リーバースエンジニアリングの効率アップを図る
株式会社桃谷様は、自動車ボディ用のプレス金型の設計から製造まで一貫製作している金型事業、それとは別にNOxおよびPM低減装置、低温熱分解ガス化装置の試作、製造に取り組む環境事業を立ち上げられ、将来を見据えた事業展開をしています。常にお客様のニーズに対応するためには何が必要かを考えられ、技術力だけではない信頼をお客様から得られています。
今回は、事業内容やスプリングバック/フォワード解析から見込み点を算出して3Dモデルを自動変形するSpace-E/Global Deformation PLUS、プレス成形をシミュレーションするP-formを導入された効果についてお話をお伺いしました。
金型事業と環境事業
当社は金型事業、環境事業、企画開発事業の3事業で展開しています。
金型事業では自動車を主体としたプレス金型を製作し、環境事業では自動車NOx・PM法、八都県市条例などに対応するNOx(窒素酸化物)およびPM(粒子状物質)低減装置を製造・販売しています。
これはディーゼル車から排出される大気汚染物質を除去する装置(以下、マフラー)です。そして企画開発事業では、新しい事業を推進するための取り組みを進めています。環境事業は、株式会社ケミカルオート様が開発された製品を試作からお手伝いさせていただいています。
■金型事業
プレス金型の得意分野は、成形もので深絞りの入った複合加工です。車体の骨格部品で形状が複雑なクロスメンバーやセンターピラーを得意としています。大きさとしては、中型で1型500tonクラスをメインにしています。
今後の方向性としては、車体の軽量化が進んでいきプレス金型部品の材料は薄く硬いものになっていくと思います。そうなると、製品サイズは同じでも材料が変わってくるため500tonプレスでは対応が難しくなっていくので2010年には1,000tonのプレス機を導入予定です。
今後、車体の軽量化に伴っていろいろな材料が開発されていき共通部品も増えることで、部品点数が減っていくと思います。
これからの当社の金型事業としては、製品の品質を高めて納期短縮を目指します。
■環境事業
山口県に子会社の株式会社エム・エムテック(以下、エム・エム)があり、ここでマフラーを製造しています。今はある方面への営業を展開しています。それが受注できれば忙しくなるので、エム・エム本社とエム・エム福山工場を並列して稼働させるつもりです。
マフラーに続く次の新製品は、低温熱分解ガス化装置です。この装置は、有機物を150~250℃程度で熱分解してガス化させ、マフラーと同じような構造で無害化します。
この製品は、ビックサイトで開催された産業交流展2009に出展されました。
これまで、マフラーの部品はほとんど外注で作っていたので、部品の在庫が無くなってきたとき、すぐに対応できなかったため、新製品は内製化できるように設計ソフト、2次元レーザーやプレス機の設備を2010年末までに準備する予定です。
昨年度、金型事業が落ち込みましたが、環境事業の売上が想像以上に伸びたので会社全体の売上は下がりませんでした。
今年度はというと、近頃急に金型が動き出して忙しくなってきたため、CAD/CAM部門は残業して機械部門を2交代にしています。今後はもっと忙しくなりそうで、さらに2010年末までの1年間は確実に金型の仕事を受注できそうな状況です。
また、新製品の来年度の販売目標を決めてこれにも力を入れたいと思っています。
当社の付加価値は
■当社のブランド力
会社にもブランドがあります。当社のブランドは技術力もそうですが、それ以外にお客様が困ったときに電話1本で対応するスピードと、当社に全部投げてもらえれば何にでも対応する柔軟性です。
実際、当社のキャパではこなせない仕事量でもお客様からは、当社にやってほしいと言われます。お客様がたくさんの外注に直接発注すると管理が大変になるため、当社が全部引き受けます。当然、当社から外注に出すことになりますが、当社が責任を持って管理するのでお客様は安心されます。その代り、外注に出したもので不備があると当社の仕事をストップしてやり直さないといけないため、急な作業が発生しても対応できる体制にしておく必要があります。
お客様から、仕事が出しやすく安心できると思っていただくことが当社のブランド力になります。
■お客様へ進捗状況の情報提供
お客様のニーズに付加価値を付けてどのように応えられるかを考えたとき、進捗状況の情報提供もそのひとつだと思います。例えば、良い情報でも悪い情報でも今の状況を写真付きで月に1 回お客様へ連絡していくことで状況を把握していただけます。また、トラブル
があれば早い段階からその状況をお客様へ報告できるので、その後の対応を相談することもできます。
情報といってもどこでもやっている途中経過を連絡するのではなく、当社独自のやり方を検討中です。社内的に進捗管理しているものを、お客様に分かりやすく情報提供できるように考える必要があります。
■コストダウン要請への対応
お客様からは、やはりコストダウン要請があります。それに応えるにはどうしたらいいのか、当社から提案することも必要です。こちらだけでコストダウンしようとしても材料の仕入れもギリギリで頑張っているので辛いところです。お客様から一緒に検討してほしいと言われれば、すぐに行って設計段階で変更することでコストダウンを図れることをご提案しています。こういう設計をしていただければ、コストダウンが何%できるということを一緒に検討させていただいています。
社長は付加価値の考え方をよく話されます。何でも時間をかけて作るのではなく、いかに当社が効率よく作って、いかにお客様に満足していただけるかだと。お客様も作る側も満足できる、その互いの思いが付加価値なので、そこを目指しています。
システム導入の効果
■Space-E/Global Deformation PLUS
RANGE7で製品を測定後に、Rapidformで製品の測定データの面張りをして型を削ったモデルデータとの位置合わせをしてからSpace-Eに取り込み、Space-E/Global Deformation PLUS(以下、レ・フィット)でスプリングバックの変形処理をしています。この変形処理の効果はかなり出ています。
