人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
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No.50 | お客様事例
金型および加工冶具設計に
Space-E CAA V5 Basedを有効活用

日立金属株式会社九州工場様は、創業当初から長年培われた鋳鉄製造技術を基に、自動車の高級鋳物部品を中心とした独自製品を世界市場に向けてご提供されています。近年、環境対策製品として需要が高まる中、エンジン・排気系部品とした耐熱鋳鋼「ハーキュナイト」シリーズを開発され、環境に優しい自動車部品製造に貢献されています。

今回は、Space-E CAA V5 Based(以下、Space-E V5)の導入背景や活用のお話などを、ハーキュナイトセンター長 大沼寛様、ハーキュナイトセンター 技術Gr 技師 模型係 係長 池本幸人様、ハーキュナイトセンター 技術Gr 模型係 吉竹隆司様にお伺いしました。

九州工場の事業概要

人物の写真
ハーキュナイトセンター長
大沼 寛 様

九州工場の歴史は古く、明治43年(1910年)、東洋初のマレブル工場として発足した戸畑鋳物(株)が始まりです。

その後、昭和12年に日立製作所と合併し、昭和31年、同社より分離独立。以後、日立金属(株)戸畑工場として発展を遂げてきました。そして昭和48年、近代的技術を誇る最新工場として苅田分工場を建設し、画期的な量産体制を確立。さらに昭和55年、戸畑から京都郡苅田町に本拠地を移し九州工場として新発足、現在に至っています。

今も戸畑鋳物(株)以来のパイオニア・スピリットが脈々と息づいています。

日立金属は、高級金属製品、電子・情報部品、高級機能部品、サービス他の4分野のカンパニーに分かれて事業展開しています。この九州工場は、その高級機能部品の自動車機器カンパニーに属しており、自動車の排気系部品のエンジンなど耐熱性のある鋳造品を製造しています。

主なお客様は、国内外の自動車メーカ様および、システムサプライヤーのターボチャージャーメーカ様で、売上げの比率は、国内1/3、北米1/3、欧州1/3となります。北米、欧州では、各国の主要な自動車メーカ様とお取引させていただいています。

耐熱鋳鋼による排気系部品

製品は、主に乗用車ガソリンエンジン向けの各種排気系の鋳造製品が多くなっています。最近、地球環境の対策として燃費を重視したエンジン開発が多くなり、売上げを伸ばしています。

九州工場では、「ハーキュナイト」による排気系部品を製造しています。「ハーキュナイト」とは、日立金属で独自に開発した鋳造用耐熱専用材料のブランドネームです。この「ハーキュナイト」には、いろいろなグレードがあり、鋼製排気系部材で、最高1,050℃までの高温に耐えられる耐熱性があります。自動車のエンジンは、高速道路などで加速や減速を繰り返し、パーキングエリアではエンジンの停止など、温度変化が激しい環境にあり、このような熱疲労寿命にも「ハーキュナイト」は優れた材料です。この材料で製造する主な製品は、エキゾーストマニホールド、排気エネルギーを利用する過給器(ターボチャージャー)のタービンハウジングなどがあります。

また、ヨーロッパのお客様では、エンジンのダウンサイジングが行われています。たとえば、排気量2,000ccのエンジンの設計変更により、排気量1,400ccのエンジンにしてターボを付けることで、2,000cc並の馬力が得られます。このように、コンパクトなエンジンで馬力を上げようとすると排気温度が上がるため、「ハーキュナイト」をご利用いただいています。


※ハーキュナイト、マニターボは、日立金属株式会社の登録商標です。

Space-E V5導入の背景

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ハーキュナイトセンター
技術Gr 技師 模型係
係長 池本 幸人 様

これまでGRADEで型製作を行っていましたが、システムのPC移行という時代の流れもあり、CAD/CAMを検討し始めていました。その頃は、お客様のCADデータを扱う作業が増え始め、その中にCATIA V5データでのやり取りの依頼がありました。お客様は、開発納期を短縮されていたので、短納期を実現するには、お客様と共通のシステムが求められていました。このようなことから今後は、お客様とのやり取りにはCATIA V5が必要ではと考えました。

