複雑な砂型に対応できる
有限会社エヌ・ケー木型工房 様は、1996年にCAD/CAM、マシニングセンター、DNC装置を導入され、木型メーカーとしていち早く木型づくりのコンピューター化を実現されました。そして、手作業では難しかった形状をコンピューター化により効率よく製造することで、木型づくりの技術レベルをさらに向上されています。また、長野県で大きな案件を受注したいと考えられ、同業者へもコンピューター化を勧めて協力し合える仕事の輪を広げられました。
今回は、事業概要について、次にコンピューター化への取り組みの中でSpace-Eをご利用いただいた効果、今後の展開、そしてSpace-E販売代理店であるエイチ・ゼット・エス長野株式会社との係わりについて、お話をお伺いしました。
事業について
事業概要
当社は1982年に設立して今年で32年目を迎えました。主な業務内容は、自動車部品および産業部品の木型製作です。
設立当初は、自動車関係の仕事が多く、自動車の足回りなどのプレス部品や鋳造部品の木型を製作していました。しかし、自動車だけでは仕事の山谷が激しく、景気の良いときは仕事があふれて、景気が悪くなると仕事がなくなるという状況でした。通常、木型屋さんは、数社のお客様と提携して、そこから依頼された木型だけを作ることが多く、当社も創業してから、しばらくはそうでした。
現在は、自動車関係だけでなく、さまざまな分野のお客様とお付き合いをさせていただいています。仕事の裾野を広げることで、いろいろな経験とノウハウを蓄積してきました。それが当社の強みであり、そのノウハウをもとにお客様からのご要望にお応えしています。
お客様へ提案できること
当社は木型屋ですが、自社で砂型を取っています。木型屋でここまでやっているところは、少ないと思います。以前、複数の中子を組み合わせた木型を製作したとき、構造があまりに複雑だったので鋳造メーカー様が砂型を組むことが難しくなり、当社が砂を詰めて木型を納品したこともありました。
また、製作した木型を保障するため、鋳物のケガキや寸法検査を行っています。
木型の作り方では、中子をできるだけ少なくすることや、中子を必要としない現物型にできないのかということも提案しています。中子は、製作する手間がかかり、さらに、型を組むときは型の中での位置合わせが難しいので、別の細工が必要になります。このように、手間がかかる分、コストがかかり、そのコストが鋳物に上乗せされてしまいます。ですから、できるだけ中子を少なくする検討をしてお客様へご提案するようにしています。
コンピューター化への取り組み
CAD/CAMに取り組む
1993年ごろの展示会で、GRADEを見学したことがありました。その一角に自動プロ装置も展示されていて、当時は、なぜ自動でNCプログラムができる自動プロ装置より、オペレーションが必要なCAD/CAMの価格が数倍も高いのか、その違いが分かりませんでした。その頃は仕事の主流が図面だったこともあり、その図面をCAD/CAMに入力する手間を考えると高価格のCAD/CAMがどれだけの効果を出すのか見えていなかったのです。
しかし、ゆくゆくはお客様より3次元データが支給され、それで仕事をしなければいけない状況になるのは確実だと感じていました。なぜかというと、その当時から自動車メーカー様の設計部門では3次元CADによる開発が進められていたので、試作の木型を製作していた我々にも3次元CAD/CAMを勧められていたからです。それに、我々に仕事を出すとき、設計部門の方がわざわざ3次元データから図面に落としてくれていたということも聞いていました。ですから、今のうちにCAD/CAMに取り組もうと1996年にGRADEを導入したのです。
首都圏の仕事を長野県に
当社がGRADEを導入した頃は、長野県でCAD/CAMを導入している会社は珍しく、お客様のところに行っても同業者のところに行っても、CAD/CAMの話題になると大変興味を持ってもらえました。ですが、興味はあるけれども、CAD/CAMで何ができるのか分からないし、操作も難しそうなので導入しない方がいいとまで思われていました。そういう状況でしたが、近いうちに自動車関係は図面ではなくてデータで仕事が依頼されるようになることを説明して、できる限りお客様や同業者にCAD/CAMの導入を勧めていました。
そのとき、皆さんによく言われたことは、普通はコンピューター化した自社のノウハウは隠すのに、なぜ他社にアドバイスするのかということでした。でも、当社がコンピューター化のアドバイスをしても、その会社の仕事の内容までは首を突っ込めないですから、うまくコンピューターを利用して技術を伸ばしていくのは、その会社自身です。アドバイスしていたのは、いろいろなことを相談しながら、一緒に伸びていってほしいという思いがあったからです。
それに、お客様や同業者でCAD/CAMの輪を作ることで、大きな仕事を引っ張ってきたいという考えもありました。まず、首都圏の仕事を長野県に持ってくるには、長野県がコンピューター化の先進地域となることです。さらに、同業者で同じシステムを導入することで、スムーズに仕事の協力ができるため、特に自動車関係で忙しいときは分業ができます。これが手作業だと、各社の作業手順が違うので、ある部分だけ作成をお願いすることは難しかったのです。それがCAD/CAMであれば、作業の途中からでもデータを渡して分業ができます。
現在の長野県は、他県と比較して木型屋のCAD/CAMの導入率は高く、3次元化が進んでいるようです。
CAD/CAM 導入のメリット
Space-Eは型作りに適している
以前は、木型というと熟練した職人技がないと難しい世界でしたから、その職人技の手作業からCAD/CAMを使った作業に換えることができたので、GRADEを導入して体力的にも楽になりました。それに、コンピューター化したことで、これまで難しかった形状でも短納期、低コストでご提供できるようになりました。