これまではスプリングバックの変形処理に30時間もかかっていましたが、レ・フィットを使うと5~10分ほどで面ができてしまいます。下準備を入れても2時間程度なので、作業工数が1/10~1/20に短縮できました。
今のレ・フィットは、全体的に倍率をかけて1.5倍にすることはできますが、部分的に変化を付けられるともっと効果が上がると思います。実際にある部分だけを徐変的に2倍にしたいという個所があります。
(Space-E/Global Deformation PLUS)
■P-form
金型の製作でトライアルの時間に一番工数がかかります。トライアルで不具合が見つかれば修正の負荷も大きくなります。その工数を抑えるためには、事前検討を強化できるシミュレーションが必要になりP-formを導入しました。
プレス金型の解析は単純なものではないので、すぐにトライアルの時間を大幅削減することはできませんが、徐々に削減できていることは確かです。
今は、割れやしわなどの不具合対策にシミュレーションを活用しています。バックリングは金型メーカが考慮するものなので、割れやしわで製品にならないものをまず潰すというのが第一でした。
以前は、受注後にデータをいただいて検討していましたが、P-form導入後は正式に受注がある前にデータをいただき、当社でシミュレーションのお手伝いをさせていただいています。このことは実際の売上の数値として出てくるものではありませんが、優先的に仕事を発注していただけるというメリットはあります。また、シミュレーションがないと安心して仕事を出せないと言われるお客様もいらっしゃいます。P-formのおかげでお客様の信頼をさらに得ることができました。
P-formでは、バックリング解析でバック量を算出しています。型の工法によってバック量が変わることがあります。その工法の種類を比べて、バック量が少ないものを確認したり、プロファイルを変えたりすることにも活用しています。
■RANGE7
検査具に製品を載せてから接触の検証をしますが、当てるポイントが違うと全く異なる結果になるので、バックの数値が合っているのかさえ分かりませんでした。そのため、この検証ができないということが問題でした。
今は、RANGE7で測定したデータで比較して検証できます。
また、これまでは最終の製品形状で検証していました。型というのは何工程もあるので、最初の工程でどういうものができるのか、2つ目の工程ではどうなのか、これが分からずに最終の製品形状で予測して型を修正するという方法でした。それがRANGE7では、工程の段階を追ってその測定データで検証できるようになり、型の精度を効率よく上げることができました。
システムへの要望と今後の展開
他社で作った部品が壊れ、その部品を作るための加工データがほしい場合や、仕上げで擦ったものをデータで出さないといけない場合もあります。
RANGE7で測定したデータを直接Space-Eに取り込んで操作できないでしょうか。Rapidformの機能を全部Space-Eに持ってくるというわけではないのです。レ・フィットに関係する操作だけでもSpace-Eでできれば非常に助かります。
また、位置合わせとして基準を指定する機能がSpace-Eにあってもいいのではと思います。
リバースエンジニアリングとして検査結果を設計にフィードバックする意味でも、レ・フィットには期待するところは大きいので強化をお願いします。次期バージョンのレ・フィットは、STLの位相が異なる場合も変形できると聞いているので期待しています。
鋳物をRANGE7で測定して取り込みたいということもあります。荒い精度でいいのでソリッド化してCAMに持っていきたいので、そこもサポートしてほしいと思っています。
P-formで解析した結果をSpace-Eに取り込んでレ・フィットで処理をしたいのですが、まだ差が大きすぎて試行錯誤中です。Space-Eに取り込むためには、これからいろいろな検証をする必要があります。
左右の型を作って打っても実際の製品の左右は違います。あるいは材料を仕入れるメーカが変わると同じ材料でも変わります。また、当社で打ったものとお客様のところで打ったものでも変わります。同じ型で同じものを作っても同じものになっていない。このように差異が出るものをどのような基準で判断したらいいのか模索しているところです。
ある程度1~2mmの範囲で入ってくることが確定できれば実務に使いたいとは思っています。
P-formを導入したこともあり、当社が受注する仕事は難しい製品が増えました。今は難しい仕事でなければないのかもしれません。お客様から頼りにしていただいているので、ありがたいことです。
工程数、歩留りなど決まった枠内で当社で工法を検討してご提案しています。今後は、さらに社内での作業の効率化を図り、お客様に喜んでいただけるようなご提案をしていきたいと思っています。
NDESへ
実際に使っている当社の担当者がこのシステムであればこういう効果が期待できると納得したシステムを導入したいので、NDESにはいろいろな提案をお願いします。
また、担当者と密に話をしてシステム開発に反映してもらい、使いやすいシステムにしてください。
Space-Eは、最近ストレスなく使わせてもらっていて、サポートにも満足しています。
おわりに
お客様からの信頼も厚く、難しい製品をこなされてきた桃谷様。この時期に金型の仕事が忙しくなってこられたという良いお話をお伺いできました。NDESとはGRADE時代からの古いお付き合いになります。
大変お忙しいところ、貴重な時間をさいてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
会社プロフィール
株式会社 桃谷
所在地 | 〒722-0055 広島県尾道市新高山3丁目1170-160 |
---|---|
設立 | 1982年12月 |
資本金 | 1,500万円 |
従業員 | 24名 |
事業内容 | 各種金型の製造および販売、ディーゼル車の黒煙低減装置の製造 |
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