そして、これまでGRADEを使って型製作で作り上げたデータを、そのまま反映できる利点を考えると、CATIA V5と統合したSpace-E V5が一番適していると判断し、導入を決定しました。

Space-E V5を導入することで、社内的には開発品や試作の短納期に対応でき、お客様にはCATIA V5の生データでお渡しできるため、開発工程にもご利用いただけます。

安全対策として、自動車のエンジンルームの中にクラッシュゾーンを作ることが求められています。これは、衝突したときの衝撃をある程度吸収するための空間です。これによりエンジン部品などが、よりコンパクトになり、排気系部品の鋳物形状もより複雑になってきました。このような状況の中、Space-E V5を利用することで、より高度な部品形状の設計が可能になります。

Space-E V5の利用効果

【CAD/CAM作業の分担】

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ハーキュナイトセンター
技術Gr 模型係
吉竹 隆司 様

業務では、CADとCAMの作業を分担しています。CAD作業は、基本的にお客様のデータをいただいて、鋳物に適した形状の製造性を検討して、加工できる形状のモデルをご提案しながら、お客様とのデータの整合性を取り、製品形状に仕上げていく作業です。

CAM作業は、型を作るためのモデリング作業から、NCデータ加工までの作業です。

この2つの作業をSpace-E V5であればCATIA V5の環境で操作することができ、CAMはGRADEと同様の操作でNCデータを出力できます。現在Space-E V5は、CAM作業をメインに利用しています。

Space-Eは、Modelerを導入して、GRADEとのデータのやり取り、モデリングやドローイングの図面出図に使っています。

【3Dモデルデータ(ソリッド)の利点】

・ご提案、見積段階

お客様は、機能を満足する形状を設計されるので、当社では、鋳造を製品にするための型割や中子など製造性を検討します。お客様との打ち合わせで、当社としての製造性を盛り込んだ形で提案させていただくときに、3Dモデルデータを使います。形状が複雑になると、2次元図面を見るだけでは、時間がかかったり、見落とすことも考えられ、検討段階から3Dモデルデータを使えることは大きな効果があります。3Dモデルデータであれば、重量の算出ができたり、型抜きの製造性がさらに良くなり、部品の点数が少なくなることでコスト低減につながるような提案ができます。また、設計から製品立ち上げまでの納期回答の見積にも3Dモデルデータを使っています。

最近は、CATIA V5データを扱うことが多くなってきました。

・開発段階

お客様は、設計されたエンジンを組み付けて、軽量化や疲労寿命の延長など、いろいろな検討をされます。

そのやり取りにも3Dモデルデータを活用しています。そして、スペックに変更があれば、その都度、型の製造性を検討するために、製造の凝固シミュレーション、湯流れシミュレーションなどの解析にもソリッドデータを活用しています。

頻繁にデータをやり取りしながら形状が決まっていくので、いかに早くお客様が使われているデータでお渡しできるかが重要です。Space-E V5であれば、CATIA V5の生データですぐにお渡しできます。

・量産段階

量産の半年から1年前には、ご提案内容をお客様に合意いただき、その3Dモデルで型設計を始めます。そのときに、形状の大きさによっては、1つの型で何個取れるかSpace-E V5で検討します。CATIA V5データを基にして、型を割って配列に落として、パス出しまで行っています。

また、加工冶具の設計にも3Dモデルを利用しています。加工前の素材の段階で、押し流れる湯道を切り離す冶具の設計に活用しています。今後は、増設も検討しています。

・型と加工冶具の同時設計

Space-E画面
Space-E画面

通常は、鋳造と加工の工場は別々に建っていますが、この九州工場は、材質を独自開発していることもあり、工場内に鋳物と加工の両方の工場があります。

Space-E V5を使っているCAD/CAM部門は、以前は型の設計が中心でしたが、最近は加工冶具の設計も始めています。このように、型と加工冶具の設計を同時に展開することで、短納期でより品質の高いものをご提案できます。

