人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.90 | お客様事例
3次元艤装設計システム「管ナビ」の活用で
艤装設計の3次元化を図る

大分県南東部の臼杵市は、東を豊後水道に面し、切り立った南東の尾根へと広がる温暖で自然豊かな地域です。臼杵湾には、後の三浦按針が乗った帆船のリーフデ号が漂着したとされる黒島が浮かび、国宝の臼杵石仏があるなど歴史的スポットでもあります。今回は、ケミカルタンカーの建造を得意とする臼杵造船所様が造船業界向けトータルソリューションを活用する中で、主に3次元艤装設計システム「管ナビ(kan navi®)」をどのように役立てているかを伺いました。

「3次元艤装設計ツールの導入による
中小造船所の人材確保」の取り組み

株式会社 臼杵造船所 執行役員 設計本部長 堺田 和昌 様
株式会社 臼杵造船所
執行役員 設計本部長
堺田 和昌 様

臼杵造船所様は、各種船舶の設計から建造を手がけており、現在はケミカルタンカーを中心に旅客フェリーなどを年間平均で約5.5隻を建造しています。その設計のためのシステムとして、船殻を設計する3次元船殻CAD/CAM「GRADE/HULL」、そこで作成された3次元データをパソコンやタブレットで確認できる造船専用ビューワ「Beagle」、配管を中心に3次元で艤装設計を行う「管ナビ」を導入しています。

ケミカルタンカーの特徴の一つにパイプの多さがあります。例えばフェリーでは、トータルで5000~6000本の配管が必要ですが、同規模のケミカルタンカーでは2倍の1万本以上になるのが一般的です。そのため、配管設計は、より重要で作業量も多くなります。同社では、熟練技術者の高齢化により、2002年頃から定年退職者が増え、若手への技術・技能の伝承を推し進めたいとの思いがありました。その中で、2015年から実施された一般社団法人 日本中小型造船工業会(以下、CAJS)の日本財団助成事業である「3次元艤装設計ツールの導入による中小造船所の人材確保」に3年間の予定である2018年3月まで取り組みました。

執行役員で設計本部長の堺田和昌様は、その取り組みを次のように振り返ります。「当社の艤装設計部門には当時は入社して2~3年の社員が多かったこともあり、設計の3次元化と人材育成を兼ねたCAJSの事業を推進してきました。この事業に参加した造船会社、設計会社がおのおのの視点で問題点を洗い出すことで、管ナビの機能や品質を確保できました。この取り組みを自社だけ行うことは難しく、CAJSのおかげで実施できたと思います」

株式会社 臼杵造船所 設計本部 機電設計部 配管設計課 主任 篠田 壮則 様
株式会社 臼杵造船所
設計本部 機電設計部
配管設計課 主任
篠田 壮則 様

この事業の中で、管ナビへの要望が各社異なっていたといいます。艤装設計を3次元化して図面を自動出力する場合、100%の完成度で全図面を出力してほしいという考えと、6~7割ほどの完成度であれば図面に少しの手直しがあってもいいという考え方がありました。この完成度の考え方の違いが、管ナビを活用していこうという温度差でもありました。臼杵造船所様は、後者の考え方です。見やすい寸法の記入位置にするという図面の手直しがあっても管ナビを活用したメリットに魅力を感じられていました。

臼杵造船所様は、設計会社である今治市のサンケイ設計株式会社様とタッグを組んで管ナビを活用するようになりました。配管設計は作業が多く、常に人員不足の状況です。そのため外注先との連携が不可欠で全体の6~7割を発注しています。設計本部機電設計部配管設計課主任の篠田壮則様は、「サンケイ設計の方は、管ナビを使いこなされており、当社と二人三脚で取り組んできました。その中で、NDESの協力もあったので管ナビを使いこなせるようになりました」と話します。

AutoCADベースの管ナビの強み

管ナビを使って設計作業を行う女性スタッフ
管ナビを使って設計作業を行う女性スタッフ

管ナビは、配管をはじめ船殻以外の装置や備品を含めた艤装設計を行う3次元設計システムです。管一品図、バンド製作図などの自動出力も簡単に行えます。大きな特徴は、Autodesk社のAutoCAD Plant 3D上で動作するアドオンシステムであるという点です。そのため、2次元のAutoCADに慣れた設計者にとっては容易に習得できます。導入した管ナビについて堺田執行役員は次のように話します。

