Space-Eとマシニングセンターで再現
福岡県北九州市は、かつて官営八幡製鐵所があった北九州工業地帯の中心地で、1901年(明治34年)には東田第一高炉の火入れが行われるなど、工業立国日本の発展を支えてきたものづくりの街です。その地で木型製造を続ける有限会社弥栄木型製作所様は、2年前に導入したSpace-Eとマシニングセンターにて、長年にわたって蓄積してきた職人技のデジタル化および自動化に取り組まれました。高精細な人手によるものづくりと最新のデジタル技術をどのように組み合わせたのか、日本のものづくりの現状と共にお話を伺いました。
POINT |
---|
1. Space-Eとマシニングセンターで木型製造の60%を自動化に成功 |
2. 大物木型の小ロット生産ニーズにデジタル化による発泡スチロール型で対応 |
ものづくりに欠かせない
大物木型の職人技
有限会社弥栄木型製作所様の工場がある北九州市は、化学・窯業・電機・ロボットなど大手メーカーの工場が集まる地域で、ものづくりの街として発展を続けています。1975年(昭和50年)の設立以来、有限会社弥栄木型製作所様は八幡西区で木型メーカーとして多くの製造業の木型作りを担ってきました。
代表取締役社長の彌榮英雄様は、「発電系のタービンやプロペラをはじめ、ポンプやケーシング、ロボットのカバーなど、さまざまな大物産業機械や建築機械向けの鋳造用木型を作っています」と話します。精密な大物木型を得意分野とし、北九州を中心とする地元の九州地方に加え、西日本全般にわたるメーカーの木型製造を請け負ってきました。
創業は、父にあたる先代の社長とのことで、その経緯を現社長の彌榮英雄様に伺うと「祖父がこのあたりで木工所を営んでいました。古くは義足などを作っていたそうですが、そのうち、製造業には製品を作るために必要な木型があり、そこに木工技術を生かしていこうということで、父が木型を主体とした会社を設立しました」と話します。同氏は、1988年に入社され木型職人としての腕を鍛えるとともに、2018年には先代から引き継ぎ社長に就任しました。
現在の従業員数は14名で、全員が木型製作の知識、技術を持っている木型職人です。注目すべき点は、平均年齢が32~33歳という若さです。4名の熟練職人と10名の若手職人で構成され、この業界では珍しく若手職人が多いことが同社の強みとなっています。
熟練と若手の組み合わせで
伝統的な職人技を伝承
北九州はものづくりの街として、さまざまな場面で職人が大きな役割を担ってきましたが、リーマンショック以降は鋳物や木型作りをはじめ、多くの仕事が海外にシフトし、職人を育てようとする環境が途絶えていったといいます。そこに危機感を持った弥栄木型製作所様では、定期的に若手社員を採用して育成に取り組みます。
彌榮社長は「20年くらい前から、毎年新卒を一人ずつ採用してきました。先輩職人が新人の指導担当となり、マンツーマンで職人技を教えて身に付けさせました。木型作りにも向き不向きがあり、そこを見極めながら指導して、現在は一人前に育ってくれた職人が10名にまで増えました」と話します。
どのような人が応募してきているのかを伺うと「木にまつわる仕事がしたい、木を加工する技術を身に付けたいという人が応募してきています。父親が大工、あるいはタンスや仏壇を作る木工職人で、その後を継ぎたいと思っても海外に仕事を取られて採算が取れないという人もいました。私たちが製作する木型は、産業機械メーカーなどが製品を製造し続ける限り必須となる仕事で、手に職を付けることができます。当社のすべての職人が木を加工することが好きで、誇りを持って仕事をしています」と彌榮社長は話します。
同社の人材育成の取り組みは、ものづくりの街である北九州でも認められ、地元の福岡ひびき信用金庫が主催する2022年の“第28回福岡ひびき経営者賞”を受賞しました。その受賞理由としては『日本の中小企業の伝統的なものづくりの強みを活かす人材育成をしてきました。その特徴は、若い世代の職人と高齢者の熟練職人とをペアーにしたOJT方式にあります。北九州独自の伝統的職人気質の新たな伝承システムを形成している点が評価されました(一部抜粋)』とのことです。
木型職人には、精密な加工が求められる手作業の技術に加えて、2次元図面から立体的なイメージができる技能が重要だといいます。その上、精密な大物木型を製作する同社では、木型をパーツに分けて作り、最終的に組み上げられるように作り上げていく能力も求められます。
彌榮社長は「平面図を見て頭の中で立体化すること、さらに、分割したパーツを最終的に組み上げて完成させるまでには10年以上の経験が必要です」とその難しさを説明します。さらに、工場長の彌榮政義様も「図面だと、上からと横から書かれているだけで、斜めや下は分かりません。特に、ねじれながら滑らかにつながる部分は、経験値を持った職人が頭の中で想像して作り上げていきます」と話します。
その他にも木の性質を生かす作り方が必要だと彌榮社長は言います。「最終的には、何十年と木型を作り続けてきた手のひらの感覚が一番です。木目を手で触って、削る。その滑らかさは機械では真似できません。さらに木は、雨の日は膨らみ、晴れの日は縮み、暑さが続くと割れてしまいます。その木の性質を見極めて製品を10個取る木型であればこの材料、100個、200個になればこの材料と、それに合った材料を選びます」
導入2年で実現した
Space-Eと職人技の融合
