株式会社グラント様は、プラスチックおよび金属による試作品、真空注型品、そして3Dモデルデータを作成しています。
お客様から依頼がある商品開発の試作品は、短納期が求められていますが、社員一丸となってスピーディに対応されています。常に新しい技術を取り入れ、高精度な品質、短納期への挑戦を続けられています。
今回は、Space-E導入の背景・活用について、短納期への対応、今後の展開などのお話をお伺いしました。
事業概要
当社は、プラスチックや金属の切削加工、真空注型による試作品や小ロットの量産部品を製作しています。
複合加工機による5軸加工では、プラスチックから金属までを切削しています。
注型品は、シリコンゴムを使った真空注型を作り、ウレタン樹脂による複製品を製作しています。この真空注型の製作には、マスターとなる製品の原形が必要です。その原形をマシニングで削った後にシリコン型へ反転して同じ製品形状を複数個作っています。
当社が製作している試作品の分野は多種多様で、自動車、OA、弱電、玩具などの幅広いお客様からご依頼いただいています。
試作メーカとしての当社の役割は、お客様のご要望を実現するために5軸加工からハンドメイドに至るまで試行錯誤しながら形にしていくことだと考えています。
展示品の製作
2011年6月にビックサイトで開催された「第15回 機械要素技術展(M-Tech)」に出展しました。
同業社であれば同じような技術を持っているので、出展するにあたり、他社との差別化を図るため、展示品作りには時間をかけました。
我々が展示会に行ったときもそうですが、普通のものでは目に留まりません。そのため、中の構造が見える透明なもの、光ったりするものが、人目を惹きつけるのではないかと考えて展示品を作りました。
この展示品で、すぐに仕事へつながるというわけではありませんが、当社ブースには、150社(200名)以上の方々がお越しくださいました。技術力は十分アピールできたと思っています。
【エレキギター】
真空注型品のエレキギターです。透明にしたボディにLEDの電飾を付けて光らせています。もちろん、アンプを付ければ実際に演奏することもできます。
【ルービックキューブ】
ルービックキューブを透明にしたものです。これもLEDの電飾を付けています。
ルービックキューブの構造を見ながら、Space-Eでモデルを作り、マシニングで1パーツごと削って、手磨きした後に組み立てています。
市販のルービックキューブは、パーツをビス留めしてありますが、透明なブロックにビスを使うと見えてしまうため、はめ殺しの爪で接続させています。
【光るインテリア】
技術力のアピールをするために、複合加工機の5軸加工が説明できる製品を作りました。5軸加工による1チャックで切削した形状で、透明や曇りをかけた光るインテリアです。
Space-E導入の背景
3D CADを導入したのは、1980年代です。当社の取り組みは早く、この頃、3D CADを導入している同業社はいませんでした。その当時の3D CADは、今の3D CADと比較すると完成度が非常に低かったと思います。かなり苦労してモデリングしていました。
それに、大手CADメーカのユーザは、設計部門が多く、我々のような加工メーカの要望は、なかなか聞いてもらえませんでした。さらに、外国製品だったこともあり、機能を見直してもらいたいという意見も通りませんでした。結局、試行錯誤しながら使っていたのですが、できないことも多かったため、いろいろなCADを導入して使ってみるということを繰り返していました。
しかし、やはり国産のCADにしたいと考えて、検討を始めたのです。その当時、GRADEが候補に上がっていたのですが、別のCADを導入しています。
その後、台数を増やすことになり、今度はSpace-Eを選定候補に上げて検討した結果、いろいろな金型、試作メーカに導入実績があり、機能的にも満足できたので、Space-Eを導入することにしました。
Space-Eの活用について
支給データ
以前は、CADの生データをお客様から支給していただいていたので、受け取るために、いろいろなCADを導入していました。それが、今はIGESデータが主流になったので、Space-Eに直接取り込むことができます。
Space-Eでは、取り込んだデータを分割して簡単に加工データを作ることができます。