【GRADEからSpace-E V5へ移行】

以前は、GRADEからソリッドへの変換がうまくいかないことがありました。サーフェイス特有のモデリングが多かったので、それをソリッドへ置き換えることが難しかったと思います。Space-E V5では、ある程度サーフェイスでソリッドを作り込めるようになり、履歴形式もCATIA V4と比較すると簡略化されて、使いやすくなりました。たとえば、コアを抜き取る操作もSpace-E V5で簡単にできます。

お客様のデータを基に設計しているので、GRADEで設計していたときより、ソリッド的な要素は強くなっています。Space-E V5の型製作は、2mmを3mmに変更したり、ピッチをずらすような変更には便利です。履歴操作での問題はあります。面を変更すると、周辺のフィレットなど自動で合わせ込むことが難しいようです。また、CAM機能が多く複雑なので、新たな機能を使おうとする場合、時間が必要になります。

今後の課題

【データ変換】

CATIA V5以外を使われているお客様もいらっしゃるので、型製作をするためにデータ変換が必要になります。統合されたシステムでデータ変換をすることなく、作業ができるようになればと思います。部品メーカは、いろいろなシステムに対応しなければいけないので、共通化してもらえるとありがたいです。

【オペレータの育成とお客様のニーズ】

鋳物の作り勝手や加工の知識を持ったCADオペレータを育成していますが、お客様のニーズが変動した場合の対処を検討しています。お客様の依頼が短期間に集中する場合もあれば、余裕がある場合もあり、これに100%対応することは難しい状況です。

設計の風景

オペレータを育成するにも時間がかかります。

今は、受注が伸びているのでオペレータの育成をしながら採算に応じてシステムを増設していますが、今後、頭打ちになった場合を考える必要があります。

また、今は高度な開発対応に追われていますが、今後は、標準化のことも検討していきたいと考えています。

【CAD/CAM業務のコスト回収】

部品の単価は、中国等と比較され、プラスアルファの技術サービスは、あまりコストとして評価されていないようです。お客様の開発段階でご提案をして、設計のサポートをさせていただいていますが、CAD/CAM業務は、コストとして回収しにくい状況です。

NDESへ

先ほども話をしましたが、CAD/CAM業務は、部品1個に計上するコストではないので、NDESに期待するのはシステムの価格です。導入したSpace-E V5は、GRADEの操作性とお客様が使われているCATIA V5を統合したシステムであり、本来は2つのシステムが必要だったのが1つになり、価格的には満足しています。このように、納得できる価格を期待しています。

Space-E V5の教育は3日間受けましたが、導入直後の一般的な講習だったので、会社に戻ってからは、手探り状態で操作していました。講習内容以外のNCパスの操作説明も、聞ける時間があまりないので、基本的な教育を受けてから、実際の業務で使った後に、上級向けの教育が1日あると助かります。

システムの細かい不具合は、随時対応していただいています。NDESとは、GRADEからの付き合いで、当社の使い方を分かってくれているので助かります。

おわりに

取材にお伺いした日は、天気も良く、広い工場の敷地内にある数多くの木々の緑が眩しいほどで、徒歩での移動は気持良く感じました。

GRADE時代から20年近く、弊社とお付き合いいただき、今後もお役に立てるよう努力いたします。

大変お忙しいところ、貴重な時間をさいてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

会社プロフィール

会社の写真
九州工場

日立金属株式会社

本社 〒105-8614 東京都港区芝浦一丁目2番1号
設立 1956年(昭和31年)4月10日
資本金 26,284百万円(2008年3月末現在)
売上高 日立金属単体 4,079億円(2008年3月期)
従業員 日立金属単独 5,708名(2008年3月末現在)
事業内容 高級金属製品、電子・情報部品、高級機能部品の製造と販売、サービス他
九州工場 〒800-0393 福岡県京都郡苅田町長浜町35番地
製品の写真
エキゾースト
マニホールド
製品の写真
タービンハウジング
製品の写真
マニターボ

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