また、Space-Eは、型作りに適したシステムだと思います。ソリッドとサーフェイスが混在できるため、複雑な形状でも考えていることが全部できるので、思っていた以上に導入した効果がありました。
それに、2個取り、3個取りでも同じものを作れるので精度的にも問題はありませんし、設計変更があった場合でも、データの原点を残しておけば、いくらでもやり直しができます。
工作機械を一晩中稼働できる
お客様より支給された3次元データは、Space-Eに取り込んで加工データを作成します。そして、夕方に工作機械へデータを送れば、工作機械を一晩中稼働させて朝には形状が完成しています。工作機械の稼働率は高く、昼夜問わず常に動いています。これがコンピューター化のメリットで、人がいなくても複数の加工ができてしまうという、手作業をしていた頃には考えられないことです。
複雑な砂型にも対応できる
以前、お客様からは、CAD/CAMで作業すると価格が高くなるのではと言われたことがあります。確かに手作業でできる簡単な形状は高くなる場合もありますが、複雑な形状になればなるほど低価格でできます。それに、手作業とは作業スピードが違うので短納期が実現でき、それだけでも相当な効果です。
また、これまで3部品、4部品の構成だった部品が2部品になり、さらに1回で鋳造するようになると、砂型自体が複雑になります。しかし、どのような難しい形状でもSpace-Eと工作機械があれば製作できると思っています。
残りの10%にノウハウがある
CAD/CAMと工作機械があれば、型の90%は誰でも作れると考えています。でも、残りの10%が型づくりのノウハウになるのです。その10%のノウハウがないとお客様に気に入っていただけるものを作れないのです。そこが難しくもあり一番肝心なところです。
人に恵まれたことがメリット
GRADE導入のときから、エイチ・ゼット・エス長野の太田社長には、大変お世話になっています。新しい技術に取り組むときは必ず相談して、すぐに役立つものでなくても、将来のことを考えてまずは投資する気持ちで取り組むようにしています。
特に自動車関係は、CAD/CAMでなければ仕事ができない時代になり、さらに今後は3次元測定機や解析など取り組むべきことがたくさんあります。このような新しい技術に安心して取り組めるのも、太田社長が地元に密着したサポートをしてくれるおかげです。それに同業者へコンピューター化を勧めるときも一緒に活動していただきました。
太田社長とのお付き合いが始まって一番大きなメリットは、人の輪が膨らんだということです。同業者とも協力し合って仕事ができるようになり、人に恵まれていると感謝しています。
今後の展開
鋳造解析で品質を高める
さらに品質の良い木型を作るため、将来的には鋳造シミュレーションシステムを導入して最終確認まで行いたいと考えています。
これまで、鋳造の流動や凝固解析は、外注に出してきましたが、こちらが求める最終的な解析結果に達していない場合がありました。それに価格が高いので、何回も外注に出すことは負担になります。そうなると、納得いく解析結果を得るためには、鋳造シミュレーションシステムが必要になるのです。
現物を測定してCADデータへ
最近、現物を測定してほしいという要望が増えてきたので、非接触3次元スキャナーを導入しました。これまで、図面がない現物を測定してCADデータにしてきました。これからも、現物から型を作成する依頼は増えてくると思います。
NDESへの要望ですが、3次元スキャナーで測定したSTLから自動面張りしてSpace-Eで自由に編集したいので、機能開発に力を入れてください。今は、Space-Eで一部の面を伸ばして、さらにフィレット部分を測定してフィレットを張り替えるという作業を繰り返しながら、編集できるデータを作成しています。
ものづくりを次の世代へつなげたい
コンピューター化したことで、型製作のノウハウはCAD/CAMデータに入っています。木型屋さんの中にはこのデータを簡単にお客様へ渡す会社もありますが、結局、このデータを海外に持っていかれて、この型を海外で製造されてしまいます。
これは、日本製造業における技術流出につながっているので、もったいないことだと思います。日本のものづくりを次の世代につなげるためにも、技術が海外へ簡単に流出しないようにしたいものです。その次の世代への技術伝承も今後の課題です。
おわりに
エヌ・ケー木型工房様の工場では、木型製作の入口から出口まで全工程を見ることができるので、その技術をメーカーのお客様が見学に来られるそうです。また、小林社長の図面の解読力はすばらしく、どのような難解図面でも木型を作れるそうです。
このたびは、貴重な時間を割いてお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
また、今回の取材では、エイチ・ゼット・エス長野株式会社 太田社長にご協力いただきました。
Space-E販売代理店 エイチ・ゼット・エス長野株式会社
エヌ・ケー木型工房様の強みは、コンピューターと神業的な匠の技をうまく融合して、ものづくりをされているところです。
私自身、鋳造の技術をいろいろと教えていただきながら知識を深めることができました。そのおかげで、長野県に根差した営業およびサポートを続けることができています。
会社プロフィール
有限会社エヌ・ケー木型工房
所在地 | 〒386-1322 長野県上田市小島391-4 |
---|---|
創立 | 1982年 |
資本金 | 300万円 |
従業員 | 5名 |
業務内容 | 自動車、産業部品の木型製作 |
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