支給されるデータは、ほとんどが3次元ですが、全体の数パーセントほどは2次元データになります。まれに紙の図面だけという場合もあります。その場合、線から描くことになります。そうなると、図面についての問い合わせのやり取りが発生するので、データ作成も含めると1日は費やしてしまいます。
使っていなかったコマンドにも挑戦
Space-Eでは、限られたコマンドしか使っていないので、全てのコマンドを使いこなしてはいません。そのため、作業効率を良くするために、時間を見つけて新しい機能を試してはいるのですが、実務で使うまでにはなっていません。ですから、実務のモデリングでスムーズに作成できない部分があれば、これまで使っていなかったコマンドを試しながらモデリングすることも考えています。
いつも納期に追われていて時間がないので、すぐに答えを出さないといけない状態です。たとえば、面が欠落していれば、どうにかその形状を復元させるために、その場で解決方法を見つけています。それが、使い慣れたコマンドで解決できない場合は、これまで使っていなかったコマンドに挑戦していきたい思っています。
今は、モデリングを一からする仕事は減っていますが、モデルの修正は結構あるため、コマンドの種類を一番数多く使っているのがモデリングになります。
CAMは、形状によって削る用途が変わってくるので、個人の経験値とセンスが重要になります。例えば、加工工程の作成では、失敗を繰り返しながらいろいろな条件を試すことで、最適な加工工程を作成できるようになります。
それから、Space-Eのバージョンですが、当社はメディアが届けば、すぐにインストールしています。これまで、バージョンアップによる新機能は、発行通知書を見ながら実務の中で少しずつ覚えるようにしていましたが、今後は、時間を見つけてSpace-Eバージョンアップセミナーに参加することも考えたいと思っています。
社員教育は実践の中で
当社は新入社員が入ると、ベテラン社員に付いて仕事を覚えてもらっています。毎日の実務が新入社員の教育になります。
今の新入社員は、3Dの習得が早く、1年ほどでものを作ることができるようになりました。ただ、手加工などアナログ的な技術は、職人と比較するとまだまだなので、実務を重ねる必要があります。
若手社員はSpace-Eで3次元をメインに作業しています。3D CADを使えるのであれば、2次元図面ぐらい簡単だと思ってしまいがちですが、図面は難しいようです。やはり、ベテラン社員にならないと2次元図面を把握してモデリングしていくことはできません。
基本的に1つの製品は、最初から最後まで1人で担当するようにしています。分業制にした方が作用効率は向上するのかもしれませんが、1人が担当することで、CAD、CAM、加工、仕上げ磨きまでの全工程を工夫するようになります。
短納期は技術力と時間との勝負
納期対応が大きな鍵
展示品として製品を作りましたが、オリジナル製品としての販売は考えていません。我々の試作業界は、全て単品ものになりますから、価格は高くなります。知らない方は、高価に感じられると思いますが、何もないところから形を作り、さらに納期は3日間でということになると、技術力と時間との勝負になるからです。
今は、3D CAD/CAM、マシニングの設備があるので同じような試作品をどこの同業社でも作れます。年々、試作業界は厳しさを増していますが、これまで試作メーカとして続けてこれたのは、納期対応が大きかったと思います。我々は、厳しい納期でもお客様の要望にお応えするように頑張ってきました。
試作は、先の見通しが立ちにくい水商売のようなもので、今週は仕事で埋まっていますが、1週間先、10日先の仕事が見えていません。毎週がその繰り返しで、さらに仕事量は山あり谷ありです。
真空注型は、20~80台を受注できるので納期は長期に渡りますが、切削物は単品ものになるので、納期は3日から長くて10日です。
明後日に納品してほしいという仕事があると、明日発送しなければ間に合いません。けれども、データをいただいて明日完成させるというのは無理なのです。そのため、明後日の朝に完成させて、営業が新幹線や車で納品に行くこともあります。
さまざまな分野のお客様
やはり、自動車専門で試作をしていた同業社は、低迷しています。当社も2次的に自動車関係の仕事をいただいていましたが、昨年頃から激減しています。
当社のお客様は、個人から企業まで幅広くいらっしゃいます。ホームページを見て依頼をしていただくことや、ご紹介していただくこともあります。このように、さまざまな業種なので、一部の業種が低迷したときの影響が少なく、仕事のバランスをうまく取ることができているのかもしれません。試作品の単価は安くなっても、数多く作ることで成り立っているのだと思います。