「管ナビの一番のメリットは、AutoCADをベースにしているというところです。3次元配管システムは他にもありますが、専門性を要する人材確保や習得に長期間かかるという問題がありました。システム的には高性能で多機能というのが理想ですが、それを使いこなしてすぐに業務で使うには時間がかかると思います。大規模な造船所になると容易ですが、当社規模ですと簡単な操作ですぐに習得できることが重要になります。その点、管ナビはすぐに業務へ取り入れることができているので、当社に合っていたと思います」

管ナビの導入当初は、不具合が発生するたびに改善を要求しました。現状について篠田主任は、「現在、不安要素はありません。NDESの対応のおかげで、問題なく利用できるようになりました。管ナビの運用を開始して1年目ですが、操作の習熟度が上がれば、さらに効率良く使いこなせると思います。システム的には追加したい機能もありますが、現在は運用でカバーできているので、今後の課題として考えています」と話します。

非熟練者であるスタッフの女性たちも管ナビを操作して2次元図面を基に3次元モデルを作成し、管一品図まで出力していました。彼女たちは、ストレスなくスムーズに管ナビの操作ができたので、配管設計に興味を持つようになり、勉強をして知識を深めたいと思うようになったそうです。このように、臼杵造船所様では非熟練者の活躍の場が広がっています。非熟練者に対して配管設計の教育を行うときも管ナビを活用できます。言葉では伝えにくい場合も画面を見れば教えやすく、理解度も向上します。

配管の3次元化により
設計ミスを大幅に削減

同社では従来、熟練者が2次元で艤装設計を行い、2次元図面を基に現場で使う管一品図も作成していました。しかし、膨大な量の管一品図を作成する熟練者に負担が集中し、干渉などの設計ミスを防ぐことが難しかったといいます。

管ナビ導入の効果として、設計ミスを無くすためのチェックの目を増やせたことも、あげることができます。篠田主任は、「2次元図面では表現しにくい部分があり、詳細が明確に描けない場合がありました。その場合、複数の図面を見比べて確認することはできますが、干渉している部分を的確に判断できるとはいえません。図面だけでは、構造物と配管が干渉していても気づかないこともありましたが、管ナビを使えば、熟練者でなくても干渉確認が容易になり、かつ短時間で行えます」と具体的な効果を強調します。

従来、新船では100以上の誤作が出ることがありましたが、それが7~8割も削減されるなど、不具合や誤作の大幅な削減につながっています。特にケミカルタンカーは、化学プラントのように入り組んだステンレスのパイプが配置されています。この材料であるステンレスは価格が高く、誤作を減らすことで費用負担が軽くなります。

非熟練者であってもミスを減らす機会が増えただけでなく、もしミスが出てもそれをカバーするための改正図を正確に出すことが可能になった点も大きなメリットになっています。これまでは、ベースとなる配管図の修正を行った場合、他の図面もそれに合わせて修正する必要がありました。管一品図などを手書きしていた時代には、修正の転記ミスも起こっていましたが、管ナビ導入後は、基の設計図を訂正するだけで正しい図面を自動出力できるので、ここでもミスが軽減されているのです。

左からポンプ室、機関室、上甲板の3次元モデル。上甲板は複雑な配管を再現している
左からポンプ室、機関室、上甲板の3次元モデル。上甲板は複雑な配管を再現している
左からポンプ室、機関室、上甲板の3次元モデル。上甲板は複雑な配管を再現している
左からポンプ室、機関室、上甲板の3次元モデル。上甲板は複雑な配管を再現している

先行艤装の現場でも効果あり

「先行艤装」では、ブロック製作完了後、搭載前に配管などの艤装を地上で行う
「先行艤装」では、ブロック製作完了後、搭載前に配管などの艤装を地上で行う

造船では、天井を下にした状態で船殻のブロックを造りますが、その際に配管などの艤装も同時に行います。これを先行艤装と呼びます。足元に天井部分があるため配管がしやすく、船首など狭い場所での溶接もやりやすいのが先行艤装の特徴です。

