新規成長分野認定企業
所在地 〒573-0128 大阪府枚方市津田山手サイエンスヒルズ2丁目20-1
設立 昭和53年9月1日
資本金 1,000万円
従業員 17名
事業内容
  • 自動車・弱電・航空機・農機具・電車・軍需等のプレス金型設計および研究開発。
  • モデリング・NCデータ・解析・シミュレーション・造形面の研究開発。
  • 塑性加工技術の研究開発およびデータの蓄積、データベースの作成と応用。
  • 知的財産の創造、保護の研究開発。
  • サテライトオフィス構想の研究および実施。

関連するソリューション

関連するソリューションの記事

2021年07月10日
4事業部のご紹介(2)
製造ソリューション事業部
2019年01月01日
CAD/CAMシステムオンラインサポートサイト
e-support リニューアル公開のお知らせ
2017年01月01日
3DEXPERIENCE Platform ENOVIA V6による
プロジェクト管理のご紹介
2016年10月01日
3DEXPERIENCE Platform ENOVIA V6による
BOM管理のご紹介
2016年07月01日
CATIA V5 ENOVIA V6
バンドルパッケージ(ASO3X-JP)のご紹介
2014年10月01日
トータルソリューションのご提案(1)
STLの活用例
2009年10月01日
導入支援レポート(第2回)
「経験」に基づいた導入支援における金型テンプレート構築方法
2009年07月01日
導入支援レポート(第1回)
「経験」に基づいた導入支援の進め方
2008年07月01日
PLM技術レポート(第7回)
CATIA V5を使用した設計業務におけるカスタマイズ事例
2008年01月01日
PLM技術レポート(第6回)
「Space-E V5、CATIA V5を使用した、
カスタマイズ事例(3次元加工テンプレート)」
2007年10月01日
PLM技術レポート(第5回)
「Space-E V5、CATIA V5を使用した、
カスタマイズ事例(マクロによる自動化)」
2007年07月01日
PLM技術レポート(第4回)
「Space-E V5、CATIA V5を使用した、
カスタマイズ事例(マクロによる自動化)」
2007年04月01日
PLM技術レポート(第3回)
「Space-E V5、CATIA V5を使用した、
カスタマイズ事例(穴あけの自動化)」
2007年01月01日
PLM 技術レポート(第2回)
「金型要件におけるSpace-E V5、CATIA V5の運用事例のご紹介」
2006年10月01日
PLM 技術レポート(第1回)
「金型要件におけるSpace-E V5、CATIA V5の運用事例のご紹介」
2006年01月01日
PLMレポート(第4回)
「型設計効率50%UPを実現させるために」
2005年10月01日
PLMレポート(第3回)
「型設計効率50%UPを実現させるために」
2005年07月01日
PLMレポート (第2回)
「型設計効率50%UPを実現させるために」
2005年04月01日
PLMレポート(第1回)
「型設計効率50%UPを実現させるために」
2002年10月01日
PLMソリューション CATIA V5のご紹介