若い社員が会社の強み
当社は、若い社員が多く平均年齢は30歳前後です。現場のリーダは30歳前になります。まだまだ体力があり頑張りが利きます。
昔は、寝袋を抱えて徹夜することがありましたが、今は、納期に間に合わせようと頑張って、日付をまたぐことはあっても徹夜をすることはありません。徹夜は、翌日の仕事に影響するので、遅くなっても帰った方が効率良く仕事ができます。
お客様の依頼が重複してしまうと、一番苦労するのが現場です。いくら若いからと言っても、社内のキャパは決まっているので、そのときは協力会社にお願いしています。
また、7~8月は、お客様からの仕事が激増したのですが、社員一同が頑張って売り上げに貢献してくれました。このとき、お客様の開発商品が多くなった時期で、実物の製品形状を見ないと確認できない部分があるということで、何度も試作の依頼がありました。
現場は、納期に間に合わないかもしれないと言いながらも、試作品の仕上がりは良く、早目に仕上げてくれるので、お客様からは高い評価をいただいています。
近年、製品開発ではバーチャルの世界でシミュレーションすることで確認していく方向にありますが、試作が全て無くなるというわけではないと思っています。
今後の展開
新しい事業にチャレンジ
今後は、今の仕事量を増やしていくだけではなく、製造業の中で様々な技術にチャレンジして、新しい事業への確立を目指しています。
以前、真空注型のマスターをダイレクトに作るために光造形を検討したのですが、あまり需要がありませんでした。お客様から光造形という提案があった場合は、協力会社にお願いしています。
当社の仕事は、精密なものが多いため、光造形機の精度にもよりますが、階段状に積層された後が出てしまうと、真空注型のマスターにすることができません。削って磨いた方がきれいなのです。EOSINTであれば精度良く造形できるのかもしれませんが高額になるため、この状況で設備投資することは難しいと思います。
今は、新しい事業を開拓するために、いろいろなことにトライしていこうと考えています。
社員の技術力アップ
現場の若手社員の技術力アップが目標です。今よりも仕事をこなせる体制づくりを目指しています。
当社に入ってきた社員は、ものを作ることが好きなのだと思います。やはり、CADのデータから実際のプラスチックの形になれば、満足度が違います。
さらに、自分が作った試作モデルが世の中に製品として出ていくことになれば、試作モデルを作ったということを嬉しく思い、達成感はかなりあります。だからこそ、短納期という大変な状況でもモチベーションを上げて、自分の技術を磨きながら仕事を楽しむことができるのではないでしょうか。
NDESへ
Space-Eのカスタマイズ
Space-Eは、使いやすいようにカスタマイズできるので、作業の効率化が図れています。
同じSpace-Eを使っていても、個々にカスタマイズしているので、自分が使っているSpace-Eでなければ、使い勝手が違ってきます。
今よりも容易にカスタマイズすることができれば、さらに作業効率を上げることができます。
当社に合った提案
新しい事業を模索しているので、NDESには、設備、ソフトウェアなど、様々な最新情報の提供と提案をお願いします。
おわりに
納期3日という厳しい状況でも、作業の効率化、技術向上を図りたいという熱意を持って仕事に取り組まれています。グラント様の強みは、若い社員の方々のモチベーションの高さだと感じました。
大変お忙しいところ、貴重な時間を割いてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
会社プロフィール
株式会社グラント
URL http://www.grant.gr.jp/(外部サイトへ移動します)
本社 | 〒174-0055 東京都板橋区泉町40-4 |
---|---|
上板橋工場 | 〒174-0076 東京都板橋区上板橋3-12-4 |
設立 | 昭和63年9月 |
資本金 | 1,000万円 |
従業員数 | 18人 |
事業内容 | 樹脂および金属製品の試作品製造 小ロット生産および量産部品の製造 |
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