弥栄木型製作所様では、2020年にSpace-E/ModelerとSpace-E/CAMを各々2ライセンス導入しました。さらにマシニングセンター2台を設置し、デジタル活用による効率化にも取り組みます。以前導入した2次元CADや他の3次元CADは、お客さまのデータを確認する用途で使われていました。Space-Eの導入について彌榮社長は次のように話します。「マシニングセンターで本格的に木型製作に入ろうとSpace-Eを導入しました。Space-Eは曲面がきれいに作成できるし、NCデータの作成も簡単にできます。すでに3次元形状を頭の中で組み立てることができる私たちにとって、Space-Eの基本操作が分かれば、3次元モデルは容易に作成できます。導入して2年ですが、受注の60%はSpace-Eとマシングセンターで製作するようになりました」
彌榮工場長からも「導入後、Space-Eの講習は2日間受講して実務に入り、現在は3名の職人がSpace-Eを使っています。また、困ったときはNDESコールセンターに電話すると問題を解決することができるので、よく利用しています。さらに、NDESの営業もいろいろな情報をこまめに共有してくれるので助かっています」との言葉をいただきました。今後は、より多くの職人がSpace-Eを扱えるようにしていきたいとのことです。
最近は、木型だけでなく発泡スチロール型も増えてきていると彌榮社長は言います。「木型が50%、発泡スチロール型が50%になっています。同じ型からある程度の数の製品を取るには木型が向いていますが、大物産業機械の鋳物型などの小ロット生産には発泡スチロール型が向いています。木型は保管場所の確保が必要ですが、発泡スチロール型であれば利用後に廃棄して次に利用するときはまた作成すればいいのです。さらに、発泡スチロール型は、加工や輸送が容易な上、保存しているデータで同じものを再現できます。それもデジタル化の恩恵だと思います」
Space-Eとマシニングセンターによって、職人の業務改善にもつながったと彌榮社長は話します。「昔は徹夜仕事などもありましたが、今は休みも取れるし残業も減って、職人の負荷軽減につながっています。CAD/CAMの利点を生かして職人の手作業と融合して効率よく木型を作りたいと思っています。例えば、手作業では非常に時間がかかる球体作りは、マシニングセンターで削った後、それを職人が指先で微妙な違いを見つけて手作業で修正するという手順にすると、精度の高い木型が短時間で製作できます」この他、簡単だが時間がかかる作業を機械化することで、作業の大幅な効率化にもつながっているとのことです。
日本のものづくりには
職人技とデジタル技術の両輪が不可欠
日本のものづくりの原点として最重要とされてきた木型作りですが、一時は海外へのシフトで衰退が進んだといいます。彌榮社長は「私が入社して以降、10年後ぐらいまで次の若手が入りませんでした。北九州の木型メーカーで私と同じ年代は2人しかいません。木型だけでなく鋳物メーカーも同じような状況でした。それではまずいということで、当社では若手の育成に取り組んだのですが、他社は後継者がいなくて続かなくなるところも多くありました」と振り返ります。
ところが、最近になって国内生産に戻りつつあるといいます。新型コロナウイルスの感染拡大以降、日本から技術指導に行けないこともあって粗悪な製品が送られてきたり、円安で他国と変わらない価格になってきたりで、国内への設備投資が増えてきています。その傾向はこれからも続きそうで「国内の方が精度は高いし早いということで、多くのメーカーさんが国内に戻ってきています。しかし、それを受けられる木型屋さんが不足しているため、技術伝承の重要性を改めて感じています。自分の入社後に新人が入らない空白期間はありましたが、今の若手職人は10代や20代で、熟練職人は70歳以上という年の差が、かえって良かったのかもしれません。若手は熟練者を尊敬して接していますし、熟練者も昔のような厳しさはなくなっています」と彌榮社長はメリットになった部分もあると話します。
CAD/CAMによるデジタル化に限らず、いろいろなチャレンジを続けたいと語る彌榮社長は、「日本のものづくりを支える木型職人として、その技術をさらに深めて別の分野でも活用していきたいと考えています。木型製作に注力している若手職人の将来のためにも、その先の技術伝承につなげていきたいと思います」と今後について話します。
最後にNDESに対して次のようなコメントを彌榮社長よりいただきました。「Space-Eは、なくてはならない存在になりました。私たちの声を反映して常に進化してくれるので安心して使えます。また、新製品Space-E/CAM 2022の機能も期待していて、これから使っていく予定です。今後、Space-Eの増設や5軸加工の検討などを考えていますので、NDESにはこれからもサポートをお願いします」
製鉄所の高炉は、一度火を消すと再稼働には莫大な時間と手間がかかるといいます。技術伝承も同じで、途絶えると復興は難しいものがあります。職人のすばらしさを信じて育成を続け、デジタル化にも成功した前向きな姿勢に対して、私たちNDESは今後ともお役に立ちますよう尽力いたします。
会社プロフィール
有限会社 弥栄 [みえ] 木型製作所
設立 | 1975年(昭和50年)11月4日 |
---|---|
資本金 | 300万円 |
所在地 | 福岡県北九州市八幡西区陣原3丁目18-7 |
従業員数 | 14名 |
事業内容 | 木型製造業 |
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