篠田主任は、「現場作業者からの評判も良いですよ」と言います。それは、先行艤装で管ナビ導入の効果が現れているためです。効果の一つが、ブロック単位でパイプを設置する先行艤装で、船殻の一品図と同時に管一品図が出力できるようになったことです。さらに設置位置のアイソメ図が出ることで、2次元図面では想定しづらかった複雑な配置が分かりやすくなり、熟練者以外でも円滑な作業ができるようになりました。その結果、作業時間の短縮につながっています。「設計する時には、現場作業を時系列で考えながら行い、もし変更などが生じても管ナビがあると即応できます」と設計から現場への流れを堺田執行役員は重視しています。

3次元化の社内比率を上げる

今後、新設計のアプローチは、2次元からスタートして3次元化する方法と、2次元は検討図と位置付け、3次元をメインとして設計する方法に分けられます。その際の菅ナビの活用について篠田主任は、「現状、2次元図面を3次元化する作業としては全体の40%程度に増えています。今はまだ過渡期だと思いますが、いずれ3次元設計がメインになれば、さらなる効率化や技術的な平準化が進むと期待しています」と話します。

熟練者が必要となる配管設計ですが、簡単な系統でパイプが3~4本通るようなケースは、2次元から3次元に落す作業を通じて教育をしながら、最初から3次元で作成することを非熟練者に期待しているそうです。

3次元化について堺田執行役員は、次のような考えを持っています。「2次元を描いて一品図を製作するという流れの中に、3次元をトレースするという1工程が入ってくると、当然時間がかかると予測していました。ところが、管一品図は自動で出力できたため1工程増えたにもかかわらず、トータル的には変わりませんでした。究極は熟練者が3次元で作業することだと考えますが、それはまだ先のことです」

建造中の19,000トン型ケミカルタンカー(左)と艤装中の16,000トン型ケミカルタンカー(右)
建造中の19,000トン型ケミカルタンカー(左)と艤装中の16,000トン型ケミカルタンカー(右)
建造中の19,000トン型ケミカルタンカー(左)と艤装中の16,000トン型ケミカルタンカー(右)

今後の展開について

現場では、タブレット端末が使えるようになれば、利便性をさらに向上できる可能性もあります。今後、実現するための課題に取り組む必要があります。

現在、管ナビから出る情報を納品管理に使っています。今後は、材料の歩留り向上のため、ネスティングをする最適な板取の検討にも活用したいと考えています。

その他に、船主様のご提案に活用することも考えています。1隻目に設計を3次元化しておくことで、2~3年後に2隻目の同型船を造るときに、管ナビの画面を見ながら改善、改良を提案することができます。

NDESへ

「NDESが費用的に負担のかからない管ナビという艤装設計システムを開発し、CAJSを介して『3次元艤装設計ツールの導入による中小造船所の人材確保』の事業の一端を担ったことは、当社にとって有益でした。今後も当社に適したツールの情報をご提供いただければと思います」と堺田執行役員は話します。

今回の人材育成事業の計画実施においては、同社代表取締役社長であり、当時CASJの副会長であった角田二朗様の推進により実現しました。
そのご尽力にNDESは深く感謝申し上げます。
NDESは、臼杵造船所様の事業発展のため、今後もトータルソリューションベンダーとして、貢献できるよう努めます。

会社プロフィール

株式会社 臼杵造船所
社屋外観

株式会社 臼杵造船所

URL http://usukiship.co.jp/(外部サイトへ移動します)

所在地 大分県臼杵市大字板知屋1番地12
設立 1988年8月16日
資本金 5,000万円
従業員 519名(2018年4月9日現在)
事業内容 各種船舶・艦艇の建造修理、鉄構造物および機械器具設置業(特定建設業、大分県知事許可)、土木・建設および鉄骨の製作、クレーンなど荷役運搬機械の製作、高圧容器の設計・製作、コンピューターによる情報処理

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