人とシステム

季刊誌
NTTデータエンジニアリングシステムズが発行する
お客さまにお役に立つ情報をお届けする情報誌です。

No.87 | お客様事例
リバースエンジニアリングで
老朽化した金型を再生

川中グループは、川中精器工業株式会社様、株式会社川中鉄工様、カワG技研株式会社様の3社が連携し、自動車部品のプレス用金型の設計・製造を行う業界屈指のメーカーです。川中グループの強みである高精度、高品質な金型作りを支えているは、40年を超すモノ作りで培われた高い技術力と豊富なノウハウです。近年では、超ハイテン材の金型製作に3次元CAD/CAMソフトウエア「Space-E」、3次元スキャナー「ATOS」、プレス成形シミュレーションシステム「JSTAMP」を駆使し、作業工数の短縮を実現しています。

グループ3社が役割を分担して
プレス用金型を設計・製造

川中精器工業株式会社 カワG技研株式会社 代表取締役社長 川中 洋二 様
川中精器工業株式会社
カワG技研株式会社
代表取締役社長
川中 洋二 様

大阪府門真市に本社を置く川中精器工業様は、現社長の川中洋二様が1975年5月に大阪府四條畷市で創業した「川中製作所」が始まりです。1981年7月には法人化し、現在の「川中精器工業」と改名しました。後に川中鉄工様とカワG技研様を分社化し、現在は「川中グループ」として3社で協力し、プレス用金型の設計から製造・販売までを行っています。主力は自動車部品のプレス用金型になりますが、家電製品などの金型も製造しています。

川中グループは、各々の会社がその役割を担うことで連携体制を確立しています。大物金型を主に製造しているのが川中精器工業様です。製造拠点は、本社工場以外に門真第二工場と滋賀工場があり、タンデム型、トランスファー型、順送型、ラインペーサーなどの大物金型を製造しています。小中物になる300トン以下の金型は、川中鉄工様が製造しています。川中グループ全体の設計および品質管理については、カワG技研様が行っており、グループの"頭脳"としてCAD/CAM、シミュレーションを担当しています。さらに国内外の現地で金型を正常に製造ラインへ載せるための調整も行っています。経験を積んだ熟練者が現地の環境や異なる材料に対して、金型が正常動作するように調整します。

カワG技研の代表取締役社長の川中洋二様は、グループの強みを次のように語ります。

「以前から、他社ではできないような難しい形状の金型や納期の短い金型の製造を頼まれることが多くありました。当グループには、卓越した熟練技術者がいるので難しい金型でも対応できます。さらに金型製造におけるデジタルエンジニアリングを支えるCAD/CAM/CAE、3次元スキャナーと熟練技術とを組み合わせることで、お客さまのご要望にお応えできる金型作りに高い信頼を得ています」

金型製作したプレス製品(超ハイテン材)
金型製作したプレス製品(超ハイテン材)

海外にも目を向け
優秀な人材と協力会社を選定

カワG技研株式会社 営業技術課 技師補 川中 永明 様
カワG技研株式会社
営業技術課
技師補
川中 永明 様

川中グループの拠点がある大阪府の東部地区は中小の町工場が多く、最盛期には200社ほど金型メーカーがありました。しかし、現在残っている金型メーカーは数社だけといいます。そのため、日本の金型メーカーだけでは受けきれない仕事があるので、川中グループは韓国の金型メーカーとの取引を始めています。

また、近年厳しさを増すばかりの人材採用は、特に金型製作はキツイ、汚い、危険という言葉が付きまといます。そこで、川中グループは人材採用も海外に目を向けました。現在、滋賀工場には外国人技能実習制度により中国からの技術者が6人働いています。

「中国からは、金型設計の優秀な技術者が来ています。まずは、金型のノウハウが日本語で理解できるように育成しています。日本での仕事を希望する人は多くいるので、中国からの人員を増やす予定です。将来的には中国に設計会社を設立することも考えています」(川中洋二様)

2015年より金型設計・製作に携わる中国出身で営業技術課技師補の川中永明様は「私は大学では経済を勉強してきましたが、今は金型設計・製造について勉強している最中です。まずは、設計のシステム化に取り組んでいます。さらに現場からも多くのことを学び、一通りのことができるようになったら、海外との間に立ってエンジニアの確保に力を尽くしたいと思います」と語ります。

加工データ作成の効率化は
自社専用テンプレートで

川中精器工業株式会社 システム課 主任 島 翔太 様
川中精器工業株式会社
システム課
主任
島 翔太 様

川中グループが最初に導入した3次元CAD/CAMソフトウエアは、Space-Eの前身に当たるGRADEシリーズでした。現在は、6ライセンスのSpace-EシリーズをカワG技研様が導入しています。

Space-Eでの加工データの作成は、自社専用のテンプレートを活用して作業の効率化を図りました。その手順は簡単で、3Dモデルを登録して加工範囲を指定すると、計算された加工データが作成できます。作成した加工データのチェックを行い工作機械にかけます。このテンプレートによる効率化について、システム課主任の島翔太様は、次のように語ります。

「私はCAM専任でしたが、そのノウハウを新しい人に教えようとすると日数がかかっていました。そこで、当社の実績として7000パターンほどあるモデルを小物、大物等に分類して加工データが簡単にできるテンプレートを作成しました。これで、CAMを教えるときはテンプレートの説明が中心になるため1日で終わります。このテンプレートを活用することで、特殊なもの以外はパートの方でも作業できるようになりました」

近年のニーズに適応した
金型設計・製作を実現

カワG技研の設計室
カワG技研の設計室

カワG技研様は、3Dスキャナー「ATOSシリーズ」とプレス成形シミュレーションシステム「JSTAMP」も導入し、時代のニーズに合った金型設計・製造を実施されています。シミュレーションで9割までしか予測できない場合は、現場の熟練者との連携により残りの1割を調整することで、難しいとされる金型製作に対応しています。

「JSTAMPの導入前は、設計した金型をそのまま加工して試作で打って、それを繰り返して良い結果に近づけていました。JSTAMPを使えば、1回目のシミュレーションから、しわ、割れなどを予測して回避できます。もちろん、シミュレーションの結果をモデルに反映させる工数は増えますが、現場のトライ時間が格段に短くなります。特に金型が大物になれば、修正作業も大がかりになるので、シミュレーションで検討することで現場の作業時間を1/10に削減することもできます」(島様)

ATOSは、品質管理の検査機器として活用しています。金型には検具がありますが、測れないところが多々あり、そこを測るには穴を開けるしかありませんでした。そこで、検具に載せた状態でATOSにて撮影すると、見えにくい部分の不具合を見つけることができるので、全ての品質検査ができます。このように現物を測ってチューニングする以外にも、お客さまに改善の提案を早く行うこともできます。

老朽化した金型の
リバースエンジニアリング

ATOSを導入してからは、手仕上げで直した金型のデータ化を依頼されることが多くなりました。10~20年後に金型が老朽化し再作製するとき、データがなければ一から作製することになるからです。その流れから、10年前の老朽化した金型の再作製の依頼が入りました。現物の金型があるだけで、図面やモデルデータがない状態で、新しい金型を作るだけでなく、その品質も昔より高めたいという要望でした。量産で相当打ち込まれた金型でかなり劣化していました。

その工程について島様は次のように説明します。

「まずATOSを使って金型をスキャンし(上図①)、STLにします。次に3次元CADデータ変換・活用支援ツールのCADdoctorを用い、面データに自動変換します(②)。面データに変換した後はSpace-Eを使って、手作業で形状を修正していきます(③)。このデータを解析ツールのJSTAMPにかけて仕上がりをシミュレーションします。細かいしわなどの不具合が残っている部分が着色されて表示されています(④)。不具合を修正し、再度JSTAMPにて確認します(⑤⑥)。この作業を3回ほど繰り返しました。そして出来上がったのが⑦の写真です」

金型のリバースエンジニアリングの工程

川中グループとして
次に目指すことは

最近の課題としては、新しい材料が増えてきたことです。590MPa、980MPaに続き、1200MPaといった超ハイテン材も増えてきました。新しい材料についてはJSTAMPの事例が少ないため、テストを繰り返している段階です。日本材、アメリカ材、中国材でも違いがあるので、その物性を測定してJSTAMPへの反映を依頼しています。これからも、いち早く新しい材料に対応していきます。

今後、川中グループは付加価値の高い特殊な金型や自社製品などの研究開発にも取り組んでいくそうです。川中洋二様は、厳しい事業状況を一緒に乗り越えてきた社員への想いを語ります。

「これからは会社の体力になるように、技術的な財産を築いていき、社員の残業を減らして家や車を購入できるような給与にしてあげたいと思います。さらに家庭にいる時間を増やせるような労働時間を目指していきたいと考えています」

日本のものづくりを支えているのが、精度の高い金型を製作する金型メーカーです。NTTデータエンジニアリングシステムズは、これからも金型メーカーのニーズに応える製品とサービスを提供します。

会社プロフィール

川中グループ(川中精器工業 本社工場)
川中グループ
(川中精器工業 本社工場)

川中グループ

URL http://kawanaka-group.co.jp/(外部サイトへ移動します)

資本金 5200万円
従業員 78名
事業内容 板金試作、各種モデル・検査具、試作型、簡易型、量産型の設計・製作、プレス金型設計・製作、モデリングデータ、設計シミュレーション、検査測定、業務請負

川中精器工業株式会社(創業:1975年5月8日)
本 社
門真第二工場
滋賀工場
大阪府門真市四宮6丁目5番24号
大阪府門真市四宮5丁目4番5号
滋賀県甲賀市土山町大野2685-1

株式会社川中鉄工(創業:1975年5月)
所在地 大阪府四条畷市中野3丁目6番40号

カワG技研株式会社(設立:2012年1月)
所在地 大阪府四條畷市中野3丁目6番40号

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